軽度知的障害とは、知的発達の遅れがある知的障害の中でも軽度に該当する障害です。軽度とは言え、その度合いによっては、日常生活に限らず、仕事においても障害が理由で困難が生じる場合があります。
また、これから社会人になる方や軽度知的障害のお子様を養育されている方などは、将来に対する不安を抱えていらっしゃる方もいるかもしれません。
そこで、今回は、軽度知的障害の方の将来についてや、おすすめの職種・働き方など仕事選びのポイントや、実際に就職・転職活動を進める方法について解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならないよう、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
軽度知的障害とは?
軽度知的障害とは、知的障害の中で「軽度」とされる障害です。知的障害はIQと日常生活能力水準によって、「軽度(IQ50以上70以下),中等度(IQ35以上50未満),重度(IQ20以上35未満),最重度(IQ20未満)」に分けられます。
軽度知的障害の方の場合、IQは50~70程度の方が判定されることが多く、身の回りのことは一通りできます。十分に働くこともできますが、見た目ではわからない障害のため困ったことがあっても周りがそれに気づかず、つらい思いをすることもあるでしょう。
上司や同僚から怒られるなど自信を失うような失敗経験が続き、うつ病や不安障害になってしまう恐れもあります(二次障害)。
知的障害とは?
知的障害とは知的発達における障害で、考える力・理解する力、ルールを守って生活を送る力などが必要とされる場面で困難を感じることがあります。多くは18歳までの間(発達期)に、発症・判明しますが、大人になってから知的障害に気づく人もいます。
しかし大人になってから事故や病気で知的機能が低下した場合は、「知的障害」には当てはまりません。
「知的能力障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障害の一つです。」
引用元
e-ヘルスネット(厚生労働省)|「知的障害(精神遅滞)」
障害者手帳の「療育手帳」を取得できると適切な支援・福祉サービスを受けられます。知的障害だけでなく発達障害の特性(特に自閉性障害)やてんかん発作をお持ちの方もいるでしょう。その場合、「精神障害者保健福祉手帳」が交付されることもあります。
引用元
厚生労働省|知的障害児(者)基礎調査:調査の結果「程度別判定の導き方」より
知的障害の判断基準は知能テストの結果から分かった知能指数(IQ)やその他の検査結果の客観的な数値から判断します。これら数字はあくまで目安にすぎず、生活能力全般を見ながら判断されます
軽度知的障害の方の将来、自立はできる?
軽度知的障害でこれから社会に出る予定の方や大人になってから軽度知的障害が発覚した方などは、将来を具体的にイメージできず不安を感じることもあるかもしれません。
また軽度知的障害のお子様を育てている方は、将来自立できるのかどうかも気になるのではないでしょうか。
将来的に本人の特性や希望に合わせてグループホームに入ったり、一人暮らしをしたりすることができます。
障害基礎年金を受けられる可能性もありますが、自治体ごとに判断の基準が異なり、軽度知的障害の方は受けられないこともあるので注意が必要です。
もちろん一般企業に就職することもできます。軽度知的障害がある方の働き方にはどんなものがあるのか、次に説明しますので、自分に合った方法を考えてみましょう。
軽度知的障害がある方の働き方
軽度知的障害をお持ちの方の働き方をまずはデータから見てみましょう。令和4年の「障害者雇用状況」の集計結果によれば、知的障害をお持ちの方は14万6,426人が雇われて働いています。
雇用形態 正社員の割合20.3%
平均賃金(月給) 13万7,000円
勤続年数 9年1ヶ月
さらに軽度知的障害の方が検討したい3種類の働き方も見ていきましょう。
一般枠での就労
軽度知的障害の場合、障害の程度によっては「障害がある」と周囲に気付かれない方も多いでしょう。その場合、障害を周りの人に知らせずに会社などへ就職して働くパターンが考えられます。
