ADHDの方が転職を成功させるためのポイントは?利用できる就労支援機関も紹介

ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、仕事や日常生活でのパフォーマンスに影響を与えることがあります。ADHDの方が転職を考える際は、特性を理解し、どのように活かすかが重要です。

特に、集中力の維持や時間管理に課題を抱えがちなADHDの方にとって、職場選びや仕事環境の調整は成功のカギとなるでしょう。本記事では、ADHDの特性に合った転職活動の進め方と、支援機関の活用方法などについて解説します。

ADHDとは?

ADHDは、注意力の欠如や多動性、衝動性が特徴的な発達障害です。主に集中力や計画性に関する問題が生じることがあります。

ADHDは生まれつきの精神疾患であり、知的発達には遅れがないものの、一般的には特定の認知的な処理に困難を示します。例えば、注意を持続する、情報を整理する、時間を管理するといったことです。これにより、日常生活や職場での業務遂行に影響を及ぼすことが多いでしょう。

厚生労働省の「eヘルスネット」によると、「「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。」とされています。

ADHDの症状は成人期においても続くことがあり、仕事や人間関係において困難を感じることがあります。特に、仕事の優先順位をつける、タスクを完了させる、時間を守るなど、一般的な職務に必要とされるスキルが影響を受けやすいです。

引用元
ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について|文部科学省

ADHDの特性を理解しよう

ADHDは、注意力や衝動性、多動性に関連する特性を持っています。これらの特性は、仕事や日常生活においても大きな影響を与えることがあります。転職を成功させるために、まず自分のADHDの特性を理解しましょう。

注意散漫・不注意

ADHDの代表的な特性のひとつが「注意散漫」です。ひとつのことに集中するのが難しく、仕事や課題に取り組んでいる最中に他のことに気が取られてしまうことがあります。また、不注意から物を忘れたり、必要なものをなくしたりすることも多いでしょう。

このため、業務上でのミスや遅れが生じやすくなります。

衝動性・多動性

ADHDのもうひとつの特徴は、「衝動性」と「多動性」です。衝動性とは、計画的に行動する前に、考えずに動いてしまうことを指します。例えば、仕事の指示を聞いた後にすぐ行動してしまい、指示通りに進める前に別のことに取り組んでしまう場合があります。

また、多動性は、静かにしていられない、落ち着いて座っているのが難しいという状態です。このような特性を持つと、会議やデスクワークなど、集中を要する場面で困難を感じることがあります。

ADHDの方が転職活動の前にやっておきたいこと

ADHDの方が転職活動を成功させるためには、事前に準備を整えることが大切です。自身の特性を理解し、それに合った職場環境を見つけることや、自己分析を通じて自分の強みを把握することが成功のカギとなります。

転職活動を始める前にやっておきたい、いくつかの準備について見ていきましょう。

障害・特性についての理解を得られる職場を探す

転職活動をする際には、ADHDについて理解を示し、支援や配慮をしてくれる職場を探すことが非常に重要です。特に、同僚や上司がADHDについて理解しており、柔軟な対応をしてくれる職場を選ぶことで、ストレスを減らし、仕事の効率を高めることができるでしょう。

また、障害者雇用枠を利用することも一つの方法です。こうした環境が整っている職場では、ADHDの特性を活かしつつ、自分のペースで成果を上げることが可能になります。

自己分析をする

上司や同僚に理解を求めるだけでなく、自分自身もADHDの特性を深く理解し、それをどう活かせるかを考えることが必要です。まずは、自分の強みや弱み、特にADHDがどのように仕事に影響を与えるかを客観的に見つめ直しましょう。

例えば、短期集中型であることを自覚すれば、その特性を活かした、適切な仕事内容や職場環境を選択することができます。また、過去の仕事経験を振り返り、どのような状況でパフォーマンスが良かったか、または悪かったかを分析することも有効です。

