視覚障害とは、視力や視野になんらかの障害があり、見ることが不可能、または不自由になっている障害です。その度合いによっては、日常生活に限らず、仕事においても障害が理由で困難が生じる場合があります。
そこで、今回は、視覚障害の方にオススメの職種・働き方など仕事選びのポイントや、実際に就職・転職活動を進める方法について解説します。
障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。
そうならない様、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。
視覚障害者の雇用実態
ここでは視覚障害者の雇用実態について解説します。
民間企業に属する視覚障害者数はおよそ14,000人
厚生労働省の資料である「(8) 身体障害者の部位別雇用状況」をみると、民間企業で働く視覚障害者の総数は13,959人であることが分かっています。令和4年の同資料では13,697名だったため、やや増加傾向にあると考えられます。
なお各雇用場所別の雇用人数は以下の通りです。
機関 | 視力障害(人) | 視野障害(人) | 合計(人) |
---|---|---|---|
国 (全体4,316/R4:4,307) |
144 (R4:154) |
174 (R4:158) |
318 (R4:312) |
都道府県 (6,090/R4:6,151) |
199 (R4:210) |
166 (R4:167) |
365 (R4:377) |
市町村 (19,973/R4:19,823) |
506 (R4:500) |
440 (R4:416) |
946 (R4:916) |
都道府県等の教育委員会 (8,724/R4:8,743) |
778 (R4:791) |
311 (R4:308) |
1,089 (R4:1,099) |
独立行政法人等 (5,646/R4:5,549) |
335 (R4:341) |
ー | 335 (R4:341) |
民間企業の雇用者数と表内の雇用者数を合わせると約17,000人です。令和4年度の同資料とそれぞれの人数を比較した場合だと大きな違いはみられませんが、都道府県の機関や独立行政法人ではやや雇用者数が増加したと考えられます。
産業別でみると、令和5年の視覚障害者13,959人のうち、最も就労しているのは3,702人の「医療・福祉」。次いで2,517人の「製造業」、1,446人の「サービス業」となっており、1番低い産業は「鉱業、採石業、砂利採取業」の6人でした。
引用元
令和5年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
令和4年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
視覚障害の区分・概要
視覚障害は状態に分けて3つに区分されています。
区分 | 特徴 |
---|---|
全盲 |
|
弱視 |
|
視野狭窄 |
|
このように視覚障害と一口に言っても、区分によって症状や障害特性が様々です。一般的に形や色の識別、明るさといったものに対して困難が生じている状態を指すものの、障害特性によって見え方などに大きな違いがあります。
視覚障害については詳しくまとめた記事もあるので、この機会にご一読ください。
視覚障害者が仕事をする上で困りがちなこと
視覚障害をお持ちの方が安定して長く働き続けるためには、どんなことで困りがちなのかを把握しておくことが大切です。仕事の中で困ったことや不安な点について、いくつか例を見ていきましょう。
通勤時に不安がある
視覚障害をお持ちの方にとって、通勤時に限らず、公共交通機関を利用する際に、一人での移動が困難だと感じることは多いでしょう。
特に新しい職場の場合、慣れない場所を一人で移動することは非常に困難です。さらに、点字ブロックに障害物が置かれている、通勤ラッシュの人混みで動けなくなってしまうなどで怪我のリスクも高まるため、通勤することが不安だと感じてしまうようです。
職場の環境がバリアフリーでない
オフィスの環境がバリアフリーに対応しておらず、業務中の移動が困難だと感じる方もいるようです。段差が多い、階段に手すりがない、机や棚などが歩きにくい配置になっているなど、戸惑ってしまうこともあるでしょう。
また、急にレイアウトを変更されたことで、知らないルートを通らなければならなかったり、新しく場所を覚え直したりしなければならない、ということもあります。
職場内外の人とコミュニケーションが取りづらい
職場内外の人とコミュニケーションが取りづらい、と感じてしまうこともあるようです。特に障害が重くまったく見えない場合、表情や身振りから感情を読み取れないので、話し声のトーンなどで判断するしかありません。
視覚障害者用の機器といった私物が持ち込めない
