車いすでの富士登山から始まった縁 「誰もが挑戦できる社会」に向けて【対談企画 株式会社ミライロ垣内俊哉 × 株式会社D&I小林鉄郎(前編)】

障害のある当事者の視点から、インフラやソリューションを提供する株式会社ミライロ代表取締役社長の垣内俊哉さん。

株式会社D&I代表取締役の小林鉄郎との対談企画が実現しました。

前後編の2部でお送りします。前編では二人の出会いから、社会課題への共通する想いを語っていただきました。

二人は実は十数年来の仲です。出会いのエピソードから、共通する社会課題への思いまで、じっくり語っていただきました。

プロフィール
  • 垣内 俊哉(かきうち としや)
    株式会社ミライロ代表取締役社長
    1989年愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインに関する事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修などを提供する。

  • 小林 鉄郎(こばやし てつろう)
    株式会社D&I代表取締役
    1985年石川県金沢市出身。2007年新卒で経営コンサルティングやヘッドハンティングを行う株式会社ジェイブレインへ入社。新規事業として障害者雇用支援事業立ち上げに携わる。2009年、前代表の杉本とともに株式会社D&I創業、取締役就任。全事業を統括。2021年6月、代表取締役に就任。

※本記事の内容は2023年1月取材当時の内容です。

二人の出会い 前例のない車いすでの富士登山

――まずは二人の出会いについてお聞きします。どのような経緯だったんですか?

垣内:
最初は僕からTwitterでご連絡しました。2010年頃だったと思います。同じ業界の先輩経営者だったので「勉強させてください」と大阪から東京まで会いに行きました。

小林:
当時は学生さんでしたよね? 僕たちもまだ創業して間もない頃でした。

垣内:
大学2年生くらいでしたね。翌年、小林さんが大阪にいらっしゃるタイミングでもお会いして、その時に「富士山登るけど、どう?」って誘ってもらって。僕は何も考えず二つ返事で「行きます」と。

小林:
D&Iでは創業時から毎年「ダイバーシティ富士登山」という企画をやっていました。50人が参加して、その約半数が全盲、聴覚障害、発達障害など、何かしら障害のある方です。でも、車いすユーザーの方は前例がありませんでした。垣内さんが行きたいと言ってくれたので、実際に準備を始めましたが、ネットで「富士登山 車いす」と検索しても一切情報が出てこなくて…。こちらから誘った手前、焦りましたね(笑)。何とか自己流で登り方を編み出して、緊急時に備えて病院やヘリの手配なども調べて、これだけ準備したら行けるだろう、と。

――前例のないチャレンジということで、準備から既に手探りだったんですね。無事に登頂できたんですか?

垣内:
傾斜が急すぎて最初は全然進まなかったり、体が冷えきって命の危機も感じたりしましたが(笑)、結局8合目までは登ることができました。

小林:
途中で垣内さんの体の震えが止まらなくなったんですよ。すぐに「危険だから降りよう!」という話をしましたが、本人はなぜか「登ります!」って…。震えながら(笑)。本人がやると言っているので、仕方ないから全員で空元気を出して、続行しました。

垣内:
僕、その時のことは覚えていないんです(笑)。頭が真っ白で、とにかく登らなきゃって思ったんでしょうね。

昔話に花を咲かせるお二人
お二人は10年来の仲。昔話にも花が咲きました。

小林:
本当に大変でしたが、無事下山して。最後に垣内さんが「ありがとうございました。これで結婚して子供ができた時に『日本一の富士山に僕は挑戦した、登った』って言えます!」と言ってくれたことが印象的でした。ああ、やってよかったな、って。

垣内:
こちらこそです。利益も出ないどころかリスクしかないのに、これだけ本気でやれる会社があるというのが僕には衝撃的でした。

小林:
前職から障害者雇用に携わってきたなかで、障害のある方には色々な壁があり、健常者に比べてチャレンジできる機会が少ないと感じていました。でも、チャレンジする意思が少しでもあるなら、僕らが機会を作ることや壁を超える後押しをすることで、チャレンジできるかもしれない。ダイバーシティ富士登山もその思いでやっていました。「やってみたら、できた」という経験が、その人にとって前向きな気持ちになるきっかけになったらいいな、と。だから、垣内さんの言葉がすごく嬉しかったです。

障害を価値に変える「バリアバリュー」

――前例のないことにチャレンジした体験が二人を繋いでいるわけですね。

垣内:
その後、僕たちが「ユニバーサルマナー検定*」を実施するようになって。この検定は小林社長にも以前受けていただきました。ありがとうございます。

*ユニバーサルマナー検定とは

ユニバーサルマナー(自分とは違うだれかのことを思いやり適切な理解の元行動すること)の実践に必要な「マインド」と「アクション」を体系的に学び、身につけるための検定です。

