発達障害とは先天的な脳神経の障害です。その度合いによっては、日常生活に限らず、仕事においても障害が理由で困難が生じる場合があります。
そこで、今回は、発達障害で退職を考えている方に、退職前後にしておきたい10のステップと、退職後の転職に備えた7つの準備について解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならないよう、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
発達障害で仕事や職場での関係が上手くいかない理由は?
発達障害がある人が仕事や職場での関係が上手くいかない場合、職場環境によるストレスが大きな原因になっていることがあります。
発達障害がある人は、特定の分野に強みを持つ一方で、非常に苦手な分野があることが一般的です。しかし、障害の特性を職場に理解してもらえず、苦手な業務を強いられると、自信を失い、仕事への意欲が低下してしまいます。
また、アイコンタクトのような非言語コミュニケーションの困難さや、自分の特性に合わない業務内容、変化への適応の難しさなど、様々な要因が重なることで、ストレスが増大し、仕事のパフォーマンスや精神的な安定性に影響が出てしまうケースが多いのです。
加えて、障害特性によっては職場の環境やルールの変化に適応することが難しいケースもあります。たとえば注意欠陥多動性障害(ADHD)がある場合、環境によっては集中力や注意力の維持が困難で、業務の効率が低下し、ミスが増えることもあります。
結果的に人間関係が悪化し、悪循環に陥って退職に至るケースは珍しくありません。
発達障害で退職したいとき、決断する前にしておきたい6つの相談や確認
退職したいと考えても、すぐに辞めてしまうのはおすすめできません。まずは事前にしておきたい相談や、利用できる制度と社内規則の確認を進めましょう。相談を通じて環境改善が行われれば、結果的に辞めずに済むケースもあります。
また、休職制度を利用して一旦仕事を休み、心身の健康や転職への環境を整えることで、より良い転職ができることも少なくありません。
そこで、退職しようと思ったらまず、以下の6つの相談と確認のステップを進めてみましょう。
専門家に相談する
カウンセラーや医師に相談し、現状を客観的に評価してもらいましょう。自分では気付かなかったポイントや、職場への相談内容も相談できます。
また、二次障害としてうつ症状などを伴う場合は、医師から診断書を貰い、療養休暇を取って一旦休むこともできます。そのためにも、専門医の診察は必ず受けておきましょう。
家族や信頼できる人に相談する
家族や友人に状況を共有し、心身のサポートを得ることも大切です。一人で考え込んで悪い方向に行ってしまうことも少なくありません。
退職に対してポジティブな支援や応援を受けることで、心理的な安心からの余裕を持つことができます。相談相手がいなくて難しいという場合は、治療を受けている医師に窓口等がないか相談してみましょう。
職場の産業医や上司に相談する
産業医や上司と相談し、自分の現在の状況や医師の診察結果、業務内容や環境の改善について相談しましょう。
現状を共有して合理的配慮を受けることで、職場の状況や環境が変わり、そのまま仕事を続けられる可能性があります。
支援機関に相談する
地域の支援機関や就労支援事業所に相談し、適切なアドバイスをもらいましょう。特に公的な支援や制度は自治体によって内容が異なるため、住んでいる場所で利用できる制度を知る必要があります。また、転職に必要なスキルを身に付けるための職業訓練を紹介して貰えます。
就業規則や利用できる制度を確認する
退職を強く決めている場合は、退職手続きや有給休暇の利用について、就業規則を確認しておきましょう。
円滑な退職をするためにも、退職届を提出するタイミングや退職までに必要な手続き、提出書類など、就労規則の内容を把握し、場合によってはタイミングや内容を交渉する必要があります。
退職後の生活をシミュレーションする
経済的な影響を考慮し、生活費や再就職までの計画を立てておきましょう。自主退職の場合、失業手当が支給されるまでにブランクがあります。
失業手当の支給開始、もしくは再就職して最初の給料が振り込まれるまでの生活に支障がないか、しっかりと検討した上で、退職時に利用できる制度を確認し、段取りを書き出しておきましょう。
