「障害者手帳で精神障害2級と認定されているけど、転職はできるのだろうか」「自分にはどのような仕事が向いているのか、そしてスムーズに転職するためのコツを知りたい」などと思う方もいるかもしれません。
精神障害者の方に対する国の施策は少しずつ進み、2018年4月には障害者雇用義務の対象にもなりました。 今回は精神障害2級の手帳をお持ちの方の就業状況やおすすめの仕事、そして就職前と就職後に気をつけるべきポイントを解説します。
精神障害2級保持者でも働くことはできる
精神障害者保健福祉手帳における精神障害2級のおおまかな判断基準は、精神疾患によって仕事を含めた日常生活に著しく大きな制限を受ける、または制限を加えることを必要とする状態です。食事や洗面、外出、安全保持などのさまざまな場面においてサポートを必要とする状態を指します。
しかし精神疾患は治療により回復することも大いにあります。2級と認定された当時は就労ができなかったとしても、その後の治療経過次第では就労をして社会復帰することも十分可能です。冒頭で述べたように障害者雇用義務に精神障害者も加わり、働くチャンスは広がっています。
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精神障害2級保持者の就業状況
現在精神障害2級を持っている人の就業状況はどのようになっているのでしょうか?実際の採用枠や課題について見ていきましょう。
精神障害者が障害者雇用義務の対象に!
精神障害を含む障害者の方の雇用に関しては、障害者雇用促進法で規定がされています。以前は身体障害もしくは知的障害をお持ちの方だけが雇用義務の対象で、精神障害者は雇用義務ではありませんでした。雇用した場合の法定雇用率の対象にはなっていましたが、雇用義務の対象として明記されていなかったのです。
しかし法改正に伴って、2018年4月からは精神障害者も雇用義務の対象に加わりました。
2020年7月現在、法定雇用率は民間企業で2.2%、国・地方公共団体で2.5%、そして都道府県などに設置される教育委員会で2.4%となっています。2021年4月までにはさらにそれぞれ2.3%と2.6%、そして2.5%にアップする予定です。民間企業の法定雇用率は現在2.2%なので、45.5人の従業員がいる場合はその内の1人を障害者の方としなければいけないということですね。
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精神障害者の方の採用は増加傾向にある
法定雇用率が徐々に上がってきていること、そして2018年4月から精神障害者も雇用義務の対象となったことなどから、精神障害者の方を雇用する企業は確実に増えてきています。採用枠や求人枠が広がり、その結果、雇用される人数も増えてきているのが現状です。さらに2021年4月までに法定雇用率が引き上げられることになっているため、ますます採用枠は増加していくことでしょう。
就職後に仕事を長く続けられるかが課題である
障害者雇用の課題は、就職後の職場定着です。希望する企業に就職できたとしても、「ストレスで病状が悪化してしまった」「仕事内容が合わなかった」「職場の雰囲気になじめなかった」などの理由から退職してしまう人も決して少なくありません。
就職や転職をゴールにせず、どうすればその仕事を長く続けられるかが本当の課題といえるでしょう。
精神障害者の方におすすめの仕事
精神障害と一口にいっても、疾患名や病状は人それぞれです。例えばスキルは非常に高くても、常に不安が強くてストレスを抱えてしまうような人もいることでしょう。スキルを活かすことにばかり目を向けず、不安を解消できるような仕事内容や職場を考える必要があるといえます。自分自身の障害特性や得意なこと・苦手なこと、そして希望などを勘案して仕事を選ぶことが大切ですね。
以下で精神障害のある人におすすめの仕事を、一部紹介します。
働き方への配慮をしてくれる企業での仕事
まずは働き方に対して、配慮をしてくれる企業での仕事です。同じ障害者雇用を行っていても、企業によって受け入れ態勢や配慮できる範囲は異なります。
「残業はさせない」「通院日や体調不良に合わせて、柔軟に休みを取得させてくれる」など、なるべくストレスを感じず、また体調の変化に合わせた配慮をしてくれる企業がベストですね。
またキャリアアップを目指している人にとっては能力を評価したり、業務目標を持たせくれたりするような企業も良いでしょう。就職前に個人で見分けるのは難しいため、ハローワークや転職エージェント、支援機関などを通して探すことが必要です。
