聴覚障害は「耳が不自由」とひとまとめにされがちですが、状態には個人差があるのが特徴です。発症したタイミングや状況などによって種類分けされます。
そのため、心当たりがあったとしても、実際に自分が聴覚障害に該当するのか、どのように対処すればいいのかがわからず、不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回は聴覚障害の種類や等級について詳しく説明します。また、聴覚障害者が困難を感じやすいシーンや円滑にコミュニケーションを取るための工夫についても解説します。聴覚障害者の就職に役立つ支援サービスもご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
聴覚障害とは
聴覚障害とは、声や音を聞く力(聴力・聴覚)に問題が生じることです。話している言葉や周りの音が聞き取りにくい、もしくは全く聞こえない状態を指し、先天性と後天性の2つに分かれます。
耳は外耳・中耳・内耳の3つが繋がった構造で、外耳で音を拾い集め、中耳で音を振動に変えて内耳に伝えます。内耳がその振動を電気信号で脳に伝達することにより、音を認識する仕組みです。
3つのうちのどこかに異常が起きることにより、聴覚障害が引き起こされます。また、耳では聞こえていても、脳や神経の異常によって声や言葉として認識できないというパターンもあります。
引用元
聴覚障害・言語障害について | 和歌山県
聴覚障害|文部科学省
聴覚障害の種類
前章で聴覚障害の概要をお伝えしましたが、聴覚障害と一言で言っても、いくつかの種類があります。以下でそれぞれの特徴をお伝えします。
引用元
聴覚障害・言語障害について | 和歌山県
聴覚障害って何ですか。|神奈川県聴覚障害者福祉センター
聴覚障害者の情報アクセシビリティ|総務省
ろう
「ろう」とは、生まれつき、もしくは言語を習得する前に聴力が失われた状態です。遺伝が原因になっていることもあります。
中途失聴
「中途失聴」は、言語を覚えてから聴力を失った場合です。発話には問題がないという方も多くいます。
難聴
「難聴」は、聴覚は残っていますが、特に小さい音が聞こえない状態です。聞こえの程度には個人差があります。難聴は状態によって下記の3つのパターンに分けられます。
伝音性難聴
「伝音性難聴」とは、音を集める外耳から音を伝える中耳の部分に問題があり、聴覚機能が失われている状態のことです。「伝音難聴」とも呼ばれます。
感音性難聴
「感音性難聴」とは、内耳・聴神経・脳のいずれかに支障が出て聞こえにくさを感じる状態のことです。突発性難聴やメニエール病が該当します。「感音難聴」とも呼ばれます。
混合性難聴
上述した伝音性難聴と感音性難聴の両方が原因になっている場合は、「混合性難聴」と呼ばれます。
聴覚障害のレベル・等級
聴覚障害は一般的に、聴力レベルを示す「デシベル(dB)」が大きくなればなるほど難聴が重度であると判断されます。下記の表にdB数と状態をまとめたのでご覧ください。
難聴の度合い | dB数 | 聞こえの状態 |
---|---|---|
正常 | 0~25dB未満 | 正常 |
軽度難聴 | 25~40dB未満 | 軽度 (小さい声や騒音の下での会話が聞き取りにくい) |
中等度難聴 | 40~70dB未満 | 中等度 (普通の声の大きさでの会話が聞こえづらい) |
高度難聴 | 70~90dB未満 | 高度 (大きい声もしくは補聴器でしか聞き取りにくい) |
重度難聴 | 90dB~ | 重度 (補聴器では聞こえづらく人工内耳が推奨される) |
引用元
難聴対策委員会報告 ‐難聴(聴覚障害)の程度分類について|日本聴覚医学会
身体障害者手帳の等級基準
聴覚障害をお持ちの方の身体障害者手帳の等級基準は以下のように規定されています。
等級 | 基準 |
---|---|
2級 | 両耳の聴力レベルがそれぞれ 100dB以上 (両耳全ろう) |
3級 | 両耳の聴力レベルが90dB以上 (耳元に近づかなければ大声を認識できない) |
4級 (右記基準のいずれかに該当) |
|
6級 (右記基準のいずれかに該当) |
|
聴覚障害者が困っていること
聴覚障害を持つ方は、さまざまな場面で困難を感じています。そこで、困りごとが起こりやすい場面について確認してみましょう。
日常生活
聴覚障害は外見ではわかりづらいため、そもそも障害があることに気づいてもらえず、困っていることが伝わりにくいといった懸念があります。具体的には、人からの呼びかけや、施設・交通機関などでの案内放送が聞こえない・うまく聞き取れないなどが挙げられます。
また、聴覚障害をお持ちの方のなかには、電話での会話が難しい方も多いです。人混みなどのガヤガヤした場所では特に聞き取りづらいので、周囲が配慮しなければなりません。
仕事
仕事の際にも困難が生じやすいです。話が早くてついていけない・複数人が話している環境ではより聞き取りづらいなどの事態が起こりえます。適宜筆談や会議の文字起こしなどをしてもらわなければ、理解が難しいことも多いでしょう。
聴覚障害者のコミュニケーション方法
聴覚障害者の方と障害のない方がコミュニケーションを取るためには、いろいろな手段があります。下記でそれぞれの方法についてご説明しましょう。
なお、障害の種類や聞こえのレベル、育ってきた環境などによって、意思の伝達方法が異なります。相手の要望をくみ取り、円滑なコミュニケーションに繋げましょう。
