一口に障害といっても、その内容は人によって異なります。今回は、視覚障害の方の仕事探しのポイントや、仕事をする上で気を付けることなどをまとめました。これから仕事を探す予定の方は、参考にしてみてください。
※本記事では、前半で視覚障害に関する基礎情報、後半で実際の仕事探しや面接のポイントなどをまとめています。すでに基礎情報は知っているという方は、視覚障害者が活躍しやすい仕事から読み進めていただくことをおすすめします。
視覚障害とは?
同じ視覚障害でも、見え方や視野状態は人によって大きく異なります。障害の等級や内容を詳しく紹介します。
見えないハンデをカバーできる仕事もある
視覚障害を持っていると、できる仕事が限られていると感じていませんか?しかし、現代ではIT技術の進歩により、視覚障害を持っている方が携わることができる仕事の幅が増えているのも事実です。
たとえば、キーボード操作の音声案内や、入力した文字の読み上げ機能など、視覚障害者用の専門ソフトをいれたパソコンでトレーニングをすれば、ワードやエクセルなど事務作業で必要なスキルが習得できるようになりました。スマートフォンやタブレット端末も同様に、視覚障害者をサポートしてくれる便利な機器のひとつです。
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障害者手帳の4つの等級
視覚障害について、身体障害者手帳では、見えにくさの度合いによって6級、4級、3級、2級の4段階に等級が分かれています。それぞれの等級を詳しく紹介します。
障害者手帳を申請しようか迷っているけれど、その実態について詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。 本記事では、障害者手帳の内容、対象疾患や等級、受けられるサービス、申請方法などを詳しく解説します。また、障害者雇用枠で就職をする[…]
6級
身体障害者手帳に記載されている6級は、視力の良い方の眼の視力が0.3以上0.6以下かつ他方の眼の視力が0.02以下の状態です。視覚障害の等級のなかでは、一番軽度です。
4級
4級は、視力の良い方の眼の視力が0.08以上0.1以下の状態です。ただし、視力の良い方の眼の視力が0.08かつ他方の眼の視力が手動弁以下の場合は、3級に該当します。
3級
3級は、視力の良い方の眼の視力が0.04以上0.07以下の状態です。ただし、視力の良い方の眼の視力が0.04かつ他方の眼の視力が手動弁以下の場合は、2級に該当します。
2級
2級は、視覚障害の等級のなかでも特に症状が重く、視力の良い方の眼の視力が0.02以上0.03以下の状態に当てはまります。
見え方の程度による種類
視覚に障害があるといっても、見え方によってさまざまな種類に分かれます。それぞれの視覚障害の種類をまとめました。
視力障害
いわゆる視力検査で、「目が悪い」と言われる状態です。視力とは、視覚的な情報の得やすさを意味します。情報がまったく得られない方、ほとんど得られない方、文字を拡大したり、視覚補助具等を使ったりすることで自分の視力で情報が得られる方に分かれます。
視野障害
目を動かさないで見える範囲のことを視野と言います。視野障害とは、見える範囲が狭くなり、一部が欠けて見えない状態です。周囲は見えるけれど中心部分が見えづらいというケース(中心暗転)や、見える範囲が徐々に狭まり、中心部分しか見えないというケース(求心性視野狭窄)、視野全体が白く霧がかかったように見えるケース(白濁)があります。
色覚異常
特定の色の区別がつかなかったり、ほかの人と色の見え方が異なったりするのが色覚異常です。色を感じる目の機能にダメージを受けていることが多く、色覚異常は、先天的に起こりやすいとされています。
光覚異常
光覚異常とは、光に対して目の調整機能がおいつかず、対応できないという症状です。暗い場所で見えなくなるタイプ(夜盲)、まぶしさから目に痛みを感じるタイプ(羞明)、明るいところから暗いところに入ったとき(またはその逆)見えづらくなる順応異常など、さまざまなタイプに分かれます。
その他の視覚障害
上記以外にも、左右の見え方が極端に違うケースや、物が歪んで見える(変視症)、眼球が意図せず動いてしまい注視しづらい症状ケースなども、視覚障害のうちのひとつです。 なかでも左右の見え方が異なるケースは、物が二重に見えるほか、距離感が分からない、物が立体的に捉えづらいなど、人によって症状が多様です。
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視覚障害者が活躍しやすい仕事
IT技術が向上したことで、視覚障害者の方が活躍できる仕事の種類が増えています。視覚障害者の方が活躍しやすい仕事をチェックしてみましょう。
あんま・鍼・灸・マッサージ・ヘルスキーパー
一般的に、視覚障害者の方は視覚以外の感覚に優れていることが多く、その能力を生かして、あん摩マッサージ指圧師や鍼師、灸師の資格を取得し、マッサージ師として活躍する人が多くいます。最近では、社員の福利厚生として積極的にマッサージルームを開設する民間企業が増えており、ヘルスキーパーとして企業に就職できる機会も十分にあるといえます。 盲学校や特別支援学校でも、そういった国家資格の取得に向けたカリキュラムが設けられているケースが多くあります。