自己分析を通じて、自分の特性に合った職場や仕事を見つけるための戦略を立てることが、転職活動の成功に繋がるでしょう。

体調管理をする

ADHDの特性に加えて、メンタルや体調の波も転職活動において重要な要素です。

転職活動中は特にストレスや不安が高まりやすく、体調を崩すことも考えられます。自分の体調やメンタルの状態を把握し、調子が悪い時にどう対処するかを事前に考えておくことが大切です。

例えば、疲れを感じた時にリフレッシュする方法や、ストレス管理のテクニックを身につけておくとよいでしょう。また、十分な睡眠やバランスの取れた食事、運動など、基本的な体調管理を心掛けることで、転職活動を乗り切るためのエネルギーを維持できます。

なぜ大切?自己分析の重要性

転職活動を行う上で、自己分析は非常に重要なステップです。特にADHDを持つ方にとって、自身の特性を理解し、それに合った職場を選ぶことが成功のカギとなります。

ここからは、自己分析の重要性について見ていきましょう。

1.特性に合った職場を探しやすくなる

自己分析を行うことで、ADHDの特性に合った職場を見つけやすくなります。たとえば、注意力を長時間保つことが難しい場合、短期間で集中して仕事ができる環境が適しています。

また、過去の仕事経験や自分の強みを理解することで、どのような業務が自分に向いているのかを判断しやすくなり、無理なく活躍できる職場を見つけることができるでしょう。特性を理解しておけば、より自分に適した仕事に就くことができるため、転職後の満足度が高まります。

2.アピールポイントが見つかり自信が持てる

自己分析では、自分の強みや得意なことも明確にすることができます。ADHDの特性を理解することで、他の人が気づきにくい自分の強みをアピールできるようになるでしょう。

自分の強みを知ることで、転職活動で自信を持って自己PRを行うことができ、面接などでもポジティブな印象を与えることができます。自分の特性を強みとして活かせる点を見つけ出すことは、転職活動を進めるうえで非常に重要です。

3.職場の理解が得られやすくなる

自己分析を深めることで、自分のADHDの特性を客観的に理解することができ、他者にも特性を正しく説明することができるようになります。

自分がどのような状況で仕事のパフォーマンスが高く、どのような環境で課題を感じやすいかを説明できるようになるため、面接や入社後に上司や同僚に自分の特性を適切に伝えることができます。これにより、職場の理解を得ることができ、適切なサポートを受けながら働くことができるでしょう。

また、理解を得られることでストレスも軽減され、職場でのパフォーマンスが向上しやすくなるかもしれません。

自己分析の4つのステップ

自己分析の重要さについておわかりいただいたところで、ADHDの方が自己分析を進めるための4つのステップについて見ていきましょう。

1.自分の特性や症状を洗い出す

自己分析を始める第一歩は、自分のADHDに関連する特性や症状をしっかり洗い出すことです。

具体的には、どのような状況で注意が散漫になりやすいか、どんな作業が得意でどんな作業が苦手なのかを整理しましょう。

例えば、時間管理やタスクの優先順位をつけるのが苦手であれば、それを踏まえた職場選びが必要です。

また、症状がどのような環境で強く出るのかも整理しておきましょう。例えば、静かなオフィスよりも動きが多い現場の方が調子が良いなど、具体的に理解することも重要です。

2.過去を振り返る

自己分析を深めるためには、過去の仕事経験や生活を振り返ることが重要です。

これまでの就業歴や日常生活の中で、特に困ったことや悩みがどんな場面で発生したのかをピックアップし、リスト化してみましょう。そして、それらの問題が自分の特性から来るものなのか、それとも外部環境の影響なのかを整理します。

さらに、過去に遭遇した困難を自分で解決できたのか、周囲のサポートが必要だったのかを分けてみることで、今後の職場での対応方法やサポートが必要な部分を明確にすることができるでしょう。

3.自分に合った職場を考える

自己分析を進める中で、次に考えるべきは「自分に合った職場はどんな場所か?」という点です。特性を活かすためには、どのような職場環境や業務内容が適しているのかを具体的に想像することが必要です。