発達障害のある人が退職前にしておきたい10のステップ
退職を決意した場合、すぐに退職届を出すのはあまり良い選択とは言えません。退職に向けてひとつずつステップを踏んで辞める方が、次の転職や利用できる制度の幅を広げることができます。
実際に退職する前にやっておくべき10のステップを見ていきましょう。
かかりつけ医に相談する
かかりつけの医師に、心身の健康状態についてのアドバイスを受け、場合によっては診断書を貰いましょう。心身に辛い症状がある時は、療養休暇を挟んで退職することができるケースがあります。また、会社に退職理由を説明する際にも、診断書があるとスムーズに話ができます。
家族に退職の相談をする
家族に退職を決めたことや、退職の理由と現在の状況を共有しておきましょう。特に、賃貸物件などの保証人になっている親族には必ず連絡しておきましょう。
退職後にどう生活するのか、転職に向けてのアクションやプランも先に共有しておくと、安心して応援して貰えます。
産業医や上司に退職に向けた面談を受ける
産業医が社内にいる場合、退職に向けて現在の精神的な状態を共有し、就労の継続が難しく退職の意志が強いことを話しておきましょう。かかりつけ医の診断書がある場合は、共有しておくのも大切です。
また上司には面談を通じて退職の意志が強いことを伝え、引き継ぎに向けて準備を進めて貰いましょう。
障害者就労の支援機関や転職エージェントに協力を求める
現在の職場を離れて次の就職先を探すため、障害者就労の支援機関に問い合わせましょう。ハローワークには障害者専門の担当者がいる窓口があるため、細かな事情を考慮した支援や求人情報の共有が受けられます。
また、障害者雇用に強い転職エージェントにキャリア相談をするのもおすすめです。
就業規則を確認し、退職に向けた書類を用意する
退職時に必要な書類は就労規則にあるため、いつまでにどの書類を提出するのか確認し、リストアップしておきましょう。
退職には退職届だけでなく、様々な書類が必要になるので、取得に申請が必要なものは余裕を持って用意しておく必要があります。
職場の人間関係を整理する
退職する時期を職場に共有し、引き継ぎなどの準備を進めます。連絡が必要な人には少なくとも1カ月前には退職の挨拶をしておきましょう。
大きいプロジェクトを引き継ぐ際には1カ月では不足する場合も多いので、退職の時期は職場としっかりと相談して決めるのがおすすめです。
今後のキャリアやプランを相談する
公的な窓口や、転職エージェント、キャリアアドバイザーに相談して今後のキャリアプランを考え、スキルの棚卸をしましょう。
現在不足しているものや、これからなにを目指したいのかを整理しておくと、目標がわかりやすくなっていきます。
スキルアップを図るための制度を確認する
退職後、転職時にキャリアアップしたり、キャリアチェンジを考えている場合、スキルアップが必要になります。
利用できるスキルアップ制度や補助金などを調べ、必要な資格や勉強を整理して、取得にかかる期間や費用を含めた転職計画を立てましょう。
ストレス管理方法を学ぶ
かかりつけ医や公的な支援機関に、ストレスの管理方法について相談しましょう。発達障害の度合いによって、ストレスの管理方法は異なります。
適切な発散方法や、ストレスがたまって心身が辛いときの相談先など、次の転職に向けたよりよい自己改善のアクションを身に付けることで、新しい職場でよい環境を築くことができます。
退職理由を明確にする
なぜ仕事を辞めようと決めたのか、客観的な目線から分析して整理しておきましょう。心を落ち着けるためにも、書き出してみることで、自分にとって譲れないものや大切なことが見えてきます。
また、退職理由は転職時に面接で聞かれる可能性が高いので、感情的にならず説明できるようにしておくことも大切です。
退職後の再就職に向けて進めておく7つの準備
退職後、再就職に向けてなにをするべきか、退職前に整理しておきましょう。退職後、すぐに転職するのか、一度職業訓練を受けてスキルアップしてからキャリアチェンジやキャリアアップを目指すのか、プランは多岐に渡ります。
退職を決めたら退職日までに準備をして、スムーズに再就職できるように7つのステップを進めておきましょう。
カウンセラーや職業訓練の専門家に相談する
公的な支援機関や転職エージェントに相談し、退職に至った理由から、次の就職に対してどう向き合うと良いのか相談してみましょう。
