うつ病とは脳のエネルギーが欠乏し、憂鬱な気分が続いたり意欲低下が見られたりなど、さまざまな心理的症状がみられる病気です。症状の度合いによっては日常生活に限らず、仕事においても困難が生じる場合があります。
そこで今回は、うつ病の方へ転職・再就職する方法やポイントを解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別の病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならないよう、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
うつ病の方が転職・再就職を考えるときのポイント
うつ病の発症をきっかけに転職や再就職を検討するものの、今の仕事を本当に辞めても良いものか、今の自分でも再就職することはできるのかといったさまざまな不安によって、最初の一歩を踏み出し切れずにいる方も多いでしょう。
ここではうつ病の方が転職・再就職を考える際に参考にしてほしい4つのポイントを紹介します。転職・再就職する上でどのようなことを心がけると良いのか見ていきましょう。
すぐに行動・決断しない
就業中の場合、うつ病の自分がいることによって、周囲に迷惑をかけていると考えてしまう方もいるでしょう。長期化する抑うつ状態によってやむを得ず休職した場合も、休む期間が長引くにつれて「職場に迷惑をかけ続けている」「転職が不利になってしまうかも」などの不安に押しつぶされ、いてもたってもいられなくなることも少なくありません。
しかし、うつ病によって冷静な判断ができなくなっている可能性があるため、症状が強く出ているときほど、思い切った行動や決断は避けるのが無難です。
症状によっては誤った判断によって失敗や後悔を招くことも懸念されるため、どれだけ強い決心があっても、その日のうちに行動や決断はしないようにしましょう。
一人で決めない
自分の置かれた現状や今後について、どれだけ熟考したとしても、一人で決断するのは避けましょう。
症状によっては極端に悲観的に考えてしまうことも少なくなく、「自分にはこの道しかない」と思い込み、誤った判断をする可能性があります。
Googleなどの検索エンジンでうつ病による退職、転職についての記事をたくさん読まれる方の場合、膨大な情報量によって感情や症状までもが左右されることも少なくありません。
このようなことから、自分の中である程度決まったことであっても、まずは家族や支援機関などを頼り、ゆっくりと決めることをおすすめします。
うつ病に合う働き方を把握する
「うつ病によって職場に迷惑をかけているかもしれない」と考えるときは、そんな自分に合う働き方について調べることも方法の一つです。
- 自分のペースで働ける
- 勤務形態が柔軟
- 相談できる窓口の設置有無
これらに該当する会社を選ぶと、投薬や通院に対する理解を得た上で働けるので、治療と仕事のバランスを保つことができるでしょう。
障害者雇用枠による働き方を把握・検討する
うつ病の方は、強い抑うつ状態がみられると就労に対する意欲や集中力の低下、細かなミスが見られやすいといった傾向があります。このような症状があるからこそ、一般採用枠ではなく障害者雇用枠による転職・再就職を検討するのも方法の一つです。
障害者雇用枠とは、会社や職場の人から必要な配慮を受けながら働けて、更に地域の福祉サポートを利用しながら勤続できる採用枠のことで、障害者雇用枠からの応募・入社によって、通院・投薬・症状の強まりに対する不安を取り除きながら働くことができます。
病気や障害について会社に開示して働くことをオープン就労と呼び、会社に開示せず一般採用枠を目指す働き方をクローズ就労と呼ぶことも。それぞれの違いや概要については下記ページでまとめているので、この機会にぜひご一読ください。
うつ病の方が転職・再就職するときのポイント
うつ病の症状の強さによってはすぐにでも行動したくなる気持ちが湧くほか、憂うつな気分が長い間続いたり、食欲不振や眠れないといった身体的症状により、集中力の低下や物事を冷静に決断できなくなったりすることもあります。これらの症状が長期化したり重なったりすると、冷静な判断ができなくなるという不安もあり、転職や再就職と言った大きな決断を一人で行うのは避けるのが望ましいです。
では、これらを踏まえた上で転職や再就職をする場合は、どのようなことをポイントにして行動するのが良いのでしょうか。
治療は続ける
うつ病の症状が強く出るときはもちろん、症状が緩やかになっていたとしても、治療は継続しましょう。症状が治まっているからといって独断で治療や受診をやめてしまうと、抑うつ状態が見えたり強まったりすることがあります。
治療の必要性は自分ではなく、主治医の判断で決めることに留意しましょう。
クローズ就労の方は、一人で抱え込みすぎないよう、家族や職場の人と円滑な会話・コミュニケーションが取れる環境を作っておくことをおすすめします。
生活習慣の見直し・改善を図る
転職や再就職を検討する上では、生活習慣の見直しや改善も大切です。生活習慣が乱れているときは、毎朝決まった時間に起床することから始め、規則正しい食事、そして決まった時間に就寝することを心がけてみましょう。
