就労定着支援とは?目的や対象者・申請方法について徹底解説

就労定着支援とは、障害総合支援法で定められた障害福祉サービスのうちのひとつです。障害をお持ちの方が、就労先での環境や業務などに順応でき、長く働き続けられるよう支援する目的があります。

しかし、就労定着支援と聞いたことがあっても、実際にご自身が利用できるのか・どのようなメリットがあるのかまでは知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

申請をしなければ利用できない制度のため、知らず知らずのうちに機会を逃してしまう可能性もあります。そこで、今回は就労定着支援について詳しく解説します。

就労移行(継続)支援との違いや、支援を受けられる事業所の条件もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

就労定着支援とは

ここでは、就労定着支援の目的と、具体的な支援内容、対象者について解説します。これから就職する予定の方は、就労定着支援の仕組みを押さえ、就労における不安を解消しましょう。

導入の目的

就労定着支援は、一般就労へ移行した障害をお持ちの方へ、就労に伴う生活面の課題に対して企業・自宅などへの訪問や、障害をお持ちの方の来所を通じて必要な連絡調整や指導・助言などを行うために創設されました。

就労定着支援の創設にあたっては、近年の障害をお持ちの方の一般就労率の増加と離職率の高さが関係しています。なお、離職率が高い理由については後述しますが、一般就労で働く障害をお持ちの方が安心して仕事を続けられるよう、適切な支援を行いながら就労をサポートするものです。

障害者の離職率が高いとされる理由

障害をお持ちの方の一般就労が増加傾向にある一方で、離職率も懸念されています。「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター」の『-障害者の職場定着の現状とは-』によると、障害者の就職1年後の定着率は、身体・知的障害者の方で6割ほど、精神障害者では5割を切っており、常用労働者全体に比べて離職率が高くなっています。

引用元
障害者の就業状況等に関する調査研究|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター

精神障害者の離職率が特に高いと考えられるのは、他の障害に比べて障害をクローズで一般就労される方が多いことが大きく影響しているようです。一般就労する精神障害をお持ちの方の中には、障害をオープンにすることに懸念を感じ、クローズで就労する方も少なくありません。
しかし、クローズで就労する場合は定着を支援する制度を受けられず、支援制度を利用した方と比べて離職率が高い傾向があります。
結果として、精神障害をお持ちの方全体の離職率が高まっているようです。

引用元
障害者の就業状況等に関する調査研究|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター

前述のように、定着支援制度の利用は、その後の定着率向上に影響があることが調査で明らかになっています。

就労定着支援は、その様な背景から、より定着支援制度を拡充する目的で創設されました。

具体的な支援内容

一般就労する障害をお持ちの方のなかには、雇用によって以下のような悩みを抱えやすい傾向にあります。

  • 仕事で細かなミスをたくさんしてしまう
  • 何度も指摘を受けているのに、なぜか忘れてしまい同じミスを繰り返してしまう
  • 同僚や上司、先輩たちとのコミュニケーションが難しい
  • 注意しているはずなのに遅刻・欠勤してしまう
  • お金の管理ができず、つい散財してしまう

このような悩みに対して、就労定着支援員が本人や職場の上司らと面談し、改善・解決できるようサポートするのが主な内容です。

対象者

就労定着支援の対象者は、就労移行支援、または就労継続支援、自立訓練、生活介護といった障害福祉サービスを利用するなかで「一般就労した」障害をお持ちの方です。さらに、就労にともなう環境の変化によって日常生活での課題を抱える障害をお持ちの方も対象となります。

期間

就労定着支援の利用期間は最長3年間です。1年ごとに支給決定期間を更新する仕組みになっており、就職後7ヵ月目から就職後3年6ヵ月目まで利用可能です。

なお、就労移行支援事業所、または就労継続支援A型事業所、自立訓練事業所などを経て就職した方は、就職後6ヵ月間はそれまで利用していた事業所で就労定着支援を受けられます。

費用

就労定着支援の費用は、前年度の世帯所得に応じて変動する仕組みです。自己負担は1割となっていて、費用感は下表のとおりです。

区分 収入状況(世帯) 負担上限額(ひと月あたり)
生活保護受給者 生活保護受給世帯 0円
低所得者 市町村民税非課税世帯(注1) 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円(注2)未満)
※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く(注3)
9,300円
一般2 上記以外 37,200円

注1:3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象
注2:収入が概ね670万円以下の世帯が対象
注3:入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当

引用元
障害者の利用者負担|厚生労働省

 
キャリアアドバイザー
就職後に悩みや不安を相談できる環境を整えることは、長く働く上ではとても大切です。
特に訓練を通して自分のことをよく知ってくれている方のフォローは心強いものです。
現在就労移行支援事業所等に通っている方は、就職後も定着支援を継続してお願いできるかを確認しておきましょう。

就労定着支援と就労移行(継続)支援の相違点

ここからは就労定着支援と就労移行(継続)支援の相違点について解説します。それぞれの違いについて押さえ、自身にはどの支援が適しているかをチェックしましょう。

就労移行支援

就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す障害をお持ちの方のための障害福祉サービスのこと。一方、就労定着支援は、就労後の支援であるといった違いがあります。

就労移行支援では、PCスキル・ビジネスマナー等を身に付ける職業訓練や、書類添削・面接対策等の就職活動の支援を受けることができます。
たとえば、一般企業への就職に向けた準備がまだ足りていないと思った時は就労移行支援を、就労後に職場の人間関係や業務内容について不安や悩みを誰かに相談したいと思った時は就労定着支援を活用するのが効果的です。