電話オペレーター
電話オペレーターの仕事といってもさまざまなものがありますが、ほとんどが、顧客と電話で話し、その内容をパソコンで入力するという業務です。 話を聞いて答えることと、パソコンの入力ができれば仕事ができるため、視覚障害のある方でもチャレンジしやすい職種だと言えます。実際に、通販サイトの購入申し込みや、会員登録の受付など、電話オペレーターとして活躍している視覚障害の方はたくさんいます。
プログラマー
最近では、視覚障害者向けの専用支援ソフトが多く開発され、視覚障害がある方でも、練習すればパソコン操作ができるようになってきました。パソコン操作ができるようになると、仕事の幅はぐんと広がります。視覚障害の方も、プログラマーやアプリケーションの開発などに就けるチャンスがあります。
昔は、視覚障害の方が事務職に就くのは難しいとされていましたが、最近では、特にパソコン操作のみで完結する仕事は、視覚障害のある方でもできる仕事になってきています。
視覚障害者が多く働いている職種
ほかの視覚障害の方が、どんな仕事に就いているのか知りたいと思うことも多いのではないでしょうか。社会福祉法人日本視覚障害者団体連合によると、厚生労働省障害者雇用対策課が日本盲人連合に対し、「平成30年度のハローワークにおける視覚障害者の就職状況」を提供しました。それによると、平成30年度の調査結果では、視覚障害者の方の就職件数は2040件(うち重度1167件)、就職率は42.9%(うち重度42.0%)となっています。全障害者の就職率が48.4%ですので、視覚障害者の方の就職率は、決して低いものではありません。視覚障害者の方の主な仕事内容ですが、職種のトップ5は以下のような結果になっています。
1位:あんまや鍼・灸・マッサージ・ヘルスキーパーなどの専門的・技術的職業
975件(47.8%)、うち重度1167件(64.6%)
2位:運搬・清掃等の職業
383件(18.8%)、うち重度140件(12.0%)
3位:事務的職業
301件(14.8%)、うち重度135件(11.6%)
4位:サービスの職業
222件(10.9%)、うち重度90件(7.7%)
5位:生産工程の職業
63件(3.1%)、うち重度24件(2.1%)
就職先は、視覚障害の方の優れた感覚を生かした専門職だけではなく、職種に広がりがあることが分かります。とはいえ、企業のなかには、視覚障害があると事務職は難しいと誤解しているところもあり、今後正しい情報が広まることにより、活躍の場はさらに広がっていくと見られます。
視覚障害者の転職活動について
視覚障害者の方の活躍の場が広がることにより、ステップアップのための転職をする方も増えてきています。視覚障害者の方の転職市場について、解説します。
転職活動時の考え方のポイント
視覚に障害がある方が転職活動をするときには、覚えておきたいポイントがいくつかあります。転職活動時の考え方のポイントとしてチェックしておいてくださいね。
自分の障害の特性を把握する
障害者の方の就職や転職では、障害の状態がどのようなものであるかが必ず聞かれます。自分の障害の特性をできるだけ正確に伝え、できることとできないことを企業に把握してもらうことが大切です。
企業によっては、障害によってできないことをカバーできるように。環境を整えてくれることもあります。どのようなことなら自分ひとりで出来るのか、またどんなサポートが必要なのかを明確にしておきましょう。
自分に合う職探しをする
視覚障害を持つ方によって、自分に合う職場かどうかという見極めはとても重要なポイントになります。特に音声案内の機能の充実は、職場に積極的に求めたい要素です。事務作業であれば、使用するパソコンに視覚障害者用の支援ソフトの導入が欠かせません。視覚障害者の勤務実績や、現在働いている人の視覚障害への理解なども確認しておきたい事項です。
スキルを習得する
視覚障害の有無に関わらず、就きたい仕事がある場合には、その職業にあったスキルを身に付けて転職活動を進めるほうが有利です。未経験の職種でも、その職種に関する資格を取得していたり、知識を身に付けていたりすると、書類や面接でのアピール材料になります。
できることを問われたときに、スキルを身に付けていれば説明もしやすくなります。どのような職業で、仕事ではどんな能力が必要とされるのか事前にきちんとリサーチし、準備しておくと良いでしょう。
仕事の探し方
視覚障害者の方が仕事を探すときは、企業のホームページから直接応募するほか、就職サイトやハローワークで情報を探したり、障害者を対象とした企業の合同説明会に参加したりする方法もあります。
上記はすべて、自分自身で視覚障害について企業とすり合わせをする必要がありますが、自分の代わりに担当者が企業とやりとりを進めてくれるのが、転職エージェントです。最近では、ある程度プロに任せた就職・転職活動の仕方が浸透してきており、障害者の方専門の転職エージェントを活用する例も増えています。 転職エージェントなら、担当エージェントが、視覚障害があることを前提に企業探しをサポートしてくれます。そのため、自分の障害の特性にあった仕事が見つかりやすく、就職や転職で起こりがちなミスマッチを防ぎやすいと言えます。
