ADHDを含む発達障害をお持ちの方が受けられる補助金はある?

発達障害は、特に社会的な適応や学習に困難を伴う精神疾患の一種。その種類や症状によって個別に異なるため、診断とサポートが重要です。

今回は、発達障害の概要とともに、ADHDなどの主要な種類とその特性、さらに受けられる補助金やサポートについて詳しく解説します。発達障害について理解を深めることで、支援の方法や改善策を見つける手助けとなるでしょう。

発達障害とは?

発達障害とは、脳の発達過程における偏りや障害が原因で、社会生活や学習に困難を抱える状態を指します。特に、他者とのコミュニケーションや行動において、独自の特徴を持つことが多いです。

これらの障害は通常、早期に診断され、その後、教育的な支援や社会的なサポートが行われます。発達障害の症状は個人差が大きいため、各人に適した支援が必要です。発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)などがあり、それぞれ異なる特徴があります。以下では、これらの発達障害の種類について詳しく見ていきましょう。

引用元
政策レポート(発達障害の理解のために)|厚生労働省
発達障害って、なんだろう? | 政府広報オンライン
発達障害とは|国立障害者リハビリテーションセンター

1.自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションや対人関係に困難を感じる発達障害の一つです。ASDの人々は、言葉や非言語的なサインを使ったコミュニケーションに課題を抱えることが多く、集団の中でのやり取りや感情の読み取りが苦手です。

また、特定の物事に強い興味を持ち、同じ行動を繰り返す傾向があります。

引用元
自閉スペクトラム症(ASD) | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター

2.学習障害(LD、SLD)

学習障害(LD、SLD)は、知的能力に問題がないにもかかわらず、特定の学習活動において困難を感じる障害です。例えば、読み書きや計算、論理的な推論に困難が生じます。

LDの中でも、最も一般的なものはディスレクシア(読みの障害)、ディスグラフィア(書きの障害)、ディスカリキュリア(計算の障害)です。こういった障害は、知能の低下や精神的な問題からではなく、脳の情報処理の仕方に違いがあるために生じます。

引用元
(8)学習障害|文部科学省

3.注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(ADHD)は、注意力が持続しづらい、衝動的な行動をとる、多動的であるといった特徴を持つ発達障害です。ADHDがある方は、集中力を必要とする作業を長時間続けるのが難しく、注意を逸らすことが多いです。

また、行動の衝動性が高いため、思いついたことをすぐに行動に移してしまうことがあります。多動性の症状としては、落ち着きがなく、じっとしていることができないということもあります。

ADHDは子どもに多く見られますが、大人になっても症状が続く場合があります。

引用元
ADHD(注意欠如・多動症) | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター

それぞれの発達障害の特性

発達障害は、その種類ごとに異なる特性を持ちます。自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)など、各障害にはそれぞれ特有の症状や困難があり、支援方法も異なります。

ここからは、これらの発達障害の特性について見ていきましょう。

自閉スペクトラム症(ASD)の特性

自閉スペクトラム症(ASD)の主な特性としては、社会的コミュニケーションの困難が挙げられます。

ASDのある人は、言葉や表情、視線などを用いたコミュニケーションが苦手で、社会的な状況での適切な反応が難しいことがあります。

また、特定の興味に没頭し、同じ行動を繰り返すことが特徴です。感覚過敏や鈍感もよく見られ、例えば、音や光に対する過敏反応や、反対に無関心な場合もあります。

学習障害(LD、SLD)の特性

学習障害(LD、SLD)の特徴は、特定の学習活動における困難さです。例えば、文字を読むことが困難なディスレクシアや、計算に苦手意識を持つディスカリキュリアなどが含まれます。

この障害を持つ方は、知識や情報を取得する方法が一般の人と異なるため、教育の方法やサポートも個別化する必要があります。ただし、知的能力に問題がないため、その特性を理解した上で支援を受けることで、十分な学力を発揮できる場合があります。特に、視覚的な学習支援や、音声ガイド、指導方法の変更などが効果的でしょう。

