障害があると「生活費はどうしたらいいのか」「就職・転職した際の年収はどのくらいなのか」と不安に感る方も少なくないでしょう。障害者の方の収入源には主に「障害年金」と「働いて得られる給与」の2つがあります。障害年金は国民年金や厚生年金に加入し、受給要件を満たした人がもらえる年金です。また、障害者の方が働く場合には企業での一般雇用と障害者雇用があり、それぞれに特徴が異なります。この記事では、障害年金の概要と障害者雇用について詳しく解説しています。障害者の方の収入について気になる人は、ぜひ参考にしてください。
この記事はYORISOU社会保険労務士法人監修のもと作成をしております。

(松山純子、大内一彦、柏原花菜、古川崇史)
代表 松山純子。2006年6月に独立開業、2017年10月に法人化。
従業員が自分らしく継続して働くことができるよう、病気・育児・介護と仕事の両立支援を積極的に支援しています。
企業側と従業員側の両方の視点を持ちながら、障害者雇用コンサル、障害年金の手続きをおこなっております。
障害者の方の主な収入源は2つ
障害者の方の主な収入源にはどのようなものがあるのでしょうか。主に「障害年金」と「働いて得られる給与」の2つがあります。障害年金は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類に分かれています。
また働き方としては、障害の有無に関わらず同じ条件で働く方法(一般雇用)と障害者手帳を取得した上で、障害を開示して配慮を得やすい環境で働く方法(障害者雇用)があります。次の項目でそれぞれ解説します。
障害年金について
障害年金は病気やケガなどが原因の障害を抱え、日常生活や仕事が制限される場合に受け取ることができる年金です。障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。国民年金に加入している人は「障害基礎年金」を受給でき、厚生年金に加入している人は「障害厚生年金」を受給することが可能です。障害年金を受給するためには手続きが必要ですが、障害者手帳を持っていなくても受給申請ができます。
障害年金は条件を満たせばもらえる制度ですが、「一体いくらもらえるの?」とその金額が気になる人が多いと思います。 この記事では、障害年金受給の条件・要件や金額の計算方法、さらに障害年金以外のお金にまつわる制度まで詳しく解説します。「自分は障[…]
障害基礎年金とは
障害基礎年金は、国民年金加入期間、20歳前、または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満の方で年金制度に加入していない期間に初診日(障害の原因となった病気やケガについて初めて医師等の診療を受けた日)があることが要件になります。対象となるのは障害等級1級と2級の障害者の方です。20歳前に初診日がある場合を除いて初診日の時点で国民年金に加入していない場合や、加入していても保険料が一定期間未納となっている場合には受給対象となりません。
障害厚生年金とは
障害厚生年金は厚生年金に加入している間に初診日があり、一定の納付要件を満たした人が受給できる障害年金です。障害等級が1級と2級では障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金を受け取ることができますが、障害等級が3級の場合は障害厚生年金のみの受給となります。もし初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受給するよりも軽い障害が残った場合には障害手当金(一時金)が支払われます。
受給の対象となる障害や病気
障害年金は外部障害(手足の障害など)だけでなく、精神障害や内部障害(がん、糖尿病など)や難病も受給対象となります。
内部障害、精神障害、内部障害の主な病気やケガを表にまとめました。
外部障害 |
眼、聴覚、肢体(手足など)、嚥下そしゃくの障害など |
精神障害 |
統合失調症、うつ病、双極性障害、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など |
内部障害 |
呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど |
難病 |
パーキンソン病、シェーグレン症候群、クローン病、筋ジストロフィーなど |
その他 |
線維筋痛症、慢性疲労症候群、化学物質過敏症、脳脊髄液減少症など |
次に、受給対象となる主な病気やケガの「障害状況(例として眼の障害、聴覚の障害)」をまとめました。
【眼の障害】
1級 |
両眼の視力がそれぞれ0.03以下のもの |
2級 |
両眼の視力がそれぞれ0.07以下のもの |
【聴覚の障害】
1級 |
両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの |
2級 |
両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの |
