障害者総合支援法とは、2013年4月に施行された障害保健福祉施策に基づいて定められた法律のことです。障害者と障害児を対象としており、2003年の支援費制度をきっかけに改正を重ね、現在の形に至ります。
しかし、名前を聞いたことがあっても、実際にどの様なサービスが利用できるのか、ご自身の生活にどの様な影響があるかは知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は利用できる制度があっても、知らないことによって利用していないという可能性もあります。
今回は、障害者総合支援法の概要や現在の内容になるまでの変遷、障害を抱えるからこそ知っておくべき利用可能なサービスについてご紹介します。利用にあたっての条件を押さえ、現状でも利用できるものをチェックしましょう。
障害者総合支援法と聞いても、具体的なイメージが湧かない方も多いでしょう。ここからは概要や改正によって変化した項目を細かく解説します。過去のものとの違いについて理解を深めながら、利用できるサービス、支援を押さえておきましょう
障害者総合支援法の概要
障害者総合支援法は、障害を抱える方が基本的人権をもつ個人として、一般的な日常生活や社会生活が営めるよう、必要な福祉サービスにまつわる給付・支援などを総合的におこなうとした法律です。
厚生労働省では障害者総合支援法について
『「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする。』
と題し、基本理念について
『法に基づく日常生活・社会生活の支援が、共生社会を実現するため、社会参加の機会の確保及び地域社会における共生、社会的障壁の除去に資するよう、総合的かつ計画的に行われることを法律の基本理念として新たに掲げる。』
引用元:障害者総合支援法について(厚生労働省障害保健福祉部企画課)|厚生労働省
としています。要約すると、障害を抱えていても一般的な日常生活を不安なく暮らせるよう、社会全体を通して共生をはかれる法律として2013年に成立しました。
時代の変化によって変移した障害者総合支援法
2013年に成立した障害者総合支援法ですが、もともとは施策として立ち上げられていました。それが障害者自立支援法です。障害者総合支援法は、2006年10月に施行された障害者自立支援法を改正する形で定められたものであり、障害者自立支援法の主な変遷は下表のとおりです。
2006年 4月 | 障害者自立支援法の施行 |
2007年 12月 | 障害者自立支援法の抜本的な見直しとして、利用者負担の見直し・事業者の経営基盤の強化・グループホーム等の整備促進が行われる |
2009年 9月 | 民主党への政権交代により、障害者自立支援法を廃止する方針が決定 |
同年 4月 | 低所得者の障害福祉サービス及び補装具の利用者負担を無料化 「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会において」の議論開始 |
同年 6月 | 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が閣議決定 |
2011年 6月 | 「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」が成立 |
2011年 7月 | 「障害者基本法の一部を改正する法律」が成立 |
2012年 3月 | 「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」閣議決定・国会提出 |
引用元:障害者総合支援法について(厚生労働省障害保健福祉部企画課)
ここまで大きな変遷のあと、『地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律』として、障害者総合支援法を定めました。
改正・議論を重ねた結果、障害者自立支援法の施行から約7年を過ぎた2013年4月に、障害を抱えている方、そしてサポートする側の両面を支える法律が誕生したのです。
目的の改正と基本理念を創設
2013年4月に定められた障害者総合支援法は、これまで経てきた国での改正や議論を踏まえ、大々的に『目的の改正』と『基本理念』を設けます。
『目的の改正』は
『○ 「自立」の代わりに、新たに、「基本的人権を享有する個人としての尊厳」を明記。
○ 障害福祉サービスに係る給付に加え、地域生活支援事業による支援を明記し、それらの支援を総合的に行うこととする。』
基本理念については
『23年7月に成立した改正障害者基本法で、目的や基本原則として盛り込まれた、
- 全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念
- 全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現