重要なのは、一般論にとらわれず、自分の強みや弱みに合った環境を自分自身で思い描くことです。また、ADHDの特性を活かせる職場や業務内容を選ぶことで、仕事のパフォーマンスが最大化される可能性が高まります。

4.第三者にも相談する

自己分析は一人で行うだけではなく、第三者の意見を取り入れることも有効です。家族や友人、担当医、または支援機関の専門家に相談してみてください。外部の視点を取り入れることで、自分一人では気づかなかった強みや改善点が見えてくることがあるかもしれません。

特に、ADHDに特化した支援機関では、専門的なアドバイスや就労におけるサポート方法を提案してもらえることがあります。また、第三者のフィードバックを受けることで、自己分析の信頼性が高まり、転職活動における方向性がより明確になるでしょう。

ADHDの方に配慮した職場環境の例

ADHDの特性を持つ方が転職を成功させるためには、職場の理解や環境がADHDの特性に配慮されているかを確認することが重要です。ここからは、ADHDの方に配慮された具体的な職場環境の例を見ていきましょう。

引用元
発達障害のある方への職場における配慮事例のご紹介|厚生労働省

1.集中できる環境づくり

ADHDの特性に配慮した職場環境の一つは、集中しやすい環境づくりです。多くのADHDの方は、周囲の雑音や動きに気を取られてしまい、仕事に集中することが難しいことがあります。

そのため、パーティションで区切られたデスクや、静かなエリアを確保することが有効です。さらに、一人で集中できる個室や休憩スペースがあることで、リフレッシュしながら仕事に取り組むことができるでしょう。

また、騒音を抑えるためにノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可する、集中が必要なタスクには周囲に配慮するなどの工夫も、ADHDの方が効果的に働ける環境を作り出します。

2.フレキシブルな働き方

フレキシブルな働き方も、ADHDの方への配慮のひとつです。

通院や治療が必要な場合、シフト調整が可能な職場は大きな配慮となります。例えば、ADHDの方は突発的な体調不良や精神的な疲れを感じることがあるため、テレワークやフレックスタイム制度が活用できる環境があると、助かるでしょう。

また、集中力を保つために適切なタイミングで休憩を取ることができるよう、空いている会議室で一人で休憩を取れるスペースがあることも望ましいです。このような配慮により、仕事の効率が上がり、長期的に働きやすい職場となります。

3.明確な指示・サポート

ADHDの方にとって、明確な指示とサポートは重要です。

特に、注意散漫になりやすい場合やタスクの優先順位を把握しづらい場合、曖昧な指示では混乱を招いてしまうことがあります。職場での指示が数値化されている、または具体的な目標を明確に設定していることが有効です。

また、口頭だけでなく、メモやホワイトボード、タスク管理ツールを活用して、指示を視覚的に確認できる環境を整えることも大切です。指示系統が統一されていることもポイントで、複数の上司や同僚から異なる指示を受けることなく、統一された方針で業務を進められる環境が望ましいでしょう。

ADHDの方が利用できる就労支援サービス

ADHDの方の転職をサポートするため、いくつかの就労支援サービスがあります。ここからは、ADHDの方が活用できる就労支援サービスを見ていきましょう。

ハローワーク

ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。

ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。

一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。

引用元
障害のある皆様へ|ハローワークインターネットサービス

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。

センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。

障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。

引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。

利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。

全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。

なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。

障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。

引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省

障害者向け転職エージェント

障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。

障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。

高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。

就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。

ADHDの方が転職を成功させるためには自己分析が重要!

ADHDの方が転職を成功させるためには、自己分析が重要です。自分の特性を理解し、強みや弱みを把握することで、適切な職場環境を見つけやすくなります。自己分析をして、特性に合った職場を選び、転職活動に役立ててください。

転職活動に不安がある場合、障害者雇用枠の就職サポートを提供しているDIエージェントのご利用もおすすめです。専門的な支援を受けながら、自分に最適な職場を見つけることができ、より安心して転職活動を進められます。ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

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監修:東郷 佑紀
大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。