筆記・筆談
筆記・筆談とは、伝えたい内容を、紙に書く・入力するなどして文字で表す方法のことです。パソコンやスマートフォンが普及したことにより、メール・チャットのほか、音声を文字化する音声認識アプリを用いる方法も増えています。
手話・指文字
手話は、手の動かし方や表情などで話したいことを伝える方法です。一方、手指で50音を示しながら会話する方法を指文字と呼びます。スムーズに意思疎通ができますが、お互いが習得している必要があります。
口話・身振り手振り
口話とは、聴覚障害をお持ちの方が、話す人の口の動きや表情の変化、体の動き、話している場面などを総合的に考慮して内容を理解する方法のことです。また、状況によっては、手などを動かしながらイメージを伝える「身振り手振り」(ジェスチャー)も効果的です。
補聴器を使う
聴覚障害者のなかには、補聴器をつけることで聞き取りやすくなる方もいます。
とはいえ、補聴器をつけていればどんな環境やどんな声でも聞こえるというわけではありません。会話の際には、静かな場所でゆっくり聞き取りやすいように語りかけるなどの配慮が必要です。
人工内耳を装着する
補聴器の効果が思わしくない方の場合、人工内耳を利用する方法もあります。
人工内耳とは、耳の奥などに埋め込む部分(インプラント)と、音を拾ってインプラント部に送るプロセッサ(耳掛け式や頭部に取り付けるタイプなどの体外装置)の2つのパーツから構成される機器のこと。
蝸牛の代わりに音を電気信号に変換してくれ、その信号が神経を通って脳に届き、音として認識するという仕組みです。
ツールを活用する
UDトークやPekoe(ペコ)など、コミュニケーションに利用できるツールがあります。
UDトークは音声を認識して文字化や翻訳などができるアプリ。ペコは会議などでメンバーが発言した内容がリアルタイムで文字起こしされるアプリで、間違いがあれば手動で修正できるアプリです。
必要に応じて利用してみてはいかがでしょうか。
各ツールの詳細は、下記のページでご覧ください。
UDトーク
Pekoe
聴覚障害者の周りにいる方ができる工夫
聴覚障害を抱える方の周囲にいる人々は、会話の際や相手が困っているときにどんな工夫ができるのでしょうか。
障害の度合いやそのときの状況などにもよりますが、単に大きな声で話せばいいというわけではありません。
相手と正面から向き合うためには、口元をマスクなどで覆わず、動きや表情が見えるようにしながらゆっくりはっきり話す、適宜ジェスチャーを用いる、お互いの認識が合っているかどうかを要所要所で確認するといった工夫が必要です。
状況に応じて手話や筆談も利用してみてください。
聴覚障害者が利用できる就労・就業支援サービス
ここからは、聴覚障害者が就職や転職する際に利用できる場所や支援サービスを紹介します。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般就労を目指す障害者のために、トレーニングや就職活動のサポート、就職後のフォローなどが受けられる場所です。全国に3,000以上の事業所が設置されているので、下記ページより詳しい住所を確認してみるとよいでしょう。
障害者福祉サービス事業所等 都道府県別リンク一覧
東京都近郊の方には、下記の事業所もおすすめです。
ワークイズ
引用元
就労移行支援事業|厚生労働省
人材紹介・転職エージェント
人材紹介・転職エージェントは、利用者からのヒアリングをもとに、適性診断を行ったり、応募や面接の日程決めなどをサポートし、企業と応募者の橋渡しをしたりするサービスです。障害者の採用に向けて力を入れているエージェントであれば、障害に対する理解や配慮のある職場を多数取り扱っています。
また、採用後の定着サポート(就職者からの相談対応や企業との情報連携など)も受けられる場合が多く、就職後も安心して働けるでしょう。
聴覚障害の方も暮らしやすい世の中に
聴覚障害は表立ってわかりにくいことから、困っていたり悩んでいたりする事実に気づいてもらえないケースが多々あります。そのため、自分の状態を周りに理解してもらいやすく、生活しやすい環境へと整っていくことが期待されるところです。
場合によっては仕事についても見直す必要があるかもしれませんが、「忙しい職場だから配慮をお願いできない」といった理由でお悩みの方や、症状と向き合いながらこれから就職を考えている方は、障害者枠で就職・転職するという手段もあります。 初めから症状を伝えて、配慮をあらかじめすり合わせしたうえで入社することによって、安心して働くことができます。
実際に、障害者枠で働き始めた方々からは「隠しながら就業していた頃よりも安心して働ける」「配慮をいただきながら働くことに後ろめたさがなくなった」というご感想をいただいております。
DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害をお持ちの方々の生活に有益な情報の発信に努めて参ります。
「今の自分に無理のない働き方をしたい」「症状に理解のある環境で働きたい」というご希望をお持ちの方に対して、就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。
お一人おひとりの状況やご希望に合わせて適切なご提案をさせていただきますので、ぜひ一度ご相談ください。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。