抑うつ状態は、セロトニンなどの脳内神経伝達物質などの働きが悪くなることで発症しやすいと言われています。そのことから、セロトニンの分泌を促す目的として、規則正しい生活を目指すことに加え、天気の良い日は軽い散歩に出掛け、朝日を浴びるのもおすすめです。部屋の外に出るのが億劫な場合は、窓を開けて太陽光を浴びるだけでも違います。
引用元
うつ病|厚生労働省
周囲の理解を得る
転職や再就職を決めるときは、必ず家族などの周囲の人にも共有し、理解を得ることも大切です。自分だけの判断で決めてしまうと、働きにくさを感じる結果につながり、早期退職を辞さなくなることも。
「今自分はこういうことを考えていて、こうしようと思っているけれどどうかな?」など、些細なことでも周囲に共有・相談し、理解を得るよう心がけましょう。
無理はしない
うつ病と向き合いながら働く上では、無理をしないことも意識しましょう。症状が落ち着いているからという理由で無理をしてしまうと、抑うつ状態が悪化する恐れがあります。
抑うつ状態の悪化によっては気持ちがひどく落ち込んだり何もする気になれない、といったエネルギーの低下状態を招いたりすることも少なくありません。症状が落ち着いていても、少しずつ、少しだけ取り組むことを心がけましょう。
自己分析をする
症状が比較的落ち着いており、気分も前向きでいられる日は、一般的な転職活動と同じように自己分析をしましょう。
自己分析では自分の特技やスキル、資格などの「自分自身の棚卸し」に加えて、現在の自分についての洗い出しも大切です。自分について洗い出すことで、会社に求める条件や自分に合った働き方を明確にすることができます。
自分に合う働き方を考える
自己分析によってスキルや資格、現在の自分について洗い出すことができたら、次はどのような働き方があるのかを把握しましょう。
例えば、通勤ラッシュによる症状の強まりに不安がある方は出勤時間を調整できるフレックス制度を、通院頻度が多く自宅で働きたいという方ならテレワークを選ぶといった方法があります。
自分の症状について理解を深め、その上でどのような働き方があるのかを知っておくと、会社と連携しながら自分のペースで働ける方法が見つけやすくなります。
自分にあう働き方ができる企業を探す・分析する
自分に合う働き方が明確になったら、次はその働き方で募集する会社の求人を探しましょう。会社を見つけた後は、一般的な転職活動と同様に企業分析を行います。
この時注意したいのが、「自分に合う働き方だけで会社を選んでしまうこと」です。
求人を出す以上、会社も会社が求める人材を採用したいと考えています。求人を探す上では、企業が求めている人材や理念、将来的なビジョンなどにも目を通し、自分の入社によってどのように貢献ができるかを考えることも併せて行いましょう。
治療に対する支援を活用する
症状の度合いによっては、短期間での通院が必要になることもあります。もし、現在休職中や療養中の場合、通院費や生活費といった当面の経済面に不安を感じることもあるでしょう。
治療や生活面に不安を感じるときは、うつ病の治療に利用できる支援について調べることをおすすめします。各市区役所の障害福祉課や保健福祉課に相談することで、必要な支援についてのアドバイスや手続きが行えます。
精神通院医療(自立支援医療)
うつ病の治療を続ける場合は、自立支援医療の一つである精神通院医療の利用を検討しましょう。一般の方の場合3割の医療費負担ですが、精神通院医療を受けることで1割の負担で治療を続けることができます。精神通院医療についてはこちらの記事で詳しく解説しているのであわせてごらんください。
傷病手当金
傷病手当金は、病気によって被保険者が休職する間、被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。ただし傷病手当金を受給する場合は、連続して休んだ3日間を「待機期間」とし、4日目以降から支給されるので注意しましょう。
引用元
病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
傷病手当金の詳細についてはこちらの記事でご確認ください。
障害年金
障害年金とは、病気やケガなどによって生活や仕事に制限がみられる場合に受け取ることが可能な年金のことです。うつ病で障害年金を受給する場合は「初診日要件」と「国民年金もしくは厚生年金保険料納付要件」を満たす必要があります。詳細については障害年金支援ネットワークに記載されているのでご確認ください。
引用元
【詳しく解説】うつ病と障害年金|NPO法人障害年金ネットワーク
DIエージェントでも障害年金についてまとめたページがあるので、こちらも併せてご一読ください。
障害者手帳の交付
障害者雇用枠を検討する場合や、実際に障害者雇用枠での就労を希望する場合は、障害者手帳の交付を受ける必要があります。
うつ病の場合は精神障害者保健福祉手帳に該当し、交付を受けるためにはいくつかの条件を満たしていなければなりません。障害者等級やそれぞれの条件・状態については厚生労働省のページよりご確認ください。
精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(◆平成07年09月12日健医発第1133号)|厚生労働省
DIエージェントでも精神障害者保健福祉手帳についてまとめたページがあるので、この機会に併せてご一読ください。
