障害者枠の収入では生活できない!?障害者枠のメリット・デメリットや求人事例を解説

障害がある方の働き方として、近年採用枠が広がっている障害者枠という選択があります。合理的配慮を受けられたり、障害にあわせた働き方ができたりするメリットがある一方で、「障害者枠での収入では生活が厳しい」という問題が話題になることも少なくありません。

たとえ働きやすい環境であっても生活が難しいのであれば、転職や就職をためらってしまうでしょう。そこで今回は、障害者枠のメリット・デメリットや、障害者枠の収入では生活できない問題は本当なのか、解決策はあるのか社労士の意見を聞きながらその実態を具体的に解説します。

「障害者枠の給与では生活できない」は本当?

「障害者枠の給与では生活できない」は本当?

障害者枠の給与が低い、生活できないという声を、ネットで見かけたことがあるという人も多いのではないでしょうか。実際に障害者枠の給与は残念ながら、一般枠と比較すると低い水準にあります。

平成30年の一般枠の平均給与は441万円であるのに対し、同年の身体障害者は平均約258万円、知的障害者は平均約140万円、精神障害者は平均約150万円、発達障害者は平均約152万円と、大きな差があります。

これは就労時間や労働能力の違い、正規雇用と非正規雇用など、さまざまな要因が関わった結果といえます。短時間勤務や非正規雇用の割合が多く含まれる障害者枠の平均給与は、どうしても低くなる傾向にあるのです。

そのため、障害者枠の給与では一人で自立した生活がままならないという声は、あながち大げさではありません。

引用元
平成30年分 民間給与実態統計調査|国税庁
平成 30 年度障害者雇用実態調査結果|厚生労働省

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障害者枠の給与が低くなる3つの理由

障害者枠の給与が低くなる3つの理由

障害者枠の給与が低くなってしまう原因は、大きく3つあります。

  1. 週の労働時間が短い

    時短勤務や週2~3日勤務の場合、フルタイム週5日勤務と比較すると、時給換算ではあまり差がなくても、総額では大きな差になってしまいます。
  2. 障害のためにできる仕事の種類が限られ、職種が限られてしまう

    障害によっては重いものを運べなかったり、移動に制限があったり、小まめな休憩が必要になる場合があります。そのため、ほかのフルタイムの社員と比較するとできる仕事の範囲が少なくなってしまうケースがあります。
    従事する業務の内容にあわせて給与が設定される場合、それが原因で低くなっているケースは多々あります。
  3. なんらかの理由で通常の勤務よりもできる仕事の幅が少なくなってしまうため、特別措置の対象になっている

    できる仕事の範囲が少なくなってしまう場合、最低賃金の減額の特例許可制度によって、最低賃金よりもさらに低い賃金の設定が可能になります。

企業での障害者枠の割合

現在日本では障害者雇用促進法と呼ばれる法律に基づいて、行政機関や民間企業に対して障害者を雇用することが求められています。法定雇用率というものがあり、行政や民間企業など、それぞれに設定された雇用率を上回る数の障害者を雇用しなければいけません。

2024年3月現在の法定雇用率は国・地方公共団体が2.6%、都道府県の教育委員会が2.5%、そして民間企業が2.3%です。
また、民間企業の雇用率は2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%へと引き上げられることが決定しています。

 
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残念ながら障害者手帳を所持していない障害者は雇用率の算定対象外ですが、「障害者基本法」で示されているように、
「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」という理念に基づいて、
障害者を「数」でみるのではなく、「人」として接していくことが必要ですね。

障害者枠の雇用形態

障害者枠の雇用形態はさまざまです。もちろん正社員として働いている人もいますが、厚生労働省が発表した「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によると、身体障害者の2人に1人が、そして知的障害者と精神障害者では約80%の人たちが非正規社員として働いていることが判明しました。

正社員求人自体が少ないことだけでなく、体力面や精神面などを考慮して、あえて非正規として働くことを選ぶ人がいることも理由の一つです。

障害者枠での労働時間

先に述べた「平成30年度障害者雇用実態調査結果」では、障害者枠での労働時間についても説明がされています。

週30時間以上働いている人は、身体障害者で79.8%、知的障害者で65.5%、精神障害者で47.2%、発達障害者で22.7%です。週20時間以上30時間未満で働いている人は、身体障害者で16.4%、知的障害者で31.4%、精神障害者で39.7%、発達障害者で35.1%です。自身の体調面や通院などの事情を考慮して無理のない勤務ができるかどうかを応募する際に確認をしておきましょう。

障害者雇用促進法では週20時間以上で雇用率にカウントされるため、週20時間以上の労働が最低条件となります。ただ、「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」をみると、週20時間未満で働く障害者も一定数存在しています。企業によっては例えば最初の1ヵ月は週20時間勤務でスタートして、様子を見て少しずつ勤務時間を増やしていくなど、柔軟な対応をしてくれるところもあるので、身体を徐々に慣れさせていけるのは安心ですね。

障害者枠とは?

