ADHDはマルチタスクが苦手?理由や対策方法、向いている仕事を解説

ADHDの方は、その障害の特性により、マルチタスクをこなすのが苦手な傾向が見られます。そこで、なぜ苦手なのかという理由や、マルチタスクを実行するためにできる対策を解説します。

また、ADHDの方に適した仕事・不向きな仕事も紹介するので、仕事についてお悩みの方は今後の働き方の参考として役立てていただければ幸いです。

ADHDとは

ADHD(注意欠如多動症)とは、生まれつき脳機能の働きに偏りがあり、ASD(自閉スペクトラム症)やLD/SLD(学習障害/限局性学習障害)とならび、発達障害の一種です。

ADHDには、大きく分けて、不注意・多動性・衝動性という特性があります。それぞれの特性による症状として、注意力が低下しがち・長い間は集中できない・行動に落ち着きがない・突発的に動いてしまうなどの傾向が見られやすいです。

ADHDの方はマルチタスクができない?理由を解説

ADHDの方は、マルチタスクが苦手と言われます。マルチタスクとは、同時進行で複数の業務や作業を行う・処理すること。ADHDでは計画を立てて実行したり、物事を整理して優先順位をつけたりすることが苦手な特性があります。

また、発想力が豊かな反面、新しいアイデアが浮かんであちこちに気が向いてしまう傾向も見られるため、マルチタスクをこなすのが難しくなってしまうようです。

ADHDの強み

ADHDにはネガティブなイメージがつきまといがちですが、強みもあります。どんな点なのか見ていきましょう。

発想力・感受性が豊か

いろいろなことに興味を引かれやすく、意外なアイデアを生み出すことが得意なことは、ADHDの大きな強みです。会議で行き詰まったときなどに、ADHDの方が思わぬ角度からユニークな意見を出してくれることも。

また、感受性も豊かな傾向が見られ、さまざまなことを受容します。

行動力がある

思い立ったら即座に行動に移すという特徴もあります。急に突拍子もないことをすることもありますが、悩まず即断即決できるのは、優柔不断で貴重なチャンスを逃しがちな方にとってうらやましく見えることでしょう。

フットワークが軽く、パッと切り替えて次の行動に移せます。

興味があることにはこだわる

興味のないことには見向きもしないこともありますが、逆に興味関心を持ったことは、とことん追求する傾向があるのもADHDの長所です。勢いとスピードで集中して極めようとします。仕事においても、この能力が大いに発揮できるシーンもあることでしょう。

ADHDの弱み

つづいて、ADHDの特性による弱みや、感じやすい困難について解説します。

マルチタスクが苦手

前述の通り、ADHDの方はマルチタスクを上手にこなせない傾向が見られます。物事を整理して考えたり、時間や予定に沿ってスケジュールを進行したりすることが苦手なためです。

また、いろいろなアイデアが浮かびやすい・多方面に気を取られやすいという特性もあり、やるべきことから意識が逸れてしまったり、やり忘れが発生したりすることもあります。

ミス・やり忘れが多い

正確な処理や確認が苦手で、抜け漏れ・間違いなどが起こりやすいという面も。誤字脱字や計算ミスなどの問題が起こりやすく、連絡ミスも見られがちです。また、集中力が途切れたり、ほかのことに気が向いたりして、やるべきことを忘れる傾向もあります。

そのため、一人で責任のある重大な仕事を担うのは難しいかもしれません。

衝動的な発言によって人間関係に問題が起きる

思ったことをそのまま口にしてしまいがちなため、失礼なことや相手にとってネガティブな言葉なども、マイナスな発言かもという思いに至る前に発してしまうかもしれません。人間関係に影響が出ることがあるので、気をつけておきたい点です。

