ピアサポートとは、障害をお持ちの方同士の相互扶助の仕組みです。しかし、名前を聞いたことがあっても、実際にご自身が利用できるのか・どの様なメリットがあるのか・ピアサポーターになるにはどうしたらいいかは知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は利用できる制度があっても、知らないことによって利用していないという可能性もあります。
そこで、今回はピアサポートについて詳しく解説します。ピアサポートの目的やメリット、ピアサポーターの役割に加え、ピアサポーターになる方法もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
ピアサポートとは
ピアサポートは依存症や障害をお持ちの方など精神保健福祉領域で発展してきました。しかしその対象は、難病者や子育て中の方、学生などと多様に広がっています。
■ピア
ピア(peer)とは仲間という意味
同じ背景を持つ人同士が、同じ立場で話し合うこと。 同じ経験からもたらされる同調や寄り添いが、感情の表出や自己解決力を高める点で、専門職からの指導、スーパーバイズとは異なる効果がある。ピアサポートという場合は、仲間としての支え合いを指す。 集団での支え合いの場合は、自助グループ(セルフヘルプグループ)という。
引用元
東京都福祉保健局家庭支援課 『東京の母子保健』
それぞれが本音で自信の体験や思いを語り合うことで、つながりや絆がうまれ、孤独感の解消や個々のもつ課題解決が期待できます。
引用元
千葉県|精神障害者ピアサポーターについて
NPO法人 ピアサポートネットしぶや|ピアサポートってなに?
NHK福祉ポータル ハートネット|これって“依存症”?「回復」に必要なもの – どうやって抜けだす?
ピアサポートの理念と定義
ピアサポートの理念は「誰もが他者をサポートできる存在で、サポートされる存在でもある」ということです。
「医師などの専門家/患者」といった一方的で非対称な関係ではなく、当事者であるメンバーが対等にサポートし合います。
日本ピア・サポート学会では以下のようにピアサポートの定義がされています。
【定義】
■学生たちの対人関係能力や自己表現能力など、社会に生きる力が極めて不足している現状を改善するための学校教育活動の一環として、
■教職員の指導・援助のもとに、
■学生たち相互の人間関係を豊かにするための学習の場を各学校の実態に応じて設定し、
■そこで得た知識やスキル(技術)をもとに、仲間を思いやり、支える実践活動を、ピア・サポートと呼ぶ。
ピアサポートが大切にする考え方
さらに、日本ピア・サポート学会によれば、以下のような考えが重要とされています。
- 誰もが成長する力や自分で解決する力を持っている
- 人は人を支援する中で成長できる
- 支援を与えるだけではなく、支え合う関係性を形成する
ピアサポートの目的
ピアサポートが目指すものは心理学者のアルフレッド・アドラーが提唱する幸せになるための「4つの要素」に共通するところも多くあります。
所属感 | 私はここにいて良い |
---|---|
信頼感 | 周りを信頼できる |
自己受容感 | ありのままの私で良い |
貢献感 | 私は役に立てる |
そのためには自由で対等な関係性の中でありのままの自己を語り合える環境づくりが必要です。また適切に就労や自立生活に向けての支援があることによって、これらの達成に近づきます。
引用元
ピアサポート研修のご案内
ピアサポーターとは
ピアサポートをする人のことを「ピアサポーター」と呼びます。
ピアサポートにおけるピアサポーターは障害や疾病をもつ仲間を支援する人であり、ピアサポーターもまた障害や疾病を抱える人です。
ピアサポーターの役割
ピアサポーターの役割の一部をご紹介します。
たとえば、様々な原因で支援を受け入れることが難しい方がいたとき…
同じ境遇を乗り越えた人がいることで希望を与えられるのがピアサポーターの役割です。仲間同士で支えながら、地域社会の理解を得て生きやすい社会をつくることができます。
ピアサポーターになるには
ピアサポーターになるために必須資格や条件は決められていません。「当事者」であれば誰でもピアサポーターとして活動することができます。