参考:日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』
障害年金をもらうための条件(要件)
障害年金をもらうためにはどのような条件(要件。以下、要件)を満たせばいいのでしょうか。こちらでは、障害年金を受給する要件をご説明します。
初診日の日付がはっきりしている
障害年金を受給するためには、「初診日」の特定が必要になります。初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて医師等の診療を初めて受けた日のことです。障害年金の受給では、「初診日に国民年金または厚生年金に加入していたかどうか」が重要となるので初診日が分からない場合には申請が難しくなりますが、初診日が一定期間の範囲内にあることを特定できれば障害年金を受給できるケースもありますので確認が必要です。なお、障害の状態を定める日である「障害認定日」とは異なるため注意しましょう。
初診日の時点で年金に加入し納付している
障害年金は20歳前に初診日がある場合を除いて、初診日の時点で国民年金または厚生年金に加入している人が受給できる年金となっています。また、年金に加入していても長期間にわたり保険料を納付していないなど一定の納付要件を満たしていない場合には障害年金の受給対象とはなりません。
年金の保険料納付要件について、次のような条件が決められています。
- 初診日の月の前々月までの年金加入期間2/3以上において保険料を納付していること
- 初診日に65歳未満であること。また、初診日の月の前々月までの1年間に保険料未納がないこと
なお、保険料納付要件は「初診日の前日において」満たしていなければなりません。初診日以降にまとめて納付するといった「後出し」は認められていませんので注意しましょう。
障害認定日にある程度の障害状態であったか
障害認定日は初診日から1年6ヶ月が経過した日(または症状が固定した日)のことを指します。障害認定日に、障害等級1級または2級(障害厚生年金の場合は1級から3級)の障害状態である場合に障害年金受給の対象となります。
受給できる障害年金の金額
受給できる障害年金の金額は、年金の種類、障害の等級によって異なります。こちらでは、障害基礎年金と障害厚生年金でもらえる障害年金の金額をご説明します。
障害基礎年金の金額
障害基礎年金の支給額の計算式は次の通りです(令和4年4月から)。
障害等級 |
計算式 |
1級 |
972,250円+子の加算 |
2級 |
777,800円+子の加算 |
障害基礎年金では扶養する子供の人数分の金額が「子の加算」として加算されます。「子」として認められるのは「18歳になった後の最初の3月31日までの子」、「20歳未満で障害等級が1級または2級の障害の状態にある子」です。
子の人数と加算金額を表にまとめました。
人数 |
加算金額 |
第一子・第二子 |
223,800円/年 |
第三子以降 |
1人につき74,600円/年 |
障害厚生年金の金額
障害厚生年金は、給与額や厚生年金加入期間によって支給額が異なり、給与が高く厚生年金加入期間が長いほど支給額が多くなります。
障害厚生年金の計算式は下記のとおりですが、障害認定日の属する月までの厚生年金加入期間や平均月収額(平均標準報酬月額または平均標準報酬額)に基づき算出します。
障害等級 |
計算式※ |
1級 |
平均月収額×0.55%×厚生年金加入期間×1.25+配偶者の加給年金額 |
2級 |
平均月収額×0.55%×厚生年金加入期間+配偶者の加給年金額 |
※計算式はあくまで目安です。平成15年3月までに厚生年金加入期間がある場合は計算式が異なりますので、具体的な計算方法は日本年金機構のWebサイトにてご確認ください。
65歳未満の配偶者がいる場合には、223,800円の配偶者加給年金額が加算されます。ただし、配偶者が老齢厚生年金・退職共済年金・障害年金を受給しているなど一定の条件に該当する場合は、配偶者加給年金は支給されません。
3級の人が受給できる障害厚生年金の金額
障害等級3級の人は障害基礎年金の受給対象外ですので、障害厚生年金のみ受給可能です。3級の場合は最低保証額が設定されており、最低でも583,400円が支給されます。1級・2級とは異なり、配偶者の加給年金額は加算されません。また、障害厚生年金の1級と2級では「障害基礎年金+障害厚生年金」がもらえますが、3級では「障害厚生年金のみ」の支給です。
3級の障害厚生年金支給額の計算式は下記のとおりです。
障害等級 |
計算式※ |
3級 |
平均月収額×0.55%×厚生年金加入期間 |
※計算式はあくまで目安です。平成15年3月までに厚生年金加入期間がある場合は計算式が異なりますので、具体的な計算方法は日本年金機構のWebサイトにてご確認ください。
障害者の方の雇用について
障害をお持ちの方の働き方にはどのようなものがあるのでしょうか。こちらでは障害をお持ちの方の平均年収や働き方、障害者の方の就業を支援する制度についてご説明します。
障害者の方の平均年収は?