ADHDの方が仕事でマルチタスクを上手にこなすための対策

特にマルチタスクが苦手とされるADHDの方が、仕事においてうまく複数のタスクを実行するにはどうすればいいのでしょうか。

1. タスクをリスト化して優先順位をつける

まずは、やるべきことをリストアップした「ToDoリスト」を作りましょう。終わったものからチェックを入れていけば、残りのタスクも把握しやすいです。クリアできたことが目で見てわかるため、達成感も得られやすいでしょう。

なお、リストアップしたものの「どれから手をつけていいかわからない」という場合、上司などに確認しながら優先順位を決めるのがおすすめです。

2. タスクを一つずつこなして進捗を確認する

マルチタスクを同時進行で実行するのは難しいため、前項で決めた優先順位をもとに、一つずつ着実に片付けていくことも重要です。

苦手なことはつい後回しにしたくなるかもしれません。そのような場合、「せめて今日はここまでやろう」という目標を決めたり、周りに少しだけ手伝ってもらったりすると、進めやすくなります。

時間への意識を高めるため、30分に1回など頻度を決め、進捗状況をチェックして上司に報告するのもおすすめです。

3. メモを取って管理する

タスクが発生したときやアイデアが浮かんだときなどは、すぐにメモ帳やスマホなどにメモを取る習慣をつけましょう。

どこに記録したかわからなくならないように、メモ帳を決まった場所に置く・入れるなどして、必要なときにサッと取り出せるようにしておくことも重要です。

4. どうしても苦手な作業は周りに任せる

どうしても自分の力ではできないことは、無理をせず、周囲の力を借りてもかまいません。与えられた仕事をこなす責任感は必要ですが、仕事を円滑に進めるためには、人に頼ることも大切です。

 
キャリアアドバイザー
ミスをしやすい・抜けが起こりやすいことを自覚し、チェックリストを作って同僚や上司とダブルチェックを行いながら業務を遂行するのもよいでしょう

ADHDの方が仕事で意識すべきポイント


ADHDの方が仕事で意識したいポイントも知っておきましょう。

大切なのは、自分の特性を理解し、適切な方法を試すことです。前章のような対策も、個人個人の特性によって合う合わないがあります。試行錯誤しながら自分に合った対策を見つけることが大切です。

また、自分に適した仕事を探すときも、ミスが多いならマルチタスクではない・正確性が重視されない仕事、衝動的な行動が多いならデスクワークが少ない仕事などを選ぶとよいでしょう。

ADHDの方に向いている仕事

ADHDの方には、シングルタスクでできる仕事・自分の強みや得意なことを活かせる仕事・表現力や想像力が求められる仕事などが向いています。具体的には、イラストレーター・職人・アーティスト・エンジニアなどです。

自分の特性や興味関心を考慮した上で、適切な仕事を見つけましょう。

ADHDの方に向いていない仕事

前章とは対照的に、マルチタスクをこなさなければならない仕事・臨機応変に対処すべき仕事・正確かつ納期通りにやるべき仕事などは、ADHDの方には向いていないといえるでしょう。

細やかさを求められたり、ミスのない正確な処理が必要だったりすると、混乱してしまってうまく対応できない可能性があります。たとえば、接客・総務・秘書・金融関係などです。

今の仕事が合わないなら転職を検討する方法も

現在向いていない仕事をしている・今の自分にはどうしても担当業務の遂行が難しいという場合には、転職するという手も考えましょう。合わない仕事を続けていると、次第にストレスが溜まってきて、心身に良くありません。

自分の状況を理解し、配慮をしてくれるような職場であれば、長く働きやすいでしょう。

 
キャリアアドバイザー
ADHDで障害者手帳をお持ちの方は、障害者枠への応募が可能です。自分の特性に応じた合理的配慮を受けながら働けるため、どんな配慮が必要なのかを志望先に伝えるとよいでしょう

