パニック障害の方の仕事の付き合い方|働く上での工夫や職探しのポイントも解説

パニック障害とは、突発的にパニック発作を起こすことで日常生活に支障をきたす、不安障害の一つです。

実際にパニック障害をお持ちの方の中には、「通勤で使用する電車が怖い」「会議中に発言を求められるとパニックになる」など、仕事を続けることに不安を感じている方もいるのではないでしょうか。

障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別の病気を発症してしまったりする例も少なくありません。

今回は、パニック障害をお持ちの方が転職する際の仕事選びのポイントや、働きやすい職種の例などを紹介します。今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。

パニック障害とは?主な症状と要因

パニック障害とは、日常生活の中で突然さまざまな発作が起きることによって生活に支障をきたした状態を指します。発作の症状にはさまざまなものがあるため、具体的にどのような症状があり、どんな原因で発症するのかを見ていきましょう。

パニック発作

パニック発作とは、状況や場所に限らず突然起きる発作のこと。起こりやすい症状には下記のようなものがあります。

  • 動悸や息切れ
  • 発汗
  • めまいやふらつき
  • 悪寒や震え
  • 窒息感
  • 吐き気
  • 恐怖感
  • 寒気またはホットフラッシュ
  • 死んでしまうのではないかと感じるほどの強い不安感 など

発作は数分でピークに達し、数十分程度で落ち着くとされます。

予期不安

前項で伝えたパニック発作を繰り返すうちに、「また起きたらどうしよう」「次はもっと激しいのではないか」という恐怖や不安を感じ始める方も多いです。この状態を「予期不安」と呼びます。

広場恐怖

広場恐怖とは、パニック症状から逃れるのが難しい場所や環境を避けようとする状態のことです。「広場」といっても、広い場所に限定されません。

交通機関や人が多い街中などを避けたり、社会的な交流が困難になったりして、ひどくなると家から出られなくなります。日常生活や仕事にも影響が出る可能性があります。

 
キャリアアドバイザー
パニック障害が重症化することにより、うつ病などの精神障害を併発するケースも多く見られます。また、反対に、うつ病が原因でパニック障害を引き起こすこともあります

パニック障害の要因

パニック障害は精神障害の一種ですが、実は、今のところ明確な要因は解明されていません。しかし、ストレスや疲労のほか、不安に関する神経機能が影響しているのではないかと考えられています。

先天的なものと後天的なものがあるとされ、健康な人でも突然発症する可能性があるので、注意が必要です。

パニック障害が起こりやすい場所や場面

パニック障害が発症しやすいシーンとはどんな状況なのでしょうか。日常生活と仕事、それぞれでよく見られるシーンを紹介します。

【日常生活】

  • 雑踏やデパートなどの人混み
  • 病院や施設などの公共の場
  • 入浴時や就寝中などの一人の時間 など

【仕事】

  • 通勤時に利用する電車やバスなどの乗り物
  • 緊張する会議
  • 狭いエレベーターの中
  • 激務や残業などで疲労がたまっているとき など

また、自分で車を運転しているときや緊張が解けたとき、以前に発作を起こしたことがある場所・場面などでも起きやすいといわれています。

 
キャリアアドバイザー
予期不安や広場恐怖によって、そのようなシーンに恐怖を感じ、避けようとする気持ちが働く方も多いです

パニック障害をお持ちの方が感じやすい仕事の悩みとは

パニック障害をお持ちの方は、仕事でどのような悩みを抱えやすいのでしょうか。

まずは予期不安に対する悩みが挙げられます。仕事中いつ発作が起きるか分からず、「会議中に発作が起きたらどうしよう」「外回りの途中で発作が起きたら、だれも助けてくれないのではないか」などです。

実際に発作を起こした方の中には、「同僚から理解を得られず、あまり関わってはいけない人と思われてしまった」「一人で留守番をする時間に発作を起こし、誰にも助けを求められなかった」などの経験がある方もいます。

