うつ病とは、精神面や身体面に不調が現れる病気です。「軽いから大丈夫」と油断していると悪化する可能性があり、仕事にも影響を及ぼしかねないため、見過ごしてはいけません。
そこで、今回は、うつ病の方に見られる初期症状や仕事での兆候、軽いうつだと感じたときにどう対処すればいいのかなどを解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならないよう、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
軽いうつ病時の初期症状
ご自身の身にはすでに軽いうつ病の初期症状が現れているかもしれません。どんな症状が見られやすいのか、当てはまるものはないかを下記でチェックしましょう。
精神面の症状
精神面の症状としては、ネガティブなものが多いです。憂うつ・落ち込む・ふさぎ込むなど、気分がすぐれない状態になります。また、自責の念に駆られる・死にたいと考えるなど、マイナスな感情を持ってしまいがちです。
そのほか、物に対する興味や欲求がなくなる、何もやる気が起きず思考力や集中力も下がる、気持ちが落ち着かなくなってソワソワする、不安に押しつぶされそうになるなどの傾向が見られます。
身体面の症状
身体面では、食欲不振で体重が激減して痩せるという症状が見られる方が多いですが、反対に食欲旺盛になって太るという変化が出る方もいます。また、寝つきが悪くよく眠れない・夜中や早朝に目が覚めてしまうといった、不眠症状に悩まされる方も多いです。
体がだるい・重い(倦怠感)、常に疲れを感じており疲労感が抜けない、熱っぽい、下痢・便秘、原因不明の頭痛や腹痛に悩まされるなどの症状もよく見られます。
行動面の症状
行動の面では、ボーッとしたり時間を守れなくなったりする方が多いです。時間の感覚がおかしくなり、気づいたら約束の時間が来ていて慌てることもあります。
人との接触を避けて家に閉じこもりがちになるケースも。精神面や身体面の不調により、家から出るのがきつい・億劫になるという症状も見られやすいでしょう。
仕事で見られるうつ病の兆候
つづいて、うつ病の方が仕事をするときに見られやすい症状や行動を挙げます。セルフチェックにも役立ててください。
席を空ける回数が多い・時間が長い
人が多い空間では気持ちが落ち着かずいたたまれなくなり、たびたび自分の席を離れてウロウロ歩き回るなどの行動がよく見られます。また、集中力がないため気分転換に席を立つケースも。自分の行動に対する判断力も低下しています。
声に元気がなく人との会話も避けがちになる
話し声に覇気がなく、か細い傾向も。また、職場の人々と会話をする気持ちの余裕がなくなり、雑談のような話だけでなく会議中の発言などもしなくなりがちです。食事や飲み会といった、周りの人々との接触の機会も避けるようになるでしょう。
特にもともと明るく社交的だった方だと、変化が非常にわかりやすいです。
電話応対がうまくできなくなる
前項とも繋がりますが、うつ病になると人との関わりを避けるようになるため、電話応対にも影響が出ます。電話での受け答えが「はあ…」のような緩慢な態度になったり、沈黙が多くなったりして、電話口の相手とうまく話せません。
相手から「聞こえていますか?」などと言われてしまう機会も増えるでしょう。
これまでしなかったようなミス・失敗を犯す
仕事への意欲や集中力が低下して、業務上のミスや失敗をするという兆候もよく見られます。必要な工程を抜かす・物忘れする・アポの日時を間違える・誤字脱字が増えるなど、今までにないようなミスをしてしまいがちです。
仕事ができるタイプの方ほど、ミスが目立ちやすい傾向があります。プライベートでも忘れることが増えたり、危険な目に遭いやすくなったりする恐れがあるため、注意が必要です。
自分を責めたり怒りっぽくなったりする
自信を喪失し、「自分が悪い」「自分なんていなければ」といったように自分を責める方も多いです。または、舌打ちや貧乏ゆすりなど落ち着かない様子が見られ、人に反抗的な態度を取る・すぐにカッとなって怒鳴るなど、イライラしやすくなる方もいます。
整理整頓や片付けができなくなる
あらゆることへのやる気がなくなった結果、デスク周りが散らかる、ロッカーの中身がはみ出すなど、整理整頓ができなくなってしまうという傾向も。机の上に物が積み重なっていたり、どこに何があるのかわからないような状態になったりしがちです。
ボーッとする・うたた寝する
睡眠障害の反動で、働いている日中に眠気が来る方も多いです。そのため、仕事をしながらも頭がボーッとしていたり、作業中や会議中に気づいたら居眠りしていたりするという傾向が見られます。
睡眠不足ではなく過眠症状が出て、寝ても寝ても眠いという方もいるようです。
急な遅刻や欠勤が増える
仕事に行く気力がわかない・よく眠れなかった・時間の感覚が狂っているなどの理由から、事前申請なく突然休んだり遅刻したりすることも増えやすくなります。普段きっちり出勤するタイプの方であれば、周囲も変化に気づきやすいでしょう。
「自分は軽いうつ病かも」と思ったら?日常生活や仕事への対応
上記で見てきた内容の中に当てはまる症状や行動が多く、「自分はうつ病なんだ」と思った場合はどうすればいいのでしょうか。
無理をしない
うつ病かもと焦ったり、無理に仕事をしたりしないことが重要です。うつ病のような精神疾患では、心身が疲弊してエネルギーが減っている状態なので、負担をかけず自分のできる範囲でできることをしましょう。