職場によっては、衛生面や情報漏洩のリスクなどを考慮し、私物の持ち込みが禁止になっていることもあります。そういった職場では、視覚障害者用の生活を助ける機器も持ち込めず、業務上で困ってしまうというケースもあるでしょう。
たとえば、データを読み上げたり点字表示したりする機器や、拡大読書器といったものがあれば業務上問題ない、という方もいます。しかし、こういったものも私物扱いとなり持ち込むことができないと、書類やデータを理解することができず、業務に支障をきたしてしまいます。
職場内で障害の理解がされていない
職場内で障害の理解が得られない、ということで悩んでしまう方もいます。職場内で障害の周知がされていない、障害についての教育がされていない、障害に偏見を持っている人がいるなどの理由から協力や配慮を得られず、人間関係がうまく築けず出勤がつらくなってしまうようです。
視覚障害者が活躍しやすい仕事
IT技術が向上したことで、視覚障害者の方が活躍できる仕事の種類が増えています。視覚障害者の方が活躍しやすい仕事をチェックしてみましょう。
あんま・鍼・灸・マッサージ・ヘルスキーパー
一般的に、視覚障害者の方は視覚以外の感覚に優れていることが多く、その能力を生かして、あん摩マッサージ指圧師や鍼師、灸師の資格を取得し、マッサージ師として活躍する人が多くいます。
最近では、社員の福利厚生として積極的にマッサージルームを開設する民間企業が増えており、ヘルスキーパーとして企業に就職できる機会も十分にあるといえます。 盲学校や特別支援学校でも、そういった国家資格の取得に向けたカリキュラムが設けられているケースが多くあります。
オフィス事務
読み上げソフトなどのツールが進化し、導入が進んでいる背景から、近年ではオフィス事務も注目を集めています。目が見えない・見えにくいといった障害特性をお持ちの方にとっては敬遠されがちだった業種ですが、様々な工夫が導入され、取り組みやすくなっています。
PC操作が基本になりますが、読み上げソフトなどのツールの導入が行われている会社だと、チャレンジしやすい職種と言えるでしょう。
先天性の腎臓機能障害および難聴と片目の失明により、現在はフルリモートで就労される方の事例記事も公開中です。リモートによる働き方について興味のある方は、ぜひこの機会にご一読ください。
プログラマー
最近では、視覚障害者向けの専用支援ソフトが多く開発され、視覚障害がある方でも、練習すればPC操作ができるようになってきました。
総務省のホームページによると、平成29年度より視覚障害をお持ちの方のプログラマーとしての活躍をサポートする支援事業の立ち上げもスタートしているようです。
PC操作ができるようになると、仕事の幅はぐんと広がります。視覚障害の方も、プログラマーやアプリケーションの開発などに就けるチャンスがあります。
昔は、視覚障害の方が事務職に就くのは難しいとされていましたが、最近では、特にPC操作のみで完結する仕事は、視覚障害のある方でもできる仕事になってきています。
視覚障害のある方が就労先を決める上での注意点
視覚障害をお持ちの方が就労先を決めるにあたっては、いくつかの注意点もあります。例えば就労先までの歩道に点字ブロックが敷設されているかを確認するなどです。障害特性の度合いによっては、点字ブロックの存在が不可欠であり、もし長距離間で設置されていないと、通勤時に困難を感じる可能性があります。
ここではこのような点も踏まえて、就労先を探す上でどのような部分に注意すべきなのか、理由とあわせて解説します。
柔軟な通勤・働き方に対応しているか
まず、通勤・働き方に対して、柔軟性を持つ会社であるかについて確認しましょう。点字ブロックが敷設されていない歩道ばかりだと、ある程度通い慣れるまでに時間がかかる可能性があります。
まずは自宅から就労先までの通勤ルートを確認し、障害物や点字ブロックの敷設状況をチェックしましょう。始業時間と終業時間を働く人が自分で変えられるフレックスタイム制を導入した会社だと、通勤ラッシュを避けられるので、ある程度ゆとりのある歩道を歩いて通勤することができます。
建物のレイアウト・設備は働ける状態か
次に就労先のレイアウト・設備について確認しましょう。障害特性によっては、段差に気づかない場合もあります。出入り口はバリアフリーであるか、出入り口が傾斜になっているようならどのくらいの角度なのか、エレベーターは設置されているかなどをチェックすると良いでしょう。
また、就労先の規模が大きすぎると、階を間違えたときにひどく混乱する恐れもあります。レイアウトによってはケガにつながるリスクもあるので、手すりや点字ブロックの敷設状況なども確認することをおすすめします。
なお、視覚障害を持っている人が事務職で働く場合、音声読み上げソフトや拡大読書器のような支援機器が必要です。就労先に導入されていると、視覚障害があっても練習すれば社内で使用しているメールソフトや業務システムなどを1人で使いこなせるようになり、仕事の幅も広がります。
