「障害を持っていても長く働き続けたい」と思っていらっしゃる方は多いはず。
今回は就職した後にできる工夫やマインドについて、障害者の就労定着支援のカウンセラーに聞いてみました!
「職を転々としてしまっている」「すぐ辞めないためにはどうしたら良い?」とお悩みの方はぜひ参考にしてください。
「障害者はすぐ辞める?」離職率・定着率からみた現実
まずは「障害者は就職しても長く働き続けられない」「すぐに辞めてしまう」というイメージについて統計を元に検討してみましょう。
厚生労働省の「2019 年(令和元年)雇用動向調査結果の概況」によれば、全国平均の離職率は15.6%です。
一方、障害者職業総合センターの「障害者の就業状況等に関する調査研究」によれば、就業開始1年後の定着率は下記の通りです。
- 発達障害者:71.5%
- 知的障害者:68.0%
- 身体障害者:60.8%
- 精神障害者:49.3%
つまり1年以内の離職率は大まかに推測すると30~40%近くにのぼります。
とりわけ精神障害をお持ちの方の約半数はせっかく就職した職場でも1年以内に辞めてしまう現実があります。
データの取り方(定義や集計の期間)がそれぞれの統計で異なりますので、単純比較はできませんが、障害者雇用枠の離職率の高さがお分かりいただけたかと思います。
精神障害をお持ちの方で「なかなか仕事が続かない」とお悩みの方は少なくありません。仕事が続かないのは、努力不足や能力の問題ではなく、他の理由があるのかもしれません。 今回は主な精神障害の特性や仕事が続かない主な理由、そして続けるためのポイン[…]
就労定着支援のプロに聞く「長く働くには?」
では長く働くためにできることはなんでしょう?
一つはミスマッチを防ぐ職場選びをすること。
DIエージェントなどのエージェントや就労移行支援では一人ひとりにあった職場との出会いを応援・サポートしています。
しかし、いざ働き始めてから長く働くための努力は自分でしていかなければなりません。
そうは言っても不安や誰かに相談したい時もありますよね。
そこで「障害者の就労定着支援」の現場でカウンセラーとして働いているみなさんにインタビューをして、就労後のつまずきポイントや個人ができる工夫を聞いてみました!
「就労定着支援」とは?
本題に入る前に就労定着支援について簡単に解説します。
「就労定着支援」とは「障害者総合支援法」に基づいた「障害者の早期離職を防ぎ、職場に定着することを後押しするサービス」を指します。
この法律において「就労定着支援」とは、就労に向けた支援として厚生労働省令で定めるものを受けて通常の事業所に新たに雇用された障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、当該事業所での就労の継続を図るために必要な当該事業所の事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関その他の者との連絡調整その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。引用:「障害者総合支援法」
この制度の施行は平成30年度なのでまだまだ新しいサービスと言えます。
障害者の離職率の高さから、国としても「障害をお持ちの方が長く安心して、実力を発揮してもらえるような職場環境を整えていこう」と動きだしています。
なお、「就労定着支援」は雇い主が申し込むものであり、働く人の希望で受けられるサービスではありません。
就職後が不安な方は、就労移行支援を利用して就職をしたり、エージェントに登録して「定着後の支援が手厚いところに就職したい」と希望を伝えると良いでしょう。
「ワクサポ」とは?
今回は就労定着支援「ワクサポ」の現場で働くカウンセラーのみなさんにお話を伺いました。
「ワクサポ」とは株式会社D&Iが提供する「障害をお持ちの方を対象とした定着支援サービス」です。
障害者雇用枠で働かれている方の会社へ月に1度訪問し、ご本人と上司の双方からお話を伺い、お互いにとってより良い働き方の実現のために第三者目線でアドバイスをしていきます。
働く方には「業務面」「対人関係面」「生活体調面」などを丁寧にヒアリングした上で、サポートいたします。
時と場合によってはその職場の上司に言いづらいお悩みなども聞き、障害者サポートのプロの目線から上司に配慮を代わりにお願いすることも可能です。
ワクサポのカウンセラーは特例子会社や就労移行支援で働いた経験者や「精神保健福祉士」の資格所有者など、親身で温かい人柄のプロフェッショナル揃いです。
それでは頼れるカウンセラー5名に「長く働き続けるコツ」や「心構え」を聞いてみましょう!