生活リズムを整える
うつ病の症状のせいで生活習慣が乱れたり、サイクルが定まらなくなったりする方は多くいらっしゃいます。
規則正しい生活を送ると体内時計も整いやすいので、生活習慣の改善を意識してみましょう。具体的には、毎日同じ時間に起床・就寝する、栄養バランスの取れた食事をする、軽い運動をするなどです。
上司や産業医などに相談する
上司や産業医といった、勤務先の相手に相談する方法もよいでしょう。どんな症状が出ており、どんなことが要因と考えられるかなどを話してみてください。
職場の人間関係や業務の量・内容など、労働環境がうつ病の原因だと考えられる場合、状況に応じて対処してもらえる可能性があります。
病院で診てもらう
精神科や心療内科などに行き、専門家の判断を仰ぐことも重要です。自分では「まだ軽いから大丈夫」「そんなにひどくないだろう」と思っていても、医師の診断では深刻な状況という可能性もあります。自己判断ではなく、プロの第三者に診てもらうことで安心できます。
なお、もし診断や治療方針に納得できない場合は、別の医療機関でセカンドオピニオンを受けることも可能です。
状況に応じて休職・退職する
医師の診断により、仕事から離れたほうがいいと言われるケースもあるでしょう。その際は無理をせず休職しましょう。
休職制度がない・同じ職場に残ることが困難など、場合によっては、転職を視野に入れて退職する方法もあります。まずは休養することを一番に考えてください。
症状が落ち着いたら復職・転職する
休職後に元の職場に戻れる場合は、十分な療養期間を経たのち、仕事に復帰します。スムーズに復帰できるか不安な方は、リワーク(復職)支援を受けてから復職するのもよいでしょう。
退職している場合は、転職活動を行って新しい職に就くことを目指しましょう。転職を支援してくれるサービスも次章で紹介するので、活用してみてください。
うつ病後の再就職で仕事を探すときに利用できるサービス
新しい職場探しをする方の転職活動を支援してくれる、さまざまな公共・民間のサービスがあります。病気明けでの仕事探しは自分一人の力では大変かもしれないので、ぜひプロにサポートしてもらいましょう。
ハローワーク
ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。
ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。
一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。
センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。
障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。
引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。
利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。
全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。
なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。
障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。
引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省
障害者向け転職エージェント
障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。
障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。
高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。
就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。
軽いうつ病と感じたら仕事は無理をしないことが重要
うつ病は、軽い段階でもさまざまな初期症状が出る病気です。仕事にも支障が出る可能性があるので、病院で診てもらったり無理せず仕事を休んだりすることが大切といえるでしょう。
負担をかけ続けては悪化する一方で、結果的に療養期間が長くなってしまいかねません。十分休養して落ち着いてから社会復帰を目指せばよいので、今の自分の状態をもとに、職場の方や医師に相談してみましょう。
障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。
今の職場を続けていくことに負担・不安を感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠で就職・転職を検討されている方に対して就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人おひとりに寄り添った働き方を提案させていただきます。
「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でもかまいませんので、ぜひお気軽にご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。