障害者枠とは、障害がある人のために設けられた雇用枠のことです。たとえ障害があったとしても職業生活を通して、自立した自分らしい生活を送れるように、国が率先して障害者の雇用対策を進めています。
現在ハローワークが取り扱っている求人は、大きく分けて2種類。誰でも応募ができる一般枠、そして一定の障害がある人のみが応募できる障害者枠となっています。

障害者枠は障害がある方が仕事をする際にさまざまな合理的配慮を受けて、働きやすくするためのものでもあります。近年、企業の採用義務が強化され、障害者枠は拡大されており、発達障害や精神障害も障害者枠に含まれるようになりました。

対象となる人

障害があったとしても、全員が障害者枠に応募できるわけではありません。身体障害者手帳や療育手帳(知的障害者が対象)、または精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持つ人が対象です。

ただし知的障害者の場合は、児童相談所、知的障害者更生相談所などの「知的障害者判定機関」で発行された判定書でもOKとされることもあります。

現在の制度では、発達障害に特化した公的な手帳はありません。しかし障害程度によっては精神障害者保健福祉手帳を取得できるため、精神障害者として障害者枠の利用が可能です。

障害者手帳をすでに持っていたとしても、障害者枠ではなく一般枠を受けることもできます。障害者を雇用している企業や福祉業界では、障害を開示せずに一般枠として働くことをクローズ、障害者枠で働くことをオープンと呼ぶのが一般的です。

「一般枠」との違い

一般枠と比べた障害者枠の大きな違いは、さまざまな場面において配慮がされることです。障害があることを前提として採用しているため、一人ひとりの障害特性などに応じた配慮をしてくれます。

勤務日数や勤務時間、休憩の取り方、職場環境、そして業務内容といったあらゆる部分に対して、働きやすいように工夫をしてくれるのが通常です。

最近ではコロナウィルス対策として、Web面接のみで内定に至るケースも増えてきました。また、多くの企業で在宅勤務も導入されてきており、通勤をすることが困難だったり、職場での環境に影響を受けやすかったりする障害者が安心して働ける条件を選択できるようになってきています。

一般枠と障害者枠は相互に移行できる

一般枠で就労したがなんらかの理由で障害を負ったり、就労の継続が難しいと判断した場合、企業と相談の上で障害者枠に移行することができます。また反対に、精神障害などが回復した場合は一般枠に移行することも可能です。

もちろん企業内の制度や受け入れ体制にもよるため、必ずしもすべての企業で対応しているわけではなく、対応している場合も障害者雇用の割合に影響するため事前に綿密な相談が必要になります。

ほかにも合理的配慮は受けられませんが、障害者枠ではなく一般枠で就職し、障害をオープンにしながら働く人も少なくありません。

障害者枠のメリット・デメリット

障害者枠にはメリットとデメリットがあります。障害者枠で応募をする前にどのようなメリットやデメリットがあるのかを、しっかり確認しておきましょう。

採用された後に「こんなはずではなかった」と、後悔しないためにも事前に確認をしておく事が重要になってきます。

障害者枠のメリット

障害者枠で働くことの最も大きなメリットは障害をオープンにすることで、働き続けるための配慮を得られることでしょう。前述したように障害者枠では障害がある前提で企業が採用をします。業務を遂行する上で必要な配慮を、できる範囲で行ってくれるのは大きなメリットになります。

企業によっては障害者雇用の担当部署があったり、担当者が個別に付いたりすることもあるため、何か困ったことがあっても相談できるような体制になっている場合もあります。

身体障害者を雇用している企業では、バリアフリーなどの物理的環境がすでに整っていることも少なくありません。車いす利用者や視覚障害者なども、安心して仕事をスタートできますね。

