精神障害者保健福祉手帳取得のメリットとは?申請方法やポイントを解説

「精神障害者保健福祉手帳」取得を迷われている方へ、気になるメリット・デメリットや申請方法をわかりやすく解説します。

申請や更新から交付までの期間など注意すべき点、さらに障害者手帳がなくても精神疾患・発達障害をお持ちのみなさんが利用できるサービスもご紹介いたしますのでぜひ参考にしてください。

精神障害者保健福祉手帳とは?

「精神障害者保健福祉手帳」とは精神障害(精神疾患または発達障害など)があり、日常生活に制限がある場合に取得できる手帳のことです。

「精神障害者保健福祉手帳」とは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づき、精神障害のある方の自立や社会活動の参加促進と支援を目的とした手帳です。

引用元
厚生労働省|精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について

手帳の表紙にはプライバシー保護のため「障害者手帳」とのみ記載されており、中身もどのような疾患や障害内容かについては記載がないのが特徴です。

対象は精神疾患または発達障害などがある方

厚生労働省では、精神障害者保健福祉手帳の対象者について、以下の判定基準を総合的に判断して決めるよう定めています。

  1. 精神疾患の存在の確認
  2. 精神疾患(機能障害)の状態の確認
  3. 能力障害(活動制限)の状態の確認
  4. 精神障害の程度

なお同省のデータでは、
「障害の状態」内にある「気分(感情)障害によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動及び思考の障害の病相期があり、かつ、これらが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするもの」
としていることから、パニック障害やうつ病など、精神が不安定でかつ繰り返しその症状が見られる場合も交付対象としています。

引用元
厚生労働省|精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(◆平成07年09月12日健医発第1133号)

精神障害者保健福祉手帳の等級と程度

厚生労働省が公表している精神障害者保健福祉手帳の等級と程度による判定基準は下表のとおりです。

障害等級 説明
1級 精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級 精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

少し表現が曖昧に感じられるかもしれませんが、実際は日常生活を送るうえでの制限や困り感から多角的に判断されて障害者手帳の交付の判断や等級の認定がおります。

より詳細を知りたい方は厚生労働省の『精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について』を確認することをおすすめします。

精神障害者保健福祉手帳2級と3級の違い

では、精神障害者保健福祉手帳の2級と3級といった等級による違いはなんでしょうか?

 
キャリアアドバイザー
就労を考えるのは精神障害者保健福祉手帳の2級や3級に該当する方がボリュームゾーンです。

日常生活や仕事の場面で考えてみましょう。たとえば、日常生活に大きな支障があり、たとえば、バランスの良い食事を摂るには周囲の助言や援助が必要だったり、入浴や掃除などの清潔保持が自発的にできなかったりする状態が2級と判定されるケースが多いです。

日常生活や社会生活に支障があり、たとえば、配慮ある環境ならば就労は可能だが、ストレス等により困難が生じる状態が3級と判断されるケースがあります。

また服薬状況(常用か、いざという時のための頓服かなど)や通院が必要な頻度なども判断材料になります。

 
キャリアアドバイザー
ここではあくまで一例を挙げましたが、精神障害の症状・特性は十人十色です。精神障害者保健福祉手帳の等級は個々人の様子を見ながら多角的に判断されます。

発達障害のいわゆる「グレーゾーン」の場合、「困っているのに手帳が取得できなかった」という方もいらっしゃいます。

医師に自分の症状を伝えきれていない場合も多いため、伝えきれていないことがありましたら、伝えるところからになるかもしれません。または病院を変える(セカンドオピニオン)などをしてみるのもよいでしょう。

精神障害者保健福祉手帳交付のメリット

「カウンセリングや医療費、薬代がかさむ」「メンタルの調子によって働けないために収入が少ない」などとお悩みの方もいらっしゃるでしょう。

精神障害者保健福祉手帳を取得すると、様々な福祉サービスや支援策が受けられ、経済的なメリットがあります。ここでは、精神障害者保健福祉手帳の取得によってみられるメリットをご紹介します。

なお、お住まいの地域によっては、対象となる等級などが異なることがあるので、詳細はお住まいの自治体に確認することをおすすめします。

福祉制度として助成や税金の減免を受けられる

「精神障害者保健福祉手帳」を取得すると、福祉サービスとして以下のような助成や減免が受けられます。

  • 医療費の助成(多くの地域では「精神障害者手帳」1級のみ)
  • 所得税の障害者控除
  • 相続税の障害者控除
  • 贈与税の非課税化
  • 少額貯蓄の利子等の非課税 …など

