アスペルガー症候群(ASD)とは?適性が高い仕事や避けた方がいい職場のタイプを解説

アスペルガー症候群(ASD)の診断を受けた方は、特定の分野で高い才能を発揮する一方で、人とのコミュニケーションで問題を抱えたり、強いこだわりが原因でトラブルを起こしてしまうことがあります。

特に成人して社会に出ている人の抱える「大人の発達障害」は、仕事に大きな影響を及ぼし、職場に居づらくなったり、適職が見付からずに悩んでいる人も少なくありません。

そこで、今回は、アスペルガー症候群で仕事に悩んでいる方に、オススメの職種・働き方など仕事選びのポイントや、実際に就職・転職活動を進める方法について解説します。

障害の特性に合った業務に従事することや、理解と配慮のある環境で働くことは、安定して長く仕事を続けていくためにはとても大切です。合わない職場環境で働くことによって、障害が悪化したり、別のご病気を発症してしまったりする例も少なくありません。

そうならない様、今後の働き方を考える参考として、ご自身の状況と照らし合わせながらお読みいただけると幸いです。

アスペルガー症候群(ASD)とは?仕事にも影響する4つの特徴

アスペルガー症候群(ASD)とは?仕事にも影響する4つの特徴

「アスペルガー症候群」とは発達障害の一種で、脳の機能障害です。

現在は「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」と総称されています。

この記事では一般的にも広く認知されている「アスペルガー症候群」という呼称を用い、現在はASDに分類されている中でも知的障害を伴わない特徴にフォーカスして説明をいたします。

「自閉スペクトラム症(ASD)」は概念が広く知的障害・言語の遅れを伴う場合もあります。

しかし「アスペルガー症候群」に限っていえば、知的・言語の遅れは基本的にはありません。

ですから子ども時代は「勉強ができる子」として周囲に受け入れられていたところ、大学でのゼミや就職活動、社会人生活でつまずきを感じて「アスペルガー症候群の傾向がある」とわかることもあります。

今回は社会人になってから働く上での悩みに直面した方へヒントをお伝えできればと思います。

まずは、働くにあたって知っておきたいアスペルガー症候群の特性を見ていきましょう。

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1)コミュニケーション

アスペルガー症候群の方は「行間を読む」、「空気を読む」という、いわゆる言葉の裏や表情、場の雰囲気などから「察する」コミュニケーションが難しい傾向があります。

そのため、職場でコミュニケーションが取りにくく、気が利かないと感じられることがあります。

社会性が劣っているのではなく、独自の考え・意志をもっていると言えます。

他者への関心が薄く共感ができなかったり表情が乏しかったりすることから、周りからは「何を考えているかわからない」と捉えられてしまうこともあるでしょう。

引用元
国立研究開発法人日本医療研究開発機構|自閉スペクトラム症には脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が関連し、社会的コミュニケ―ションの困難さや脳部位間の機能的な結びつきに関与していることが明らかに
厚生労働省|アスペルガー症候群:用語解説

2)反復・こだわり

見通しの立たないことや未知の場面になると不安に感じ、パニックになることがあります。
言語理解の障害はありませんが、同じ行動をくり返す、言葉をオウム返しする……なども特徴の一つです。

偏った興味関心をもち、気になったことに固執する特徴もあります。
周囲からは「なんでそんなことにこだわるの?」と不思議がられてしまうことも。

またツールや配置などにも強いこだわりがあることが多く、人が触れることを嫌うこともあります。こだわりに干渉することが難しく、臨機応変な対応が難しいため、仕事上のトラブルが生じることもあります。

引用元
MHK|大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?特性の理解が大切!

3)感覚過敏・運動機能

感覚も普通の人に比べて特殊です。過敏(服の肌ざわりが過剰に気になるなど)の場合もあれば、鈍感(ケガをしても痛みに気づかないなど)な場合もあり、アスペルガー症候群によってもそれぞれです。

運動機能面では、スポーツで身体をうまく動かすこと・手先を使った細かい作業などを苦手とするケースもあります。

4)過集中

アスペルガー症候群(ASD)の特徴の一つとして、過集中が挙げられます。これは、短期間に非常に強い集中力を発揮し、特定のタスクや興味を持った分野に没頭する状態を指します。

過集中の状態では、個人は一つのことに非常に集中し、高いパフォーマンスを発揮することがあります。このため、特定の作業や専門知識を短期間で習得し、優れたスキルを持つことも可能です。

一方で、過集中の状態では、周りとのコミュニケーションが取りにくく、他の重要なタスクや社交活動に没頭してしまったり、納期やスケジュールを守れなかったりすることが多々あります。これは、過集中が適切なタイミングでコントロールできないために起きる問題です。

