「孤独にさせない」ダイバーシティ・ネットワーキングの取り組みとは?【企業インタビュー パナソニックグループ(前編)】

今回はホールディングス全体で約800人以上の障がいのある社員が働くというパナソニックグループを取材しました。

前編では会社の垣根を越えておこなっている「ダイバーシティ・ネットワーキング」について、その内容やメリット、今後について担当者の皆様にお伺いしています。

お話を伺った方々
パナソニックグループ 「ダイバーシティ・ネットワーク」運営スタッフの皆様
  • パナソニック㈱
    くらしアプライアンス社 秋庭 陽子さん
  • パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱
    エンプロイーサクセスセンター 中村 紀久子さん
  • パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱
    エンプロイーサクセスセンター 清中 愛捺さん
  • パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱
    リクルート&キャリアクリエイトセンター 香山 理恵子さん
  • パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱
    リクルート&キャリアクリエイトセンター 高尾 凪沙さん

※本記事の内容は2022年5月取材当時の内容です。

つながりが生まれる「ネットワーキング」とは?

――D&I(DIエージェントの運営会社)は2022年3月開催の「ダイバーシティ・ネットワーキング」にお邪魔させていただきました。全国のパナソニックに所属する社員が障がいの有無に関わらず交流し合う非常に温かいイベントだと感じました。
改めて、どのような目的でこれまで実施をしてきたのかを教えていただけますか?

中村さん バーチャル背景には社内で実施した「アンコンシャスバイアス検定」の認定証が

中村さん:
パナソニックが会社の枠を超えておこなっている「ダイバーシティ・ネットワーキング」は障がいのある社員から「社内ネットワーキング*を作ってほしい」という声があり2019年10月に始まった取り組みです。
それを受けて、多様性採用推進室の香山さんや当事者4名と共に企画から作り上げてきました。
これは障がいの有無にかかわらずパナソニックの全社員、誰もが参加できるイベントです。

第1回は「職場で困っていること」の共有に始まり、第3回にはパナソニック会長の長榮との懇談会として当事者の社員から直接意見を伝えたり、外部から全盲の講師を招きお話を伺ったりと回を重ねてきました。
2022年3月には第5回を迎え、始めは20人程だった参加者も過去最高の60名を超えました。

*「ネットワーキング」とは?

多様な他者と情報や感情を交換するつながりづくりのプロセスのこと。
共生社会実現のためにオープンでフラットに人々がつながり、創造性の源となります。
パナソニックではグループ内の会社の壁をこえて社員同士のつながりが生まれるイベントになっています。

参考:J.リップナック, J.スタンプス『ネットワーキング-横型情報社会への潮流』

中村さん:
イベントだけではなくオンラインの情報発信・交流の場もあります。
たとえばイントラネットには、障がいの理解を深めるハンドブックや動画、ネットワーキングイベント終了後にも開催レポートを載せています。
コミュニケーションデザインを担当する秋庭さんにもコミュニティ運営をしていただいていますね。

秋庭さん 普段は京都のデザインセンターに所属し主にリモートワークで働いています

秋庭さん:
社内SNSにはたとえば「精神・発達障がい者コミュニティ」や「聴覚障がい者コミュニティ」といったテーマ別のチャネルを開設して対話が生まれていますね。
「会社にどんな配慮をしてもらえるか?どう伝えるか?」といった生活や働く上での真面目な話題や悩み相談から、「アメリカの発達障がいをテーマにした映画祭に行ってみたい!」といったライトな雑談まで。
先日も「発達障がいの失敗談をみんなで共有して、慰め合いましょう」といったスレッドが立ち上がったりして (笑)。
心地よく働くためにも「心理的な安定」を目指して、雰囲気の良いコミュニティになってきています。

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「心理的安全性」ある職場へ。ネットワーキングの効果

――これまでの開催の経緯やパナソニック内での日々のつながりがよくわかりました。
それでは「ネットワーキング」の実施の経験から、どのような効果があると感じられていますか?

