自分の意志でコントロールできない不安や恐怖を日常的に感じ、それによって何度も繰り返し同じ行動をとったり不安になったりする強迫性障害。
強迫性障害と診断された方の中には、仕事を続けることはできるのか、就職や転職をすることはできるのかといった不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで強迫性障害をお持ちの方が長く仕事を続けるためのポイントや、向いている職種、就職・転職をする際に押さえておきたいことなどを解説します。また就職・転職に利用できる機関やサービスについても紹介するので、ぜひ最後まで読んで参考にしていただけたら幸いです。
強迫性障害とは
強迫性障害は、ネガティブな考えや不安が思考を支配し、どれだけ理屈であり得ないと自分自身に言い聞かせても、その思考を止めたり追い払ったりすることができなくなる障害です。
その強迫観念を打ち消すために、例えば手が汚れているという不安から何度も手洗いをする、外出するときに玄関の鍵を閉め忘れたのではないかと不安になり何度も確認するなどの強迫行為を繰り返します。
さまざまな不安から確認するという行為がやめられず、日常生活にも支障をきたすことも多いです。
強迫性障害の主な症状
強迫性障害をお持ちの方が感じる不安や強迫行為は、先に例を挙げたようなものだけとは限りません。一部の例を挙げても、以下のような不安や行為があります。
不潔恐怖 | 自身の体や手が汚れている、菌やウイルスがついているといった不安や恐怖から何度もシャワーを浴びたり手洗いを繰り返したりする。またドアノブや手すりなどを不潔だと感じ、触れない。 |
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確認行為 | 玄関の鍵を閉め忘れたのではないか、大事な書類を封筒に入れ忘れたのではないか、ガスの元栓を閉め忘れたのではないか、などの不安から何度も確認する。 |
儀式行為 | 自分が決めた手順でなければ悪いことが起きるという恐怖から、何があっても同じ手順で家事や仕事をやろうとする |
数字に対するこだわり | 不吉な数字・幸運の数字などにこだわる。縁起を担ぐというレベルを超えて執着する。 |
物の配置に対するこだわり | 物の配置にこだわり、場所が変わったり少しでもズレたりすると不安になって元に戻そうとする。 |
加害恐怖 | 自分が誰かに危害を加えたかもしれないという不安や恐怖に支配され、事件として報道されていないか新聞やニュースを確認したり、警察や周囲の人に聞いたりする。 |
強迫性障害をお持ちの方が仕事をする上で困ること
強迫観念や強迫行為として表出する行動は人それぞれですが、強迫性障害をお持ちの方が仕事をする上で感じる困りごとの傾向を知っておくことは、対策を考えるためにも重要です。
仕事で感じる困りごとを具体的な例を交えて紹介します。
確認を繰り返して仕事が進まない
確認行為を繰り返すことで、なかなか仕事が進まない、終わらないという事態になることがあります。
すでに何度も確認しているのに、やっぱりできていないかもしれない、ミスをしているかもしれないという不安を感じ何度も確認作業を繰り返していると、結果的に作業時間が足りなくなってしまったり、納期に間に合わなくなったりします。
会社の設備や備品などを共有しがたい
会社では設備や備品を他のスタッフと共有することが多くありますが、不潔恐怖があるとそういったものを共有することに恐怖を感じてしまいます。
また不特定多数が毎日触れるであろうドアノブやエレベーターのボタンを触れない、トイレを利用するにも多大な苦痛を感じるとなると、職場に行くこと自体が怖くなってしまうこともあり得るでしょう。
いつもと違うことが起きると仕事に集中できない
配置にこだわりを感じる方や儀式行為の症状がある方の場合、職場でいつもと違うことが起きると不安や恐怖を感じ、仕事に集中できなくなってしまいます。
例えば定位置にあるはずのものがなくなっていたり違う場所に移動されたりしていると、元に戻さなければとパニックになってしまうこともあるでしょう。また業務にイレギュラーなことが発生すると、いつも通りの手順で仕事をすすめられないことに不安を感じてしまいます。
強迫性障害をお持ちの方が就職・転職する際のポイント
強迫性障害をお持ちの方が、これから就職や転職をするという場合、障害への理解が得やすい職場を探すことが大切です。ここでは、就職や転職で知っておきたいポイントや症状と向き合いながら働き続けるためのコツをお伝えします。
強迫性障害をお持ちの方が働きやすい職種を知る
強迫性障害の症状はさまざまですが、傾向としてどんな仕事であれば続けやすいかを知っておくことは、求人を探す際にも重要です。
もちろん強迫性障害だからと言って、職業の選択肢が限られるということはありません。しかし強迫性障害の特徴と相性の悪い仕事というものは存在します。例えば不潔恐怖の方が公共施設の清掃業務をすることは苦痛を伴うでしょう。またミスが許されない緻密さを要求される仕事の場合、確認行為を助長してしまうことも考えられます。
なお、強迫性障害をお持ちの方に向いている職種については、次項で紹介しますので参考にしてください。
障害への理解がある職場を探す
周囲の人に障害への理解を得られるかどうかも重要です。例えば確認行為が原因で仕事の進捗が遅い、納期に間に合わないといった困りごとに直面したとき、理解がなければ叱責されたりペナルティを課されたりして、職場に居づらくなってしまうかもしれません。