- 可能な限りその身近な場所において必要な(中略)支援を受けられること
- 社会参加の機会の確保
- どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと
- 社会的障壁の除去
といった重要な考え方を新法の理念としても規定することとしたもの。』
引用元:障害者総合支援法について(厚生労働省障害保健福祉部企画課)|厚生労働省
とし、障害者自立支援法の変遷を踏まえた項目が並んでいます。これらを見ると、以前より細かく設定したように感じられますが、改正後の内容はどこか変わりなく感じられ、国民からは「根本的な見直しになっていない」「サービス利用者における負担が社会的自立という内容に沿っているのか」といった声も多く、障害者総合支援法が定められたあとも課題点の多い法律と考える人も少なくありません。
障害者範囲の見直しも
障害者総合支援法の施行にあたっては、障害者範囲の見直しがおこなわれています。国民の声のなかには「以前と変わらない内容」と言われるものの、変化した項目もあることを押さえておきましょう。ここからは、見直された概要について厚生労働省の資料を抜粋してご紹介します。
『○ 制度の谷間のない支援を提供する観点から、障害者の定義に新たに難病等(治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者)を追加し、障害福祉サービス等の対象とする。 【平成25年4月1日施行】
→難病患者等で、症状の変動などにより、身体障害者手帳の取得ができないが一定の障害がある方々に対して、障害福祉サービスを提供できるようになる。
→これまで補助金事業として一部の市町村での実施であったが、全市町村において提供可能になる。
→受けられるサービスが、ホームヘルプサービス、短期入所、日常生活用具給付だけでなく、新法に定める障害福祉サービスに広がる。』
引用元:障害者総合支援法について(厚生労働省障害保健福祉部企画課)|厚生労働省
もともとの形である障害者自立支援法の支援対象者は、以下3つに区分されていました。
- 身体障害者福祉法第4条に規定する身体障害者
- 知的障害者福祉法にいう知的障害者
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定する精神障害者(発達障害者を含み、知的障害者を除く。)
つまり、障害者自立支援法といっても対象者の範囲が極めて限定的だったことから、軽度の障害を抱える方は対象範囲外であり、利用できるサービスもごくわずかだったことがうかがえます。度重なる議論による改正から、障害を抱える方に向けた法律へと変わったことがうかがえます。
いくつもの改正や議論を経て現在の障害者総合支援法が成立した一方で、まだまだ改善の余地は多いと考えられています。障害者総合支援法に限定せず、ほかに利用できるサービスや制度はないか、調べることが望ましいと言えるでしょう
障害者総合支援法の対象者と対象サービス
障害者総合支援法は対象者の範囲をさらに広め、対象サービスも以前に比べて充実したうえで施行されています。ここでは、障害者総合支援法の中身として、対象サービスや利用料について解説します。
対象サービス
障害者総合支援法で利用可能なサービスは下表のとおりです。
介護給付のサービス |
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訓練等給付のサービス |
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相談支援のサービス相談支援のサービス |
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自立支援医療 |
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地域生活支援事業 | 市区町村の事業と都道府県事業に分類される 支援にまつわる相談や障害を抱える方の支援に必要な人材の派遣・養成・研修といったサービスが主 |
補装具費支給制度 | 障害により必要な補装具の購入・レンタル・修理にかかる費用も自立支援給付の対象 補装具の種類は義肢・装具・車いすなど 利用にあたって市区役所に費用支給の申請をする必要がある |
障害児の対象サービス
障害者総合支援法による障害児の対象サービスは下表のとおりです。なお、下表は一部障害者の給付サービス以外に利用対象となるものです。
障害児入所支援 | 入所型サービスの一つ 生活施設を指しており、児童相談所への相談・申請を経て調査後、措置入所が判断される |
障害児通所支援 | 福祉型と医療型の児童発達支援センターがある 児童の状態にあわせて利用可能 治療と保育がセットになった療養施設 |