うつ病で転職・再就職するときに活用可能な支援機関
うつ病で転職や再就職を検討する際は、専門家の力を借りるのもおすすめです。相談内容によっては専門家ならではの視点から適切なアドバイスを受けられることもあり、今後の転職活動をより自分らしく進められるきっかけになることがあります。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害をお持ちの方の自立した就労をサポートする施設です。障害者だけでなく、事業主へのサポートも行っています。
施設では専門的な職業リハビリテーションが提供されており、自分に合ったスキルを身につけ、自分が興味を持てた仕事を見つけ、継続的な就労ができるような支援を受けることも可能です。
地域障害者職業センターについては下記ページでまとめているので、この機会に合わせてご一読ください。
ハローワーク
公共職業安定所とも呼ばれるハローワークでもうつ病と仕事の両立について相談できます。
ハローワークでは仕事を探すことはもちろん、就職・転職のためのサポートを受けることも可能です。さらに失業保険の手続きも行えるので、退職する上では訪れる必要性の高い施設と言えるでしょう。
ハローワークについては下記ページで詳しくまとめているので併せてご一読ください。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、障害をお持ちの方のうち、一般企業への就職が可能と判断された方が利用できる施設のことです。障害者手帳がない方であっても、業務に相応の障害や困難があると認められた場合に利用できます。
就労移行支援については下記ページでまとめているので併せてご一読ください。
DIエージェントの求人事例
DIエージェントでは、障害者雇用による求人をメインに取り扱う求人サイト「BABナビ」を運営しています。ここからは、実際にBABナビで掲載された求人を3つ紹介するので、障害者雇用枠にはどのような職種があるのか、またどのような企業が募集しているのか知りたい方は参考にしてください。
しかしうつ病は再発しやすい病気であり、自分でも知らず知らずのうちに重症化しやすいといった特徴があるため、注意深く向き合いながら業務に取り組むことが大切です。
株式会社エス・エム・エス(正社員)
株式会社エス・エム・エスでは、正社員を募集しています。障害者配慮として定期面談を実施しているほか、チャットツールを利用した業務や通院配慮、業務スピード配慮なども導入されており、最低限のコミュニケーションで業務に取り組める環境を心がけています。
これまでに下肢障害・視覚障害・免疫不全・心臓疾患のほか、うつ病や双極性障害を抱えた方の採用実績があるので、うつ病を開示して働くことも可能です。
応募資格には、日常的にパソコンを用いたタスク処理を行ってきた実績や、周囲と協力して取り組んできた経験が必須条件となっています。
株式会社エス・エム・エスの障害者求人(ID:564)|BABナビ(バブナビ)
株式会社シーイーシー(一般事務/オープンポジション/採用)
東証プライム市場上場の株式会社シーイーシーでは、一般事務・オープンポジション・採用事務の募集をしています。
応募にあたっては、ExcelやWebサイトなどへのデータ入力や採用関連Webサイトの簡単な操作・更新、さらには文書の印刷やPDF化などがあります。場合によっては電話対応がありますが、必須業務ではないので不安のある方は相談することも可能です。
勤務時間はフルタイム制で朝9時〜午後5時45分までの実働6時間。これまでに下肢障害や資格・聴覚障害、うつ病や統合失調症を抱える方の採用実績があります。
なおこの求人に限らず、応募に際しては障害者雇用枠のため、障害者手帳の交付を受けた方が対象です。
株式会社シーイーシー 恵比寿本社の障害者求人|(ID:5481)BABナビ(バブナビ)
うつ病でも転職・再就職は可能!無理なく自分に合った働き方を選ぼう
インターネット上にある多くの情報や今現在の自分の状況によっては、自分に価値がないように思えたり、唐突に消えたいと思ったりすることもあるでしょう。そのようなときは、転職や再就職について考えることはやめ、心の落ち着きを取り戻すことを優先しましょう。
心身がどちらも落ち着きを取り戻し、冷静な考えや判断ができるようになったときに、改めて転職・再就職について考えてもまったく問題はありません。
病気や障害を抱えながら働く上では、それぞれの特性に合った業務に就くことや、病気・障害への理解や配慮のある環境選びが大切です。病気があっても「キャリア成長をあきらめたくない」「自分にあった働き方を探したい」という方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠の就職・転職について情報提供や、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人お一人の実現したい働き方を提案させていただきます。
就職・転職はまだ検討段階という方もぜひお気軽にご相談ください。
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大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。