厚生労働省の「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」のデータを見ると、障害を持つ方の平均給与や雇用形態、労働時間などがわかります。「障害者の方でも年収500万円は目指せる?平均給与・必要スキル・高年収を稼ぐコツも紹介」の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はご一読ください。
障害者の方の働き方
障害者の方の働き方には、障害がない人と同じように働く「一般雇用」と障害を配慮された環境で働く「障害者雇用」があります。こちらでは、一般雇用と障害者雇用の特徴をご説明します。
一般雇用での就労
一般雇用で働く場合、障害のない人と同じ条件で働くことになります。一般雇用では障害者雇用よりも職種の幅広く、昇進や昇給など待遇面の選択肢が多いことが特徴です。ただ、障害について職場に伝えずに働くため、体調や障害への配慮が必要な人にとっては働くのが難しいケースもあります。
就職にあたって、障害者採用と一般採用のどちらが合っているのかお悩みの方は多いのではないでしょうか? この記事では、障害者採用と一般採用の違いや、障害者採用に関する近年の動向などを解説します。 初めて障害者採用を受ける方・中途採用で転職を成[…]
障害者雇用での就労
障害者雇用の場合、障害の状況を伝えたうえで働くため、体調、得意・不得意、勤務時間、勤務日数などについて配慮してもらいながら働くことができます。ただし、障害の影響で勤務時間が短いなどの理由から給料が低めになる傾向があります。
障害者雇用を検討・推進している企業が増えてきています。その背景とはなんでしょうか? 今回は障害者雇用枠で就労を考えているみなさまに制度や法律などの基礎知識をお伝えします。 「企業が障害者雇用をおこなう理由」を知ってどのような人物が求めら[…]
障害者の方の就業を支援する制度
「障害があって一般企業での就労が難しい」、「自分に合った仕事を見つけたい」、「障害があるので、仕事に復帰するのが不安」と悩んでいませんか?こちらでは、障害者の方の就業を支援する制度についてご説明します。
就労継続支援
就労継続支援は、「一般企業への就職に不安がある障害者」または「一般企業への就職が困難である障害者」に働く機会を提供することを目的としています。就労継続支援A型と就労継続支援B型の2種類があり、就労継続支援A型では雇用契約を結び最低賃金以上の給与をもらうことができます。就労継続支援B型は就労継続支援A型とは異なり、雇用契約を結ぶことなく工賃が支払われます。どちらも利用期間に制限はありません。
就労継続支援とは企業などで働くことが困難な方を対象にした障害福祉サービスです。A型とB型の2種類があり、雇用契約の有無や対象年齢が異なります。この記事では障害をお持ちで「働きたいけどすぐに一般企業での就労には不安がある・難しい」と考えている[…]
就労移行支援
就労移行支援では、65歳未満で、一般企業などに障害者雇用または一般雇用での就職を目指す障害者の方が就職するために必要な知識やスキル(ビジネスマナーやパソコンスキルなど)を学ぶことができます。また、履歴書などの書類添削、面接対策、適性に合った職場探しなどの就職サポートを受けることができ、利用制限は2年となっています。就労移行支援を受けることができるのは、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害(障害者総合支援法の対象疾病)です。就労継続支援と異なり「働く場所」ではないため賃金は支払われません。
障害者のための「就労移行支援」を知っていますか? 就職・仕事の復帰に向けた準備ができ、条件によっては無料で受けられるサービスです。今回は「就労移行支援」の制度や基礎知識についてやさしく解説していきます。 就労移行支援とは 就労移行支[…]