これらを踏まえて、手帳取得には税制面のメリットが大きいといえます。

また障害をお持ちの方を扶養する家族もその対象になることもあるので本人に限らず、サポートする方にもメリットがあるといえるでしょう。

 
キャリアアドバイザー
障害者手帳を所有していなくても「自立支援医療制度」を利用すれば医療費の軽減が受けられます。

引用元
厚生労働省|自立支援医療(精神通院医療)について

公共サービス・民間企業などで障害者割引を受けられる

NHKの受信料や公共施設(博物館や動物園など)の他に、民間のレジャー施設などでも障害者手帳の所有者やその付添人に対して、割引制度が適用されることがあります。

 
キャリアアドバイザー
JRの割引は「精神障害者保健福祉手帳」の場合は適用されませんのでご注意ください。

民間の一部交通機関でも割引が実施されています。
以下の記事に主要な障害者割引をまとめてありますので参考にしてください。

症状や特性にあわせた配慮を受けられる

障害をオープンにした働き方の最大のメリットは「症状や特性に合わせた配慮を受けられる」ことです。障害を伝えることで、働く側としても配慮の必要性やどのようなことに注意すれば良いのかをあらかじめ把握できるので、安心感に繋がります。

  • 残業時間の抑制、適切な業務量
  • 通院日への配慮
  • 感覚過敏がある方へ、イヤーマフやサングラスの使用許可など

症状や特性にあわせた配慮を受ける場合、選考の過程などで自分にとって働きやすくなるための工夫や必要な手助けを企業に伝えましょう。

申し出を受けた企業は、対応可能な範囲で障害をお持ちの従業員が必要とする対応をとるよう努める義務があるので、自身にとって必要な配慮については、文章や言葉で不足なく説明できるよう、まとめておくと安心です(=合理的配慮)。

合理的配慮については下記ページで詳しく解説しています。就労先に障害・特性をオープンにする予定がある方は、参考資料としてご覧ください。

大手企業・有名企業にも応募のチャンス

DIエージェントは1,600社以上の取引実績

企業では、規模に応じて雇うべき障害者の人数(法定雇用率)が決まっているため、障害者雇用枠採用をおこなっている企業は大手であることが多いです。

新卒一括採用では競争率が激しいような有名企業でも、障害者雇用枠では比較的広く門戸が開かれていることがあります。

 
キャリアアドバイザー
障害者雇用をおこなっている会社はダイバーシティ経営に積極的な「優良企業」が多いのも魅力的です。

障害者保健福祉手帳の申請におけるデメリットはない

それでは、精神障害者保健福祉手帳の申請にあたってデメリットはあるのでしょうか?

障害者手帳を持つことについてのデメリットは、基本的には無いと考えて問題ありません。

障害者手帳を取得していても、必ずしも障害を開示する必要はありません。
また、本人が不要だと思ったときには、障害者手帳はいつでも返還が可能です。
自分の中で障害の受容ができていれば、必要な福祉サービスを受けやすくなるなどメリットが勝ると言えるでしょう。

ただし、手帳を取得する際に医師による診断書が必要になることから、受診料や診断書料がかかるといった点や、「障害者手帳を持つ」ということそのものに抵抗を感じる方にとってはデメリットになり得る可能性もあります。手帳取得までの手続き、さらに取得後の更新手続きなどに心理的負担があると考える方は、無理に取得する必要はありません。

 
キャリアアドバイザー
手帳取得に抵抗がある方は、手帳の交付を受けなくても利用できる福祉サービスについて知っておくことをおすすめします。

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けなくても利用できる福祉サービスには、障害年金・自立支援医療の申請があります。これらについては下記ページで詳しく解説しているのでこの機会にあわせてご覧ください。

