小腸機能障害とは、さまざまな原因によって小腸を広範囲に切除し、吸収面積が減少して消化吸収が妨げられた状態、またはクローン病やアミロイドーシスなどの小腸疾患によって吸収面積が減り、消化吸収が難しい状態のことです。
その度合いによっては、日常生活に限らず、仕事においても障害が理由で困難が生じる場合があります。
そこで今回は、小腸機能障害の方にオススメの職種・働き方など仕事選びのポイントや、実際に就職・転職活動を進める方法について解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならない様、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
小腸機能障害とは
小腸機能障害は、病気・要因によって小腸機能に障害をきたし、日常生活が極度に制限されることを指します。ここでは小腸機能障害の要因と、働く世代に多く見られるクローン病との関係性について解説します。
小腸機能障害の要因
小腸は鉄やカルシウムを吸収する十二指腸、短時間で糖質を吸収する空腸、胆汁やビタミンB12などを吸収する回腸のことを指しており、障害をきたすと消化吸収が困難になります。
小腸機能障害は、これらの器官に疾患などが見られ、切除・病因によって、日常生活が制限されるほどの障害をきたすことです。
症状によってはこまめな栄養補助や水・電解質の補給、カテーテルでの栄養補給が必要となり、広範囲にわたって切除が伴う疾患では、絞扼性イレウス・腸間膜動脈血栓症・腸間膜静脈血栓症などが挙げられ、短腸症候群や吸収不良症候群と呼ぶこともあります。
主な要因には、疾患による小腸の切除のほか、クローン病などの病気が挙げられます。
小腸機能障害は身体障害者福祉法で定められる七つの障害のうちの一つに含まれており、以下二つの病態・疾患によって区分されます。
小腸大量切除を行う疾患、病態 | 小腸疾患で永続的に小腸機能の著しい低下を伴う場合のあるもの |
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引用元
鳥取県|小腸機能障害
小腸の機能障害程度等級表に基づいて判断
国では小腸機能障害を、等級表と項目に基づいて判断・区分します。判断基準は前述した病因の表と下表のとおりです。
小腸機能障害における障害程度等級表 | |
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1級 | 小腸の機能の障害により 自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの |
2級 | ー |
3級 | 小腸の機能の障害により 家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの |
4級 | 小腸の機能の障害により 社会での日常生活活動が著しく制限されるもの |
等級 | 基準 |
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1級 | 次のいずれかに該当し、かつ、栄養維持が困難となるため、推定エネルギー必要量の 60%以上を常時中心静脈栄養法で行う必要のあるものをいう。 a 疾患等により小腸が切除され、残存空・回腸が手術時、75 ㎝未満 (ただし乳幼児期は 30 ㎝未満)になったもの b 小腸疾患により永続的に小腸機能の大部分を喪失しているもの |
3級 | 次のいずれかに該当し、かつ、栄養維持が困難となるため、推定エネルギー必要量の 30%以上を常時中心静脈栄養法で行う必要のあるものをいう。 a 疾患等により小腸が切除され、残存空・回腸が手術時、75 ㎝以上 150 ㎝未満(ただし乳幼児期は 30 ㎝以上 75 ㎝未満)になったもの b 小腸疾患により永続的に小腸機能の一部を喪失しているもの |
4級 | 小腸切除または小腸疾患により永続的に小腸機能の著しい低下があり、かつ、通常の経口による栄養摂取では栄養維持が困難となるため、随時中心静脈栄養法又は経腸栄養法で行う必要があるものをいう。 |
※編集部で内容を一部編集
表や注釈など詳細については下記ページに詳しく記載されていますので、あわせてご確認ください。
鳥取県|小腸機能障害認定基準|小腸機能障害
働く世代に多い、クローン病に伴う小腸機能障害
小腸機能障害は、病気によって小腸を切除した場合以外に、働く世代を中心に広まりを見せるクローン病が発端となるケースも少なくありません。
大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症・潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患と呼び、狭義のなかでクローン病と潰瘍性大腸炎に区分されます。
クローン病の症状としては口腔にはじまり、肛門に至る消化管までにおいて、炎症や潰瘍が見られます。炎症によっては小腸と大腸を中心に疾患が起きるほか、腹痛・下痢・血便・体重減少・発熱・腹部腫瘤・全身倦怠感・貧血といった症状が見られます。
クローン病の原因には以下のような説が広まっています。
- 遺伝的要因が関与する説
- 結核菌類似の細菌・麻疹ウイルスによる感染症説
- 食事中のなんらかの成分が腸管粘膜に異常な反応を引き起こす説
しかし未だ明確に証明されておらず、指定難病の一つに含まれています。
『クローン病(指定難病96)』で紹介されたクローン病の推定発症年齢を見ると、その多くは働く世代である20~24歳に多く見られることがわかっており、早期の発見・治療・経過観察が必要とされています。
小腸機能障害の方が抱える職場・仕事の悩み
ここでは小腸機能障害をお持ちの方が抱える職場・仕事の悩みについて紹介します。
障害への理解が得にくい
小腸機能障害は内部障害の一つです。そのため、一見すると健常者のように見えることから、周囲の理解が得にくいといった悩みを抱える方が少なくありません。
健常者のように見えることで、体調不良による休暇申請がしにくいことにもつながり、日常的になにかしらの働きにくさを感じることがあるようです。
体調管理と仕事のバランスが図りにくい
小腸機能障害をお持ちの方は、体調不良が起きやすく、仕事とのバランスが取りにくいといった悩みを抱えられる方もいらっしゃいます。
急な腹痛が起きればトイレに駆け込む回数や滞在する時間も増え、業務に集中できないといった悩みを抱える方も多いとされています。
キャリアに制限がある
小腸機能障害によって、長時間労働や毎日の就労に対して体力が追いつかないことも少なくありません。
体力と相談しながら働くことになるため、業務に携わる時間が短くなる場合もあり、キャリアアップが難しいと感じる人もいらっしゃいます。
クローズ就労だと障害を隠すプレッシャーによるストレスも
クローズ就労で働く方のなかには、障害を開示せずに働く現状に、プレッシャーやストレスを感じ、それが体調不良につながることもあります。