面接の際のポイント
面接は、質問に誠実に答えることが基本ですが、それだけでパスできるものではありません。面接は、企業が求めている人物像と、応募してきた人の人物像がマッチするかどうかを判断する場です。企業は面接で、その人がどんな人物なのかを知りたいと感じています。応募するときには、自分がどんな人物であるか、企業の求めている人物像にどんな風にマッチしているかを伝える必要があります。
準備としては、自分の性格や障害の特性を把握しておくことや、面接練習を行なって、コミュニケーション方法を確認しておくことが挙げられます。他者と比べてなぜその会社で働きたいと思ったのかという志望動機、自分がどのように活躍できるのかというスキル、自身の障害の特性については、必ず伝えるシーンがあるので、しっかりと準備しておきましょう。
視覚障害のある方が就職・転職活動を進めるときは、実際の業務内容や、職場環境がどの程度整っているかという点も、企業に確認しておきたい項目です。
視覚障害者がスムーズに仕事を進めるために意識すること
視覚障害者の方がスムーズに仕事を進めていくためには、自分から積極的に活動することも大切です。スムーズに仕事が進められることは、自分にとっても、一緒に働く周りの人にとってもプラスになります。
自分の障害について伝えておく
視覚障害のある方が安定した環境で仕事をするためには、一緒に働く同僚の理解が不可欠です。例えば、パソコンは読み上げソフトを入れることで対応できますが、紙の書類は同僚に読んでもらったり、データ化してもらったりする必要があるかもしれません。自分ができることとできないことを採用担当者に正確に伝え、職場の理解を得る必要があります。
また、自分でも周りの人に真摯な態度で協力を求められるよう、努力も必要になるでしょう。 声をかけるときには、誰が話しかけているのか先に「〇〇です」と名乗ってもらえると助かるなど、ちょっとしたポイントを先に伝えておくと、仕事をスムーズに進めるのに役立ちます。
配慮の伝え方の例
見え方の程度は個人差が大きいため、企業側に配慮をお願いする場合は具体的に伝えることが重要です。下記のように「自分の視力や視野の状態」「希望する配慮」に分けて伝えるとよいでしょう。
【例】
私の視力は右が0.02、左が0.03 程度で、視野は両目の下半分がぼやけて見える状態です。文字を読む際は、太文字のブロック体で70ポイント程度の大きさなら、20cmほどの距離で読むことが可能です。ご配慮いただきたい点として、PCの音声読み上げソフトを利用させていただけると正確に業務を行うことができます。
障害をカバーできる環境づくりをする
視覚障害者の方が安全かつ快適に仕事をするためには、環境づくりが重要なポイントになります。仕事をスタートするときには、以下のようなポイントで環境を整えていきましょう。
- 見えにくさ座席の工夫
照明の当たり具合や光の反射、角度などで見えやすさが変わることを伝える。 - 緊急時の対応を決めておく
緊急時の対応について、連絡の取り方を正確に確認しておく。 - 支援機器の活用
音声読み上げソフトなど、仕事で欠かせない機器の導入を依頼する。 - 視覚による情報の工夫
会社側に色々な情報を音声化してもらう。データ化してもらえれば、読み上げソフトで対応できることを伝える。
視覚障害者に対する企業の配慮事例
視覚障害者を雇用する企業の配慮事例をチェックしてみましょう。希望する配慮がある場合は、面接の際に、対応可能か聞いておくと安心です。
支援機器
視覚障害を持っている人が事務職で働く場合に欠かせないものが、音声読み上げソフトや拡大読書器のような支援機器です。そういった機器が導入されていれば、視覚障害があっても練習すれば社内で使用しているメールソフトや業務システムなどを1人で使いこなせるようになり、仕事の幅も広がります。
視覚障害者の方を過去に雇用したことがある企業であれば、導入されているケースが多くありますが、はじめて雇用する場合には、未導入の可能性が高いでしょう。導入を検討してもらえるかどうかを確認する必要があります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、視覚障害者が安全に通勤するのに役立つ制度です。フレックスタイム制とは、1日の就業時間は決まっているが、始業時間と終業時間を働く人が自分で変えられるというものです。視覚障害者の方の場合、フレックスタイム制を利用することで、ラッシュタイムを避けて安全に出退勤できるようになります。身の安全が確保できるだけでなく、精神的な負担も軽くなります。
まとめ
最近では、IT技術の進歩が追い風になり、視覚障害者の方の仕事の幅が広がりつつあります。視覚障害者の就職や転職では、自分ができることとできないことを正確に把握して、障害について企業の採用担当者にしっかりと伝えておくことが重要です。
就きたい職業がある場合は、どのようなスキルが求められるのかをリサーチし、それに向けてスキルを積んでおくと、転職活動が進めやすくなります。自分にどのような仕事や企業が合うかどうか知りたい方はDIエージェントにぜひご相談ください。

社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。