視覚障害者の方を過去に雇用したことがある企業であれば、導入されているケースが多くありますが、はじめて雇用する場合には、未導入の可能性が高いでしょう。導入を検討してもらえるかどうかを確認する必要があります。
相談先はあるか
日本では、従業員が50名以上の事業所には産業医の選定が義務づけられています。就労希望先に50名以上の従業員が在籍する場合は、産業医が選定されているかをチェックしましょう。
もし50名以下の従業員であっても、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識を有する医師等に、健康管理等の全部又は一部を行わせるよう努めなければならないと定められています。
就労先として選ぶときは、困った時の相談先が整備されているかについても確認しましょう。
引用元
産業医について|厚生労働省
視覚障害者がスムーズに仕事を進めるために意識すること
視覚障害者の方がスムーズに仕事を進めていくためには、自分から積極的に活動することも大切です。スムーズに仕事が進められることは、自分にとっても、一緒に働く周りの人にとってもプラスになります。
自分の障害について伝えておく
視覚障害のある方が安定した環境で仕事をするためには、一緒に働く同僚の理解が不可欠です。例えば、PCは読み上げソフトを入れることで対応できますが、紙の書類は同僚に読んでもらったり、データ化してもらったりする必要があるかもしれません。自分ができることとできないことを採用担当者に正確に伝え、職場の理解を得る必要があります。
また、自分でも周りの人に真摯な態度で協力を求められるよう、努力も必要になるでしょう。 声をかけるときには、誰が話しかけているのか先に「〇〇です」と名乗ってもらえると助かるなど、ちょっとしたポイントを先に伝えておくと、仕事をスムーズに進めるのに役立ちます。
配慮の伝え方の例
見え方の程度は個人差が大きいため、企業側に配慮をお願いする場合は具体的に伝えることが重要です。下記のように「自分の視力や視野の状態」「希望する配慮」に分けて伝えるとよいでしょう。
【例】
私の視力は右が0.02、左が0.03 程度で、視野は両目の下半分がぼやけて見える状態です。文字を読む際は、太文字のブロック体で70ポイント程度の大きさなら、20cmほどの距離で読むことが可能です。ご配慮いただきたい点として、PCの音声読み上げソフトを利用させていただけると正確に業務を行うことができます。
障害をカバーできる環境づくりをする
視覚障害者の方が安全かつ快適に仕事をするためには、環境づくりが重要なポイントになります。しかし、そのためには就労先による視覚障害への理解が不可欠です。まずは就労希望先の視覚障害への配慮がどの程度整っているのかを確認し、その上で以下のようなポイントを環境に取り入れていきましょう。
- 見えにくさ、座席の工夫
照明の当たり具合や光の反射、角度などで見えやすさが変わることを伝える。 - 緊急時の対応を決めておく
緊急時の対応について、連絡の取り方を正確に確認しておく。 - 支援機器の活用
音声読み上げソフトなど、仕事で欠かせない機器の導入を依頼する。 - 視覚による情報の工夫
会社側に色々な情報を音声化してもらう。データ化してもらえれば、読み上げソフトで対応できることを伝える。
面接の際、このような点をある程度共有しておくのも方法の一つです。事前に共有することで、視覚障害者に向けた設備・配慮が整っていなくても、就労にあたって必要な事柄を把握できるからです。
就労を強く望むものの、視覚障害の特性から一定の環境づくりが必要と感じるときは、会社に理解を求めるきっかけとなるよう、どのような環境だと働きやすいかを積極的に伝えましょう。
視覚障害者の仕事の探し方
視覚障害者の方が仕事を探すときは、企業のホームページから直接応募するほか、就職サイトやハローワークで情報を探したり、障害者を対象とした企業の合同説明会に参加したりする方法もあります。
利用できる機関について、いくつか代表的なものを紹介します。
ハローワーク
ハローワークは厚生労働省が運営する公的雇用サービス機関で、仕事を探している人と求人を出したい事業主の双方に対してサービスを提供しています。
ハローワークでは、障害者専門の相談窓口が設けられています。障害者専門窓口では、障害や特性に理解の深い支援員がおり、それぞれの障害に対して客観的な立場からアドバイスをしてくれるため、不安や悩みなども相談しやすいでしょう。
また、ご自身の特性・ニーズにマッチした仕事を探す上で客観的なアドバイスを受けたり、就職後もサポートを受けられるといったメリットがあります。
引用元
ハローワークインターネットサービス|障害のある皆様へ
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、障害者の方に対する職業リハビリテーションサービスの拠点となる施設で、他にも雇用者への障害者の方の雇用管理の相談・援助などを行っています。