また、前述したように満員電車やバスが発作の引き金となることも多く、ラッシュアワーにおける長時間通勤が大きなストレスとなっている方も少なくありません。

パニック障害をお持ちの方が仕事をする際にはこのような悩みを抱えがちですが、成す術がないのかというと、そうではありません。そこで、次章では、パニック障害の方が仕事のときにできる工夫について解説します。

パニック障害の方が仕事をする上でできる工夫や対策

ここからは、パニック障害の方が仕事の際にできる工夫や対策を見ていきましょう。

自分の症状を正しく理解する

まず、パニック障害に関する自分の症状を正しく理解しましょう。

仕事を想定した際にできることとできないこと、苦手な場面などを整理してください。その際はどのような配慮があれば働けるのか、そして、実際に発作が起きた際にどのような対処が必要となるのかも理解しておくことが大切です。

「密室となった場所が苦手なので、発作が起きた際に逃げられるようにドアの側で作業をしたい」「発作が起きそうになったら外に出て、一呼吸すると気持ちが落ち着く」など、具体的な対処法も整理しておくと良いでしょう。

パニック障害について伝え、理解を得る

転職・就職時の面接の際などには、自分がパニック障害を抱えていることやどんな症状が出るかなどを伝えましょう。仕事を始めてからも、周囲に自分の症状について伝え、理解してもらうことが大切です。

理解を得られるまでに時間がかかる場合もありますが、どんなときにどうしてもらいたいかという具体的な内容を上司などに相談してみてください。

通勤や働き方について配慮してもらう

パニック障害の症状が起こりやすいシーンを前述しましたが、通勤ラッシュの乗り物内で症状が出ると、どこにも逃げづらいため、きつい状態に耐えなければなりません。そこで、通勤時間をずらしてもらうなどの配慮をお願いしてみましょう。

また、仕事をする場所が閉塞感のある場所だったり、業務内容が緊張感の強いものであったりする場合、変更してもらうなどの措置も検討してもらうと良いでしょう。体調に応じて、時短勤務やテレワークが可能かも聞いてみてください。

自分でできる対処法・リラックス方法を見つける

癒やしの音楽を聴く・ストレッチをする・合間に休憩して外の空気を吸うなど、仕事中に自分でできるパニック障害の症状への対処法を探しましょう。

日常生活でも、ストレス発散やスポーツ、入浴などで少しでも改善できればベターです。生活リズムを整えることも大切なので、規則正しい生活を心がけてください。

パニック障害の症状がつらいときの仕事はどうする?

前章のような工夫や対策をしても、パニック障害の症状がひどく、どうしても仕事に支障が出ることもあります。そのような場合にはどうすればいいのかを見てみましょう。

休職制度を利用する

入社前に面接を受ける際、休職制度や各種のサポート制度があるかどうか、そして細かい内容について確認しておき、仕事が困難な場合は一定期間仕事から離れることが大切です。

ただし、休職制度がない企業もありますし、休養できる期間は企業によって異なります。医師の診断書などが必要になる職場もあるので、確認して対応しましょう。

休職中は傷病手当金をもらえることもあるので、総務担当や上司に相談してみてください。また、休職している間は仕事のことを考えず、休養や治療に専念することが大事です。

退職することも視野に入れる

症状によっては、仕事を続けることが難しい場合もあるかもしれません。一定期間休職してもなかなか状況が改善されない、職場に休職制度がないといった場合は、退職することも考えましょう。

今の療養期間は次の職場で安定して働くための準備と考えて、ゆっくり休むことが大切です。

 
キャリアアドバイザー
パニック障害などの精神疾患は、真面目で責任感が強い方がなりやすいといわれています。仕事を休む・辞めることによって、『周りに迷惑がかかるのでは』『早く良くならなくては』と焦ってしまいがちですが、そもそも頑張りすぎていることが原因の可能性が高いため、しっかり休養することが非常に重要です

