精神疾患を抱える方のなかには、継続的にかかる治療費と時間を懸念される方も多いでしょう。長期的な治療だと医療費もかかり、治療そのものを迷う方もいらっしゃるのではないでしょうか。その様な方も、もしかしたら「自立支援医療」という制度を活用して、治療費のご負担を軽減できるかもしれません。
そこで今回は自立支援医療について解説します。メリット・注意点・申請方法について深堀りするので、精神疾患を抱える方は、利用できるかをチェックしましょう。制度の利用対象であっても、知らないことによって利用していない方も多くいらっしゃいますので、ぜひ最後までご一読ください。
自立支援医療とは?
自立支援医療とは、精神疾患の治療において、医療費の自己負担額を軽くする制度のことで、自立支援医療制度と呼ぶこともあります。3つに分類されていて、それぞれに対象者が設けられています。
自立支援医療「精神通院医療制度」とは
精神通院医療制度とは、統合失調症・精神作用物質による急性中毒・てんかんを含む精神疾患など、通院による医療負担を継続的に支払う方を対象とした制度のことです。
実施主体は都道府県・指定都市で、精神疾患による通院費を範囲としています。詳細については厚生労働省の下記ページをご確認ください。
自立支援医療(精神通院医療)の概要|厚生労働省
自立支援医療「更生医療制度」とは
再生医療制度とは、身体障害を抱える方が、障害を取り除く治療や手術など、更生に必要な自立支援医療費を支給する制度のことです。
実施主体は市町村に限られ、視覚障害・聴覚障害・言語障害・肢体不自由などが対象範囲です。詳細については厚生労働省の下記ページをご確認ください。
自立支援医療(更生医療)の概要|厚生労働省
自立支援医療「育成医療制度」とは
育成医療制度とは、障害児を対象とした自立支援医療制度のことです。障害にかかわる医療を行わないときは、将来障害を残すと認められる疾患がある児童も該当し、障害を取り除くための治療や軽減を目的とした手術などに対して提供されるものです。
実施主体は市町村で、視覚障害・聴覚障害などが対象です。詳細については厚生労働省の下記ページをご確認ください。
自立支援医療(育成医療)の概要|厚生労働省
自立支援のメリットと注意点
自立支援医療にはメリットだけでなくデメリットになりうる注意点もあります。ここではメリットと注意点をそれぞれお伝えします。
メリット
自立支援医療のメリットは3つあります。精神通院医療制度・更生医療制度・育成医療制度に焦点を当て、それぞれの特徴を解説します。
医療費の自己負担額が軽くなる
1つめのメリットは、医療費の自己負担が軽くなる点。現在、医療費負担が3割負担の方であれば、自立支援医療を利用すると1割負担に引き下げられます。
たとえば統合失調症を抱える方が、症状の悪化によって長期的に治療が必要と診断された場合、自立支援医療のひとつである精神通院医療制度を利用すると1割の医療費負担で治療できます。
もし聴覚障害を抱えている方であれば、確実に効果が期待できる手術を受ける場合、更生医療制度を利用すると1割の費用負担で手術が受けられるといったメリットがあります。
医療費の自己負担額には上限もあり
2つめのメリットは、医療費の自己負担額に上限がある点です。自立支援医療には世帯所得別で自己負担上限額が設定されています。
たとえば市町村民税非課税世帯で受給対象者の収入が80万円以下の場合、ひと月2,500円までの自己負担額となります。そのほか、世帯の課税状況によって自己負担額の上限は異なるため、詳しくは最寄りの市区役所に問い合わせるとよいでしょう
また、統合失調症などにより、長期的な治療・高額な医療費が必要な場合は、自己負担額がさらに引き下げられ、出費を最小限に抑えながら安心して治療に専念できます。
就労支援施設へ通所しやすくなる
3つめのメリットは、就労支援施設に通所しやすくなる点です。精神通院医療制度を利用すると、自立支援医療受給者証が発行されます。
就労支援施設に通うときは、障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳のいずれかの提出が求められます。精神疾患によっては、どの手帳も受給対象外の場合がありますが、精神通院医療制度の利用によって自立支援医療受給者証が発行されるため、就労支援施設の利用がしやすくなるのです。
自立支援医療における4つの注意点
自立支援医療にはデメリットになりうる注意点が4つあります。申請手続きの必要性や更新手続きなどが必要になるので、しっかり目を通しておきましょう。
申請をしなければならない
1つめの注意点は、自立支援医療は申請しなければ利用できない点です。自立支援医療は精神通院医療制度や更生医療制度・育成医療制度の3つに分類されますが、いずれかに該当しているのに制度利用せずにいると、3割負担で治療を受けることになります。