就労移行支援について下記ページで詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

【5分でわかる】就労移行支援とは?制度や「就労継続支援」との違い、お金についてやさしく解説

就労継続支援A・B型

就労定着支援や、就労移行支援のほかにも、就労継続支援A型・B型といったサービスもあります。

就労継続支援A型とは、障害や難病によって一般就労が困難な方へ、一定の支援が得られる職場で雇用契約を締結し仕事を提供するサービスのことです。

一方、B型とは、障害や難病によって一般企業への就職や雇用契約に基づく就労が難しい方へ働く場所を提供する福祉サービスのことです。
A型・B型での就労は、一般就労と異なる「福祉的就労」と称されます。

それぞれの特徴については下記ページで詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

就労継続支援A型・B型とは?特徴や違い、窓口や利用手続きの流れを解説

就労定着支援のメリット

就労定着支援とは、就職後のさまざまな悩みに対して、適切なサポートを受けること。そのため、就職者はもちろん、採用した企業にとっても以下のメリットがあります。

就職者側のメリット
  • 就職による環境や業務の悩みや不安を、就職定着支援員と上司らを交えて面談し、改善・解決につなげられる
  • 不安を解消しながら長く働き続けられる など
会社側のメリット
  • 就労定着支援員の仲介のもとで、医療機関をはじめとする関係機関とも連携し、適切なサポートができる
  • 就労定着支援員のサポートを受けて、障害者を雇用する環境を整えることができる など

障害をお持ちの方が就職するにあたっては、さまざまな不安や悩みを抱える場合があります。

なかなか口に出せないことがあっても、就労定着支援員が双方の間に立ち、適切な指導や支援をおこなうことで、どちらにも適した働き方が見つけられ、長く働き続けられる安定した環境を提供できるようになります。

就労定着支援を受けられる事業所

就労定着支援は、就労定着支援事業所と指定を受けた事業所で受けることが可能です。

なお、現状では一定以上の就職者を出す就労移行支援事業所をはじめ、就労継続支援事業所、生活介護事業所、自立訓練事業所に併設されている場合が多い傾向にあります。

就労移行支援などから一般就労に移行していることが前提なので、利用していた方の場合は、そのまま就労定着支援を依頼するのが一般的な流れです。

事業所によって支援の有無が異なるので、支援を希望する際は、お住まいの市区町村にある事業所サイトで調べる方法や、自治体の障害福祉窓口などに直接問い合わせるのがおすすめです。

 
キャリアアドバイザー
入社の経緯は問わないため、就労移行支援事業所に通所しながら、エージェントで就職活動を行い、入社が決まったら通っていた事業所で定着支援を利用するというケースも多いです。また、新しくできたばかりの事業所などは、基準を満たしておらず指定を受けていない可能性があります。利用にあたっては市区町村窓口をはじめ、就労移行支援事業者などに問い合わせることをおすすめします

就労定着支援の申請方法

まず、最寄りの事業所で就労定着支援をおこなっているかを調べ、気になる事業所があれば問い合わせることをおすすめします。

利用したい事業所が見つかったら、お住まいの市区町村にある障害者福祉窓口に申請します。就職までに利用していた事業所があれば、継続して定着支援も受けられる場合があるので、確認しましょう。

なお、改めて申込をする場合は、以下のような流れで進めます。利用条件は、生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援の事業を利用して、一般就労することが前提です。

なお、すでに訓練等給付の対象となっていることから、新たに複雑な手続きをする必要はないほか、障害者手帳がなくてもサービスを受けるための受給者証が発行されていれば利用できるので、受給者証をお持ちの方は窓口で相談してみるとよいでしょう。

就労定着支援は自治体によって異なる!利用時は自治体に問い合わせてみよう

就労定着支援の様に、就職後も相談できる環境を整えることは、障害を抱えながら働くうえでとても有用です。

就労移行支援などを受けている方は、自己負担1割で受けることができ、就労における適切なアドバイスが受けられ、腰を据えて働けるようになるでしょう。

現在一般就労を目指している方は、ご自身が利用対象となりうるか、もし利用する場合はどこの事業所にお願いするかは事前に検討しておくとよいでしょう。

また、就労定着支援以外でも、就職後のサポートを受けられるサービスはあります。DIエージェントを運営する株式会社D&Iは、「ワークイズ」のほかにも独自の定着支援サービス「ワクサポ」を提供しています。

就労定着支援と異なり、利用料は企業負担であり、就労者の方ではないので、利用料の負担が気になる方も安心してご利用いただけます。

就労定着支援について検討中の方は、この機会に「ワクサポ」など他の定着支援サービスも検討してみてはいかがでしょうか。

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DIエージェントを運営している株式会社D&Iは、就労移行支援事業所「ワークイズ」を運営しております。就労定着支援事業所の指定も受けているため、一般就労の準備から定着に至るまで一貫してサポートします。
失敗しない!就労移行支援選び~在宅OKの「ワークイズ」@蒲田見学レポート

定着支援サービス「ワクサポ」のカウンセラーより、障害者雇用で長く働くためのポイントをお伝えしています。
障害を持ちながら長く働くには?就労定着支援の現場からのアドバイス | 障害者転職・就職のDIエージェント

監修:安部 桐子
産業カウンセラー。EAP事業の立ち上げ経験を活かし、(株)D&Iに入社後には定着支援サービス「ワクサポ」と在宅型就労支援「エンカクトレーナー」を開始。現在は300名以上の障害者の定着化・戦力化に向けたサービスの統括をおこなう。