発達障害とは、脳の働き方に起因すると言われている先天的な精神障害です。人によって障害の大きさが異なりますが、その度合いによっては、日常生活に限らず、仕事においても障害が理由で困難が生じる場合があります。
そこで今回は、在宅勤務における発達障害の方にオススメの職種・働き方など仕事選びのポイントや、実際に就職・転職活動を進める方法について解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならないよう、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
発達障害の在宅勤務は増えている?その理由と背景
近年、在宅勤務を導入する企業が増加しています。背景には、コロナ禍によるテレワーク導入企業の急激な増加に加え、中長期的な労働人口の減少に対する雇用対策や、多様な働き方を求める現代社会のニーズがあります。
このような状況を受け、発達障害者向けの在宅勤務の求人も増えてきました。
発達障害がある方にとって、従来のオフィス環境での勤務は困難なケースが多々ありますが、在宅勤務であれば障害特性を活かしながら働くことが可能です。
しかし一方で、発達障害の特性は個々に異なるため、在宅勤務のメリットやデメリットもケースバイケースです。在宅勤務を成功させるには、発達障害の種類に応じた工夫が必要不可欠といえるでしょう。
在宅勤務をしたいけれど不安があるという場合は、発達障害の就労に強いキャリアアドバイザーに相談してください。
年々増えるテレワークの導入状況
コロナ禍を境に、日本ではテレワークの導入が大きく増加しました。総務省の調査によると、2022年時点の統計ではテレワーク導入済みおよび導入予定の企業は、調査対象全体の55.2%と、約半数にも及びます。
今までは出勤を前提にしていたため就労が難しかったケースでも、在宅勤務であれば就労が可能になったことで、障害者雇用にも積極的に在宅勤務を取り入れる企業が増えました。
また、全国的に大規模なテレワーク導入が進んだことで、必要な機器やシステムも安価で導入しやすくなり、今後もテレワークを前提とした在宅勤務の導入は増えていくと考えられています。
それにあわせて、障害者枠での雇用時に合理的配慮として在宅勤務を選択できるケースも多く、働き方に柔軟な対応が受けられる機会も増えています。
引用元
総務省|令和5年版 情報通信白書|テレワーク・オンライン会議
ADHDの人の在宅勤務のメリット・デメリットと工夫
注意欠陥と多動が多いADHDは、職場で席に落ち着かずオフィス内を立ち歩いたり、仕事に集中できないことが多く、ほかの人の声や行動が気になって注意がおろそかになったり、ミスが増えることもあります。
仕事の段取りを付けたり、タスクを管理したり、仕事の期限を守ることが苦手で後回しにしてしまう傾向があるため、「だらしない」「サボり癖がある」と思われ、他の人と摩擦が起きてしまうことも少なくありません。
一方でADHDは環境からの影響が大きいため、仕事に集中して落ち着ける環境を作りやすい在宅勤務は適しているといえます。
そのためにも、ADHDの障害特性について、理解のある職場を選ぶことが大切です。
引用元
発達障害って、なんだろう? | 政府広報オンライン
大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説! | NHK健康チャンネル
ADHDの人が在宅勤務をするメリット
ADHDの人が在宅勤務をする大きなメリットは、気が散ってしまい、注意がそれやすい外的刺激をコントロールしやすい環境を作れるということです。
ノイズキャンセリングのヘッドホンをしたり、周りから仕事に関係ない物を遠ざけて集中できる環境を作ることで、仕事が効率的になります。
また、集中しているときにほかの人に話し掛けられて集中が途切れたり、タスク管理が苦手なところに急な割り込みタスクが発生しにくいのもメリットといえます。
コミュニケーションをチャットツールに集中することで、集中していたタスクが落ち着いてから返事ができたり、後から内容を見返してタスク整理がしやすいのも、働きやすさのひとつとして挙げられます。