ADHDの方の転職活動を支援してくれるサービス

ADHDの方が転職を考える際には、不安なことなどを相談でき、活動をサポートしてくれるサービスを利用しましょう。各サービスの特徴について解説していきます。

ハローワーク

ハローワークとは、全国にある「公共職業安定所」のこと。窓口や施設に設置してある検索機で、全国の求人情報を調べることが可能です。

ハローワークには専門援助部門が設けられており、窓口には専門の相談員が配置され、障害をお持ちの方が就職活動をするための支援を行っています。

一般向けの求人から障害者枠の求人まで、求職者の状況と企業の募集内容を照らし合わせながら相談に乗ってくれ、障害のある方向けに就職面接会を行ったり、面接に同行したりといったサポート体制を整えていることが特徴です。

参考
障害のある皆様へ|ハローワークインターネットサービス

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営しており、障害をお持ちの方に対して専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。全都道府県に最低1カ所ずつ以上設置することが義務付けられています。

センターでは、直接就職先を紹介するという支援は行っていません。しかし、ハローワークと連携しながら、職業相談を受け付けたり、職種・労働条件・雇用状況などの求人情報を提供したりといった支援を実施しています。

障害者職業カウンセラー・相談支援専門員・ジョブコーチなどが配置されており、専門性の高い支援を受けられることが特徴です。

引用元
障害者雇用関係のご質問と回答|高齢・障害・求職者雇用支援機構

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者の方に向けて、トレーニングと就職活動の支援を行うことで就労をサポートする福祉サービス。通所型の障害福祉サービスで、「障害者総合支援法」という法律のもとで運営されています。

利用者にとって、事業所に通いながら就職に必要な知識や技術を獲得でき、職場見学や実習などを行い、事業所職員のサポートを受けながら仕事を探せることがメリットです。

全国に3,300カ所以上あり、利用するためには市区町村で手続きをする必要があります。就職後の定着支援まで行ってくれる事業所もあり、安心して頼れるでしょう。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、障害をお持ちの方の仕事面での自立を図るため、雇用や福祉などの関係機関と連携し、地域で仕事と生活面での一体的な支援を行う施設です。名称が長いため、間の「・」から「なかぽつ」「就ぽつ」などと呼ばれることもあります。

なかぽつは、全国に337カ所(令和5年8月22日時点)設置されています。社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、厚生労働省のページにある一覧から、近くのセンターを探すことが可能です。

障害をお持ちの方への就職支援や助言のほか、事業所に対して障害者雇用に関する助言を行ったり、関係機関との連絡調整を実施したりしています。

引用元
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省
令和6年度障害者就業・生活支援センター 一覧 (計 337センター)|厚生労働省

障害者向け転職エージェント

障害者枠を設けている企業や障害者雇用を推進する企業の求人に特化した、転職エージェントもぜひ利用してください。

障害者の方の就職活動におけるノウハウを持っており、高い専門知識も兼ね備えているので、初めての転職で不安を抱える方も心強いでしょう。そのエージェントしか取り扱っていない、非公開の求人情報を得られる場合もあります。

高い専門知識を持った専任のアドバイザーが、求職者の希望や障害の度合いなどをふまえた上でマッチングを行ってくれるのが特徴です。

就職前の準備から就職後の支援までしっかりサポートしてくれるため、自分の特性にマッチした仕事を見つけやすいというメリットがあります。

マルチタスクが苦手なADHDの方は自分に向いている仕事をしよう

ADHDの方はマルチタスクが苦手な傾向があります。タスクをリストアップしたり、順番にこなしたりすることで対応できることもありますが、どうしても特性に合わない場合は転職したほうがいいかもしれません。合理的配慮を得ながら働ける方法もあります。

自分は仕事ができないのだと悲観せず、支援機関も活用しながら自分に合った職場を探しましょう。

障害者の就職・転職を専門にしている「DIエージェント」では、求職者のご希望を伺った上で、特性や適性に合った仕事を紹介したり、企業との連絡や選考対策などのサポートを行ったりしています。

初めての転職で不安やお悩みを抱えている方も、ぜひDIエージェントの頼もしいキャリアアドバイザーにお気軽にご相談ください。

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監修:東郷 佑紀
大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。