地域によって提供しているサービスが異なることがありますので、ここでは東京障害者職業センターを例に見ていきましょう。
東京障害者職業センターでは、障害者職業カウンセラー等の専門支援員を配置し、ハローワークや障害者就業・生活支援センターといった他機関とも連携をとって就労支援を行っています。
障害をお持ちの方やその家族、支援者などから話を聞き、それをもとに就職や職場定着、職場復帰等といった目標達成に向けた課題と支援方法・内容について検討した上で、インフォームドコンセントにもとづき今後の職業リハビリテーションの方針を決定します。
また、事業主のニーズや雇用上の課題を分析して、障害をお持ちの方を雇用する事業主支援計画を作製するなど、障害をお持ちの方と障害をお持ちの方を雇用したい事業主の、双方の支援を行う施設です。
引用元
東京障害者職業センターについて
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、全国の各地域で社会福祉法人や特定非営利活動法人といった団体が運営している施設です。
ここでは、障害者の方が自立を図るために雇用・保健・福祉などさまざまな関係機関と連携し、障害者の方の身近な地域で就業と生活の両面に対し一体的な支援を行うことを目的にしています。
例えば、東京都板橋区の「障害者就業・生活支援センター ワーキング・トライ」では、「働くこと」「働き続けること」を希望する障害者の方を対象に、福祉・医療・企業・教育等の各機関と連携しながら、就労とそれに伴う生活の相談・支援を行っています。
障害者のお住まいの地域に関係なく利用することができますが、利便性を考えると自宅から利用しやすい場所のセンターへ相談することをおすすめします。
引用元
厚生労働省|障害者就業・生活支援センターについて
東京都福祉局|障害者就労支援センター
障害者就業・生活支援センター ワーキング・トライ
就労移行支援事業所
就労移行支援では、障害をお持ちの方や難病のある方に向け、適性や課題の把握や必要な能力の取得、求職活動の支援などを行っており、「障害者総合支援法」(正式名称「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」)の「障害福祉サービス」の一つとして定められています。
また職場定着のための支援として、就職後6カ月は継続支援のフォローを受けることも可能です。
引用元
厚生労働省|就労移行支援事業
障害者向け就職・転職エージェント
障害者専門の人材紹介会社は、障害者雇用に取り組む企業と障害者枠での就職や転職を希望する障害をお持ちの方をマッチングするエージェントです。
障害者採用を行っている企業がどの様な人材を求めているかなどのニーズを把握し、障害をお持ちの方の状況や希望をヒアリングして、アドバイスを行ったり希望に沿った求人を紹介したりします。
障害者専門の人材紹介会社は、一般雇用向けの人材紹介会社が保有していない障害者枠の求人を多く取り扱っている点が特徴です。また、障害者枠の仲介経験が豊富なキャリアアドバイザーが担当につき、ひとりひとりに合わせた対応を行います。
DIエージェントは、オープン就労を目指す障害をお持ちの方と障害者雇用を取り入れている企業とをマッチングする人材紹介会社です。
専門のキャリアアドバイザーが常駐し、しっかりと要望や状況をヒアリング。求職者それぞれのキャリアの強みを分析して、求人の開拓につなげます。
障害者雇用に特化した就職・転職エージェントとして多数の実績があり、転職だけでなく新卒での就職も多くの成功事例があります。就職後の職場定着率は90%以上と高く、障害者雇用のコンサルティング企業として10年間、多くの就職支援実績があるのが強みです。
障害者手帳申請中の方や転職を検討している段階での登録・相談もできるので、転職を迷っている方や障害者雇用に興味がある方は、気軽に利用申し込みをしてみてはいかがでしょうか。
自分に合う就労先を見つけよう
視覚障害と一口に言っても、障害特性によってその度合いは様々です。就労先を探す際は、これまでの生活などを振り返り、どのような環境だと働きやすいかを洗い出しておくと良いでしょう。
DIエージェントでは視覚障害をお持ちの方をはじめ、様々な障害特性をお持ちの方の就労をサポートしています。就労において不安や疑問がある方は、この機会にぜひお気軽にご相談ください。
障害をお持ちの方の中には、障害者採用を検討する方も多いです。障害者採用の詳細やメリット・デメリットは以下の記事でまとめているので、興味のある方はぜひご一読ください。
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合理的配慮とは?申し出る時の注意点や障害別の実施例を解説
大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。