雑談などの業務外のコミュニケーションと、仕事のタスクの両立に悩まなくてよいため、仕事に対してパフォーマンスを集中できるので、出勤を伴う就労よりも実力を発揮しやすいといえるでしょう。
ADHDの人が在宅勤務をするデメリット
一方でADHDの人にとって、在宅勤務は誘惑が多い環境ともいえます。しっかり環境作りをしないと、自宅には誘惑や気が散るものが多く、仕事に集中できなくなってしまいます。
また、先延ばし癖があるため、スケジュールやタスクの管理に失敗して仕事の締め切りに間に合わず、隠れ残業でなんとかしようとしてしまい、生活が破綻してしまうケースも少なくありません。
さらに在宅勤務の場合、外部とのコミュニケーションが減少するため、孤立感と閉塞感を感じやすく、社会性が低下して社会との繋がりが薄くなってしまうことも多々あります。
ADHDの人が在宅勤務をするときにおすすめの工夫
ADHDの人の場合、在宅勤務を成功させるには環境作りが大切です。自宅はプライベート空間でもあるため、仕事とプライベートが曖昧にならないように物理的、心理的な区切りを作りましょう。
なし崩しで在宅勤務を始めると、誘惑が多くて気が散り仕事に集中できない環境になってしまったり、逆に仕事のやめ時がわからず体調を崩す原因になります。
ブラウザやチャットツールなどは仕事専用のアカウントを作り、プライベートを遮断して誘惑を減らしましょう。また、気持ちを切り替えるために、仕事をするための服に着替えるのもおすすめです。
寝室や食卓での仕事を避けて、ワンルームでも仕事場所をパーテーションで区切り、短くても仕事場所へ「出勤」する習慣を作るのも良いでしょう。部屋の構造的に難しい場合は、コワーキングへ移動するのもひとつの選択です。
また、自分にあったタスク管理ツールを探し、タスクを可視化して、スケジュール管理のストレスを減らすことが、仕事の抜け漏れやうっかりを減らすコツです。
ASDの人の在宅勤務のメリット・デメリットと工夫
ASDの人は大きな環境変化が苦手で、自分のテリトリーやルールを徹底したがるため、ほかの社員と人間関係で衝突してしまうことがあります。
また、冗談やたとえ話がわからず文字通りに真に受けてしまうため、会話を通じたコミュニケーションのストレスを感じやすい傾向があり、職場で孤立してしまうケースも少なくありません。
明確な指示や受け答えがしやすい文字コミュニケーションの方が適しているASDは、在宅勤務で自分のペースを作る方が、パフォーマンスを発揮しやすいと言われています。
引用元
No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害|こころの耳
ASDの人が在宅勤務をするメリット
ASDの人は感覚過敏を持つ人が多いため、大勢の人と触れあうことになる通勤や、職場環境によるストレスが軽減されるのは、在宅勤務の大きなメリットといえます。
また、自分の最適化した環境を整え、集中して仕事ができるだけでなく、在宅勤務であれば感覚過敏に配慮した服装も可能です。オフィスでは着用に適さない素材や服装を選べることは、肌に触れるものに敏感なASDの人にとってストレスの軽減によるパフォーマンスの向上につながります。
チャットツールによる文字コミュニケーションが中心になることで、会話による社会的コミュニケーションに対するストレスが軽減され、指示の行き違いが起きにくくなるのも、ASDの人にとっては過ごしやすい環境です。
ルーチンワークなどにこだわりを持つASDの人にとっては、自分のペースでこだわりを発揮して仕事を進めることができる在宅勤務は、パフォーマンスを発揮しやすい働き方といえるでしょう。
ASDの人が在宅勤務をするデメリット
ASDの人は社会的コミュニケーションが苦手なため、在宅勤務で直接的交流が減ると、社会との繋がりを保つのが難しくなってしまうことがあります。
また、こだわりが強すぎて仕事の内容に妥協ができず、スケジュール管理を小まめに指摘する人がいない環境では、仕事の納期に支障をきたすケースも少なくありません。