マイペースでできる仕事
なるべく自分のペースで働ける仕事も良いですね。他人と一緒にする仕事では相手のペースが気になって焦りとなったり、体調が悪くても無理をして作業を続けてしまったりして、病状が悪化する恐れもあります。ノルマや厳しい締め切りがない、マイペースに進めていけるような仕事であれば大きなストレスを感じず、長く続けていくこともできるでしょう。
テレワークでできる仕事
最後はテレワークでできる仕事です。最近は、新型コロナウイルス感染拡大により急速にテレワークが普及したことに伴って、テレワーク可能な求人も増えつつあります。通勤や環境が変わるストレスがなくなること、体調を崩した際にすぐ休めること、また必要以上に人と関わる必要がないことから、精神障害者の方におすすめの仕事ですね。

精神障害者の方が就職活動で気をつけるべき5つのポイント
就職活動を始める前に、いくつかのことを確認しておくことでスムーズな仕事探しができるようになります。気をつけるべきポイントを、全部で5つ見ていきましょう。
障害者枠・一般枠のどちらで就活するのか決める
まずは障害者枠か一般枠、どちらで就職・転職活動するのかを決めましょう。
障害者枠のメリットは障害があることをオープンにすることで、さまざまな配慮を得られること。疾患のことや通院のこと、勤務中に配慮してもらいたいことなどを事前に伝えておくことで、働きやすい職場環境となるでしょう。しかし一般枠と比べると求人数、特に正社員の求人は少なくなるのがデメリットです。
対して一般枠は求人数や職種が多く、希望する仕事に就ける可能性も高まりますが、障害に対する配慮を得られないことも。疾患があることを隠すために体調不良でも無理して勤務をしたり、通院のための休みを取得できなかったりすることも考えられます。
どちらが良いかは一概に言えません。主治医や支援機関などの意見を聞きながら、長く働けそうな方を選ぶようにしましょう。
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正規雇用か非正規雇用かを決める
正規雇用か、それとも非正規雇用で働くかを決めることも大切です。正規雇用は給与が高くなる分、長時間の労働や責任のある仕事などが求められます。フルタイムで働く体力はあるのか、またある程度のプレッシャーにも耐えられるのかなどを良く考えましょう。まずは非正規や時短勤務からスタートして、慣れてから正規雇用を目指す方法もあります。
自分の障害の症状を認識しておく
3つ目は障害の症状を認識しておくことです。どのような症状があるのか、どのような場面で症状が出やすいのか、症状が出た時はどのように対処をすれば良いのかなどを整理しておきましょう。客観的に自分のことを理解しておけば、仕事を始めた後の自己コントロールができるようになります。
また就職活動の面接時に企業側に正しく情報を伝えることで、相手に安心感を持ってもらえるといったメリットもあります。
面接の練習をしておく
面接では一般的な志望動機や自己紹介の他に、障害のことや仕事で配慮してほしいことなども伝えられるように準備しておきましょう。
「勤務中に体調を崩した際、休憩できるか」「何人くらいのスタッフと働くのか」「個別に担当のスタッフは付くのか」など、働くうえで気になることは質問できるようにまとめておくことも大切です。
精神障害者保健福祉手帳の有効期限を確認する
最後は精神障害者保健福祉手帳の有効期限を確認しておくことです。障害者枠で仕事を探す場合は手帳が必須となります。もし仮にまだ取得していなかったり、有効期限が切れていたりした場合は応募ができない場合が多いです。
有効期限は取得から2年間です。期限が切れる前に主治医の診断書を添付して、更新の手続を行いましょう。
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精神障害者の方が就職後に気をつけるべき5つのポイント
先に述べたように精神障害をお持ちの方が仕事を続けていくためには、就職した後の過ごし方も大切です。気を付けるべき主なポイントを5つチェックしていきましょう。
周囲とのコミュニケーションを怠らない
まずは周囲とのコミュニケーションを怠らないことです。もちろん無理をして、必要以上に頑張ることはありません。それぞれができる範囲で取り組みましょう。基本的なあいさつや報告連絡相談の他、あなたができることと苦手なことも伝えてください。「分かっているはず」と思わないことが大切です。またやるべき業務内容をメモしたり、チェックリストを作ったりしておけば、抜けることもなくなりますね。
