うつ病の一種として「非定型うつ病」という病名をご存じでしょうか。若い人を中心にみられ、病状を知らない人からは「怠けている」「仮病」などと誤解されることがあると言われ、深刻視されています。
そこで今回は、非定型うつの概要と診断基準、なりやすい人の特徴について解説します。「もしかして・・・・・・」と思っていた人は、本記事をセルフチェックなどにご活用ください。
非定型うつ病の概要
非定型うつ病とは、名前の通り従来のうつ病の型に該当しないと考えられている病のことです。うつ病にみられやすい「気分の落ち込み」はあるものの、ストレスを感じにくい環境では抑うつ症状がみられにくく、また発症する原因も特定できないために、専門家の間では「新型うつ病」と呼ばれることもあります。
双極性障害と非常に近い特性から、医師からは非定型うつ病と診断されたあと、病状が進むことによって双極性障害と病名が変化することも。
また、若い人を中心に広まっている病のため、非定型うつ病を知らない人からは仮病と思われてしまうケースもあるようです。
診断基準
非定型うつ病に明確な診断基準はありません。広義な意味合いとして診断するための基準には、DSM-VまたはICD-10の2つあり、参考にされやすいのは前者のDSM-Vと言われています。
DSM-Vの診断基準には、以下項目が記載されています。
- 気分の反応性
- 体重増加・食欲増加
- 過眠
- 鉛様の麻痺
- 長期にわたって対人関係の拒絶に敏感など
引用元
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016|日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン作成委員会
非定型うつ病にみられる6つの症状
ここでは非定型うつ病にみられる症状を6つ紹介します。ただし前提として、うつ病と同じように、人によって大きく異なるケースもあるので、参考の一つとしてください。
症状1.気分の反応性
気分の反応性とは、良いことがあったとき、あるいは良いことが起きる可能性があると、気分が改善する、明るくなるといった特性のことです。定型うつ病の場合、本人にとって良いことがあったとしても、反応が鈍い、喜べないなどの違いがあります。
症状2.拒絶過敏性
家族や友人、会社の同僚・上司などから、拒絶されることに対してすぐに察知したり、過剰に心配したり、あるいは過剰に反応したりすることを拒絶過敏性と呼びます。
一例としては、自分のミスに対して上司から注意を受けたときに、自分を否定された気分になり、過剰に落ち込んでしまう特性などがあります。
症状3.過食
いつの間にか体重か増加していた、明らかな食欲増加がみられることもあるようです。この場合、症状の一つとして「過食」と判断されます。
症状4.過眠
睡眠時間が明らかに長くなるといった症状もみられます。一般的に、夜間・日中の睡眠時間の合計が10時間以上ある日が週に3日以上ある場合に判断されます。
症状5.鉛様の麻痺
「鉛様(えんよう)」つまり、本人の感じ方の一つとして、体が鉛になったかのように手足が重く感じ、立ち上がることにも苦労するほど疲労を感じることもあるようです。
引用元
身体症状(疲労、全身倦怠感)|杉浦こころのクリニック
非定型うつ病を招く原因
非定型うつ病を招く明らかな原因は、十分に解明されていないために今のところはないと言われています。非定型うつ病の原因は、その多くが性格的要因がある程度絡んでいるとみられています。
しかし、遺伝が非定型うつ病にかかわっているといった報告結果もみられ、現状では原因について明確に言い切ることはできない状況とされています。
非定型うつ病になりやすい人の6つの特徴
ここからは非定型うつ病になりやすい人の特徴を6つ紹介します。
紹介する特徴や性別、年齢等をもとに、該当する項目が複数ある方は医療機関を受診しましょう。
特徴1.うつ病の家族が居る
非定型うつ病の発症理由の一つに「うつ病の家族が居る」といったデータがあると明らかになっています。明確な原因はないとされていますが、データにあることを踏まえ、うつ病の家族がいる方は非定型うつ病になりやすい傾向であることを押さえておきましょう。
特徴2.不安を感じやすい
非定型うつ病は、何かしらの不安障害を合併している人に多くみられるようです。そのため、双極性障害・不安症・パーソナリティ障害といった病歴がある方は、発症する可能性が高いと考えられるでしょう。
特徴3.トラウマがある
幼少期のトラウマ体験が原因になることもあるようです。両親や親族から虐待を受けたことがある、小学生の頃に強烈ないじめに遭ったといった経験を持つ人は、非定型うつ病を発症する可能性があると考えられます。