注意欠如・多動症(ADHD)の特性

注意欠如・多動症(ADHD)の特性として、集中力の欠如や多動性、衝動的な行動が挙げられます。ADHDのある方は、特に長時間にわたって注意を必要とする作業を行う際に困難を感じ、すぐに気が散ったり、他のことに注意が向いてしまったりすることが多いです。

多動性が強い場合には、じっとしていることが難しく、手足を動かしたり歩き回ったりすることがあります。

一方衝動性には、計画性なく行動を起こしてしまうことや、他人の話を遮ることにつながる場合があります。

発達障害をお持ちの方が困りがちなこと

発達障害をお持ちの方は、その特性により、日常生活や社会生活においてさまざまな困難を感じることがあります。例えば、日々の生活での基本的な事柄に対する対応が難しかったり、社会的な関わりで誤解が生じやすかったりします。

ここからは、発達障害をお持ちの方が直面しやすい困りごとをいくつかの視点から見ていきましょう。

日常生活の困りごと

発達障害をお持ちの方が日常生活で直面する困りごとは、多岐に渡ります。

例えば、部屋の片付けができないことや、物を整理することが難しいという問題です。これには、注意力が散漫になりがちなことや、手順を覚えたり順序立てて行動したりするのが難しいという特性が影響しています。

また、急な予定変更や予測できない出来事に対して強い不安を感じ、パニックを起こすことも。発達障害を持つ人にとって、計画通りに物事が進まないことは大きなストレスとなってしまうからです。

社会関係の困りごと

社会的な関係でも、困ることは多いです。

例えば、約束をすぐに忘れてしまうことや、計画通りに行動するのが難しく、他者との信頼関係がうまく築けない場合があります。これは、時間や人との約束を意識することが苦手なことに起因することが多いです。

また、コミュニケーションにおいても、相手の感情を読み取ることが難しかったり、反対に自分の気持ちや考えを上手く伝えられなかったりすることがあります。その結果、一方的に話をしてしまう、会話が一方通行になりがちという困りごともあります。

さらに、発達障害を持つ方は、言葉がストレートすぎて人との衝突を招くことがあるため、相手の感情や立場を考慮するコミュニケーション方法を学ぶことが重要です。

就労の困りごと

就労環境でも、いくつかの困りごとが考えられるでしょう。

例えば、曖昧な指示が理解できないことが挙げられます。発達障害をお持ちの方は、指示が具体的でないと、何をどうすればよいのかが不明確になり、業務が滞ることがあります。

また、複数人が同時に話しているような環境では、情報が入り混じってしまい、理解や反応が遅れることがあるため、会話やディスカッションの場が苦手という問題も。

さらに、タスク管理ができない場合もあり、仕事の優先順位をつけたり、期日までにきちんと終わらせたりすることが難しいこともあります。

このような状況では、周囲のサポートが重要であり、明確な指示や作業の分割、タスク管理の支援などが効果的です。

発達障害をお持ちの方が利用できる補助金や支援制度

発達障害をお持ちの方は、さまざまな支援制度や補助金を利用することができます。ここからは、発達障害を持つ方々が利用できる主な補助金や支援制度について紹介します。これらの制度をうまく活用しましょう。

自立支援医療

自立支援医療は、発達障害などの心身の障害を除去または軽減するために提供される医療サービスに対して、医療費の自己負担額を軽減する公費負担の制度です。この制度により、発達障害をお持ちの方は、診察や治療にかかる費用の一部を助成してもらえます。

基本的には、自己負担が1割となるため、経済的な負担が大幅に軽減され、必要な医療を受けやすくなります。自立支援医療は、治療が必要であると認定された場合に利用でき、発達障害の治療やサポートを継続的に受けるために非常に重要な制度です。

自治体によって詳細は異なりますが、医師の診断や所定の手続きを経て、適用を受けることができます。

引用元
自立支援医療制度の概要 |厚生労働省

障害年金・特別障害者手当

発達障害が原因で、生活や仕事に大きな支障が生じた場合、障害年金や特別障害者手当が支給されることがあります。障害年金は、特に重度の障害を持つ現役世代の方々も受け取ることができ、生活費の一部として役立ちます。

