障害者の方におすすめの資格を業界別に紹介|就職や転職に役立つ資格の選び方とは

障害者の方が就職活動や転職活動を有利にすすめるには、資格の取得がおすすめです。資格とは、どのような能力があるのかを客観的に認められたことを示すものです。

資格があれば、その方の能力が企業にも正しく伝わり、就職・転職が有利に進みやすくなります。この記事では、就職や転職に役立つ資格取得について解説します。目指す職業に合う資格選びに役立ててください。

資格取得は障害者の方の就職や転職において有利

障害者の方の就職・転職では、企業側の障害についての理解不足から、その方の能力が正確に企業に伝わりづらいことがあります。口頭で「〇〇ができます」というよりも説得力があり、信頼性も高いのが資格です。客観的な能力の証明として、障害者の方の就職や転職のアピール材料になります。


資格取得も目指せる|障害者職業能力開発校とは?

障害者の方で、資格を取得したいけれど何から始めて良いか分からないという場合は、障害者職業能力開発校の活用がおすすめです。障害者職業能力開発校は、障害者の方が社会で活かせる技術の習得を目的として、国が設置している公共機関です。全国18箇所(2020年7月時点)に設置され、各都道府県が管理を行なっています。

通常、3か月~1年程度の通学が必要になりますが、在職者向けの無料講習会が開催されることもあり、スキルアップのために活用することもできます。

開講されている科目は多種多様で、東京都の場合は全12科目を設置。設置科目の中には、ワードやエクセルなど実務で必要となるPCスキルや経理の知識を身に付ける「オフィスワーク科」や、広告や印刷関連の企業で役立つDTPの画像処理スキルが身に付く「グラフィックDTP科」などがあります。最近では、プログラミング知識やアプリケーションの開発知識が学べる「ビジネスアプリ開発科」も人気です。

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障害者の方の就職や転職に役立つ資格の選び方

どんな資格でも、持っていれば必ず就職・転職に役立つというわけではありません。資格には、業種や職種を問わずに役立つ資格と、目指したい職種や業種において役立つ資格の2種類があります。自分の転職スタイルに合わせて、取得する資格を選ぶことから始めましょう。

就職や転職をめざす障害者の方におすすめの資格

就職や転職を目指す障害者の方におすすめの資格を紹介します。資格の内容や難易度もチェックして、取得の際の参考にしてみてください。

事務職

事務職は一般企業の障害者雇用枠の中でも最も募集が多い職種といえます。体に負担がかかりにくいデスクワークが中心であることからも、求職者からも人気があります。

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MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)

業種や職種を問わず人気の資格が、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)です。MOSは、WordやExcel、PowerPointといった、マイクロソフト社のパソコンスキルがどの程度あるかを証明する資格です。

パソコンのスキルが問われるため、特にオフィスワークを希望している方が積極的に取りたい資格のひとつです。

※MOS公式サイト『マイクロソフト オフィス スペシャリスト』

日商簿記検定

専門性が高い事務職の一つが経理職です。経理職はどんな会社にも必要とされる職種で、簿記の知識は営業事務や一般事務職でも必要とされることがあります。

簿記スキルの証明として取得したいのが日商簿記検定です。中小企業の場合、2級以上の取得が望ましいでしょう。一般企業だけでなく会計事務所への就職転職に有利という点もポイントです。

公務員

履歴書の資格欄に書く資格とは異なりますが、既定の試験を通過することで就職できる公務員という選択肢もあります。公務員は、雇用や収入面で一般企業よりも安定しているイメージがあるため人気が高い職業の一つです。国の仕事に関わる国家公務員と、地域の仕事に関わる地方公務員とでは採用条件などの詳細が異なるため、あらかじめ詳細を確認しておくことをおすすめします。

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IT業界

IT業界を目指す障害者の方におすすめなのが、ITパスポートです。ITパスポートは、初級システムアドミニストレータ試験の後継試験となる国家資格で、ITに関する基礎知識があることの証明になります。

試験場のパソコンを使ってテストを受けますが、試験が月に1~3回程度実施されている上、合格率も40~50%と高いため、チャレンジしやすいところも魅力です。

※情報処理推進機構『ITパスポート試験』

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医療・福祉業界

【国家資格】社会福祉士

社会福祉士とは、身体障害や精神障害で生活に困っている人を支援する国家資格です。生活で困っていることを聞き取り、解決するためのアドバイスやサポートを行なうもので、関係機関と連携して仕事を行なうこともあります。

社会福祉士は、障害者施設や医療機関など、福祉関係の施設への就職に有利になることが多く、福祉分野で仕事をしたい方におすすめです。資格取得までにある程度の期間が必要となるため、取得を検討している場合は、早めに資格取得へ向けて動き出すことが大切です。

資格取得者数

約22万6000人(2018年9月末 厚生労働省登録者数)

資格取得後の主な勤務先

各障害者施設・児童、母子相談所・医療機関・高齢者関連施設など

給与(年収)

200~500万円 ※経験や学歴などにより異なる

資格取得費用(未経験者)

400万円前後(大学入学や履修含む)

資格取得費用(実務経験あり)

一般大学卒:20~120万円程度

難易度

合格率30%未満

取得ルートおよび期間

福祉系大学で4年~4年半

一般大学や実務経験からのスタートで5年程度

※公益財団法人社会福祉振興・試験センター『社会福祉士国家試験』

【国家資格】精神保健福祉士

精神保健福祉士も、社会福祉士と同じように、社会的な問題や生活上の不便、雇用問題などで困っていることを聞き取り、解決するためのアドバイスやサポートを行ないます。社会福祉士と異なる点は、相談を受ける相手が、精神障害の当事者とその家族などに特化していることで、精神的な悩みの解決が求められることが多いでしょう。