同様に健康診断や年末調整などに対し、強いこだわりを発揮してしまい、納得できなければ実行しないという頑なな姿勢がトラブルになることもあります。
ASDの人が在宅勤務をするときにおすすめの工夫
ASDの人は、予定の急な変更や割り込みの処理が苦手で、パニックを起こしてしまうことがあります。そこで、仕事のルーチンを確立し、割り込みが発生した場合の処理ルールを決めておくのがおすすめです。
イレギュラーに対する処理をするルールがあれば、普段とは違うことが起きた場合でも、落ち着いて対処ができます。仕事の時間割を作っておくと、急な依頼に対しても「今○○を処理しているので、○時から対応できます」とスムーズに回答できるので、慌てずにすみます。
また、過敏になる感覚に配慮して、自分が集中して快適に落ち着ける環境を作ることで、さまざまな知覚に対する過敏さに由来するストレスを軽減できます。
在宅勤務は社内のコミュニケーションから取り残され、孤立感を感じやすいので、チャットツールの絵文字やスタンプなどによるリアクションなど、文字よりもさらに軽いコミュニケーションを意識しておくとちょっとした会話も楽になるでしょう。
LD/SLDの在宅勤務のメリット・デメリットと工夫
LD/SLDは、全般的な知能の遅れはなく、特定の学習行為において支障がある発達障害をさします。以下の4つのうち、ひとつもしくは複数の特徴があり、ADHDやASDの特性を併せ持つこともあります。
- 読めない(字を認識できない、文章を読んで内容を理解することが困難)
- 書けない(字を正しく書いたり、筋道の通った文章を書くことが困難)
- 計算ができない(数や計算の概念に対して理解することが困難)
- 推論が出来ない(原因と結果の因果関係を推しはかったり、条件から結果を予測するのが困難)
LD/SLDの人が苦手な業務をフォローするために適したICTツールがありますが、職場で独自に導入するのは難しいこともあります。
そこで在宅勤務を選ぶことで、環境を最適化してパフォーマンスを発揮しやすくなります。
引用元
発達障害って、なんだろう? | 政府広報オンライン
学習障害/限局性学習症(LD/SLD)とは – 武田薬品工業 | 「大人の発達障害ナビ」
LD/SLDの人が在宅勤務をするメリット
自分の学習障害にあわせてICTツールを導入することで、作業環境を最適化し、業務効率を改善できます。
また、LD/SLDの人は障害特性が影響する特定のタスクに時間がかかりやすいため、時間配分を柔軟に最適化できる在宅勤務はメリットが大きいといえます。
障害がある部分への苦手意識などで、周囲に対する罪悪感やストレスを蓄積しなくて良いのも、パフォーマンス向上につながるでしょう。
LD/SLDの人が在宅勤務をするデメリット
職場にLD/SLDの障害特性に対する合理的配慮のナレッジがない場合、適切なサポートが十分受けられない環境のまま在宅勤務に切り替わり、事態が悪化するケースがあります。
また、LD/SLDの人は、タスクの優先付けや時間管理に課題を持つことがあるため、適したタスク管理や時間管理ツールがないと、業務に支障をきたしてしまう可能性があるでしょう。
読字障害や書字表出障害があり、チャットツールを利用した文字コミュニケーションが苦手な場合、上司や同僚とのコミュニケーションに支障が発生してしまう恐れもあります。
LD/SLDの人が在宅勤務をするときにおすすめの工夫
自分の障害特性をサポートする読み書き補助ソフトやスケジュール管理ツールを導入することが、なによりも大切です。なにが苦手なのかを把握し、職場のセキュリティコンプライアンスの中で利用できるツールを積極的に取り入れていきましょう。
また、文字によるコミュニケーションが苦手な場合は、ビデオ会議や電話で積極的にコミュニケーションを取り、職場での孤立を防ぐのも大切です。
作業指示を明確にして、口頭でのやり取りで誤解やすれ違いを防ぐように意識しましょう。
広汎性発達障害の在宅勤務の事例
発達障害はひとつだけしか発現しないというわけではなく、複数の発達障害が組み合わさって現われることも少なくありません。代表的な発達障害以外にも様々な発達障害があり、特定不能な発達障害も含めて、広汎性発達障害と呼びます。
