難病者が働くために―「難病者の就労調査」の結果から【前編】

難病者が「働きたい」「仕事をしたい」と考えたとき、どのような困難があるのでしょうか。この記事ではNPO法人両育わーるどが事務局を務める”難病者の社会参加を考える研究会”がおこなった「難病者の就労調査報告」のデータを用いて、その実態に迫っていきます。

記事協力・監修:NPO法人両育わーるど
障害の有無を超えてお互いに学び合える社会の実現をビジョンに、障害の知らないを知る「THINK UNIVERSAL事業」やオリパラプログラムを展開。
2018年には「難病者の社会参加を考える研究会」を立ち上げ、難病の認知拡大やアドボカシー活動をおこなう。

使用する調査データ

  • 「難病のある人の就労・社会参加に関するアンケート-当事者・経営者・人事担当者対象-」
    難病当事者:有効回答数548 経営者56名・人事担当24名
  • 「難病のある人の就労・社会参加に関するアンケート-自治体対象-」
    自治体組織において障害福祉施策に関わる方:回答数193

※概要は右のリンクからご覧いただけます。 https://ryoiku.org/report/thinkpossibility/

難病とは?当事者にとっての課題

まずは難病の定義について確認してみましょう。

難病とは

  1. 発病の機構が明らかでない
  2. 治療方法が確立していない
  3. 希少な疾病
  4. 長期の療養を必要とするもの

の4点を満たす病気で、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に定義されています。

さらに「患者数が本邦において一定の人数に達しないこと(人口の0.1%程度以下)」「客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)」が確立していること」の2点を満たしている難病は「指定難病」とされ、医療費助成の対象となっています。

「障害者総合支援法」によって障害福祉サービス等の対象となる難病もあれば、その対象とならない難病もあります。症状や困り感はそれぞれですが、難病をお持ちのご本人やその家族にとって、経済的・身体的・精神的負担が大きいことが課題となっています。

 
CA

障害者総合支援法の対象疾病は都度見直しが図られてきています。
対象疾病については厚生労働省のホームページから確認できます。

参考:厚生労働省「指定難病の要件について」

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具体的な難病の一例

難病の一例を紹介します。症状としては、常にまたは長時間痛みや倦怠感があったり、視力などの認知機能や手足を動かす運動機能の低下がみられたりと様々です。いずれにしても治療法が確立されていないため、同病でも個人差がありますが、中長期の苦しみや日常生活を送るうえで困難を伴うことがあります。
本記事では、国が定義する難病に加え、類似の状況にある疾患も含めて、難病とします。

  1. 全身性エリテマトーデス (SLE)
  2. 多発性硬化症
  3. 重症筋無力症
  4. 筋ジストロフィー
  5. 潰瘍性大腸炎
  6. ナルコレプシー
  7. 線維筋痛症
  8. 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
  9. 脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)

①~⑤は指定難病で、⑥〜⑨は指定難病ではありません。いずれの場合も「疾患名だけで障害者手帳の取得の対象になるかどうか決まる」ということはありませんが、身体の状態もしくはうつ病などの精神疾患を併発している場合に障害者手帳を取得できる可能性があります。
上記に掲げた①〜⑤の指定難病は障害者総合支援法の対象となりますが、それ以外の疼痛や倦怠感といった慢性症状が主たる症状の疾患は、機能面の評価に重きが置かれた障害者手帳の認定基準に該当しづらい傾向にあります。
また障害者手帳の認定基準にも該当せず、さらに障害者総合支援法の対象疾病以外の疾病は、福祉サービスの対象となりづらく、社会保障制度の狭間で苦しまれている患者さんが多くいます。

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難病者の現状

画像提供:NPO法人両育わーるど

※1 平成30年度福祉行政報告例及び衛生行政報告例
※2 R元年7月特定医療費(指定難病)受給者証所持者数
※3 公的調査なし、受給者証未所持の指定難病含む疾患の重複有

希少疾患や指定難病、それらに該当しない難治性慢性疾患のある方は全国に推計約700万人いるとされています。指定難病に罹患し、重症度など条件をみたせば「医療費受給者証」を交付され、医療費の助成が受けられます。「障害者手帳」の要件に該当すれば、交付の対象になる場合もあります。
しかしそれらのいずれにも該当しない方も、一定数いらっしゃるのが現実です。「難病のある人の就労・社会参加に関するアンケート-当事者・経営者・人事担当者対象-」の調査では難病当事者のうち「障害者手帳」も「指定難病受給者証」も交付されていない方の割合は26.8%と回答者の1/4以上にのぼりました。

参考:難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内 」


難病者の就労状況

さらに難病者の就労状況はより深刻なものとなっています。

画像引用:両育わーるど「難病者の就労調査報告(当事者・経営者・人事担当者編)」

通院や体調の都合でフルタイム就労が難しく、契約社員やパートタイム就労といった雇用形態で働く方が多いです。それにしたがって給料(年収)も低くなる傾向にあります。
障害者手帳を所有している方は、障害者雇用枠で症状や困り事をオープンにして配慮を受けながら働ける可能性もある一方で、「正社員」の比率が少ない傾向にあります。

難病者が働く上で困ること

難病者が働くにあたって、当事者(非就労者)/当事者(就労者)/雇用者それぞれの回答の傾向をみてみましょう。

難病者で離職している人のほとんどは難病のために「働けない」状況にあるといえます。仕事選びの際も「疾患への配慮」という条件面で仕事を選ばざるを得ません。
また難病をお持ちで就労をしている方にとって満足度を左右するのは「周囲から理解・配慮が得られるかどうか」 「時間や仕事量に融通がきくかどうか」「休みが取りやすいかどうか」「体力的な負荷の大きさ(リモートワーク可否含)」が中心となり、自己実現やキャリアアップは仕事を選ぶうえでどうしても二の次になっています。

 
CA

経営者・人事担当者の調査からは、難病をお持ちの方を採用するにあたって「①病状の安定(安定就労) ②経験(即戦力)③若さ(将来性)」を重視するという結果になりました。

難病をお持ちの方でも個々の能力を活かして「働きがい」のある仕事を選び、職業選択の自由がより広がっていくことが望まれます。

難病についての相談先一覧

最後に難病について相談できる連絡先一覧を紹介します。

情報サイト

難病情報センター – Japan Intractable Diseases Information Center
https://www.nanbyou.or.jp/

指定難病の申請などについて 全国保険所一覧
都道府県・指定都市担当窓口
難病の悩み全般 都道府県・指定都市難病相談・支援センター

また障害者雇用枠でのご就職・ご転職を検討の方はDIエージェントにもお気軽にご相談ください。難病者(障害者手帳取得)の就職・転職の支援実績は多数ございます。
(ページ下のフォームからご登録ください。)

お知らせ

今回の記事で使用させていただいた調査結果が「難病者の社会参加白書」になりました。書籍化・流通化のためのクラウドファンディングには多くの方々から応援いただきありがとうございました!

「社会制度の狭間」にいる難病者700万人。その実状を全国に届けたい- 」クラウドファンディング READYFOR
https://readyfor.jp/projects/ryoikuworld
”難病者の社会参加を考える研究会”の立ち上げから2年半、見えてきた課題を白書にまとめました。この白書を日本国内全約1800自治体へ、難病の認知向上のために届けたいです。
支援募集は9月5日(日)午後11:00まで。

後編のインタビュー記事もぜひお読みください。

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