ASDの方にはさまざまな特性がありますが、なかでもコミュニケーションの面で支障が起こりやすいです。そこで、どんな傾向が見られやすいのか、改善するための対処方法にはどんなものがあるのかを解説します。
ASDの方が転職活動のときに利用できる支援サービスについてもお伝えするので、ASDによりコミュニケーションに問題を抱えている方は、ぜひ今後の参考として役立ててください。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASDは「Autism Spectrum Disorder」の略称で、発達障害の一種に分類されます。以前「自閉症」や「アスペルガー症候群」などと呼ばれていたものの総称です。原因は特定されていませんが、先天的な脳機能の問題によるものと考えられています。
ASDの特性
ASDの方には、下記のような特性が見られやすい傾向があります。
- コミュニケーションが苦手
- 感覚が過敏または鈍麻
- 特定のものに対する強いこだわり
- 興味関心の偏り
- 行動の反復 など
ASDの診断を受けていない方でも、当てはまる項目が多い場合はASDである可能性があるため、気になる方は病院で診察を受けましょう。
「コミュニケーション障害」との違い
「コミュニケーション障害」には、人見知りで人との会話が苦手だったり、コミュニケーションにコンプレックスを感じていたりする人の特徴を俗語として表す場合(いわゆる「コミュ障」)と、言葉をはっきり発声できない・流暢に話せないなど医学的な定義として分類される場合があります。
ASDの方はコミュニケーションにおいて困難を感じるケースが多いですが、コミュニケーション障害と同義ではありません。
では両者の関わりをどう捉えればいいかというと、コミュニケーション障害の兆候が見られる場合、その裏にASDが潜んでいる可能性がある、と考えるとよいでしょう。
ASDの方のコミュニケーションにおける特性
ここでは、前述のASDの特性のなかでも、特にコミュニケーションにおける特性について掘り下げます。
言語的コミュニケーション
言語を使ったASDの方のコミュニケーションでは、以下のような特徴がよく見られます。
- 一方的に話す
- 相手の話に対して無反応、またはそっけない
- 冗談や社交辞令が通じず文字通り受け取る
- 曖昧な表現の理解が難しい
- TPOに合わせた言葉や話し方の使い分けが困難
- 気持ちを伝えたり理解したりするのが難しい など
非言語的コミュニケーション
非言語コミュニケーションとは、表情や視線、身振り、姿勢など、言葉以外の部分でのコミュニケーションのこと。ASDの方には以下のような傾向が見られやすいです。
- 焦点が定まらない
- 視線が合わない
- 無表情
- ジェスチャーが苦手
- 不自然な動きをする
- 空気を読めない
- 相手の心情を理解できない など
共有・共感が苦手
上記のほかにも、ASDの方は、喜怒哀楽は持っていますが、それを他者と共有したり、相手に共感・同意したりすることが難しいという傾向が見られます。
自分の感情を表すのが苦手なため、人と分かち合おうとしません。また、他人への関心が薄く、相手の感情を量ることが困難です。
ASDの方のコミュニケーション改善方法
前章のようにコミュニケーションが得意でないASDの方は、どのようにすれば人との関係を改善できるのでしょうか。改善に向けた4つの対処方法についてお伝えします。
1. 自己理解を深める
まずは自分の状態や特性を理解することが重要です。人とのコミュニケーションにおいてどんなことが苦手なのか、どんな場面で困るのかなどを把握します。
普段の生活を思い浮かべ、一方的にしゃべっていないか、思ったことをすぐ口にして相手を嫌な気持ちにさせていないかなどを振り返ってみましょう。
2. 自分の特性に合ったマニュアルを作る
ASDの方はみんな同じ特性を持っているわけではなく、個人差があります。そこで、前項の内容をもとに、生活や仕事で支障があったときにどう対処するか、また、支障が起きないようにどうすべきか、自分なりのマニュアルを作成しましょう。
特に仕事のマニュアルは、汎用的な内容になっていることが多く、曖昧な指示や複雑な表現などが含まれることも多いです。周りの人々に内容を確認しながら、自分が仕事をしやすいように専用のマニュアルを作ると安心でしょう。
3. わかりやすい表現を相手に依頼する
他者とコミュニケーションを取る際に、自分が理解しやすい方法で行うことも大切です。自分の特性を伝え、数字を使うなどして内容を具体的に話してもらう・文字や図などで視覚的に説明してもらうなどの方法を依頼してみましょう。
また、ASDの方は長い説明や複雑な話は理解しにくい傾向があるので、ポイントを小分けにして簡潔に一つ一つ伝えてもらうのもよい方法です。
4. 親しい人や支援機関に相談し、アドバイスをもらう
家族や友人など、親しい間柄の人に、自分のコミュニケーション上の問題点を聞いてみたり、第三者の目線から自分がどう見えているか・どうしたほうがいいかなどのアドバイスを受けたりするのもよいでしょう。
周りに相談できる相手がいなければ、カウンセリング窓口や支援機関を利用する方法もあります。
ASDの方は自分に合った職場で働くことも大切|求人例を紹介
コミュニケーションが得意でないASDの方は、前章のような方法で改善を目指すことはもちろん、仕事をする際は自分に合った環境に身を置くことも大事です。そこで、ASDの方が応募できる求人の例を紹介します。
株式会社マイナビパートナーズ 大阪支社|ライター職
クリエイティブ業務の拡大に伴った、求人サイトやライフスタイル関連のコンテンツ、SNSなどのライティングを行うライターの募集です。比較的コツコツと進められる仕事のため、文章を書くのが得意な方には向いているでしょう。