放課後等デイサービス | 放課後や夏休みなどの長期休暇中に利用できる障害児の学童保育サービス放課後や夏休みなどの長期休暇中に利用できる障害児の学童保育サービス |
保育所等訪問支援 | 児童発達支援センターを含む療育や発達の専門家が、障害児の保育園や幼稚園に訪問して支援するもの |
各種サービスの利用料
障害者総合支援法で利用できる各種サービスの利用料は以下のとおりです。
- 生活保護世帯/0円
- 市町村民税非課税世帯/0円
- 一般1(市町村税課税世帯で収入が概ね600万円以下の方)/9,300円
(障害児の通所施設やホームヘルプを利用する場合は4,600円) - 一般2(上記以外の方)/37,200円
日本の福祉サービスのほとんどは税金でまかなわれています。しかし、少子高齢化が進む昨今では、介護保険を中心に費用の捻出が問題視されています。
税金の引き上げや新たな国税が設けられる可能性も十分に考えられることから、利用料の負担がさらに高まるのは想像に難くなく、国民の声は益々強まるばかりです。
障害者総合支援法以外にも!障害のある方が受けられるサービス・給付金
障害を抱える方が利用できるものは障害者総合支援法以外にも、国の制度や給付金が設けられています。ここでは3つの制度と給付金についてご紹介します。現状と照らし合わせながら、利用できるものはないかをチェックしましょう。
1.障害者手帳
障害者手帳とは、
- 身体障害者手帳
- 療育手帳
- 精神障害者保健手帳
の3つの手帳を総称した呼称のことです。法律はそれぞれの手帳で異なるものの、いずれかの手帳をお持ちであれば障害者総合支援法の対象となり、さまざまな支援が受けられるほか、各自治体や事業者が独自に提供するサービスを利用できる場合があります。障害者手帳の詳細は下記ページでご確認ください。
2.障害年金
障害年金は、万が一の病気やケガなどによって生活や仕事が制限された場合に利用できる年金です。障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の二つあり、国民年金に加入している方が病気やケガではじめて医師の診療を受けたときは「障害基礎年金」が、厚生年金に加入している方は「障害厚生年金」を請求できます。障害年金の詳細は下記ページでご確認ください。
3.失業保険
障害を抱える方でも失業保険が利用できます。条件としては、
- 退職までの1年間に通算6ヵ月以上雇用保険に加入していた方、もしくは非正規雇用(パート・アルバイト)で雇用保険に加入していた方
- 働くことはでき、働きたいと考えているのに就職できない状態
の二つです。失業保険の詳細は下記ページでご確認ください。
在職中に利用可能な制度・手当・保険
ここでは、障害を抱える方が在職中に利用可能な制度・手当・保険をご紹介します。万が一働けなくなったときや休職を検討するときの参考にしてください。
休職制度
ストレス社会と揶揄されることも少なくない現代では、労働者側の個人的事情によって働けないと判断した場合に、労働者としての立場を保ったまま一定期間就労義務を免除する休職制度があります。
これは労働基準法ではなく、企業ごとに就業規則として定められています。休職制度の詳細については下記ページでご確認ください。
傷病手当
傷病手当は、業務外の理由によって療養する際、働けなくなった日から3日を経過した日から働けない期間内に支給される給付金です。
支給期間は支給開始日から1年6ヵ月を超えない期間と定められていますが、1日につき直近12ヵ月の標準報酬月額の30分の1に相当する金額の3分の2にあたる金額が支給されます。傷病手当の支給額や詳細については下記ページでご確認ください。
雇用保険
雇用保険とは、失業保険や就職者支援制度・育児休業給付などを総合した保険のことです。労働者が失業によって所得を失った場合に、生活及び雇用の安定や就職の促進のために受けられるものです。雇用保険については下記ページでご確認ください。
障害者総合支援法を学び必要なサービスを利用しよう
今回は障害者総合支援法の概要と変遷、国や市区町村で利用できる制度・サービス・給付金についてご紹介しました。
障害者総合支援法は、紆余曲折を経て現在の形へと変化したものの、細かくみていくと本質はさほど変わっていないことがうかがえます。
障害をお持ちの方の生活を支える制度には、実は細かな要件が定められていたり、自治体によって異なるケースがあったりと、非常に複雑です。ただし、本来利用できる制度があるにも関わらず、知らないことによって利用していないことは避けることが望ましいでしょう。
まずは最寄りの自治体・ハローワークに確認し、ご自身がどのような制度を利用できるのかを確認されるとよろしいかと思います。
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大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。