肢体不自由とは、上肢・下肢・体幹機能の障害によって日常動作が困難な状態のことです。仕事で悩みを抱える人もいる一方で、働きやすい環境を整えている企業が多いことをご存じでしょうか。
この記事では、就職や転職を考えられている身体障害をお持ちの方へ、企業選びのポイントや使える制度を紹介します。キャリアアドバイザー(CA)による解説もありますので、ぜひ参考にしてください。
身体障害とは
身体障害とは、先天的または後天的要因によって、身体の一部に障害があることです。身体障害を持つ人を身体障害者と呼ぶことについては、身体障害者福祉法第四条で以下のように定義されています。
「「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。」
引用元
厚生労働省|身体障害者福祉法(◆昭和24年12月26日法律第283号)
なお身体障害は障害のある部分や状態によって区分されています。ここからは身体障害者福祉法で定められた身体障害の種類を紹介します。
肢体不自由
肢体不自由とは、上肢・下肢・体幹機能の一部または全部が欠損したり動かないことによって、「立つ・座る・歩く・食事・物の持ち運び・衣服の着脱・字を書く」といった日常動作が困難な状態をいいます。
肢体不自由の状態は障害のある部位や程度により個人差が大きいです。見た目からは障害が分からず日常生活がさほど難しくない人、杖や車椅子を使う人、介助を必要とする人まで多岐に渡ります。
先天的に肢体不自由の方もいれば、生後の事故や怪我など後天的に受傷する方もいらっしゃいます。障害の程度によって、障害者手帳を取得し適切な福祉サービスを受けることが可能です。肢体不自由の等級は1級から7級まであります。
視覚障害
視覚障害とは、先天的または後天的な要因によって視力低下や視野の狭窄によって日常生活に支障をきたす障害のことで、身体障害者福祉法により1~6級にわかれています。
なお、視覚障害は「盲」と「弱視」があり、盲は視覚によって情報がまったく得られない、またはほとんど得られない人を指します。一方、弱視はメガネやコンタクトレンズによって視力を矯正し、低い視力を維持しながら生活する人を指します。
視覚障害については下記ページで詳しくまとめているのであわせてご覧ください。
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聴覚・平衡機能にまつわる障害
聴覚障害は、耳が聞こえないまたは聞こえづらい状態を指します。どの程度聞こえているのかで6級・4級・3級・2級の4段階に区分されます。
一方、平衡機能障害は、平衡感覚に問題が生じる障害を指し、度合いによっては日常生活だけでなく仕事においても障害が理由で困難を感じることがあります。
平衡機能に異常が見られると激しいめまいや耳鳴り、吐き気を招くことも多く、立ち続けることや歩行が困難になる場合もあります。聴覚障害・平衡機能障害については下記ページで詳しくまとめているのであわせてご覧ください。
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音声・言語・そしゃくにまつわる障害
音声機能障害は、咽頭や発声筋などの音声を発する際に必要な器官の障害です。音声や発音のほか、話し方に困難を感じることがあります。
言語機能障害は、聴覚障害にともない言語がうまく習得できず、人との会話が成立しない状態、または脳梗塞などの後天的な病気によって失語症を招き、言語を発せなくなった状態のことです。
そしゃく機能障害は、正常に食べ物を噛んで飲む動作において障害がある状態を指します。DIエージェントでは失語症の症状と種類、そしゃく機能障害についてまとめたページがあります。詳細について知りたい方は以下リンクをご覧ください。
内部障害
内部障害は、体の内部に障害があり、生命維持や日常生活において大きな影響を受けている状態を指します。なお、内部障害は以下7つに区分されています。
- 心臓機能障害
- 腎臓機能障害
- 呼吸器機能障害
- 膀胱・直腸機能障害
- 小腸機能障害
- 肝臓機能障害
- ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
DIエージェントではそれぞれの障害についてより細かく記事にまとめています。詳細を知りたい方は下記リンクよりご確認ください。
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身体障害をお持ちの方が抱える仕事の悩み
身体障害をお持ちの方が働く場合は、あらかじめどのような悩みを抱えやすいのかを知っておくことが大切です。ここではDIエージェントに寄せられたお悩みも踏まえてご紹介します。
通勤や社内の移動に苦労する