まずは正しい「仕事観」を身に付けましょう
お若い方、特に新卒・第二新卒やアルバイト以外の社会人経験のない方に多い傾向ですが、リアルな「働く」イメージを描ききれていない方はいらっしゃいますね。
「やりたいこと」「現実的にできること/できないこと」の整理をしていくこと。
そして「働いて会社からお金をもらうことはどういうことか?」を理解しましょう。「今、自分が行っている仕事にはどんな価値があって、それが社会や自分の将来にどうつながっていくのか?」をイメージできると良いかもしれません。
仕事を通して、同僚や上司とのやり取りを通して「働くとは?」といったことが見えてくることもあるでしょう。
目の前のお仕事を一生懸命やり切ることで、いっぱい吸収していってもらえたらなと思っています。
失敗しても大丈夫、事実と感情を分けて考える
メンタルの疾患をもっている方は何気ない上司の一言で深く傷ついてしまうことがあります。
よい意味での「鈍感力」を磨いていきましょう。
「失敗した、もう終わりだ!」と起きてもいない将来ことを不安に思ってひどく落ち込んでしまうこともあるでしょう。
しかし、「これはこういう理由でミスになってしまったけれど、これ以上のことは自分で防ぎようがなかった。次からは同じミスが起きないようにWチェックをお願いしよう」のように事実と感情を分けて考える癖もつけられるとよいですね。
紙に書き出してみるのも有効です。
私たちも定期的にみなさんにお会いしているので、以前よりできるようになったことに目を向けてもらい、たくさん褒めて一緒に成長を喜んでいます。
堂々巡りにならないように!第三者に相談する
一人だと不安や悩みが堂々めぐりになってしまうので、第三者に相談して状況を整理してもらってもよいですね。
定着支援は月に一度必ず面談の機会を設けていますので、そのような場面を利用してぜひ吐き出してもらえれば嬉しいです。
どうしてもネガティブな思考になりがちの方は、「定期面談のある会社」「定着支援のある会社」を軸に仕事探しをするのもありでしょう。
就労移行支援を経ての就職であれば定着支援もご利用いただけますし、DIエージェントでも「サポートの手厚い会社」を厳選してご紹介することもできます。
なかには会社の外で、SNSで得意な才能を生かしていたり、自己肯定感を育めるコミュニティに参加している方もいらっしゃいます。
会社だけに所属しているのではなく、自分が自信をもてるような「足場」をいくつかもっておくことはおすすめできますね。
- 就労移行支援の入社後サポートサービス
- 社内外のジョブコーチ
- 会社の産業医
- 民間のカウンセリングサービス …など
質問は積極的に◎人間関係の悩みは「会社だから」と割り切る
支援者さんからいただく質問で意外と多いのは「会社の人にどのように話しかければよいでしょうか?」といった内容です。いわゆる人間関係の悩みですね。
しかし実は、挨拶をしっかりできるだけでも素晴らしいこと!
「会社はあくまでも働く場所なのだから、無理に雑談をしたり仲良くしなくても良いですよ」とお伝えしています。
一方で「会社の人にこんな簡単なことを質問しても良いのでしょうか?」との相談もたくさんいただきます。
仕事に関する疑問・相談は積極的にしましょう!
むしろ、わからないことを放置しておく方が会社にとってもあなたにとってもマイナスです。
上司も「どこでつまづいているのか知りたい」と思っています。口頭やチャットなどア様々な連絡手段を用いながら、こまめに相談する習慣を作っていきましょう。
私たちからも上司の方へ「普通の人にとっては何もないと感じることも、すごくハードルに感じることがあるんです。聞きやすい環境を作ってください」と伝えることもできます。
気合いだけでは解決しないことも…「生きる」を最優先に
最後に私たちから伝えたいのは「みなさん一人ひとりの健康と幸せが一番大切」だというです。
人生は仕事だけではありません。
金銭面でお困りの方も中にはいらっしゃるでしょうが、頼れる福祉制度やサービスは必ずあります。
「仕事を失ったら人生が終わりだ」と思い詰めては悪循環です。無理や気合いだけでは乗り切れないこともあるのです。
まずはご自身の生活リズムを立て直してから、ゆっくりお仕事を再開されるという選択肢があることを忘れないでいてほしいなと思っています。
ワクサポ流「障害者雇用で長く働くポイント」まとめ
最後にワクサポ流の長く働くポイントを振り返りましょう。
- 正しい「仕事観」を身に付ける
- 事実と感情を分けて、落ち込みすぎない
- 第三者に相談する
- 質問は積極的にする
- 人間関係の悩みは割り切りも必要
- 「自分らしさ、自分のペースを忘れずに!」
長く前向きに働くイメージはもてましたか?
DIエージェント経由で就職され、ワクサポの支援が受けられる会社で幸せに働かれている方も多数いらっしゃいます。
「今の仕事はどうしても合わないかも…長く働きたい」「定着支援のある会社が気になっている」などのご要望もぜひお聞かせください。
産業カウンセラー。EAP事業の立ち上げ経験を活かし、(株)D&Iに入社後には定着支援サービス「ワクサポ」と在宅型就労支援「エンカクトレーナー」を開始。現在は300名以上の障害者の定着化・戦力化に向けたサービスの統括をおこなう。