月給は199,646円~209,707円(19,760円~22,685円の固定残業代を含む)ですが、基本的に残業のない仕事のため、おおむね定時(17:45)に退社できます。完全週休二日制でしっかり休めて、福利厚生も充実していることが特徴です。
引用元
株式会社マイナビパートナーズ 大阪支社の障害者求人(ID:2814)|求人サイト・BABナビ(バブナビ)
湘南美容クリニック|清掃スタッフ
清掃・洗濯・ごみ回収・ごみ捨てなど、クリニック内の衛生管理スタッフの求人です。美容クリニックなので清潔感は欠かせないもので、重要な業務といえます。きれい好きで責任感のある方に向いているでしょう。
月給は20万円(皆勤手当1万円を含む)で、3~6ヶ月の契約期間終了後、正社員登用への可能性もあります。登用後は賞与や昇給のチャンスも。クリニックは全国各地にあるため、近くにある方は検討してみてはいかがでしょうか。
引用元
湘南美容クリニックの障害者求人(ID:7426)|求人サイト・BABナビ(バブナビ)
UTハートフル株式会社|一般事務
完全テレワークの事務職です。データの登録・チェック・修正や資料作成、社員情報の管理などの業務を担います。正確な作業が得意な方は適任でしょう。テレワークのため自宅に通信環境は必須ですが、ノートPCは貸与してもらえます。
時給1,076円で、9:00~18:00のうち6時間程度、週5日の就業です。月120時間の場合の想定月給は129,120円。通院には配慮してもらえるので、必要に応じて相談してみてください。
引用元
UTハートフル株式会社の障害者求人(ID:7923)|求人サイト・BABナビ(バブナビ)
非公開求人|総務
非公開求人で、大手アパレルファッションブランドの総務職の募集です。警備や防災、ビル・店舗などさまざまな管理業務を担当します。ミスのないよう丁寧に仕事ができる方に向いているでしょう。ただし、総務での3年以上の経験と、ある程度のPCスキルが求められます。
月に20~30時間の残業があり、20時間とした場合の想定月給は260,000円~280,000円。なお、残業は障害の特性に応じて配慮してもらえます。年収400万円以上を狙えるので、応募条件に当てはまりしっかり稼ぎたい方は検討してみてください。
引用元
DIエージェント障害者求人(東京都渋谷区)(ID:7366)|求人サイトBABナビ(バブナビ)
ASDの方の転職活動をサポートしてくれるサービス
ASDの方が就職や転職活動を行う際は、より自分に適した職場を見つけるため、ぜひ支援サービスを活用してみましょう。さまざまな機関があるので、それぞれの特徴を解説します。
また、発達障害の方の転職活動の事例として、下記記事も参考にしていただければ幸いです。
ハローワーク
ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。
ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。
一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。
センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。
障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。
引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。
利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。
全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。
なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。
障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。
引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省
障害者向け転職エージェント
障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。
障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。
高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。
就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。
コミュニケーションが苦手なASDの方も改善は可能
ASDという障害においては、コミュニケーション能力に支障が見られる方も多くいらっしゃいます。そこで、自分がどんなときに困難を感じやすいかを理解し、周りの人々の協力を得ながら生活や仕事をすることが大切です。
また、ASDの方が働くときには、自分の特性に合っている・配慮を得られるような職場を選びましょう。就職・転職活動の際は、ぜひ「DIエージェント」もご活用ください。
障害者の方の仕事探しに特化した「DIエージェント」では、キャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングを行い、仕事をお探しの方の希望や特性をもとに、提案や求人紹介などのサポートを実施しています。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。