また応募できる人が障害者手帳保持者に限定されるため、一般枠よりも競争率が低いこともメリットに挙げられます。大手企業も積極的に障害者雇用を進めているため、一般枠では採用が難しい会社で働けるチャンスがあるかもしれません。

障害者枠のデメリット

障害者枠のデメリットは、大きく3つ挙げられます。

  1. 非正規社員や非フルタイム勤務の割合が高い

    障害の内容によっては、フルタイムで働くことが体力的・精神的に難しく、短時間勤務を希望するケースも多々あります。
    また、有期雇用が多く、職歴が増える一方で勤続年数が短いため、全体の給与が上がりにくいのも障害者枠の特徴です。
  2. 大都市圏以外での求人が少ない

    東京や大阪のような大都市圏では障害者枠の求人も豊富で、職種やキャリアの幅も選べます。しかし、地方によっては求人がほとんどないというケースもあります。働きたいと考えていても、肝心の障害者枠が見付からないという状況に陥る可能性は考慮しておく必要があるでしょう。
  3. 障害者枠の求人はルーティンワークが多い

    求人を出す企業は、応募の間口を広げるために、障害の内容を問わずにできる業務を用意する必要があります。そのため障害の内容について配慮を重ね、色々な可能性を考慮した結果、事務職や軽作業といったルーティンワークの求人が増え、キャリアの幅が狭まってしまうのです。

これらのデメリットの解決法として「オープンポジション」求人への応募があります。オープンポジション求人とはポジションサーチ求人とも呼ばれ、応募した求職者の経験やスキルにマッチする業務を企業側が探してくれる求人のことです。

専門性が求められる職種であれば、経験やスキルに応じた高い年収の提示を受けることが可能です。

障害者枠の給与では生活できない問題を解消する3つの方法

障害者枠の給与では生活できない問題を解消する3つの方法

一般枠の平均給与と比較すると低い水準にある障害者枠の給与ですが、生活できない問題を解決するにはいくつかの方法があります。

その中でも実効性の高い3つの方法を紹介します。

  1. さまざまな制度を使用して金銭的な援助を受ける
  2. 副業をして収入を増やす
  3. 自分にもっと適した仕事を探し、キャリア形成を視野に入れて転職する

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

制度を利用する

現在日本には、障害者向けのさまざまな制度があります。以下で紹介する制度を上手に活用することで、足りない収入を補うことができるようになるでしょう。

障害年金

まずは障害年金です。一定の要件を満たした場合に、2か月に1回、定期的に年金を受け取ることができます。

障害基礎年金の受給額は令和5年4月現在で1級が年間993,750円、2級が年間795,000円です。さらに厚生年金に加入したことがあれば、加入期間や平均標準報酬額に応じて障害厚生年金を受け取れる可能性があります。年金受給要件を満たせば、定期的にまとまった金額が入ってくるので、とても安心できますね。相談先は年金事務所や区市町村の年金担当課です。

引用元
障害年金|日本年金機構

障害者控除

障害者控除とは本人や配偶者、そして扶養親族に障害がある場合、所得税と住民税を計算する際に所得控除を受けたり、相続や遺贈で財産を取得した法定相続人が障害者である場合、相続税から一定の金額が控除される税額控除を受けたりすることができる制度です。

なお、障害が重い特別障害者の場合には、控除額が大きくなります。

生活保護

資産や最低限の収入もなく、生活に困窮している人に生活費や住居、医療、介護などを公に提供するのが生活保護です。

財産を持っていない、貯金がない、支援してくれる親族もいないなどの受給条件を満たす必要がありますが、最低限生活するためのサポートをしてもらえるのは安心ですね。

障害者枠で就労していても月収が規定されている基準よりも少なければ、最低生活費に足りない分の保護費を受給できます。相談先は区市町村の福祉事務所です。

特別障害者手当

最後は特別障害者手当です。20歳以上で身体や精神に常時介護を必要とするほどの、重い障害がある場合に受給できます。支給額は令和5年4月時点で、月額27,980円です。所得制限があるので、申請窓口である区市町村の障害福祉担当課に確認しましょう。

副業する

障害者枠の収入では足りない分の生活費を、副業で稼ぐ方法もあります。インターネットを使った副業なら自宅でもできるので、スキマ時間を利用して稼ぐこともできるでしょう。