障害への理解を得た上で入社したのであれば、合理的配慮を受けることができるため、進捗が遅くても迷惑をかけにくい業務を担当したり、SOSを出して手助けしてもらったりすることも可能です。
困りごとを相談できる窓口がある会社を選ぶ
業務で困ったことがあったり合理的配慮を求めたりする際、相談窓口が社内に設置されていれば安心です。
事業者には、障害者の相談窓口を設けることが義務づけられていますが、実質上司や人事がその窓口となっている場合なかなか相談しにくいのが本音でしょう。
そこで、産業医やカウンセラーなどの専門家が窓口になっていたり、外部の支援員が定期的に訪問して相談に乗ってくれたりする仕組みがある会社を選ぶことが重要です。
引用元
雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務
規則正しい生活を心がける
生活リズムが乱れたり外部との接触機会が減ったりすると症状の悪化を招くことがあります。
そのため、できるだけ規則正しい時間に寝起きする、決まった時間に食事をする、というような生活を心がけることが望ましいです。睡眠不足が続くと健康な人でも心身に悪影響を及ぼします。
しっかりと睡眠時間を確保し、生活のリズムを整えることが症状をうまくコントロールすることにもつながるでしょう。
自己判断で服薬や治療をやめない
強迫性障害は服薬や認知行動療法などで、症状の緩和や改善を目指せる疾患です。しかし治ったと思っても再発しやすいという特徴もあり、さらに心の状態は自分では認識しづらいため、気づかないうちにストレスを抱え込み再発につながる可能性も。
よくなったと思っても自己判断で通院をやめたり服薬を中止したりせず、医師に確認しながら確実に治療を受けることが大切です。
心身の状態に違和感があったらすぐに診察してもらう
強迫性障害の特徴の一つである不潔恐怖は、きれい好きな性格の潔癖と同一視されることもありますが、まったく異なります。しかし自分自身でコントロールできない強迫性障害との境目は曖昧で、ただきれい好きなだけだと思っていたものが実は強迫性障害だったということも。
日常生活や仕事に影響し始めたり、心身の状態に違和感があったりしたらすぐに病院を受診し、医師に診断してもらうことで重症化する前に対策をとることができるでしょう。
強迫性障害をお持ちの方に向いている職種とは?
強迫性障害をお持ちの方に向いている職種として、以下のようなものが挙げられます。
- Webデザイナー・DTPデザイナー
- 事務職
- 歩合制の営業
- 軽作業
強迫性障害をお持ちの方が仕事を探す際、どんなことに気をつけて選べばいいのかのポイントを紹介します。
なお、障害への理解を得やすい仕事を見つける場合、障害者雇用に特化した求人サイトを利用するのもおすすめです。中でもBABナビは、業界トップクラスの求人数を誇るサイトでこだわり条件の簡単検索や業種などを指定して、求人の内容を手軽にチェックできます。
引用元
BABナビ|障害者雇用枠のお仕事をお探しの方の求人サイト
自分のペースですすめられる仕事
ミスを自分でリカバリーしやすく、ある程度自分で裁量権をもてるような仕事が向いています。ミスが許されない仕事や緻密な作業を要求されるものよりも、自分のペースですすめられるような仕事がいいでしょう。
先に紹介した事務やWebデザイナー・DTPデザイナーなどは自分のペースで仕事をすすめられることも多く、テレワークが可能なケースもあります。
確認作業が少ない仕事
確認作業が多い仕事は確認行為を助長してしまうことにもつながりかねず、多大なストレスを感じやすいので注意が必要です。
作業の工程で確認事項がいくつもある、確認漏れがミスに直結するといった仕事は向いていないといえるでしょう。
ある程度作業工程が決まっているような仕事であれば、確認作業が負担になりにくく、突然手順が変わるといったことも比較的少ないのでおすすめです。
人との関わりが少ない仕事
不特定多数の人と設備や備品を共有する環境にストレスを感じやすい不潔恐怖や、他人との関わりが加害恐怖を助長するような方の場合、できるだけ人との関わりを減らすことで恐怖を感じる機会を減らすことができます。
そこでもっともおすすめなのがテレワークです。自宅で一人で仕事ができれば、余計な不安や恐怖に支配されずに集中して業務に取り組むことができるでしょう。また業務内容がある程度固定されているような事務であれば、あまり人と関わらずにマイぺースに仕事をすすめることが可能です。
強迫性障害をお持ちの方の就職|オープン就労かクローズ就労か
強迫性障害をお持ちの方が仕事をする上で、職場の理解が得られるかどうかは、その仕事を長く続けられるかどうかに深く関わります。
そこで、強迫性障害をオープンにして就職活動をするかどうかで迷う方もいるかもしれません。
オープンにして就労する場合、合理的配慮を受けやすく企業側も承知の上で採用するため双方のニーズがマッチしやすく、働き始めてから違和感を覚えにくいでしょう。一方で、障害者雇用枠の求人は一般枠に比べて少ない傾向があるため、選び放題というわけにはいきません。
障害を伏せて就労することはクローズ就労ともいわれます。クローズ就労では一般枠の求人から選べるため、豊富な求人の中から選べることがメリットですが、通院や服薬、症状による業務への影響などに理解が得にくいのがデメリットです。