引用元
KAKEN|自閉症スペクトラム者の過集中の特異性の検討と効果的支援に関する研究
NHK|集中しすぎる:困りごとのトリセツ(取扱説明書)

アスペルガー症候群の特徴はうまく活用すれば高い仕事の能力でもある

アスペルガー症候群を持つ人々の特徴は、適切に活用すれば高い仕事能力になります。

仕事における過集中は、高度な専門知識を発揮したり、プロジェクトを高い完成度で仕上げるのに役立ちます。

また、独自の興味関心がある分野を選ぶことで、高いモチベーションと専門知識を活用して、優れた成果を上げることができます。自身の興味を仕事に結びつけることで、充実感を得られるでしょう。

アスペルガー症候群の特徴を長所として活かすためには、適切な環境や職場の選択が重要です。理解のある職場や専門性が評価される場所で働くことで、自身の特性を最大限に活用できます。

アスペルガー症候群が悩まされる「大人の発達障害」とは?

アスペルガー症候群が悩まされる「大人の発達障害」とは?

「大人の発達障害」とは、成人して社会に出た発達障害をお持ちの方が、社会人生活で直面するさまざまな問題に悩まされる状況を指します。

一般的に「発達障害」は大まかに「自閉スペクトラム症(ASD)※過去には広汎性発達障害(PDD)の呼称」「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)」「学習障害(LD)」の3つに分類できますが、それらの境界は曖昧です。たとえば、「アスペルガー症候群」と診断されていても、「ADHDの注意欠陥の傾向もある」ということは大いにあります。

発達障害は生まれつきのものですが、教育機関では見過ごされてしまい、成人してから発覚するケースも少なくありません。

会社での人間関係、夫婦関係、親子関係など、成人特有の社会との関わりの中でトラブルが起きやすく、周囲や本人が気づくことが多々あります。

特性に合わない仕事の進め方や環境下で仕事を続け、失敗を繰り返すことによって、自分の中で違和感をもったり他者から指摘されたりして発達障害に気づくのです。そのために「大人の発達障害」と呼ばれることがあります。

コミュニケーションや社会的なスキルに課題を抱えるため、円滑な就労や関係の構築には、周囲からの理解とサポートが必要です。

引用元
厚生労働科学研究成果データベース|成人期発達障害者の生活実態に関する調査 ~全国の発達障害者支援センターの新規相談者の12
J-STAGE|大人になった発達障害
政府広報オンライン|大人になって気づく発達障害 互いに働きやすい職場づくりのために
厚生労働省|No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害
国立研究開発法人日本医療研究開発機構|自閉スペクトラム症には脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が関連し、社会的コミュニケ―ションの困難さや脳部位間の機能的な結びつきに関与していることが明らかに

仕事上で起こりやすいトラブルと対処法

仕事上で起こりやすいトラブルと対処法

アスペルガー症候群の特性によって、仕事中や職場で起きやすいトラブルの例を4つ挙げます。

基本的に、「いつも通り」ではない状況に置かれるとパニック状態になりやすいという性質が大きく影響しているトラブルであり、それぞれの対処法もあわせて解説します。

仕事上で起こりやすいトラブル

主に仕事内容の指示や進行、コミュニケーションで発生しやすいトラブルが中心です。

引用元
独立行政法人労働政策研究・研修機構|論文 発達障害者の就労上の困難性と具体的対策

曖昧な指示が理解できない

「適当に」「いい感じに」「様子を見ながら」などの曖昧な指示への対処が苦手です。そのため、指示の詳細を問い詰めてしまったり、作業が極端に遅くなってしまったりします。

また、見ながら覚えてなどのはっきりしない指示は理解できないことがあります。

一度決まった内容に固執して臨機応変ができない

状況が変化しても、一度決められた内容や、最初の指示に固執してしまいがちなため、指示の変更や状況を見ながらの対応が苦手です。

そのため、臨機応変な対処ができず、変更に納得できないと徹底して理由を求めてしまうことで、トラブルに繋がることがあります。

引用元
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|就業経験のある発達障害者の 職業上のストレスに関する研究

チームワークや場の雰囲気を読んだ判断ができない

その場の空気や雰囲気を読んだ判断は苦手です。そのため、チーム全体の仕事が立て込んでいても、自分の担当が終わったら定時に帰ってしまう、言われるまで手伝わない、通常と違う状況だと棒立ちしてしまうなどの対応が原因で、職場での不和につながるケースがあります。

引用元
独立行政法人労働政策研究・研修機構|論文 発達障害者の就労上の困難性と具体的対策
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|就業経験のある発達障害者の 職業上のストレスに関する研究

割り込みのタスクに対応できない

仕事中に割り込みタスクが発生しても、優先度に合わせて順番を変更できないケースが多々あります。結果として、すぐに対応して欲しい急ぎの仕事に対処できないために、トラブルに発展する場合があります。

引用元
独立行政法人労働政策研究・研修機構|論文 発達障害者の就労上の困難性と具体的対策
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|就業経験のある発達障害者の 職業上のストレスに関する研究

仕事での対処法

では、ここまで挙げてきたようなトラブルはどうしたら防げるでしょうか。

これまで、たくさんのアスペルガー症候群をお持ちの方の転職・就労サポートをしてきたキャリアアドバイザー(CA)の声とともにご紹介します。

パターン化・ルーティン化

 
キャリアアドバイザー
「くり返し」が得意な特性を活かして、仕事をパターン化しましょう!