この年金は、発達障害が原因で日常生活に支障をきたす場合、障害者として認定されることで支給されます。また、特別障害者手当は、重度の障害を持つ方に対して支給される手当で、生活に必要な精神的・物質的な負担を軽減することを目的としています。

引用元
障害年金|日本年金機構
特別障害者手当について|厚生労働省

税金の控除

発達障害をお持ちの方は、特定の税制上の控除を受けることができます。これには、医療費控除や障害者控除などが含まれ、税金の負担を軽減する手段として有効です。

医療費控除では、発達障害の治療にかかる医療費を所得から差し引くことができ、税金の負担が軽くなります。また、障害者控除を利用することで、発達障害を持つ本人やその家族の税負担が軽減されます。

こうした税制上の支援を上手く活用することで、発達障害の治療や生活支援に必要な費用を軽減することができます。なお、これらの控除を受けるためには、所定の手続きをして、税務署への申告が必要です。

引用元
No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
No.1160 障害者控除|国税庁

補助金や控除を利用して受けられる発達障害の治療方法

前述の補助金や支援制度を利用することで、発達障害に対する治療や生活支援が受けやすくなります。ここからは、補助金や控除を利用して実施できる治療方法についてご紹介します。

なお、発達障害の治療は「治す」ことを目指すのではなく、日常生活をより快適に過ごすための方法を整えることが重要です。

投薬

発達障害の治療方法の一つとして、症状に応じた薬の服用が挙げられます。薬物療法は、注意力や衝動性の調整、感情のコントロールをサポートするために用いられます。

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害において、投薬は症状の軽減に効果的です。例えば、ADHDの治療には注意を集中させる薬が使われることがあります。

ただし、薬の服用は、医師の指導のもとで行うことが重要です。適切な投薬によって、生活の質を向上させることができるでしょう。

自立支援医療を利用すれば、薬物療法にかかる費用の負担を軽減できるため、継続的な治療がしやすくなります。

カウンセリング・トレーニング

発達障害支援には、カウンセリングやトレーニングも効果的です。

特に、社会的なスキルやコミュニケーションの改善を目指すカウンセリングは、発達障害を持つ方々が社会生活に適応するために重要な役割を果たすでしょう。社会ルールやマナー、感情の調整など、日常生活で必要なスキルを学ぶことができます。

また、生活リズムの整え方やストレス管理の方法を指導するトレーニングも有効です。こうしたカウンセリングやトレーニングは、医療費控除の対象となる場合があり、経済的負担を軽減しつつ、治療の一環として受けることが可能です。

環境調整

発達障害をお持ちの方にとって、周囲の環境が特性に大きな影響を与えることがあります。

環境調整には、家庭や職場、学校での周囲の理解と配慮が重要です。例えば、静かな環境を作る、時間管理をサポートする、コミュニケーションを明確にするなどの工夫が求められます。

また、支援機関を利用することで、専門家のアドバイスやサポートを受けながら生活環境を整えることができます。自立支援医療や障害者控除を利用することで、これらの環境調整にかかる費用を一部負担してもらうことができ、生活しやすい環境を作るための支援が受けられます。

発達障害の方が受けられる補助金について、まずは地域の機関に相談してみましょう

発達障害を持つ方々は、医療費の軽減や生活支援を目的とした補助金や支援制度を利用することができます

自立支援医療や障害年金、税制控除などが含まれますが、利用できる制度は自治体によって異なるため、まずは地域の福祉窓口や支援機関に相談することが重要です。地域ごとのサポートや手続き方法を確認することで、より適切な支援を受けやすくなるでしょう。

自分に合った制度をうまく活用することで、日常生活や治療の負担を軽減できます。より良い生活を目指して、こういった制度を利用してみてはいかがでしょうか。

監修:井村 英里
社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。