「精神障害?発達障害?」きちんと説明できるように

障害者雇用枠を受けるには、一般的に障害者手帳の写しなどの提出を求められることがあります。

しかし「精神障害者保健福祉手帳」には診断名などは書いておらず、等級が書かれているといっても症状の程度は人それぞれです。

そのため、自分がどのような精神障害・発達障害をもっており、どのような症状や特性があるのかということは丁寧に伝えていく必要があります。

 
キャリアアドバイザー
障害について自分で整理して、人に分かりやすく伝えるのは大変なことです。 DIエージェントにご相談いただければ、キャリアアドバイザーが丁寧にベストな整理法・伝え方を考えます。

精神障害者保健福祉手帳 申請から交付までの方法と流れ

それでは実際に、精神障害者保健福祉手帳の申請から交付までのポイントを確認していきましょう。ここからは細かな流れを解説します。

 
キャリアアドバイザー
初診日から6ヶ月以上経過している診断書が必要です。申請はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ。

引用元
厚生労働省|精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について

申請手続きに必要なもの

まずは窓口へ申請に行く前に必要書類について確認しましょう。

  • 障害者手帳申請書
  • 「診断書」(申請日前3ヶ月以内に作成されたもの)または「障害年金証書等のコピー」
  • 顔写真※申請前1年以内に上半身脱帽で撮影されたもの
  • 「マイナンバーカード」または「マイナンバー通知カードと写真付の公的身分証明書」(運転免許証やパスポートなど)

診断書の作成医は「精神保健指定医、その他精神障害の診断又は治療に従事する医師」とされていますので、ご注意ください。

代理人が申請する場合は、上記に加えて「代理権の確認書類」「代理人の身分証明書」などが必要となることもあります。

申請の方法と流れ

「精神障害者保健福祉手帳」の申請の流れは以下の通りです。

  1. お住まいの地域の福祉担当窓口で「診断書(精神障害者保健福祉手帳用)」の用紙を入手/お住まいの市役所等のホームページから「診断書」をダウンロードします。
  2. かかりつけ医・専門医に行き、「診断書」の作成を依頼します。(※)
  3. お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に必要書類を揃えて提出します。
  4. 障害認定がおり、障害等級が決定します。
  5. 手帳の交付がされます。
    ※注意※かかりつけ医が「精神保健指定医、その他精神障害の診断又は治療に従事する医師」に該当するのかを事前にご確認ください。
 
キャリアアドバイザー
なお、手帳の交付申請は診断書の代わりに受給している障害年金証書等を提示することによりおこなうことも可能です。

交付までの期間はどれくらい?余裕をもった申請を

手帳交付までの期間は1ヶ月から4ヶ月程度といわれています。
初診日から6ヶ月以上経過した診断書の準備期間も含めて、余裕をもって申請の段取りを整えていきましょう。

 
キャリアアドバイザー
新型コロナウイルス感染症流行などの社会情勢の変化や災害などによって交付までに時間がかかる可能性があります。
また手帳の取得検討・申請時点でも障害者雇用枠専門のDIエージェントのサービスを利用できますよ!

精神障害者保健福祉手帳は2年毎に更新が必要

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた後は厚生労働省の規定により、2年毎に更新の手続きが必要となります。厚生労働省の規定は下記のとおりです。

1 手帳の更新
⑴ 手帳の有効期限は2年間であって、有効期間の延長を希望する者は、手帳の更新の手続を行うことが必要である。すなわち、手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、障害等級に定める精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認 定を受けなければならない。(法第 45 条第2項)
(略)
⑶ 手帳の更新申請は、手帳の有効期限の日の3か月前から行うことができる。(規 則第 28 条第2項)

引用元
厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」

万が一、有効期限を超過してしまっても、手帳の更新申請は可能です。更新時には「精神障害者保健福祉手帳申請書」が必要となります。

引用元
厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」

手帳の更新に必要なものは以下のとおりです。

  • 交付されている手帳の写し
  • 申請書
  • 診断書または精神障害による障害年金を受給している場合はその証書の写し

自治体によっては、本人が再申請する場合でも本人確認できる書類の提出を求めることがあります。スムーズな手続きとなるよう、免許証やマイナンバーカードなどを持参することをおすすめします。

なお、手帳の有効期限内であっても精神障害の症状に変化がみられた場合、または手帳に記載された障害等級以外の等級に該当すると考えられる場合は障害等級の変更を申し出ることが可能です。

障害等級の変更が認められると、有効期限は変更決定日から2年後の月末になるので、症状の変化がみられた場合は等級変更について最寄りの自治体に相談することをおすすめします。