小林:
すごく勉強になりました。ユニバーサルマナー検定でも学ぶミライロの企業理念「バリアバリュー」(障害を価値に変える)は、当事者である垣内さんならではの視点で生まれた言葉なんだろうと思いましたね。

D&Iでは会社のバリュー(社会に提供する価値)に「義務から戦力へ。人生に選択肢を」という言葉を掲げています。

「義務から戦力へ」は、主に企業様に提供したいバリューです。障害者雇用は義務としての法定雇用率があって、ネガティブな捉え方をされることが少なくありません。ただ、考え始めるきっかけが義務だったとしても、障害のある方々を雇用することによって生産性や成果が上がったという事例もたくさんあります。それぞれの企業様に合った「戦力としての障害者雇用」を実現することが僕たちの役割です。

そして、「人生に選択肢を」は、障害のある方々に提供したいバリューです。障害のある方々もチャレンジすることを諦めず、人生を自分の意志で責任を持って選択していけるように、働き方や雇用のあり方を始めとした選択肢をより多く提供したいと考えています。

その両方が実現することによって、障害のある方々が仕事を通して自分自身の価値を発揮できる社会になっていくと思っています。

D&Iの企業理念・ミッション・ビジョン・バリュー

――お互いの企業理念にはとても通じるところがありますね。

小林:
はい。垣内さんは当事者だからこその視点、切り口でおっしゃっているので、いつも学びをいただいています。

一人ひとり、障害者雇用の可能性を広げたい

垣内:
僕が小林さんとの出会いで富士登山に挑戦することができたように、自分の「できなかったこと」が「できる」に変わる瞬間というのは、往々にして偶発的な出会いから生まれるんだなと感じています。だから、障害のある子どもたちには「多くの人に会おう」ということをいつも伝えてきているんですよ。

小林:
はい、僕たちに限らず、社会をより良くしようと色々なチャレンジをしている人たちがいます。可能性を広げるという意味で、多くの人に会うこと、多くの人に頼ることはすごく大切だと思っています。

垣内:
D&Iさんの事業領域がとても広いのは、「皆さんの可能性を広げたい」という思いの表れなんですね。多岐にわたる事業を展開されていらっしゃる。収益だけを求めるなら一つの事業に集中するはずですが、それは障害のある方々の声に耳を傾け続けていたら必然的にそうなった、という感じなのでしょうか?

小林:
おっしゃる通りです。もともと僕は前職の新規事業として障害者雇用支援に関わるようになったわけですが、当時から企業様と求職者様とのミスマッチを多く見てきました。現在も全国の障害者労働人口約360万人(18~64歳)に対し雇用者数は約69万人。就業率は約19%です。一般の就業率とは相当開きがあります。

企業側も深刻な人手不足ですし、一人ひとりの従業員に配慮する余裕がないという声も多いですが、障害者雇用はやらなければいけないという状況。単純に人材を紹介しただけではうまくいかないケースも多くありました。障害者雇用のミスマッチを抑制するためには、企業側の環境を整えることが大事だと考え、アプローチを変えたんです。

D&I創業後は、一社一社の状況に合わせたコンサルティングに力を入れてきました。まずは業務の棚卸しをして、障害のある方々ができる業務を切り出す。そうしてどのような障害でも受け入れられる環境を作り、実際に雇用が生まれると、今度は定着や雇用継続の課題が出てきました。なので、定着支援サービスを新たに作って…。という具合に、障害者雇用の入り口から出口まで、一社一社、一人ひとりに対してカスタマイズしていった時に「これが必要だよね」となって、ビジネスが広がってきたという流れです。

垣内:
数をこなしたらいいとかではなくて、本気で個々に向き合われて、障害のある方々に良い未来に向かっていってもらおうと取り組まれていることがすごく伝わってきます。

誰もが挑戦できる社会に向けて

垣内:
少し大きな話になりますが、これからどんな日本を、どんな社会を作っていきたい、という今後のビジョンはありますか?

小林:
昨年、D&Iでは新たなビジョンを策定しました。「潜在労働者層の戦力化プラットフォームを構築し、日本の社会課題を解決する」というものです。僕はたまたま前職から障害者雇用に関わってきましたが、実際は障害の有無に関わらず、自分の意思に反して働けないとか働きづらいという方々、いわゆる潜在労働者は世の中にたくさんいるんです。僕たちが障害者雇用で磨いてきたノウハウをもとに、幅広く潜在労働者の支援をしていきたい。そうすると日本の最大の社会課題である人口減少にもアプローチできますし、それが結果的には「誰もが挑戦できる社会」というところに、それこそ地球規模でつながっていくとすごくいいなと思っています。

垣内:
地球規模で!素晴らしいですね。僕たちも負けずに頑張っていきたいです。

<一人ひとりの可能性を最大限追求するエージェント 一歩踏み出す勇気を~後編はこちら~>

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