自治体によってはピアサポーターの養成研修を設けているところもあります。
引用元
東京都福祉保健局|東京都障害者ピアサポート研修
京都府ホームページ|ダブルケアサポート事業について
福岡県庁ホームページ|がんピア・サポーター養成・相談支援推進事業
ピアサポーターの配置が事業所のプラスになる仕組み
ピアサポートの仕組みは、障害をお持ちの方の不安の解消や社会参加に大きな役割を担うとして、国も後押ししています。2021年度からはピアサポート体制加算が新設されました。
ピアサポート体制加算は、障害福祉サービスを提供する事業所で、ピアサポーターを配置することで高評価が得られるというもの。ピアサポ―ト体制加算と実施加算の条件や内容を紹介します。
ピアサポ―ト体制加算と実施加算の条件と内容
ピアサポート体制加算の対象となる人や要件は以下のとおりです。
ピアサポート体制加算の対象者 |
|
---|---|
加算の要件 |
|
単位 | 100単位/月 |
経過措置 | 2024年3月31日までは都道府県又は市町村が上記研修に準ずると認める研修を修了した①の者を常勤換算方法で0.5人以上配置する場合についても本要件を満たすものとする。(②の管理者等の配置がない場合も算定可) |
対象者の配置は、併設の事業所で職員を兼務した場合は兼務先の業務時間を含んだ合計が0.5人以上でも可とされています。併設の事業所は「計画相談支援・障害児相談支援・自立生活援助・地域移行支援・地域定着支援に限る」とされているため注意が必要です。
また就労継続支援B型でも、就労支援の実施に当たってピアサポートの活用を評価するとされています。
引用元
厚生労働省|令和3年度障害福祉サービス等報酬改定の概要
障害者雇用とピアサポート
障害をお持ちの方が働く場合、体調・特性のためや仕事を進めるために悩みに直面することもあるかと思います。
社内でも社外でも悩みや喜びを共有できる居場所があると安心ですよね。障害者雇用をおこなっている会社では、ピアサポート活動が活発なところも多くあります。
障害者雇用とは
障害者雇用とは障害をお持ちの方の働く機会が平等になるように設けられている就職のルートです。通称「障害者(雇用)枠」と呼ばれているもので、障害者手帳を持つ人が対象となっています。
引用元
社会福祉法人豊芯会「ピアサポートの活用を促進するための 事業者向けガイドライン」
クローズ就労:一般採用枠で就職する
クローズ就労とは障害を持っていてもそれを開示せず、一般採用枠で就職することです。クローズ就労のメリットは障害者雇用枠に比べ求人が豊富で幅広くあります。
デメリットは障害を明らかにしていないので必要な配慮を受けられず働きづらいと感じるリスクがあります。
オープン就労:障害者採用枠で就職する
オープン就労とは、障害を開示して就職をすること、特に「障害者雇用枠」で就職することを指します。
メリットは障害を開示することで必要な配慮を受けられる可能性が高いことです。ただし、一般枠より求人の数は限られるので、チャンスが少ないと感じるかもしれません。
障害者雇用で活用される制度
障害者雇用促進法においては「障害を理由に不当な差別をしてはいけない」と定められています。
そして、雇用主は障害当事者から「働くにあたって障害を理由とした困難があり、配慮を必要とする」と申し出があった場合、可能な範囲で環境や仕事を調整する「合理的配慮」が求められています。
ピアサポートが活発な企業の事例
ここではダイバーシティ&インクルージョンに力を入れている企業のピアサポート実施事例を紹介します。
シミックグループ
シミックグループはCRO(医薬品開発支援)のパイオニアとして業界を牽引しています。難病の創薬にも取り組んでおり、難病者の支援にも熱心です。グループ内では障害者雇用を積極的におこない、特例子会社のシミックウエル株式会社もあります。
グループ内ではたくさんの障害をお持ちの方が働かれており、ピアカウンセリングも実施されているといいます。
アクセンチュア
グローバルなコンサルティング企業であるアクセンチュアもまた障害者雇用と「インクルージョン&ダイバーシティ」に熱心です。世界中の従業員数は73万3,000人以上、障害をお持ちの方も多数働いています。