パニック障害の方の転職活動|仕事選びのポイント

パニック障害をお持ちの方が転職活動をする際は、次に挙げるポイントを押さえて企業を選ぶと良いでしょう。

勤務時間の自由度

まず、勤務時間にある程度の自由度があることです。

前述したように、ラッシュアワーの通勤は、多くのパニック障害をお持ちの方にとって負担になりやすいです。そこで、ラッシュアワーを避けて出社時間を調整してもらえると助かります。

また、予期不安や発作が起きて、欠勤や遅刻をしてしまうこともあるでしょう。シフトに自由が利きやすく、欠勤した際のフォロー体制が整っている企業だと安心です。精神科通院の日程調整もしやすくなります。

いきなり正社員や契約社員で働くのではなく、まずは融通が利きやすいアルバイトやパートからスタートするのも一つの方法です。

自宅からの距離

自宅から職場への距離にも注意しましょう。通勤時間の長さが大きなストレスとなって、発作を誘発することもあるためです。特に満員電車やバスは閉塞感を強くさせ、症状が悪化する傾向があります。

なるべく自宅から近い距離にある職場を選ぶ、また、遠い場合は職場近くに引っ越すことも検討してみてください。徒歩や自転車通勤ができる距離だと、さらに安心です。

福利厚生

福利厚生が充実しているかどうかも、大切なチェックポイントです。体調を崩した時でも休みやすい休暇制度や、各種のサポート体制が整っていると安心して働きやすいでしょう。

病気への理解度

前提として、パニック障害をお持ちの方は、自分の症状について自己理解を深めておくことが大切です。その上で、症状が起きやすい場面に遭遇する機会の少なそうな職種・企業を選びましょう。

パニック障害という病気に対して、職場全体がどの程度理解しているかどうかも重要です。理解があれば発作が起こりやすい要因を排除してもらったり、体調を崩した際に休ませてもらったりと、安心して働けるようになるでしょう。

自分のペースで仕事ができるか、周囲のサポートを得られるかなども確認しておくと安心です。

また、アットホームな職場や、経営者・上司がパニック障害に対して理解を持っていると、仕事に関する悩みも気軽に相談できます。

相談窓口があると安心

社員が困ったときに相談できる窓口が設置されていたり、産業医が配置されていたりする企業もあります。メンタルヘルスについて相談に乗ってもらえることは安心感につながり、何かあったときにも対応してもらいやすいので、ぜひ確認してみてください。

障害者雇用枠での就職・転職も可能

一般就労ではなく、障害者雇用枠で働く方法もあります。精神障害者保健福祉手帳(障害者手帳)を取得すれば、障害者雇用枠で就職や転職することが可能です。

障害者雇用枠での就職・転職では、企業側がある程度障害者への理解があることが安心材料でしょう。パニック障害の方を雇った前例がある企業だと、さらに働きやすい環境が整っていることが期待できます。

 
キャリアアドバイザー
自分が仕事をする上で無理のないように、自分にとって本当に働きやすい環境を見つけましょう

パニック障害をお持ちの方でも働きやすい職種例

パニック障害をお持ちの方が転職活動をする際は、なるべく自分にとってストレスの要因となるものがない職種を選ぶことが大切です。働きやすい職種の例を見ていきましょう。

ただし、以下で紹介する職種はあくまでも例です。パニック障害と一口にいっても、症状や程度は人それぞれなので、選択肢は他にもたくさんあります。

事務職などのデスクワーク

体力を使う仕事や変則勤務の仕事が原因で体調を崩してしまう人におすすめなのが、事務職などのデスクワークです。

デスクワークなので体力的な負担が少なく、多くの職場では日勤であることから生活リズムも一定になりやすいです。また、ノルマがない定型的な仕事が多いので、精神的なプレッシャーも少なくて済みます。未経験の場合も比較的仕事に就きやすいのも魅力でしょう。