等級の変更や再交付も可能

また精神障害の状態に変化があった場合は等級の変更申請も行えます。名前や住所の変更の場合は「変更届」を、紛失などによる再交付は「再交付申請書」をもって申請をします。

CAコメント
滞りなく福祉サービスを受けるためにも更新期限には気を付けましょう。
また最近では新型コロナウイルス感染症対策のため、特例的な対応をおこなっている自治体もあります。

引用元
東京都福祉局|【重要なお知らせ】新型コロナウイルス感染症にかかる精神障害者保健福祉手帳の更新手続の臨時的な取扱いについて

精神障害者保健福祉手帳手続きの3つのポイント

精神障害者保健福祉手帳について細かく説明しましたが、取得する際はこれからご紹介する3つのポイントに気を付ける必要があります。

交付に必要な診断書の発行時期や手帳交付までの期間などについて解説しているので、申請を検討する際の参考資料としてご活用ください。

1.診断書の発行時期

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けるにあたっては医師による診断書の提出が必要となります。この診断書は、精神障害にかかる初診日から6ヶ月を経過した日以後に作成されたものでなければならないので、お手元に診断書がある方は発行された期日に注意してください。

さらに、診断書を受け取ったあとは、できるだけはやい申請が望ましいとされています。これは手帳の発行手続きにおいて手帳申請日の3ヶ月以内のものなど、自治体で期限を設けている可能性があるためです。

手帳発行の手続きや必要書類、各書類の発行時期については、あらかじめお住まいの自治体に問い合わせてから用意することをおすすめします。

2.手帳の交付時期

次に手帳の交付時期です。手帳の交付時期は、自治体や申請時期によって予定より大きく前後する場合があります。通常は1ヶ月~1ヶ月半程度としていますが、診断書の内容によっては医師に確認を取るケースもあるので、一般的なスケジュールで交付されない可能性があることに注意しましょう。

さらに、現在の障害が手帳の交付に該当しないと判断されたり、等級認定に専門審査を要すると判断されたりした場合は、上述した期間よりも遅れてしまうこともあります。

このように、精神障害者保健福祉手帳の交付にはさまざまな場所で時間を要することを念頭に置き、余裕をもって申請しましょう。

3.手帳の表記

障害者手帳には「身体障害者手帳」「療育手帳」があり、これらは表紙にそれぞれ同様の名称が記載されていますが、精神障害者保健福祉手帳のみプライバシーの配慮により、表紙には「障害者手帳」しか記載がありません。

そのため、手帳の表記について何も知らない人が見た場合に、「障害者手帳」という記載によって誤解や混乱を招く懸念もあるので、交付にあたっては状況に応じて説明が必要になる可能性があることに留意しましょう。

精神障害者保健福祉手帳発行における相談先

精神障害者保健福祉手帳の発行においては、いつでも専門知識を持つ方に相談することが可能です。

例えばかかりつけの医療機関や主治医、さらには自治体の障害福祉課などがあります。また、交付を受けたものの、不要と判断したときはいつでも返還することも可能です。

障害や特性によって生活が困難であり、自治体や国によるサポートを受けたいと考えるときは、いつでも気兼ねなく相談できる場所があるので、遠慮なく活用しましょう。

精神障害をお持ちの方が利用できる就労支援

精神障害をお持ちの方が利用できる就労支援もあります。この場合、以下の支援サービスを受けることが可能です。

  • 就労継続支援A型(B型)事業所
  • 就労移行支援事業所

これらについては下記ページで詳しく解説しているので、就労支援について知りたい方、実際に利用を検討中の方はあわせてご覧ください。

日常生活に支障があるなら精神障害者保健福祉手帳取得の検討を

「精神障害者保健福祉手帳」を取得するには、心理的なハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本記事でご紹介したように、日常生活をよりよく過ごすために必要な制度や助成を受けるための福祉サービスであることから、暮らしの中に困りごとがあるようでしたら、ぜひ取得を検討してみてください。

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監修:安部 桐子
産業カウンセラー。EAP事業の立ち上げ経験を活かし、(株)D&Iに入社後には定着支援サービス「ワクサポ」と在宅型就労支援「エンカクトレーナー」を開始。現在は300名以上の障害者の定着化・戦力化に向けたサービスの統括をおこなう。