SST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは?目的や内容について解説

「ソーシャル・スキル・トレーニング(Social Skills Training:以下、SST)」とは社会生活を送る上で必要な対人関係や自己管理能力などを養い、身に付ける訓練です。この記事では「SST」の目的や内容をわかりやすく解説していきます。

特に職場での人間関係で悩まれている方、ご自身の認知や行動を変えていきたいとお考えの成人の方は「SSTが受けられる場所」や「日常でできるSST」もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

SSTとは

「SST(エスエスティ)」とは「Social Skills Training」の頭文字をとった略称です。日本語では「生活技能訓練」や「社会生活技能訓練」ともいい、認知行動療法の一つです。

SSTとは
(一部抜粋)
SSTは1940年代の行動療法にその原型を求めることができ、その後、認知の要素を取り込みながら発展してきました。複数の理論を背景としてさまざまな技法を含んでいるところは、認知行動療法と重なるところが大きいと考えられます。SSTは効果が実証された体系的な方法で、日本でもその効果が認められ、1994年4月に精神科を標榜している保険医療機関において入院加療者を対象として「入院生活技能訓練療法」が診療報酬化されました。対人関係を中心とするソーシャルスキルのほか、服薬自己管理・症状自己管理などの疾病自己管理スキルを高める方法がスキルパッケージとして開発されています。

引用:一般社団法人 SST普及協会「SSTとは」

SSTの歴史は精神障害をお持ちの方に対しての支援がスタートですが、現在は療育の現場や復職(リワーク)や職場のストレスコントロールのためなど様々な場面でも用いられています。

参考:大阪府「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)のご紹介」
障害保健福祉研究情報システム「生活技能訓練(Social Skills Training:SST)」

ソーシャルスキルとは

そもそも「ソーシャルスキル」とは「社会の中で暮らしていくためのスキル」のことで、コミュニケーション(対人関係構築能力)だけでなく、生活スキル(薬を飲んで体調管理をしたり、家事やお金の管理をしたり)なども含まれています。

人は子どもから大人になるにつれ、家庭や学校や様々なコミュニティで人との関わりや社会のルール(社会性)などを身に付けていきます。しかし病気や障害によってソーシャルスキルの獲得が困難または低下する場合もあるのです。

参考:昭和大学「「成人期発達障害者のためのデイケア・プログラム」に関する調査について」

ソーシャルスキルのトレーニングとは

ソーシャルスキルはトレーニングを積むことで習得し、生活上の困難を緩和することが期待できます。

ソーシャルスキルトレーニングの特徴として、ロールプレイをおこなったりグループワークをしたりと実践形式の訓練メニューが用意されていることが多いです。

「発達障害専門プログラム ワークブックⅠ」によれば、SSTでは以下の6つの基本スキルが重要と言われています。

  1.  視線を合わせる
  2.  手を使って表現する
  3.  身を乗り出して話す
  4.  明るい表情
  5. はっきりと大きな声
  6.  適切な内容
引用:昭和大学発達障害医療研究所(2015)「発達障害専門プログラム ワークブックⅠ」12p
 
CA

発達障害の子どもに対する療育のイメージが強いかもしれませんが、ソーシャルスキルトレーニングの対象は子どもだけでなく大人にも有効です。

発達障害・精神障害との関連

SSTは発達障害をお持ちの方や精神障害をお持ちの方に対しておこなわれています。

ストレスへの適切な対処など統合失調症、うつ病をお持ちの方へは治療的観点からSSTが用いられる場合もあります。

自分の気持ちを伝える、相手の気持ちを読み取ることが苦手
一方的にしゃべりすぎる
  • 意欲が減退し、定常的な服薬が難しくなる
  • 必要以上に自分を責めてしまう、物事をネガティブに捉えてしまう

上記のような場合、SSTが効果的に働く可能性があります。

参考:厚生労働省「こころの病気を知る-発達障害」 厚生労働省「こころの病気を知る-うつ病」 米田衆介「自閉症スペクトラムの人々の就労に向けたSST」

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SSTのメリット

SSTを実践するメリットは、社会生活を営む上での困りごとの解決に役立ち、QOLの向上に繋がることです。また精神疾患を悪化させないためや二次障害を引き起こさないために活用するのも有効でしょう。