自分が目指したいキャリアについて、どのようなスキルや資格が必要なのか、受けられる支援についても相談しておくのがおすすめです。
職業訓練を受ける
利用できる職業訓練プログラムを調べ、申込み時期を確認しておきましょう。申し込める時期や利用期間、必要になる費用は受講条件、受講場所などもプログラムによって異なります。
特に受講場所については、毎日通うことを前提に、無理がない距離にあることをよく検討する必要があります。細かな点も相談を元に調べるのがおすすめです。
障害特性や技能に対して自己分析を行う
自分の障害特性や、業務上の得意不得意を自己分析してみましょう。分析して客観視することで自分自身の中にある苦手意識の原因に気付き、ストレスを過剰に感じる状況を軽減できることもあります。
また、新しい職場で合理的配慮を受けるために相談する際に、障害特性をまとめたシートを作っておくとスムーズにすり合わせができるのでおすすめです。
求人情報を収集する
自分の発達障害を職場に伝えて働くオープン就労か、伏せて働くクローズ就労をよく検討し、求人情報を集めましょう。
ハローワークや転職サイトに公開されている求人情報だけでなく、非公開の求人情報を持っている転職エージェントに相談するのも大切です。
障害者枠での就職活動をすすめる
障害特性によっては、障害者雇用枠での就職活動が適していることがあります。特に合理的配慮を受けることで得意な分野で企業に貢献できる場合、障害者雇用枠の利用がおすすめです。
障害者雇用枠は一般枠よりも条件が悪いといわれることもありますが、雇用条件が変わらないこともあるので、エージェントと相談しながら検討すると良いでしょう。
面接準備と練習をしておく
面接の時によく聞かれることなどを整理しておき、事前に確認して、スムーズに受け答えができるように練習しておきましょう。
面接は誰しも緊張するものですが、場数が多いほど落ち着いて臨みやすくなります。転職エージェントや公的な支援機関では、面接練習のプログラムがあることも多いので、できるだけ活用しましょう。
精神的な支えになる場所や趣味を作っておく
リラックスできる場所や、ストレスを発散できる趣味は、追い詰められやすい転職時には大切です。お気に入りのカフェやゲームなどで、適度にストレスを軽減しながら、落ち着いて転職に臨みましょう。
相談できる親しい人に状況を打ち明けて、転職の悩みを共有するのもひとつの選択です。また、転職エージェントを利用しているときは、担当者に相談するのもおすすめです。
発達障害で退職した人の転職には、転職エージェントがおすすめな理由
発達障害は外から見えないため、当事者は本当に困っていても、周りからは「付き合いにくい人」「わがままでサボってばかりいる」「不真面目で何度言っても覚えない」と思われることが多々あります。
うまく人間関係を構築できず、対人摩擦から仕事を辞める決意をした人にとって、同じ失敗はしたくないという不安は大きいのではないでしょうか。
そこでおすすめしたいのが、障害者の転職に強い転職エージェントです。非公開になっている障害者雇用枠の情報を豊富に持っているだけでなく、エージェント自身が発達障害を含めた個人の障害特性に合わせた紹介や支援が得意なのです。
ただ紹介するだけでなく、障害特性を伝えて合理的配慮を受けるための交渉をしてくれたり、転職後にも相談を受け付けてサポートをしてくれたり、定着支援を行っているなど、転職エージェントは転職後も頼りになる存在です。
発達障害を持って退職を決めたら、ステップバイステップで手続きを進め、転職しよう
障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に就くことや、障害への理解や配慮のある環境選びが大切です。障害があっても「キャリアや成長をあきらめたくない」、「自分にあった働き方を探したい」という方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠の就職・転職について情報提供や、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
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就職・転職はまだ検討段階という方もぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。