仕事を一つ一つ分解して、「こうなったら、このように行動する」という決まりを作ってパターン化をします。

万が一、想定外のことが起こっても「これらの全部のパターンに当てはまらなければ上司に相談する」…ここまで落とし込んでしまえば、「どうしよう」と悩む時間も減るでしょう。

今の仕事がケースバイケースの業務内容で「合わない」と感じていたら、ルーティン業務(決まったタイミングで決まった仕事をする)が多い部署に異動するのも一つの手段ですね。

周りに協力をお願いする

 
キャリアアドバイザー
特性を理解して、「かわいがってもらう」ことを心がけましょう

「アスペルガー症候群なんだから理解してよ!」と開き直るのではなかなか理解は得られません。
「こんな考え方の癖があって、もしかしたら傷つけるようなことを言ってしまうかもしれない。もし気になったことがあったら教えてね」などと伝えておくだけでも、周囲とのコミュニケーションがスムーズになります。

また指示を受けた際も「意図がつかめない・わからない」と思ったら、わからない部分を確認する癖をつけましょう。

口頭の指示をもらうより、チャットやメール・マニュアルなど落ち着いて振り返ることができるとベターです。聴覚過敏をお持ちの方は騒がしい環境でなく、静かな場所で指示を受けられるとよいですね。

アスペルガー症候群の適性や向いてる仕事・職種

アスペルガー症候群の適性や向いてる仕事・職種

これから仕事探しをする方や「今よりもっと得意なことを活かした働き方をしたい!」とお悩みの方に、どんな仕事が向いているのかをご紹介します。

IT系や機械系の開発の仕事(SEなど)

IT系や機械系など、技術系の開発分野には、アスペルガー症候群の人が多く就労しています。

過去の研究結果でも、デジタル分野に高い親和性があると示唆されており、興味関心が技術に向いている場合は、集中力と知識が武器になります。

引用元
経済産業省|令和3年度産業経済研究委託費 – イノベーション創出加速のためのデジタル分野における 「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査

研究などの仕事

技術系と同様に、深い知識を元に研究する職場は、アスペルガー症候群の方に向いています。

自分が関心のある分野での研究開発を目指すのも選択肢のひとつといえるでしょう。

引用元
経済産業省|令和3年度産業経済研究委託費 – イノベーション創出加速のためのデジタル分野における 「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査

人と接しない仕事(清掃やピッキングなど)

チームで動くのではなく、一人で黙々とできる仕事です。

特に清掃やピッキング・店舗裏での仕分け作業などは、人と接することがなく、ストレスが少ないです。

求人募集も通年一定数あるので、「向いていそう」と感じたら検討してみましょう。

ルーティンが多い・マニュアル化されている仕事(事務など)

 
キャリアアドバイザー
「ルーティン=事務」と思いがちですが、社内の人と密に連絡を取り合わないといけないことも。入社前にしっかり確認しましょう。

ミスマッチを防ぐ!職場選びのチェックポイント

アスペルガー症候群をお持ちの方が職場選びで気にしたいポイントは2つです。

  • 感覚過敏と環境がマッチしているか(聴覚過敏の場合は騒がしい職場、嗅覚過敏の場合は匂いが気にならないか)
  • 仕事に興味やこだわりがもてるか

これらが合わないと人一倍ストレスを感じるので、「長く続けられそうか?」の観点をもって仕事を探してみてください。

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まとめ

まとめ

アスペルガー症候群は対人コミュニケーションに問題を抱えている障害です。しかし、特性を理解した上で、適切な対応や配慮を受けたり、得意分野を伸ばした職場を見付けたりすることで、長く落ち着いて働くことができます。

障害を抱えながら働く上では、 障害の特性に合った業務に従事することや、障害に理解や配慮のある環境で働くことが大切です。今の職場を続けていくことに負担・不安をを感じている方や、これから障害に合った仕事で就職を目指している方は、ぜひ一度DIエージェントにご相談ください。

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「今の自分に無理のない働き方をしたい」「理解のある環境で働きたい」というご希望がありましたら、まだ転職は検討段階という状態でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。

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監修:井村 英里
社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。