それぞれのメリットとデメリットを理解した上で、自分が一番働きやすい方法を選びましょう。
なお、クローズ就労とオープン就労のメリットとデメリットは以下の記事で詳しく解説しています。
強迫性障害をお持ちの方が就職・転職で利用できるサービス
強迫性障害をお持ちの方がオープン就労での就職や転職を目指す場合、さまざまな支援やサービスを利用することができます。
ここからは、就職・転職の際に利用できる支援機関やサービスを見ていきましょう。
ハローワーク
職業安定所として全国に設置されているハローワークには、障害をお持ちの方専門の窓口が設けられており、就職の相談や必要な機関の紹介、職業の紹介や活動のサポートなどを受けることができます。
ハローワークは国が運営する機関なので、これから紹介する地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターなどと連携した支援を受けられるのがメリットです。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、スクールのように通いながら就職に向けたスキル訓練を受けたり就職活動のサポートを受けたりできる機関です。
就労移行支援はそれぞれの事業所ごとに特色があるため、自分が目指す職種や働き方に合わせて選ぶといいでしょう。
ワークイズは通所が基本の就労移行支援事業所としては珍しく、リモートでの訓練が可能です。テレワークでのスキル習得に力を入れており、テレワークを希望した卒業者の68%がテレワークでの就職に成功しています。
テレワークを視野に入れている方は、ワークイズの利用も検討するといいでしょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害をお持ちの方の就業を支援するため、各都道府県に1ヶ所以上設置されています。
本人のスキルや適正を評価して分析したり、対人スキルやストレス対処のトレーニングなどを通して職業準備を支援したりといった内容のほか、ジョブコーチによる就職支援なども受けることが可能です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、先に紹介したハローワークや地域障害者職業センター、就労移行支援事業所や福祉事業所、医療機関などと連携しながら障害をお持ちの方が社会の中で自立して生きていけることを目指して支援を行います。
さまざまな機関と連携することで、一人ひとりに必要なサポートを提供する機関とスムーズにつながることができるため、生活の立て直しや職業訓練、職業紹介から定着支援までを一環してサポートしてもらうことが可能です。
転職エージェント
国や自治体が提供するものだけでなく、民間の企業も就職や転職の際に無料で利用できます。障害者雇用専門の転職エージェントは、企業が求めている人材のニーズを把握した上で、ご本人の希望やスキルをもとに求人を紹介するサービスです。
企業と独自のルートでつながっていることも多く、市場に出回っていない優良企業の求人を紹介したり、専属のカウンセラーがマンツーマンでサポートしたりと、手厚いサポートを受けながら転職活動をすることができます。
障害者雇用支援で実績のあるDIエージェントがおすすめ
転職エージェントはいくつもありますが、中でもこの道10年の実績を持つDIエージェントは、専属のカウンセラーによる丁寧なヒアリングとキャリア診断、書類作成や面接対策などのサポートを通して、よりマッチング率の高い求人の紹介を行います。
企業とのやり取り代行や内定後のフォローなど、定着率を重視して就職活動を全面的にバックアップ。カウンセラーとマンツーマンで活動をすすめる中で、時にご本人が気づいていない強みから未経験職種への就職成功につなげたり、求人募集をしていない企業にアプローチしてマッチングに導いたりといった事例もあります。
これから障害者手帳を取得する方や検討中の方でも相談可能なので、一度相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。
就職・転職サービスを活用して働きやすい仕事を見つけよう
強迫性障害は、潔癖や神経質といった性格の問題ではなく、自身でコントロール不可能な疾患です。人によって症状は異なり、不安や恐怖から確認行為を繰り返したり、特定の事柄に強いこだわりや執着を持ってしまったりします。
何度も確認したり、不安になって仕事が手につかなくなったりすることで業務が滞り、職場で辛い思いをしている方もいるかもしれません。
仕事の内容によっては症状を助長することにもなりかねないため、場合によっては転職を検討するのもいいでしょう。
障害をオープンにして就職するか、クローズで就職するかは人それぞれですが、長く仕事を続けるためには周囲の人の理解が欠かせないことから、オープン就労がおすすめです。
転職をする際は、手厚いサポートで安心して転職活動をすすめられる機関やサービスを利用しましょう。DIエージェントは専属のカウンセラーが就職成功まで伴走するため、不安なことがあってもすぐに相談したり、じっくりと自分の強みを分析してチャレンジしたりすることができます。
ぜひ一度お気軽にご相談ください。
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大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。