日本に拠点を置くアクセンチュアでは2万1,000人が働いており、アクセンチュアの従業員の功績や他企業との共同開発などは、これまでに数々の賞を受賞しています。
引用元
アクセンチュア|インクルージョン&ダイバーシティ 障がいのある方
パナソニックグループ
パナソニックグループでは約800名を超える障害をお持ちの方が働いています。働く当事者の声から「ダイバーシティ・ネットワーキング」という交流も生まれているそうです。
オンラインイベントや社内SNSなどを活用し、孤立しない仕組みづくりにも注力しています。全社的に障害の知識・理解を深めようとしているのも安心で、温かみのある会社です。
ピアサポートの支援を受けられる事業所
「就職はまだ早い……」と思われている方は、福祉事業所でもピアサポートを受けられます。こちらでは2箇所の事業所をご紹介します。
東京都:リヴァトレ品川
「リヴァトレ品川」はうつ・躁うつなどを専門とした就労支援事業所で、4つのプログラムを通したサービスを受けられる施設です。
サービス利用者第一号だった双極性障害Ⅱ型の当事者がピアサポーターとして在籍しています。
神奈川県:シャロームの家
「シャロームの家」は神奈川県にある「ピアで愉快に新しい価値をつくる」をモットーにした就労継続支援B型事業所です。障害のあるピアサポーターも複数在籍しており、草刈りや清掃などの実業務をしながら自立を促します。
運営元の特定非営利活動法人さざなみ会はYPS横浜ピアスタッフ協会や神奈川精神医療人権センター(KP)の運営もおこなっており、高い専門性とネットワークを誇ります。
引用元
シャロームの家 HOME
自分らしく働きたい!障害雇用専門の転職エージェントを活用しよう
当事者には当事者同士でしか分からない悩みや喜びがあるでしょう。そんな日々の気持ちを共有できる場所がピアサポートです。
企業内のピアサポートはまだまだ一部の取り組みではありますが、「障害に理解がある会社で働きたい」「特例子会社などで自分が企業内でピアサポーターのような役割として貢献していきたい!」と思っている方はぜひDIエージェントにもご相談を!
DIエージェントは障害者専門の就職・転職エージェントとして10年の実績があり、多くの障害をお持ちの方の就職をサポートしてきた成功事例も多くあります。
DIエージェントは障害者雇用専門の人材紹介エージェント
障害や疾病をお持ちでオープン就労を目指す方の就職・転職をサポートするDIエージェントでは、専属のカウンセラーによる全面的な就職サポートをおこなっています。
履歴書など書類の作成・添削や面接対策、企業との交渉ややり取りの代行などはもちろんのこと、専門知識を兼ね備えたカウンセラーによるヒアリングやキャリア診断によって、おひとりおひとりにピッタリの求人紹介が可能です。
時に企業への新規求人開拓やキャリア診断を基にした未経験職種への提案など、積極的なアプローチときめ細かなサポートで、就職後のフォローまで手厚くバックアップいたします。
ピアサポートは当事者が支え、支えられることで相乗効果を生む仕組み
ピアサポートは障害をお持ちの方が社会で孤立することを防ぎ、不安を解消したり有益な情報を得るのに役立ちます。さらに普段サポートされる側であることが多い障害をお持ちの方が、自身の体験を基に人をサポートすることで、充足感や人の役に立つ喜びを得られるという一面も。
ピアサポートを取り入れている企業への就職や、自身がピアサポーターとして支える側に立つことで、活躍の幅を広げることもできるでしょう。
障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。今の職場を続けていくことに負担・不安をを感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠で就職・転職を検討されている方に対して就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人おひとりに寄り添った働き方を提案させていただきます。
「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。