精神障害を抱える人は増加傾向にあり、精神保健福祉士の需要は年々高まりつつあります。精神保健福祉士も国家資格のうちのひとつですが、合格率は社会福祉士よりも精神保健福祉士のほうが高めです。

資格取得者数

9万人(2020年5月末 (公財)社会福祉振興・試験センター調べ)

資格取得後の主な勤務先

医療機関(精神科)・地域生活センター・就労支援施設・高齢者施設など

給与(年収)

200~400万円 ※経験や学歴などにより異なる

資格取得費用(未経験者)

400万円前後(大学入学や履修含む)

資格取得費用(実務経験あり)

一般大学卒:20~120万円程度

難易度

合格率60%未満

取得ルートおよび期間

福祉系大学で4年~4年半

一般大学や実務経験からのスタートで5年程度

※公益財団法人社会福祉振興・試験センター『精神保健福祉士国家試験』

【国家資格】公認心理師

公認心理師は2017年に創設されたばかりの比較的新しい資格です。公認心理師の仕事は、心の悩みを抱える人やその家族から悩みをヒヤリングし、解決に向けて支援策を模索したり、アドバイスやサポートを行なったりします。その人に合った解決方法を見出すために、面談や観察の過程で最適なサポートをするための分析を同時に行います。

資格の内容は、民間資格の臨床心理士とほぼ同じとされていますが、公認心理師は国家資格なので、より強いアピールとなるでしょう。創設間もない資格なので就職先は未知数ですが、現在の民間の臨床心理士と同じような職場への就職が期待されています。

資格取得者数

3万5000人(2020年3月末 (一財)日本心理研修センター調べ)

資格取得後の主な勤務先

医療現場や児童・福祉関連の支援施設、企業や学校の相談室(見込み)

給与(年収)

300~400万円(見込み) ※経験や学歴などにより異なる

資格取得費用(未経験者)

400万円前後(大学入学や履修費用含む)

資格取得費用(実務経験あり)

10万円程度

難易度

合格率50~80%

取得ルートおよび期間

4年生大学と大学院2年で心理学の科目の履修が必要

または実務経験5年の期間が必要

※一般財団法人 日本心理研修センター 『公認心理師試験について』

児童指導員

児童指導員は、児童福祉施設で生活する18歳以下の子どもを、保護者の代わりに面倒を見たり、健全な成長を促すサポートをしたりする仕事です。児童相談所や学校との連絡や、保護者との面接、周囲との調整などを行なうこともあります。少子化の影響を受けているとはいえ、共働き家庭の増加により、放課後デイサービスでは高い需要がある注目の職業です。

児童指導員は、任用資格といって、専用の資格試験を受けて取得するものではなく、「児童指導員として働いて良い」と公的機関が認めることで与えられる資格です。一般的に、履歴書には記載せず、資格よりも職種としての要素が強いものです。

資格取得者数

15,000人前後の従事者(見込み)

資格取得後の主な勤務先

児童養護施設・知的障害児施設・児童発達支援センター・放課後等デイサービスなど

給与(年収)

300~500万円 ※経験や学歴などにより異なる

資格取得費用

決まった費用はない

難易度

施設により異なる

取得ルートおよび期間

厚生労働大臣指定の養成機関卒業・大学、大学院卒業(福祉、社会、教育、心理学科等)

(大学、短大、専門学校卒業)小中高の教員免許取得・(高卒)児童福祉施設の実務経験2年

児童福祉施設の実務経験3年・社会福祉士または精神保健福祉士の資格所有者 など

産業カウンセラー

産業カウンセラーは、職場での精神的な問題を抱えている人の相談や、解決にむけたアドバイスやサポートを行ないます。精神面での相談だけでなく、キャリアカウンセリングや人間関係の構築などの相談を持ちかけられることもあります。(一社)日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格ですが、知名度が抜群で近年企業からの需要が高まっている、人気の資格です。

資格取得者数

2,000~3,000人(年間合格者数)

資格取得後の主な勤務先

一般企業、公的機関、医療機関など

給与(年収)

300~400万円(見込み) ※経験や学歴などにより異なる

資格取得費用

心理学関係の大学を卒業する場合:400万円前後(大学入学や履修費用含む)

講座を受講する場合:30万円程度

難易度

合格率70%

取得ルートおよび期間

心理学関係の大学を卒業

または日本産業カウンセラー協会の講座を12ヶ月受講する

※一般社団法人 日本産業カウンセラー協会『産業カウンセラー試験』

まとめ

資格を取得することで、ご自身の能力をアピールする際に説得力が増します。障害への理解は企業によってさまざまです。企業は、応募者のできることが不明瞭なことが多く、能力が正確に分かる資格欄をチェックするケースが少なくありません。

障害者の方の就職・転職活動をスムーズに進めるためにも、障害者職業能力開発校を活用したり、検定試験や資格試験にチャレンジしたりして、希望する職種に合った資格取得を目指しましょう。

監修:東郷 佑紀
大学卒業後、日系コンサルティングファームに入社。その後(株)D&Iに転職して以来約10年間、障害者雇用コンサルタント、キャリアアドバイザーを歴任し、 障害・年齢を問わず約3000名の就職支援を担当。