まず身体障害をお持ちの方にとって障壁になるのは移動面です。
歩行や姿勢の維持が困難なため、電車やバスでの通勤に苦労することもあるでしょう。無理をして長距離を移動することで痛みや疲れが出やすいです。
また、社内ではレイアウトが狭く車椅子の旋回のスペースがない、会議室などへの移動が多く苦労するといった困りごともしばしばおこります。
できる仕事に限りがある
身体に負担がかかる仕事の選択は難しく、仕事内容にも制限が出てくる場合も残念ながらあります。たとえば、危険な機器を扱う工場や高所での現場作業が多い仕事場では安全の観点から身体障害をお持ちの方を採用できないといったことです。または訪問で移動の多い営業職の場合も採用されることは難しいでしょう。
しかし身体障害があってもできる仕事はたくさんあります。できないと判断せず、ご自身の強みを活かせる可能性を探っていきましょう。
周囲の配慮に引け目を感じてしまう
特に障害が外見で分かる場合、周囲が過度な配慮をし、それを引け目に感じる方も一定数いらっしゃいます。「本当はもっといろんな仕事ができるのに」「この仕事量では物足りない」など本当にしたいことを言い出せず、辞めてしまうケースは少なくありません。
就職・転職活動では適度な配慮をしてくれる企業なのかを見極める必要があります。
働きやすい企業を選ぶポイント
ここまで紹介してきた悩みを解消し、働きやすい企業を選ぶためにはどうしたらいいのでしょうか?障害者雇用のプロの目線から解説していきます。
通勤時間・手段に選択肢がある
まずは移動に関する問題をクリアにしましょう。ラッシュを避ける時差出勤、フレックスタイム制、車通勤、在宅勤務ができる企業が多く存在しています。これらの制度は事前に確認しておくと安心です。
快適に働ける環境がある
過度な配慮に引け目を感じる方もいますが、困ったときに助けを求められる職場は安心して働けます。障害者雇用枠での採用やこれまで肢体不自由の人を採用した経験のある企業では、障害の特性を聞き入れてもらいやすい場合があります。
障害者雇用枠を視野に入れる
障害に必要な配慮を受けながら自分にできる仕事を見つけたいときは、障害者雇用枠を視野に入れるのもオススメです。
そもそも障害者雇用とは、応募書類や面接で企業に障害を開示し、企業も障害について把握した上で雇用することです。企業に障害を開示しているため、障害に対する配慮をきちんと受けられるのは最大のメリットと言えます。なお、身体障害について企業へ開示しなければならない義務はないので、伝えなくても問題なく働ける場合は開示する必要はありません。
障害者雇用については下記ページでまとめているので、この機会にあわせてご覧ください。
身体障害に対する理解を確認する
長期的な就労を可能にするためにも、企業の身体障害に対する理解を確認するのも方法の一つです。身体障害への理解が深い企業を選べば、細かな配慮を受けながら安心して働くことができます。
例えば以下の点をチェックすると仕事に対するストレスを軽減しながら働くことができます。
- 障害の種類を考慮して配置する職務配置への配慮
- 得意分野やスキルを活かしてさらの伸びるよう取り組む能力開発への配慮
- 出勤・業務・通院等にまつわる職場環境への配慮 など
障害・症状を受け止めきちんと説明できるよう準備する
障害を開示して働く場合は、自分の障害をきちんと説明できるよう準備することも大切です。企業へ説明できるようにするためには、まず自身の障害の知識を深める必要があります。
自分の障害に対して理解が浅いまま就職すると細かな部分に働きにくさを感じ、配慮を求めたくなることも考えられます。
企業が障害者へ提供する「合理的配慮」は、本人が配慮を必要と申し出ることが第一。そのため、障害に対して配慮を受ける必要があるのなら、きちんと説明できるよう準備しておかなければなりません。
自分と企業、双方にとって良い就職になるためにも、障害に対する理解のすり合わせができるよう入念に準備しておきましょう。
身体障害者の方に向いている仕事とは
身体障害をお持ちの方が働く場合、業務中の移動機会、さらには体力的消耗を考慮して事務職やPCを使ったテレワークをオススメします。
例えばデスクワークが中心の職種であれば体力の消耗機会が少なく、自分のペースを維持しながら業務に取り組むことができます。
企業・職種によってはテレワークに対応しているケースもあるので、出勤時間や移動手段に対して不安がある方は、テレワークに対応した企業を選ぶと良いでしょう。
身体障害をお持ちの方が仕事を探すコツ
身体障害をお持ちの方が仕事を探すときは、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者雇用に特化したエージェントの利用がオススメです。ここではそれぞれの概要を紹介します。