  • 職場の人間関係を円滑にする
  • きちんと薬を服用することができ、健康な状態を維持する
  • 「嫌だな」と感じる場面できちんと断ることができる……など

基本をおさえ応用がきくように様々なケーススタディをおこないますので、自分なりの対処法を見つけていける力が身に付きます。

\在宅勤務によって対人関係のストレスが軽減することもあります/

SSTの具体的な内容

SSTは具体的にどのような内容をおこなうのでしょうか。ここでは一例として「ロールプレイ」「ディスカッション、ディベート」「共同行動」「ゲーム」「ワークシート・絵カード・ソーシャルストーリー」を紹介していきます。

ロールプレイ

SSTの代表的な内容の一つとして「ロールプレイ(役割演技)」が挙げられます。

まずは「ある場面」に対して、どのように振舞うのがベターなのかをまずは考え、お題となるシチュエーションで指導担当者や参加者同士で実際に演技をします。演じた後は、「相手を気遣った言葉かけができていましたね」「こういった言い方もありそうですね」などといったフィードバックが得られます。

その人にとって、課題となっている・課題となりそうな言動や場面をアレンジしつつおこなっていきます。

ディスカッション、ディベート

ディスカッション、ディベートは相手を言い負かすことではありません。
SSTにおいては、言葉のキャッチボールの訓練をおこないます。相手の意見を聞きつつ、自分の意見を述べる練習をしていきます。

 
CA

実際に働いて会議に参加する場面でも活かされそうですね。

共同行動

特に療育の現場や成人もデイケアにおいて、工作、調理などの共同行動をおこなうことがあります。活動を通して他の人との相談、役割分担、助けあいなどが身に付くでしょう。

ゲーム、レクリエーション

「SSTなのにゲーム?」と不思議に思われる方もいるかもしれません。
ゲームは「ルールを守る」「勝ち負けを受け止める」「相談・協力」といったスキルが楽しく身に付きます。一見気晴らしのように感じる就労移行支援事業所でのレクリエーションも実はSSTの要素が含まれていることもあるのです。

 
CA

日々の仕事や家事だけでなく、余暇の過ごし方や気晴らしの手段を見つけることも「ソーシャルスキル」なのですね。

ワークシート・絵カード・ソーシャルストーリー

書き込み式のワークシート、図式化された絵カード、ソーシャルストーリーなどをSSTに用いることもあります。

課題になっている言動を文章や図で表現することで、意識化をします。

ソーシャルストーリーとは

ソーシャルストーリーとは「叙述文」(事実)・「視点文」(心の動き)「指示文」(望ましい振る舞い)などから成り立つ短いストーリーです。課題となる状況を文章として、書き出したり、それを声に出して読んだりします。

たとえば、「上司に質問したいことがあった時、周りの状況を見ずに突発的に聞いてしまい、怒られてしまう」という悩みがあったとします。

例)
「初めて取り組む仕事が発生した」
「やり方が分からないので、上司にやり方を聞く必要がある」
「しかし、上司は他の人と話している」
「私は気になっているので今すぐ聞きたい」
「二人は真剣に話しているので、急に私が話しかけたら上司も話し相手も驚くかもしれない」
「我慢して、二人が話し終わってから上司に話しかける」
「上司も落ち着いて私の話を聞いてくれる」

このように書くことで、「こんな時どうしたら良いか」に気づくことができるでしょう。

 
CA

これらのトレーニングは認識が難しい「空気を読むべき場面」や「自分や他人の気持ち」を、分解して、どういったルールや感情が働いているか理解する助けになります。

参考:藤野 博(2005)「自閉症スペクトラム障害児に対するソーシャル・ストーリーの効果:事例研究の展望」東京学芸大学紀要.第1部門,教育科学,56:349-358
千葉県総合教育センター「通常の学級における特別な教育的ニーズのある子どもへの支援」

日常で取り入れられるSST

SSTは必ずしも専門知識をもった指導者のもと、特別な施設にておこなわれるだけではありません。日常でも意識して取り入れることができますので、以下を参考に心がけてみてください。

挨拶をする

挨拶は人とのコミュニケーションの第一歩です。適切なタイミングで適切な言葉を発することができるようになるために、人によっては練習が必要かもしれません。意識的に挨拶をしてみましょう。