一般就労のメリットは職種や待遇等の選択肢が多く、昇進や昇給の機会にも恵まれている傾向にあることです。 一方で、体調や得意・不得意への配慮はほとんど望めません。周りの人と同じような成果や作業スピードを求められます。
障害者雇用枠での就労
「療育手帳」など障害者手帳を持つ方が応募できる「障害者雇用枠」を利用して、障害や得意・不得意を伝えた上で働く方法もあります。
職種(仕事の内容)が限定されたり、給料が一般枠と比べて低くなるデメリットもありますが、障害や得意・不得意に対する配慮が得られやすいのが特徴です。自分に合った働き方ができるので長く、安心して働けるでしょう
特例子会社で働く
特例子会社とは障害をお持ちの方が働くために作られた会社です。
知的障害への理解を得やすく、決められたスケジュールの仕事が中心なので「働きやすい」と感じられる方が多いです。障害をオープンにして、配慮された環境で安心して働けるというメリットがあります。
特例子会社のメリットやデメリットについては、以下の記事で詳しく解説していますので、気になる方はあわせてご覧ください。
軽度知的障害がある方に向いている仕事内容
軽度知的障害の場合、同じ「軽度」であっても個性や得意なこと・苦手なことは人それぞれです。
たとえば、変化が苦手な方は同じ作業を繰り返すような仕事内容のものや、人の入れ替わりやルール変更が少ない職場環境を選ぶとよいでしょう。
知的障害をお持ちの方はどのように働いているでしょうか? 厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によれば、仕事内容はサービス業や運搬・清掃などが多く、次いで製造業・加工業、販売業、事務職の順となっています。
サービス業
サービス業とは、顧客のニーズに応えてサービスを提供する仕事で、必ずしも接客業だけではありません。サービス業に挙げられる業種は、運送や郵便、宿泊施設や娯楽施設、福祉や介護など多岐にわたります。
厚生労働省の調査結果を見てもわかるとおり、知的障害の方がもっとも多く従事している産業です。また知的障害児が通う特別支援学校の就職の傾向でも、ホテルやゴルフ場のレストラン、訪問介護員(ホームヘルパー)などが多いとされています。
引用元
新潟大学教育人間科学部 長澤正樹|知的障害者の自立生活 QOL(生活の質)の向上のために
卸売・小売業
卸売・小売業は、サービス業や運搬・清掃業などの次に多い仕事で、メーカーから仕入れた商品を小売業者に販売する卸売りの仕事、または個人のお客様に商品を販売する小売店での仕事です。
軽度知的障害の方の場合、お客様の問い合わせに臨機応変に対応することが苦手なケースもあるため、主にバックヤードでの商品管理や品出し、ピッキングなどを行います。
軽作業・清掃業
決められた仕事を決められた手順でおこなう軽作業や清掃も人気の職種です。働きやすさだけではなく、チームで進める企業も多い為、チームメンバーと協力しながら進めることにやりがいを感じる方も多いです。
決められた手順で行うルーチンワークが多く、あまり突発的な仕事内容の変更もないため、毎日こなすことでクオリティを上げていくことができます。また、最近は農園で野菜を育てる仕事も少しずつ増えてきました。
事務職
厚生労働省の調査データでは、軽度知的障害の方で事務職に従事している人も5%ほどいることがわかっています。
障害者雇用専門の転職エージェント、DIエージェントでは、知的障害で大手コンサル会社のオフィスサポートの仕事に転職成功された事例も。パソコン作業が得意な方は、書類作成や勤怠のチェック、データ入力業務などを任されることもあるようです。
軽度知的障害がある方に向いていない仕事内容
コツコツとパソコン作業が得意な方もいれば、体を動かすような仕事が好きな方もいるように、軽度知的障害の方にとって向いていない仕事も個人差が大きくあります。
一例として、興味がない業務内容だとモチベーションを保つのが難しく、「飽きた」「やりたくない」と思って仕事を短い間で辞めてしまう恐れもあります。
また仕事の指示を理解するのにゆっくりとメモが取れる落ち着いた環境が向いているため、変化が激しく忙しすぎてメモを取る時間がないような職場は、向いていないと感じるかもしれません。
大人になって療育手帳を取得できる?