不安をため込まず早めに相談する
仕事が始まったら、不安をため込まないことが重要です。些細な不安がどんどん積み重なっていくと、いつの間にか大きくなって病状が悪化する可能性もあります。業務内容に不安や分からないことがあれば、同僚や上司、職場内の障害者雇用担当者に相談しましょう。また外部の支援機関やカウンセラーに相談するのも良いですね。早めに解決することが大切です。
体調管理に気をつける
体調管理にも気を付けましょう。特に働き始めは気が張って、頑張りすぎてしまう可能性があります。適度に力を抜いて、可能であれば休憩時間を増やすようにすると良いですね。スロースタートで取り組んでいきましょう。休日は気分転換の外出も良いですが、できるだけ体力の回復に努めてください。栄養と睡眠をしっかり確保して、休日明けの仕事に備えましょう。
もし業務時間の長さで体調を崩してしまうようであれば、退職する前に短時間労働ができないかどうかを交渉してみるのも一つの方法です。
ストレスを回避する
いくら配慮がされている職場であっても、何かしらのストレスはあるもの。長く仕事を続けていくためには、できるだけストレスを回避することが求められます。業務内容や勤務時間などで決して無理をしないこと、そして不調を感じた時は休むことも大切です。
治療は継続する
最後は治療を継続することです。仕事が始まると「病気が治った」と思って、通院や服薬を止めてしまう人がいます。しかし一時的には回復したと思えても、仕事のストレスがたまっていくうちに悪化や再発するケースも珍しくありません。治療の必要・不要の判断は主治医にしてもらいましょう。自己判断で治療をストップすることはせず、通院や服薬は継続してください。
精神障害者の方の採用時に企業が見るポイント
企業は精神障害者の方を採用する際、どのような点を見ているのでしょうか?主なポイントを3つ紹介します。
職場で誰とでも協力できるか?
どのような職種であっても、職場で働く他のスタッフと協力できるかどうかが求められます。決して高いスキルは求められません。あいさつはできるか、報告連絡相談ができるかなど、基本的な社会人スキルが重要視されます。また障害や疾患に対して、極端な劣等感を出すのは止めましょう。企業は「この人と一緒に働きたい」と思われるような人材を欲しています。
病状は安定しているか?
企業として最も気になるものの一つが、病状は安定しているのかどうかということ。長く職場で働いてもらうためにも安定している人を採用したいと思うのは当然のことですよね。
通院や服薬状況の他、主治医は就労に対してどのように話しているのかを伝えましょう。特に専門家でもある主治医の意見は、企業側が重要視するポイントです。また障害に対して否定的ではなく、前向きに受け入れられているかも見ています。
家族などの支援者はいるのか?
最後は家族などの支援者がいるのかどうかです。規則正しい生活を送るためにサポートしてくれる人はいるのか、また病状に変化があった場合に対応してくれる人はいるのかを知りたがっています。もちろん1人暮らしだからといって、マイナスに評価されることではありません。家族や支援機関、医療機関などを含めて、あなたの生活をサポートしてくれる人をリストアップして伝えられるようにしておきましょう。

まとめ
精神障害者が障害者雇用促進法による雇用義務とされたことに伴い、精神障害者保健福祉手帳上で精神障害2級と認定されている方でも、就労するチャンスは広がりを見せています。
勤務時間や仕事内容で配慮をしてくれる企業や、マイペースに取り組める仕事、または在宅で働けるような仕事など、自分に合った働き方ができる企業を探してみましょう。そして入社後も安定して働くことのできるよう、本記事でご紹介したいくつかのポイントを参考にしてみてください。
また、DIエージェントでは、本記事でご紹介しきれなかった転職活動のコツや注意点などもキャリアカウンセリングを通じてアドバイスしています。
障害者枠での転職に興味がある方は、ぜひチェックをしてみてください。

産業カウンセラー。EAP事業の立ち上げ経験を活かし、(株)D&Iに入社後には定着支援サービス「ワクサポ」と在宅型就労支援「エンカクトレーナー」を開始。現在は300名以上の障害者の定着化・戦力化に向けたサービスの統括をおこなう。