コールセンターなどシフトに融通が利く職種

2つ目は、コールセンターなど、シフトに融通が利く職種です。勤務開始時間や勤務時間に融通が利くことが多いため、ラッシュアワーの通勤を外したり、体に負担がかからない程度の時間で働いたりできるでしょう。

また、ノルマがプレッシャーになる人は、ノルマがない職場を選ぶことも重要です。

テレワークでできる仕事

3つ目は、テレワークでできる仕事です。インターネットの普及から、最近では自宅でもできるネットを使った仕事がたくさん登場しています。

通勤やオフィスにいることがストレスになる人におすすめです。体調を崩してもすぐにベッドに横になったり、自分のペースで休憩を取る事ができるのも大きなメリットといえるでしょう。

これまでにご経験のある業務

もし中途でパニック障害を負い、今までと全く同じようには仕事ができなくなった場合でも、今の状態でできる範囲の業務を任せてもらえるケースもあります。

企業の募集内容に完全に合致していなくても、できることとできないことを明確にした上で応募時に相談すれば、配慮してもらえる可能性もあるでしょう。そのため、ご経験のある分野での就職を諦める必要はありません。

パニック障害の方が仕事探しに利用できるサービス

最後に、パニック障害をお持ちの方が転職活動を行う際に利用できるサービスを紹介します。

ハローワークを利用する

ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のことです。窓口や施設に設置してある検索機で全国の求人情報を調べることができます。

仕事探しの方向性が定まっていない方やキャリアプランのイメージがつかめない方は、窓口で職員に相談してみましょう。アドバイスをもらいつつ、仕事探しを手伝ってもらえます。

また、地域によっては履歴書の書き方や面接対策セミナー、合同企業説明会などを開催していることがあるので、気になる方はチェックしてみましょう。

職場体験実習を利用する

障害者雇用をしたい企業の中には、職場体験実習を行っているところもあります。本格的な採用の前に一定期間実習として働いてもらい、企業側と応募者側の双方で適性を図るためのものです。

仕事の内容や職場の雰囲気、通勤する際の負担の大きさなど、実際に体験してみることで本当に働ける場所かどうかを検討するチャンスとなるでしょう。

就労移行支援を利用する

就労移行支援は障害者福祉サービスの一つです。一定期間通所をして、働くために必要なビジネススキルや生活スキルのトレーニングを受けることができます。

離職中ですぐに働くことに不安がある方は、就労移行支援事業所に通いながら就業のための生活リズムを作ることがおすすめです。

また、就労移行支援事業所がハローワークや人材紹介会社とのパイプ役となって、パニック障害の方の求人探しから応募までもサポートしてくれます。

就職・転職エージェントを利用する

就職・転職エージェントとは、いわゆる人材紹介サービスの一つです。最近では障害者雇用に特化したエージェントも登場しており、パニック障害をお持ちの方でも満足いく対応やサービスを受けられることでしょう。

登録をすると、専任担当者が一人ひとりに付きます。これまでの仕事経験や障害のこと、希望条件などを丁寧にカウンセリングした上で、ピッタリな仕事を紹介してくれるのが特徴です。

企業と直接つながっているため、ハローワークには掲載されていないような優良求人を紹介してくれるエージェントもあります。

パニック障害と付き合いながらでも仕事をすることは可能

パニック障害の方は、発作の症状がつらいだけでなく、予期不安や広場恐怖も持ち合わせており、不安や苦しさを抱えていることでしょう。仕事をする上でも大変な面が出てくる可能性がありますが、休養や転職など自分の状態に合った選択肢を活用してみてください。

障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。

今の職場を続けていくことに負担・不安を感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。

DIエージェントは、「障害をお持ちの方一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ために、障害者枠で就職・転職を検討されている方に対して就職・転職についてのアドバイスや、ご希望に沿った障害者枠の求人紹介を行っております。

専任のキャリアアドバイザーが丁寧にヒアリングし、お一人おひとりに寄り添った働き方を提案させていただきます。

「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でもかまいませんので、ぜひお気軽にご相談ください。

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監修:井村 英里
社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。