ハローワークの専門援助部門
ハローワークとは公共職業安定所のことで、全国の都道府県に設置されています。公的なサービスで障害のある方の就職をサポートする専門窓口も用意されているので、お仕事探しをするなら「まずはココ!」という障害をお持ちの方が多いです。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターとは、障害者向けの専門的な職業リハビリテーションサービスを提供しています。ハローワークとの連携もあったり、企業に向けて障害理解の啓発・定着支援のアドバイスや派遣(ジョブコーチ)をおこなったりしています。
お近くのセンターをお探しの方は地域障害者職業センター全国一覧からお探しください。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは地域に根差し就業面と生活面の相談・支援を行う機関です。2023年4月時点で337センター設置されており、アクセスがしやすいのが特徴です。
就労移行支援事業所
「就労移行支援事業所」は障害のある人の社会参加をサポートする就労支援サービスで、一般企業への就職をサポートします。就労経験がない方はビジネスマナーを身に付けられるほか、初めて障害者雇用枠を受ける方はどのように障害を説明すると企業に受かりやすいかといった様々なアドバイスが受けられます。
「ワークイズ」のような在宅型の就労移行支援も増えてきているので、ますます便利になっています。
障害者向け就職・転職サービスを行うエージェント
ぜひ頼っていただきたいのが、障害者専門で就職・転職サービスをおこなうエージェントです。ハローワークでは見つからないような優良企業の求人情報を持っていることも多く、
「自分と同じ障害を持った方はどんな企業に採用されているのか?」「年収アップのために給料交渉をして欲しい」といった企業への疑問や交渉にも対応しています。
さらに、「応募書類や面接でどのように障害を説明をすればいいのかフィードバックが欲しい」といった就職・転職活動に見られがちな悩みにも、専属カウンセラーがサポート。なお、これらのサービスは全て無料で利用できます。
身体障害をお持ちの方が受けられる手当・支援
ここからは身体障害をお持ちの方が受けられる手当・支援を紹介します。まだ受けていない方や、詳しい手当・支援について知らない方はぜひ参考にしてください。
特別障害者手当
特別障害者手当とは、身体または精神に重い障害があり、日常生活を送る中で常に特別な介護が必要な人を対象とした手当のことです。支給月額は2023(令和5)年4月から27,980円としていて、毎年2月・5月・8月・11月に各月の前月分まで支給されます。
下記ページでは、障害者枠で就労してみたものの生活が苦しくなった場合の解決策をまとめています。詳細をお知りになりたい方はぜひこの機会にご覧ください。
障害年金
障害年金は、病気やケガではじめて医師の診察を受けたときに請求できる年金のことで、国民年金に加入していた方であれば「障害基礎年金」を、厚生年金に加入していた方であれば「障害厚生年金」を請求できます。
障害年金は障害の度合いによって1~3級に分かれており、受け取れる金額が異なります。障害年金については下記ページで詳しく解説しているので、この機会にあわせてご覧ください。
身体障害者手帳
身体障害者手帳とは、身体に障害のある方に交付される手帳のことです。手帳を取得することで、様々な福祉サービスを受けられます。障害者手帳については下記ページで詳しく解説しているので、手帳の交付を検討される方は是非参考にしてください。
身体障害を抱えながら就労するときは企業の理解・配慮を調べよう
身体障害を抱えながら働く場合は、身体の移動機会や体力の消耗を前提に就労先を決めることが大切です。例えば毎日の業務で細かな移動が伴う場合、企業の配慮が必須条件になります。そのことから、これから就労先を探す方は、自身の障害について把握し、その上で企業の障害に対する理解や配慮、必要な設備が整っているかなどを確認することが重要です。
障害を抱えながら働く上では、障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。今の職場を続けていくことに負担・不安を感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠で就職・転職を検討されている方に対して就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人おひとりに寄り添った働き方を提案させていただきます。
「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。