クローン病や小腸機能障害はいずれも内部障害に位置する病気であるため、クローズ就労で就職できたとしても、日々の体調によっては負担に感じるシーンも少なくありません。
小腸機能障害の方が働くうえでのポイント
ここでは小腸機能障害をお持ちの方へ、働くうえでのポイントを紹介します。体調不良やストーマなどの造設をすることによって、仕事に対して悩みやストレスを抱える方もいらっしゃるでしょう。
症状を振り返りながらポイントに目を通し、ご自身にあった職種を見つけましょう。
体力の心配がいらない職種について知る
クローン病をはじめ小腸機能障害をお持ちの方が就職活動を始めるときは、体力の心配がいらない職種とはなにかについて調べることをおすすめします。
小腸機能障害全般では吸収障害が、特にクローン病では腹痛や下血、体力減退や発熱といったさまざまな症状が見られることもあります。体調と相談しながら働き続けられる職種を情報収集し、自身の適職を見つけることが大切です。
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障害者雇用枠を検討する
小腸機能を含む内部障害をお持ちの方は、一般雇用ではなく障害者雇用枠による就労を選択するのも効果的です。障害者雇用枠は、企業から障害に対する配慮を得ながら自分のペースで働けるため、心身的負担を軽減できます。
障害者雇用枠の利用にあたっては、身体障害認定を受けたあと交付される障害者手帳があることで就労可能です。
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勤務時間・仕事内容・職場環境の確認をする
体力にあわせた勤務時間・仕事内容・職場環境かを確認することで、自分らしく働ける仕事が見つけやすくなります。
『クローン病に対応した職場配置を行っている事例』では、ある企業は社長や人事担当者が障害について理解することから始め、クローン病とはどんな病気なのかといった情報収集を行ったといいます。
さらに、定期的な通院が必要といった情報も含め、従業員に対し「会社としての考え方」「症状の特徴」「周囲の心構え」などを説明し、バックアップの必要性について共通認識を得たうえで採用を行ったとしています。
就職活動を進めるうえでは、企業の障害に対する理解の深さを知るためにも、勤務時間や仕事内容、職場環境の確認をするのがおすすめです。
引用元
クローン病に対応した職場配置を行っている事例|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
まずはどれくらいの仕事なら無理なくできそうかを知り、そのうえで今なら働けそうな時間、仕事内容、職場環境を判断しましょう。
小腸機能障害の方が利用できる就職支援サポート
ここでは、小腸機能障害やクローン病をお持ちの方が利用可能な就労支援を4つ紹介します。
ハローワーク(職業安定所)
ハローワークは、事業者・求職者の双方に情報を提供して就職活動を支援する公的機関で、障害者雇用専門の窓口も用意している施設です。障害にまつわる知識を有する職員や相談員も配置されているので、就職活動以外にも、自身に合った職種などを相談することもできます。
引用元
ハローワークインターネットサービス|障害のある皆様へ
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地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、専門知識や技術をもとに障害をお持ちの方を対象として職業リハビリテーションを行う場所です。日本では各都道府県に最低1カ所以上の設置が義務付けられています。
なお、直接就職先を紹介する支援は行っておらず、ハローワークとの連携によって職業相談を受けるほか、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供するなどの支援が中心です。
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地域障害者職業センターの支援内容とは|障害者就業・生活支援センターとの違いまで解説
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、「障害者総合支援法」に基づき、学校のように通いながら就職に向けたサポートが受けられる施設です。
個別の支援計画を立て、そのうえで他の利用者と一緒に就職にまつわる必要知識やスキルを学べるといった特徴があります。なお、利用する場合は市区町村で手続きを済ませる必要があります。
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障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、地域に根ざし就業・生活の両面を相談できる機関のことです。適切なアドバイスやサポートを受けることもできるので、就職先をお探しの方には有効な方法の一つと言えるでしょう。
なお、2023年4月時点では全国に337箇所設置されています。最寄りの設置有無については下記リンクから調べられるので、この機会にチェックしてみてください。
厚生労働省|「令和5年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)」
障害をお持ちの方向けの転職エージェント
就労支援以外に、障害者雇用に特化した転職エージェントを利用するのも方法の一つです。
障害に関する豊富な知識を持つ職員が在籍していることから、就職を希望する方と障害に対する理解の深い企業の架け橋となって、手厚い支援を受けながら就職につなげることができます。
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小腸機能障害で仕事に悩みがあるなら|就労支援や障害者雇用に特化した転職エージェントを活用しよう
小腸機能障害は内部障害の一つであることから、一目見ただけでは障害があると判断されにくく、周囲の配慮を得にくいといった悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。
そのため、障害を抱えながら働く上では、障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。
今の職場を続けていくことに負担・不安をを感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠で就職・転職を検討されている方に対して就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人おひとりに寄り添った働き方を提案させていただきます。「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。