高次脳機能障害の方が仕事をするうえのポイント|休職や復職、仕事探しのヒントなど解説

ご自身でも自覚・理解が難しい「高次脳機能障害」。仕事をするにあたってもどのような障害かを理解し、周囲にわかりやすく伝えることが重要です。
この記事では高次脳機能障害をお持ちの方の仕事探しやスムーズに仕事をするためのコツなどについて解説します。ぜひ参考にしてください。

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは病気やケガによる脳の損傷が原因で、記憶・思考・判断といった脳の機能が損なわれてしまう障害です。それぞれの症状の困りごとに加え、外見からはわかりにくいため周囲からの理解が得られず苦労をしたり、後天的な受傷が多く「以前はできていたのにできなくなってしまった」と自信を失ってしまったりといったケースも少なくありません。

 
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障害者手帳を取得していれば、必要な配慮を受けながら障害者雇用枠でやりがいをもって働くことも可能です!

参考:国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター「高次脳機能障害を理解する」
健達ねっと「高次脳機能障害とは?症状や原因、治療、予防を分かりやすく解説!」

高次脳機能障害のおもな症状

高次脳機能障害の4つの代表的な症状を詳しく見てみましょう。

  1. 記憶障害
  2. 注意障害
  3. 遂行機能障害
  4. 社会的行動障害

参考:高次脳機能障害支援拠点機関 松山リハビリテーション病院「[症状別]高次脳機能障害について」
千葉県千葉リハビリテーションセンター「高次脳機能障害とは」

記憶障害

高次脳機能障害における「記憶障害」とはその名の通り、

  • 物の置き場所や出来事などを覚えられない
  • 言われたことを忘れる
  • 同じ話や質問を繰り返す

などといった症状・困りごとが起こります。

 
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駅までの道順やオフィス内のレイアウトが分からなくなってしまうといったことも……。

注意障害

「注意障害」とは具体的に

  • ぼんやりしてしまう
  • 同時に2つ以上のこと(マルチタスク)ができない
  • 集中力が持続しない

などが起こります。

 
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物音や動きによって、集中すべき対象から意識がそれてしまうことも……。発達障害と似たような困りごとも起こります。

遂行機能障害

「遂行機能障害」とは以下のように

  • 自分で計画を立てられない
  • 指示を必要とする
  • 時間を守れない

など、物事を一人で実行し完了するにあたって困難を伴います。

 
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「注意障害」や「社会的行動障害」と重なる、無気力さや情緒の不安定さも関係してきます。ただし抑うつ状態であるケースもあり、その場合薬物療法などで改善が見られます。

参考:広島県立障害者 リハビリテーションセンター「遂行機能障害」

社会的行動障害

「社会的行動障害」とは

  • 感情をコントロールできない、自己中心的になる
  • 興奮しやすい、怒りやすい、暴力的になる

といった感情に関する症状が現れ、時として人間関係にも悪影響を及ぼしかねません。

 
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くわえて、これらの症状が・どの程度あるのか「自己認識」がしづらいのも高次脳機能障害の特徴です。

参考:国立障害者リハビリテーションセンター業績発表会(2006)「高次脳機能障害者の自己認識の特徴 -グループ訓練の評価表から-」

高次脳機能障害で休職や退職する場合の支援制度

働いている中で高次脳機能障害になった場合、「休職」や「退職」といった選択肢も出てくるでしょう。そのような場合だけでなく、お金や生活における支援制度を知っておきましょう。

参考:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」

障害者手帳

発症時期や症状・程度によって「障害者手帳」が取得でき、様々な福祉/民間サービスを受けられます。
症状によって、取得できる手帳の種類は異なり、多くのケースは「精神障害者保健福祉手帳」ですが、手足の麻痺や失語症などの場合は「身体障害者手帳」、また場合によっては「療育手帳」が申請対象となる場合があります。

 
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精神障害者保健福祉手帳は初診から6ヶ月後に申請が可能になります。

参考:厚生労働省「障害者手帳について」

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障害年金

障害年金とは生活や仕事に支障が乗じた場合に支給される障害をお持ちの方を対象とした年金制度です。
在職中でも仕事が制限される場合支給されることがあります。また障害者手帳が取得できなくても障害年金を受給できる可能性はあります。

参考:日本年金機構「障害年金」

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生活保護

障害によって仕事をするのが困難な場合、そして生きていく上でのお金がない場合、「生活保護」制度も活用できます。受給条件については住んでいる市区町村に相談をしましょう。