冒頭でお伝えしたとおり、多くの場合18歳までの発達の遅れで知的障害が発覚し、療育手帳を取得するのが一般的です。しかし、大人になるまで気づかなかったり、特に療育手帳を取得する必要がなかったりした場合、療育手帳を持っていないという方もいます。
こういった方が、大人になってから療育手帳を取得することは可能です。
療育手帳交付の判定基準を満たす必要がありますが、その基準は自治体によっても違います。しかし多くの自治体で、18歳未満から発達の遅れがあったかやIQ70~75以下で日常生活に支障があるなどで判断されるようです。
申請は東京都の場合、18歳未満は児童相談所で判定を受けますが、18歳以上の方は心身障害者福祉センターで判定を受けることになります。
引用元
厚生労働省|障害者手帳について
東京都福祉局|愛の手帳について
療育手帳を取得するメリット
療育手帳を取得すると、税金の控除や免除が受けられたり、公共交通機関で割引料金が適用されたりと、日常生活で享受できるメリットが多くあります。さらに就職で、障害者雇用枠で就職できたり、特例子会社で働きやすい環境のもと安心して働けたりといったことも。
対して、取得するデメリットはほぼないと言えます。療育手帳をもっているからといって、必ずしも開示する必要はありません。
仕事をする上で辛いと感じる場面が多い方は、療育手帳を取得して障害者雇用枠で働いた方が、自分らしく安心して働けるでしょう。
療育手帳の詳しい内容やメリット・デメリット、申請の流れなどは以下の記事で詳しく解説しています。
また療育手帳で受けられる割引サービスや公共料金・税金の減免などは、以下の記事にまとめていますので、ぜひチェックしてください。
軽度知的障害がある方の仕事でのよくある困りごとと対処法
「障害のある当事者からのメッセージ(知ってほしいこと)」の集計結果によれば、知的障害をお持ちの方は以下のようなことに困っているという声があります。
2) 障害別事項
1 抽象的な概念が理解しにくい。81.6%
2 自分の意思を表現したり、質問したりすることが苦手。79.6%
3 理解したり判断することが苦手。77.6%
4 知的障害者は何もできない人ではなく、的確なサポートがないためにできないでいるだけ。73.5%
5 数の概念が難しい。59.2%
6 漢字の読み書きが苦手な者が多い。49.0%
より具体的にどのような仕事の場面で困りやすいか、その場合の解決策をセットで考えてみましょう。引用元
内閣府|「障害のある当事者からのメッセージ(知ってほしいこと)」の集計結果
全国手をつなぐ育成会連合会|あなたも今日からサポーター 知ってほしい知的障害
仕事がなかなか覚えられない
一つは仕事を覚えるスピードが他の人より遅く、時間がかかってしまうことが挙げられます。そんな時は覚え方を工夫してみましょう。
たとえば手順をメモして机に貼ったり、絵や写真にして理解するなどです。一気に指示を受けると混乱してしまうこともあるので、少しずつできることを増やしていきましょう。
報告・連絡・相談ができない
「報告・連絡・相談」の頭文字をとって「ホウ・レン・ソウ」と言います。これは仕事を進める上でとても大切なことです。しかし課題の解決方法を自ら考えることが難しい、なぜ怒られているのかがわからなくて困る・悩むということが多いのが知的障害の特徴でもあります。
適切な報告のポイントがわからない、どの程度連絡するべきか迷ってしまうなどの特性によって、上司や同僚と行き違いが生じてしまうことも。
工夫できることとしては「毎日日誌をつける」「仕事の進み具合を定期的に様子を見てもらうようお願いをする」などが挙げられます。
スケジュールの管理が難しい
先のことを見越して、スケジュールを組んだり優先順位をつけたりするのが難しく感じる方もいるかもしれません。
配慮として職場の先輩には「スケジュールを紙にかいてもらう」「いつまでに終わらせればよいか具体的な時間を伝えてもらう」などをお願いできると良いでしょう。
入職してからミスマッチに気がつく