いきなり「雑談を上手に続けられるように目指す」と高い目標を掲げるよりも、「挨拶をしっかりする」と心がけるだけで周囲からの印象は驚くほどアップしますよ。

 
CA

もちろん就職活動の面接の際にも「よろしくお願いいたします」や「本日はありがとうございました」といった挨拶ができているかはチェックされています。

相手の気持ちを察する

次に、相手が考えていることを意識的に想像する訓練を日常的におこなってみましょう。自然と相手の気持ちを理解できるようになっていきます。

療育(対:子ども)の場面では人形を用いて「登場キャラクターの気持ちを考える」といったトレーニング方法もあります。

 
CA

たとえば「挨拶した相手に無視をされた」といった場面にあったらどうしますか? 「他の考え事をしていたのかもしれない」「自分の声が小さくてきこえなかったのかもしれない」など様々な角度で考えることもできますよね。
「自分は嫌われているんだ」とすぐに考えてしまう方は、自分の考え方の癖を見直すことも大切です。

会話をする

特に感情のコントロールが難しい方や発達障害の方は、相手を傷つける言葉を言ってしまったり、相手にとって興味のない話を続けてしまうこともあります。
会話・対話とはあらゆるコミュニケーションスキルの総合格闘技のようなものです。相手の話を聞き、意図をとらえ、適切な答えを返す必要があります。

まずはスモールステップで、「一問一答から始めてみる」「台本を用意して会話の練習をしてみる」「フリートークをして、お互いにどう思ったかを振り返る」などから始めてみてはいかがでしょうか?

 
CA

「コミュニケーションの本を読む」などもできますが、会話は実践とそれを元にフィードバックをもらうことは重要。では一体「どこでSSTができるのか?」次の項で紹介します!


SSTはどこで受けられる?

ここまで読んで「SSTを受けたい」と思われた方へ、大人がSSTを受けられる場所・機会を紹介していきます。
受講条件がある場合や値段も様々なので、希望する場合は実施先に問い合わせてみましょう。

SSTが受けられる最も身近な場所は「病院やクリニック」です。精神科・心療内科が実施しています。

このような場所では、精神科看護師や作業療法士・臨床心理士などがSSTを学んで習得したうえで、プログラムを組んでいることが多いです。服薬や体調管理も含めたSSTが必要な方はまずはかかりつけ医にSSTを実施していないか確認しましょう。

他にも「自立訓練(生活訓練)事業所」といった福祉事業所や大学などの研究機関でもSSTが実施されていることがあります。

しかし、SSTは必ずしも精神科を受診している方だけが対象ではありません。特に「働く」に特化したSSTが受けられる場所も存在します。

参考: 昭和大学附属烏山病院「リハビリテーションセンター」
昭和大学「発達障害専門プログラム」
白百合女子大学「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」

働くことに障害がある方に向けたSST

働く上で困難を感じている方は、目的に応じてSSTが受けられます。

リワークSST

「リワーク」つまり「復職」のためのSSTです。

こちらも病院(精神科等)にくわえ、EAPの運営企業などで実施されていることがあります。
十分な休養が取れた後は、規則正しい生活リズムを取り戻し体力の回復を目指したり、ストレス対応能力を伸ばすようなプログラムが用意されています。

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一般企業における定着支援のためのSST

稀ではありますが、障害者雇用をおこなう企業が独自で定着支援サポートを担っている場合もあります。このようなサポート体制があるのは安心ですね。
ジョブコーチを導入している企業では、ジョブコーチとの時間にSSTを実施することもあります。

参考:大東コーポレートサービス株式会社「企業における障害者の定着支援とSST」

就職、転職準備のためのSST

「働くことに不安がある」「人間関係でつまづいてしまって仕事を転々としている」という方は働くための準備をしましょう。以下の場所はSSTを実施しています。

また上記以外にも不定期で「SST」のイベントが開催されていることもありますので、探してみましょう。

参考:中島映像教材出版「うつに対するSST(リワークプログラム)|実践:ワークショップから学ぶSST 第8巻」

就労移行支援事業所「ワークイズ」でおこなうSSTの例
施設管理責任者の大浦さん

就労移行支援事業所「ワークイズ」(東京都・大田区)では社会の場で必要な内容を座学形式で教えています。より具体的には「上手な話の聞き方」、「あたたかい言葉がけ」などを一緒に考えていきます。
決まりきったプログラムやテキストをこなすのではなく一人ひとりが困っていること、達成したいことを元にプログラムを組んでいます。

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まとめ

大人でもソーシャルスキルを身に付けるのに手遅れということはありません。専門家や同じような悩みを抱えているメンバーから、フィードバックを受けることで、より自分らしく生きるためのヒントが見つかるかもしれません。

「人間関係や生活がどうしてもうまくいかない、でもどうしたらいいか分からない」といった方はSSTを受けることを検討してみてはいかがでしょうか?
SSTで身に付けたスキルは就職活動・転職活動でも必ず活きてきますよ!

監修:井村 英里
社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。