参考:厚生労働省「生活保護制度」

傷病手当金

お勤めをされて雇用保険に加入しており、病気や怪我で長期的に仕事を休む場合「傷病手当金」を受け取れる場合があります。ただし給付は業務外の理由による休職に限られます。

 
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業務による通勤中の交通事故による脳の外傷や過労が原因となった脳梗塞の後遺症など「労働災害(労災)」と認められた場合は、異なる給付があります。

参考:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」

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高次脳機能障害をお持ちの方の就職や転職

高次脳機能障害のために「仕事を続けるのが難しい」・「これから就職するにあたって不安がある」といった場合、どのようなことをすべきでしょうか。ポイントを整理します。

 
 
  • 高次脳機能障害は症状がわかりにくいため就職・転職先の理解が必要
  • 高次脳機能障害をお持ちの方は特性を理解し、説明できるようにしておく
  • 就職や転職活動を進めるうえでハローワークや支援制度などを活用するのがおすすめ

ここからは高次脳機能障害をお持ちの方が就職や転職を進めるうえで知っておきたい、仕事を探す方法や職場選びのポイントなど詳しく解説していきます。

高次脳機能障害をお持ちの方が仕事を探す方法

既にお伝えした通り、高次脳機能障害は「どのような時に、どうなるのか」ご自身のことを客観的に把握するのが難しい場合があります。
一人で全てをやるのではなく、医療機関や福祉機関、そして民間のサービスをうまく活用しながら仕事を選びましょう。
ここではハローワーク(公共職業安定所)と就労移行支援事業所、そして民間のエージェントについて解説します。

ハローワークの専門援助部門を活用する

まずはハローワークの「専門援助部門」を活用する方法があります。専門援助部門は障害をお持ちの方の就職を専門にサポートしてくれます。

 
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「どのように自分の障害を企業に説明したら良いか?」「住んでいる地域の近くで高次脳機能障害に理解のある企業を紹介してほしい」といった相談ができます。

参考:ハローワーク「障害のある皆様へ」
ハローワーク「ハローワークは、就職を希望する障害者の方に専門的な支援を行っています」
ドコモ・プラスハーティの障がい者情報サイト ハーティサロン「ハローワーク(専門援助部門)」

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就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは障害や疾患のある方の就職をサポートする福祉の事業所です。
就職活動のサポート、職業訓練、就職後の定着支援などを原則として無料で受けられます。前年度の世帯所得が高い場合には利用料がかかることもあります。

 
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一定期間の通所・トレーニングを積むことで、働くうえでの注意点や就活のコツに気づけます。
生活支援員や職業指導員といったプロたちによる手厚いサポートもあり安心です。

ワークイズはDIエージェントと連携しているのでお仕事探しもバッチリ!

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障害者雇用枠に特化した転職エージェント

就労移行支援や各種リハビリを重ねながら、ぜひ併せて活用いただきたいのが、障害者雇用枠に特化した転職エージェントです。

DIエージェントもその一つ。障害者手帳をお持ちの方を専門として10年以上のキャリアサポート実績があります。

 
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障害の説明や自己PRのお手伝いはもちろん、「働くことで何を実現したいか?」「何を大切にしていきたいか」を重視して、ピッタリの職場をお探しいたします。

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高次脳機能の職場選びにおけるポイント

高次脳機能障害をお持ちの方が職場選びをする上での、ポイントや流れ見ていきましょう。
まず発症前同様に日常生活を送ったり仕事をしたりするのが困難になるケースが多いです。
リハビリをおこなったうえで医療・福祉機関のサポートを受けながらできることを模索してみましょう。

NIVR(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター)の調査によれば、雇用されている高次脳機能障害の当事者約200名のうち、

  • 障害者雇用枠で就労している人は約7割
  • 受傷前の職場に復職をした方は約2割
  • 正規雇用が約3割、非正規雇用が約6割
  • 職場の配慮ありが約3割、配慮なしが約1割強

という結果になっています。

 
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そのうち、自分で判断して仕事を進めるお仕事をしている方は14%程度で、「指示を受けて」「Wチェックをしてもらって」といったように一定のサポートありで働いている方が過半数です。

在職中に障害を負った場合は、理解が得られるのであれば元の職場への復職を検討しても良いでしょう。
転職する場合には周囲からのサポートを受けられる環境の職場で、特に障害を開示して働くのが望ましいといえます。

参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究」

高次脳機能障害をお持ちの方におすすめの仕事

それでは高次脳機能障害をお持ちの方にはどのような仕事が適職でしょうか。

  • 働き方:定型作業や自身の判断を必要としない仕事
  • 職種:事務職、軽作業、清掃など
 
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データ入力やアシスタント業務など、指示された内容をコツコツとおこなう業務が向いている傾向にあります。