自立支援医療は申請日から適用となりますが、通院・治療開始日まで遡って医療費が返還されません。自身の現状から判断し、気になる方は主治医に相談しましょう。
有効期限が1年で毎年更新手続きが必要
2つめの注意点は、各受給者証には有効期限があることから、毎年更新の手続きが必要になる点です。
なお、更新手続きは有効期限満了日の3ヵ月前から行えます。更新を希望する方や、医師との相談により、さらに治療が必要と判断された場合は、早めに更新手続きを済ませておきましょう。
指定医療機関でしか適用されない
3つめの注意点は、指定医療機関でしか適用されない点です。各受給者証には、あらかじめ適用となる医療機関・薬局が記載されています。そのため、なんらかの理由によって医療機関や薬局を変更した場合、自立支援医療制度は適用されません。
「医師との相性が悪く病院を変えた」「買い物ついでに別の薬局を利用したい」といった場合は対象外となるほか、理由によっては再度申請が必要になるので注意しましょう。
申請から手元に受給者証がくるまで時間がかかる
4つめの注意点は、申請から手元に受給者証が届くまでに時間がかかる点です。自立支援医療を利用するには必要書類を提出し、審査に通らなければなりません。
申請から手元に審査結果(または受給者証)が届くまでは2ヵ月程度かかるといわれています。医師から長期的な治療が必要と判断された場合は、診断書を作成してもらうなど手続きに必要なものを用意し、手続きは早めに済ませましょう。
なお、手元に受給者証が届くまでに時間はかかるものの申請中の状態であれば、手元にない期間の分も医療機関や薬局によっては自立支援制度適用後の治療費で会計を済ませられたり、手元に届いてから市区役所で手続きを行い遡って払い戻しされます。
自立支援医療の申請方法は?
自立支援医療制度は利用において申請手続きが必要です。ここでは自立支援医療制度の申請方法を解説します。
自立支援医療制度の利用対象であれば自己負担額を最小限に抑えながら治療が受けられます。なお、適用は申請日からであり、遡っての医療費返還はないので、これから紹介する手順に沿って早めに手続きを済ませましょう。
1. 主治医による診断書
まず、主治医に自立支援医療制度を受けることを相談し、診断書を書いてもらいましょう。診断書作成には別途費用がかかり、保険適用外となります。診断書の費用については医療機関で異なるので、具体的な費用を知りたい方は病院や医師に問い合わせるとよいでしょう。
診断書は発行から3ヵ月以内のもののみ使用できるので、発行日の確認を済ませてから提出しましょう。
2. 申請書(指定する病院と薬局)
次に、住民票の住所がある市区役所から自立支援医療支給認定申請書を受け取り、通院する医療機関と薬局を記入しましょう。自立支援医療支給認定申請書は最寄りの市区役所ホームページでもダウンロードできるほか、市区役所で記入することも可能です。
3. 健康保険証
次に、健康保険証を用意しましょう。健康保険証がなければ自立支援医療制度は受けられません。生活保護を受給している方は、生活保護受給者証を用意します。
写しでもよいとされていますが、健康保険証の裏面や生活保護受給者証の内側のページを印刷し忘れると手続きが進められないので、手続きのときは原本もあわせて持参すると手間にならないでしょう。
4. 世帯全体の所得証明書
次に、世帯全体の所得がわかる所得証明書を用意しましょう。たとえば課税証明書や非課税証明書などが挙げられます。
自立支援医療制度は受給対象者の所得ではなく、世帯全体の所得からひと月あたりの負担上限額が計算されます。世帯全体の所得がわかる課税証明書や非課税証明書を用意したうえで手続きを進めましょう。
なお、課税証明書・非課税証明書は市区役所に申請することで発行請求できます。また、所得状況について地方税情報などを自治体に提出されている方の場合は、「同意書」の提出で所得情報を確認する書類を省略できる自治体もあります。
5. マイナンバーがわかる書類・カード
最後に、マイナンバーがわかる書類やカードを用意しましょう。最近ではマイナンバーと紐づけて個人情報や所得がわかる様になっているので、マイナンバーカードをお持ちの方は、各書類とあわせて用意しましょう。
なお、マイナンバーカードがない場合は、個人番号を記載した住民票の写しの持参で申請可能です。ただし、市区役所によっては住民票に有効期限を設ける場合もあるので、住民票を使って手続きするときは、有効期限について確認を済ませておきましょう。
自立支援医療制度と同時にほかの制度にも着目
自立支援医療制度は、精神通院医療制度・更生医療制度・育成医療制度の三つに分類され、それぞれ実施主体が異なります。
お住まいの地域によっては利用できない場合もあることから、生活を安定させたいと考える方はほかに利用できる制度を探すことをおすすめします。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。