就労移行支援事業所の通所を考えている方。どのようなポイントで施設を選びますか? 通いやすさ、プログラムの内容や雰囲気や支援員との相性…… より良い就職のために自分にマッチした事業所選びは欠かせません。 さらに最近では在宅訓練も可能な事[…]
就労定着支援
就労定着支援では、すでに一般就労をしている障害者の方が長く職場に定着して働くことができるように福祉サービスが提供されます。就労定着支援を受けることができるのは、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、生活介護、自立訓練などを利用して一般就労した人です。具体的な支援内容には、自己管理サポート、勤務先への訪問、医療機関や支援機関との連携、問題解決のためのアドバイスなどがあります。就労定着支援の利用制限は3年間です。
「障害を持っていても長く働き続けたい」と思っていらっしゃる方は多いはず。 今回は就職した後にできる工夫やマインドについて、障害者の就労定着支援のカウンセラーに聞いてみました! 「職を転々としてしまっている」「すぐ辞めないためにはどうした[…]
実際の仕事の探し方
「障害者を持っている場合、どうやって仕事を探したらいいか分からない」と悩んでいる人は多いかもしれません。こちらでは、障害者の方の仕事の探し方をご紹介します。
ハローワーク
ハローワークでは、職業相談、職業紹介、職場適応指導などを受けることができます。障害者専門窓口では、障害の種類や状況に合わせて相談に乗ってもらえます。また、手話や筆談のできる相談員がいたり、精神障害者の支援に特化した相談員がいたりと、障害者の方向けの支援が整っています。
ハローワークは、求職者・事業者双方への情報提供、雇用保険手続きや助成金事務など、様々なサービスを行っている国の公的機関です。 この記事では、ハローワークでできることや利用手順、メリット・デメリットを解説します。また、障害をお持ちの方がハロ[…]
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターでは、就労に向けた準備支援のサポートや日常生活支援を行っています。具体的な支援内容には、職業準備訓練、職場実習あっせん、職場定着支援、企業への面接同行支援、雇用後の職場訪問などがあります。
障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ/就ぽつ)とは障害をお持ちの方の職業生活の自立を目的とした支援機関です。 この記事では障害者就業・生活支援センターの概要、利用方法と流れ、支援の内容などについて詳しく解説していきます。どのような[…]
障害者雇用に特化している就職・転職エージェント
障害者の方の就労に特化している就職・転職エージェントでは、障害者の方の悩みに精通したアドバイザーが求職者の希望に沿って求人を探してくれます。また、履歴書などの書類添削、面接対策、面接日調整、給与交渉など就職・転職活動をしっかりサポートしてくれるので安心です。自分だけでは見つけることができない好条件の求人も紹介してもらえることがあるため、「収入を上げたい」「自分の障害に合った仕事を見つけたい」と考えている人にはぴったりのサービスです。「初めて転職するので何から始めたらいいか分からない」「書類作成や面接が苦手」という人も就職・転職エージェントの利用がおすすめです。
まとめ
障害者の収入源には、「障害年金」と「働いて得られる給与」の2種類があります。障害年金は要件を満たせば受給可能ですが、手続きが必要なので受給の対象になる場合は忘れずに申請手続きをしてください。障害をお持ちの方が働く場合には一般雇用と障害者雇用がありますが、障害に対する配慮がどの程度必要なのかに応じて、どちらかを選ぶことをオススメしています。