ただし、雇用先が副業を許可しているかどうかを確認してください。副業の可否やその条件について就業規則等で規定されているはずなので、必ずチェックしておきましょう。

また、副業に力を入れすぎて体調を崩してしまっては、元も子もありません。無理のない範囲で行うように注意してくださいね。

転職する

自分の障害特性を掘り下げて生産性を向上し、さらに高い給与が得られる職場へ転職するのもひとつの選択肢です。

給与のアップが現在の職場では難しい場合や、もっと障害特性を活かして働ける環境に移ることで、仕事環境や給与水準を上げることができます。

また、資格取得や技術習得のための勉強も欠かせません。市場価値を上げることで、働ける時間やできる内容を克服できます。

 
キャリアアドバイザー
転職する際には、障害者の転職に強いエージェントの利用がおすすめです。転職エージェントを活用することで、非公開求人の紹介が得られます。
キャリアプラン設計をしっかりとエージェントと相談しながら転職を進めましょう。

障害者枠でもしっかり生活できる収入がある仕事とは?

障害者枠でもしっかり生活できる収入がある仕事とは?

平均給与では一般枠よりも低くなりがちな障害者枠ですが、必ずしもすべての求人が低いというわけではありません。むしろ年収400万円以上で週3勤務やリモート勤務などの求人も、一般枠と変わらないくらい募集されています。

高収入な求人は、具体的にはIT系のプロフェッショナルであるエンジニアの募集が多い傾向にあります。また、語学や難関資格が必要な業務など、高いスキルや高度な知識が求められる仕事は、一般枠と同様に障害者枠でも高収入になります。

月収30万円以上の仕事

月収30万円以上の仕事

オープンポジションの求人です。正社員登用のある嘱託社員で、一部在宅・テレワークでの勤務も可能です。月給は200,000円~363,080円、想定年収は340万円~617万円。

業務内容は電話対応、社内業務(資料作成、カタログ準備、デモ器点検発送等)、営業アシスタント業務(返品、払出、見積もり等)、機械製品の修理など幅広く、自分が希望する職種でチャレンジできます。

株式会社松風 東京支社の求人(ID:6659)|求人サイトBABナビ(バブナビ)

キヤノン株式会社の障害者求人

オープンポジションの求人です。事業企画やロジスティクス、資材調達、法務、経理、人事、総務などのバックオフィスから、製品の開発設計、品質管理、生産技術、知的財産の管理など、幅広い分野で挑戦が可能です。月給は184,000円~442,000円、想定年収は315万円~760万円。

経験や障害の内容、程度に応じて業務内容を検討してもらえるため、自分の状態にあわせてキャリアプランを設計できます。

キヤノン株式会社の障害者求人(ID:6621)|求人サイト・BABナビ(バブナビ)

年収400万円以上の仕事

キヤノンメドテックサプライ株式会社の障害者求人

総務・庶務スタッフの正社員求人です。社内メール便の受領や仕分け、宅配の荷受け対応、採用や教育のアシスタントや総務人事系業務全般が対象になります。

月給は220,000円~280,000円、賞与は約4カ月分、想定年収は350万円~450万円です。

PCスキルを活かしてできる仕事を探している人におすすめです。
キヤノンメドテックサプライ株式会社の障害者求人(ID:6091)|求人サイト・BABナビ(バブナビ)

なの花薬局(株式会社なの花東日本)の求人

薬剤師・調剤薬局事務の求人です。フレックスタイム制を導入しており、働きやすい時間を選ぶことができます。正社員の薬剤師で想定年収は390~450万円です。

やはり有資格者に対する求人は、月収が高めに設定される傾向があります。国家資格を活かして仕事をしたいという人におすすめです。
なの花薬局(株式会社なの花東日本)の求人(ID:6093)|求人サイトBABナビ(バブナビ)

高収入や採用実績から選ぶ障害者雇用枠専門の求人サイトBABナビの入口

自分にあった職場を選ぼう

まとめ

障害者枠で働く人たちの平均収入は低く見えますが、労働時間が短いこと、同じ企業での勤続年数が短くなりやすいこと、障害への配慮を優先することにより業務内容が制限されることなどが原因として考えられます。配慮を得ることが、それ以外の待遇とトレードオフになる可能性があることは理解しておきましょう。

収入を安定させるために、障害年金や障害者控除などの各制度を上手に活用することも大切ですね。

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監修:東郷 佑紀
大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。