軽度知的障害の方にとって最も悲しいことは「せっかく就職できたのに合わなかった」「やりたいことと違った」「特性的に向かなかった」となってしまうこと、つまりミスマッチです。
ミスマッチを回避するためには、入社前に就職する会社のことをしっかり調べるのが重要です。特に「知的障害に理解がある」「知的障害といっても一括りにせず一人ひとりに応じた配慮をしてくれる会社」がよいでしょう。
長く働くことを第一とした場合、障害をオープンにした障害者雇用での働き方がおすすめです。
スキルによっては仕事の幅も限られませんし、給料も上がっていく職場もあります。さらに周りからのフォローも受けやすくなるでしょう。
軽度知的障害がある方の仕事の探し方
軽度知的障害の方がお仕事を探すとき、一人で自分に合った会社を見つけるのは大変です。そこで、おすすめの仕事の探し方や頼りになる相談先をご紹介していきます。
ハローワークを利用する
国が運営する仕事探しの機関として「ハローワーク」があります。一般の人がお仕事を探せる窓口と、障害に詳しい人がいる障害者専門窓口もあるのが安心です。
相談内容によっては主治医の診断書が必要な場合もあるので、利用する前には確認をしましょう。窓口で相談するだけでなく、面接対策などのイベントを実施していたり、ハローワークのサイト上から情報を得たりすることもできます。
障害者職業センターを利用する
障害者職業センターも、障害と仕事をよく理解した職員がお仕事探しをサポートしてくれる機関です。各都道府県に設置され、ハローワークと連携して、障害や難病のある人の就職活動の手助けをおこないます。
障害者就業・生活支援センターを利用する
障害者就業・生活支援センターは障害のある人の就職活動や就職後の職場定着についての支援から生活全般の相談を受け付けています。全国にあり窓口で相談にのってもらえます。
就労移行支援事業所を利用する
就労移行支援事業とは、障害をお持ちの方の就職を支援するために設けられた、国がサポートする事業所です。
中でもワークイズは、94%の就業定着率があり、10年以上の支援実績があります。特にテレワーク勤務のスキル習得に力を入れており、卒業者の3人に2人がテレワークの仕事に就業しています。
訓練も在宅型と通所型の2つから選ぶことができ、両方を選択して自分の体調や都合に合わせて適切な訓練を受けることが可能です。また次に紹介する転職エージェントのDIエージェントと連携して、適切な就職に向けた支援や必要な訓練を行います。
これから就職に向けたスキル習得をしたい方におすすめです。
引用元
就労移行支援 ワークイズ
転職エージェントを利用する
エージェントは働きたい人の希望を聞いて、その希望を叶えられるような企業を探し、就職できるようにサポートをします。
「療育手帳」を持っていて障害をオープンにする場合は、障害者枠専門のエージェントに相談するのがおすすめです。
たとえば障害者枠専門の「DIエージェント」では、担当のキャリアアドバイザーが一人ひとりやさしく相談にのります。おすすめの会社を選ぶだけでなく「履歴書の文章をチェックしてほしい」「面接は緊張してしまうので練習相手になってほしい」といったお悩みにも答え、就職活動を全面的にサポートします。
就職や転職で使えるサービスを活用して自分に合った仕事を探そう
軽度知的障害と一口に言っても、得意なことや不得意なことは一人ひとり違うため、向いている仕事もそれぞれです。
働き方としては、障害者雇用枠か特例子会社への就職がおすすめ。一般企業で障害を開示せずに働くことも可能ですが、その場合合理的配慮は受けられず、困りごとがあっても相談しにくかったり、うまくできない理由を理解されず、周囲とトラブルになってしまったりすることも考えられます。
障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に就くことや、障害への理解や配慮のある環境選びが大切です。障害があっても「キャリア成長をあきらめたくない」「自分にあった働き方を探したい」という方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。