高次脳機能障害をお持ちの方におすすすめできない仕事

反対に、業務の遂行が難しい・向いていない仕事はなんでしょうか。

  • 働き方:臨機応変な対応、対人関係がポイントとなる仕事。日々、新しいことを次々覚える必要がある仕事
  • 職種:テレフォンオペレーター、販売職、営業職など
 
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ここで挙げたのはあくまで一例です。
「高次脳機能障害」といっても症状は人それぞれなので自分にとっての向いている/向いていないを見つけられると良いですね。

高次脳機能障害をお持ちの方がスムーズに仕事をこなすためのポイント

復職する場合でも転職する場合でも、なるべくミスなく仕事をしていきたいですよね。働く上でどのようなことに工夫すれば良いか、実例を交えてご紹介します。

メモやチェックリストを活用する

記憶力や注意力の低下によるミスを防ぐ対策として、メモやチェックリストを活用する方法が挙げられます。
メモを取る練習をして習慣をつけたり、繰り返しやすいミスについてのチェックリストを作ったりしてみましょう。何度も聞き返すことがなくなり、人間関係もスムーズになりそうです。

 
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会社へは配慮として「仕事の指示を受ける時はメモを取る時間をください」とお願いしてみるのも良いですね!

スケジュールやタスクを可視化する

集中力や見通しの立つ安心感を得るための対策として、スケジュールやタスクを可視化してみましょう。
使っているPCのカレンダー機能を使ってもよいですし、1日の始めに「紙に書き出す」といったことでもOKです。業務全体を把握することで計画的に取り組めます。

 
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優先順位づけに自信がない場合は、まずは自分でスケジュールを立ててみて、上司に「この進め方で合っていますか?」と確認を取ると尚良いですね!

高次脳機能障害の方が安心して仕事を続けるためには

復職や転職をする場合において、高次脳機能障害の特性や「できること」などを現場担当者や面接官にわかりやすく説明した上で、「業務上配慮してもらいたいこと」を伝えましょう。
「高次脳機能障害」を開示して働く場合、特に障害者雇用枠においては職場側が配慮できる・受け入れてもらえる可能性が高いです。

 
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高次脳機能障害は進行性ではないこと、そしてリハビリ次第では回復もあることを伝えると、企業側としても安心要素の一つとなります。

高次脳機能障害をお持ちの方に対する職場での配慮

配慮例として、復職・転職問わず休息や仕事量に関して定期的な確認、業務の内容・分担が本人のできることにふさわしいかの確認があります。また復職の場合リハビリ出勤の導入などの検討をしてもらうのも良いでしょう。

「高次脳機能障害」の配慮事例

メーカー/勤続約10年の男性の例

  • 反復作業の多い軽作業(梱包)を主業務に
  • 手順書・マニュアルを整備し、仕事内容をわかりやすくしている
  • 定期的な声かけ
  • 職場内で迷わないように表示を掲示する
  • ジョブコーチを交えて定期的に適切な対策を検討する

参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用事例リファレンスサービス「記憶障害のある高次脳機能障害者に対して、周囲の社員とジョブコーチが協力して、社内の行き先別の携帯用カードや作業マニュアルを作成・活用するなど、効果的な取組みを実施」

 
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くわえて本人の体力消耗・精神的な波があること、「高次脳機能障害とはどんな特性があるのか?」を理解してもらいましょう。
DIエージェントであれば企業側への障害説明や配慮のアドバイスもサポートいたします!

参考:日本作業療法士協会「高次脳機能障害の復職、会社として配慮すべきことは?」
「高次脳機能障害者と働く」


まとめ

高次脳機能障害をお持ちでも、自分にできることを見つけ、いきいきと働かれている方は多数いらっしゃいます。
「これまでの仕事を任せてもらえなくなった」「高次脳機能障害で就職が決まるのだろうか」とお悩みでしたら一人で抱え込まず、外部のサポートやプロの力を頼ってくださいね。
DIエージェントではご本人だけでなくご家族からのご相談もいただいております。丁寧にサポートいたしますので、一緒に一歩を踏み出しましょう!

監修:安部 桐子
産業カウンセラー。EAP事業の立ち上げ経験を活かし、(株)D&Iに入社後には定着支援サービス「ワクサポ」と在宅型就労支援「エンカクトレーナー」を開始。現在は300名以上の障害者の定着化・戦力化に向けたサービスの統括をおこなう。