広汎性発達障害の場合も、他の発達障害と同様に割合や度合いが一人ひとりで大きく異なり、オフィスでの勤務が難しいケースが多々あります。
しかし在宅勤務を選択すれば、障害特性を活かし、苦手な部分をカバーすることで、ストレスを軽減して自分らしく働くことも可能です。
実際に転職エージェントを通じて、在宅勤務で就労した事例を紹介します。
発達障害者が在宅勤務のお仕事を探すコツ
発達障害の人が在宅勤務のお仕事を探すには、いくつかのハードルがあります。そもそも在宅勤務の求人数は増えていますが、障害者雇用枠の在宅勤務で希望する職種や業種を絞り込んで探すのは大変です。
そこで、効率的に在宅勤務のお仕事を探すには、以下の3つの方法があります。
- 職場に在宅勤務の相談をしてみる
- 障害者雇用に関する転職フェアなどに参加する
- 障害者雇用に強い転職エージェントに相談する
現在の職場で在宅勤務に切り替えたい場合は、合理的配慮の一環として在宅勤務の相談をしてみるのが一番早いでしょう。在宅勤務を会社の勤務体制に取り入れている場合は、スムーズに移行できることも少なくありません。
広く情報を取り入れて判断したい、まずはいろいろなところで話を聞いてみたいという場合は、転職フェアがおすすめです。障害者雇用に積極的な企業に直接話を聞き、面接ができるので、障害特性のバラツキが大きい発達障害の人にとってその場で説明できるというメリットがあります。
障害者雇用枠での転職を目指すだけでなく、その後の就業フォローや定着支援、メンタルケアまでトータルで考えたい場合は、転職エージェントに登録するのが良いでしょう。
発達障害は人によって必要な支援が異なるため、障害者転職に強く、在宅勤務の実績が豊富なエージェントが企業との間に入ることで、安心して仕事に就くことができます。
具体的にどのような支援や合理的配慮が必要なのか、就職活動をしながら企業の採用面談の中で相談をするのは簡単なことではありません。転職活動のストレスに加え、障害の特性や必要な合理的配慮を説明するのは、大きな心理的負担になることも多々あります。
自分だけでは難しいと感じたら、無理をしすぎてしまう前に、是非、転職エージェントに相談してください。
D&Iのテレワーク支援サービスとエンカクで在宅勤務にありがちな不安もしっかりサポート
D&Iのテレワーク支援サービスは、在宅勤務で働きたい障害者の方のための就業支援を行っています。在宅勤務のためのフォロー体制だけでなく、業務上の相談窓口や研修、メンタルケアなどもあり、在宅勤務にありがちな不安をしっかりとサポートします。
また、エンカクはDIエージェントが提供している障害者テレワーク雇用支援システムです。障害者のテレワークにおける雇用・定着・戦力化を支え、障害者就労を支援するシステムで、エンカクを導入している企業も増えています。
在宅勤務にありがちな就労後の不安やデメリットも、エンカクによってしっかりとサポートが受けられ、安心して仕事を続けられます。
DIエージェントに登録することで、エンカク導入企業に就職できる確率が上がるので、転職を考えているのであればD&Iのテレワーク支援サービスを検討してみてはいかがでしょうか。
発達障害の苦手をカバーし、得意を伸ばして働ける在宅勤務を目指そう
障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に就くことや、障害への理解や配慮のある環境選びが大切です。障害があっても「キャリアや成長をあきらめたくない」、「自分にあった働き方を探したい」という方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠の就職・転職について情報提供や、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人お一人の実現したい働き方を提案させていただきます。
就職・転職はまだ検討段階という方もぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。