特徴4.成長段階での経験
トラウマがある人と共通する特徴として、成長段階での経験が非定型うつ病を招く可能性もあると考えられています。例えば上述した両親あるいは親族から受けた虐待のほか、両親の離婚、死別などです。
感情を形成する時期にこのような事柄を経験すると、大きなトラウマとなって心に残り続け、非定型うつ病を招きやすいと考えられています。また、乳児期から幼少期にかけては両親とのさまざまなコミュニケーションによって愛着形成が行われるそうです。
そのため、さまざまな経験によって愛着形成がきちんと行われなかった場合、注意されたことに対して「自分を否定された」といった思考になりやすく、非定型うつ病につながりやすいと考えられています。
特徴5.完璧主義・責任感が強い・プライドが高い
他人の評価が気になるあまり、完璧主義・強い責任感がある・プライドが高いといった性格の人にもみられやすいようです。
これらには自分を追い込んでしまいやすいことが共通しているため、非定型うつ病の一つの特徴と考えられています。
特徴6.やさしい・いい人
他人の評価が気になる特徴と共通しているものとして、誰に対してもやさしい人・いい人も非定型うつ病にみられやすいようです。
これらの特徴は、他人の期待に応えてあげたい、どうにかしてあげたいといった気持ちが共通しており、その分、自分に無理を強いてしまう傾向から、非定型うつ病につながりやすいと考えられています。
非定型うつ病と向き合う方法
前提として、非定型うつ病は、以下のような精神疾患と依存・合併しやすいと言われています。
- パーソナリティ障害
- 不安障害
- 双極Ⅱ型障害
- 物質使用障害
- 摂食障害
すでに上述した精神疾患を患っている方は、できるだけ無理をしないように、他の精神疾患を併発していない方は、自分の言動や感情に違和感を持ったときは早いうちに主治医に相談しましょう。
ここからは非定型うつ病と向き合う方法を紹介します。どのような向き合い方があるのかを見ていきましょう。
規則正しい生活を送る
生活習慣の乱れを自覚する方は、規則正しい生活へと改善を図ることをおすすめします。早寝早起きをはじめ、決まった時間に食事をとるといった習慣を心がけることで、心身を健やかに保つことができます。
ただし、すぐにすべてを完璧にこなそうとする必要はありません。心身に不調を感じるときは無理はせずに1日休み、次の日から取りかかるなどその日の体調をみながら取り組んでみましょう。
体を動かす
体調が良い日は、軽微な運動を取り入れましょう。ラジオ体操や散歩などでも問題ありません。このとき注意したいこととして、無理をしないことです。天気が良く気持ちも晴れている、体を動かしたいなど、気持ちにポジティブな変化がみられたときに取り組んでみましょう。
健康的な食事を心がける
生活習慣の改善に加えて、健康的な食事をとることも意識してみましょう。心身の状態によっては、調理する気にもなれないこともあります。そのようなときは、栄養価の高いバナナやトマト、アボカドや牛乳など、栄養バランスを維持できるものを口にしましょう。
周囲に共有し、サポートを得る
心身の不調については周囲に共有し、サポートを得やすい環境を作っておくことも大切です。家族や仲の良い友人に共有しておくと、いざというときにヘルプを申し出やすく、適切なサポートを受けることができます。
医療機関を受診するタイミング
心と体に違和感があるときは、医療機関を受診しましょう。
例えば、以下のような場合です。
- 気分の浮き沈みがひどく自分でも苦しい
- やる気が起きなくなった
- 体重が増えた
- たくさん食べるようになった
- 体がだるい日が続く
このような変化がみられたときは、医療機関を訪ね、医師に症状について相談しましょう。
もし上記の変化がみられなくても、「いつもとは違うな」といったときでも問題ありません。
医療機関を訪ねるタイミングが早いほど早期治療・早期回復につながります。
うつ病も非定型うつ病も、早期発見・早期解決が重要と言われているので、気になることがあるときは、迷わず医療機関を受診しましょう。
非定型うつ病について理解を深めよう
非定型うつ病は、若い人を中心に広がりをみせる病です。気分の落ち込みがある一方で、抑うつ症状はみられにくいため、非定型うつ病を知らない人からは「怠けている」と誤解されやすいと言われています。
明確な原因が解明されていないことから、体調に違和感があるときは迷わず医療機関を受診し、これまでとは異なる自分の変化について、医師に相談してみましょう。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。