秋庭さん:
「一人じゃない」ということを分かってもらいたいですね。
ひとたび「理解してもらえない」「一人ぼっちだ」と感じてしまうと、どんどんとネガティブな感情に飲み込まれてしまいがちです。

特に発達障がいは、外見からも気づかれない、特性にもグラデーションがあり本人ですらどう対処したら良いか分からないといった悩みに直面しやすく、うつ病や社交不安障がいといった二次障がいを発症しやすい。これは深刻な問題です。
だからこそ「正しく理解してもらって、個人の能力を最大限に発揮しよう!」と、手を取り合って協力できるコミュニティを目指しています。

また5回目まで続けてきて感じることは、どんどんつながりが広がっているということですね。
たとえば発達障がいのあるメンバーが「聴覚障がいのある社員とも話してみたい」と新たなつながりに発展したり……。
会社からの積極的な支援もあり、「自分達の居場所を自分達で作り上げている」という感覚があります。

清中さん DEIの社内SNSで情報発信も担当しています

清中さん:
私は2022年の1月からこのチームに参加して、今回初めて企画から入らせてもらいました。
これまでの参加者アンケートを見ても「理解が深まった」や「自分のその普段悩みを共有できてすごく良かったです」などポジティブな感想が寄せられています。
心理的安全性*が深まり、安心できる職場の実現に近づいているのではないかなと思っています。

*「心理的安全性」とは?
多様な他者と情報や感情を交換するつながりづくりのプロセスのこと。

地位や立場に関わらず自由闊達に意見を伝え合える状態を「心理的安全性」といいます。「空気を読まないといけない」「これを発言したら誰かに否定されないだろうか」と身構え、自由に思いを共有できない環境は「心理的安全性が低い」と表現できます。
米Googleが「心理的安全性の高さが生産性の向上につながる」と発表し、注目を浴びました。

参考:石井 遼介『心理的安全性のつくりかた

安心して参加できるよう、グランドルールが設けられていました

第5回目のテーマは「発達障がい理解と一緒に働く上で重要なこと」

――第5回目はD&Iをお招きいただきお話の機会をくださいました。開催してみていかがでしたか?

当日おこなわれた内容

中村さん:
今回は「発達障がい理解と一緒に働く上で重要なこと」というテーマで、前半に「発達障がいの基礎知識」、後半では「身近に発達障がいのある人がいたらどうする?」といったお題でディスカッションしてもらうワークショップをおこないました。

高尾さん 障がいのある方の採用ブランディングから選考までを担当しています

高尾さん:
私は当日ファシリテーターを務めました。
一番盛り上がったのはグループワークの部分でしたね。最初はみなさん初対面の方も多く緊張されていたようでしたが、話しているうちに共通点が見つかり……「同じ会社の中で実は同じ悩みを抱えている人がいたんだな!」と気づきもあったようです。
「仲間を見つける」「自分一人じゃない」、そんな場になっていたのではないかと思います。

当日実施したグループワークのお題例

秋庭さん:
私自身もグループディスカッションに参加していましたが、障がいのある人もない人も交じりあって、誰もが「自分ごと」として熱心に意見を出し合えていました。
初めこそ「これって間違っているかな?」「合っている?合っていない?」と探り探り発言をしていたのですが、「○×はないのだから自由に意見を出し合おう」「もっとこう言った方がいいよね!」とポジティブな空気に変わっていき、時間が足りなくなるほど話が尽きない状態に(笑)。

私は企画者の立場でもあったので、会全体を通しても「正解を作らない」ということはD&Iの講師とも共通認識として大事にしていました。
実際にやってみて「こんなに人とのつながりや温度感を感じられるようなワークショップはいいな!」としみじみ思いましたね。

香山さん セミナーの企画者の一人で、あるこだわりがあったとか……

香山さん:
私も企画者として携わる中で大切にしていたことがあります。
「会社はこのような配慮をしています」「あなたが受けている配慮はどんな配慮ですか?」といった発表会にはしたくなかったのです。

社員の中には入社後、障がいを受傷・発症する、診断がおりる方もいます。これまで普通に働いていたのに「障がい者手帳を持ったから」といって、周りが一歩引いてしまう・これまでと全く異なる対応をされてしまうような状況には、私としては違和感があります。
本人にとっては「こうしてくれたら働けるのに、なぜこんなに遠慮されるの?」と思うのではないかと。

つまり、「いかに今働いている社員がより気持ち良く、モチベーション高く働けるのか?」を自分ごととして捉えて、発信し合えるようになって欲しいと思っていました。
「配慮する/される」ではなく、当人達から「これをやったら、仕事がうまくいった!」と自然に共有し合える組織を目指したいなと思っています。
今回はそんな扉をあけるような時間にできたらという思いがありました。

人との関わり方が変わった時代、「ここならば自分を出せる」と思える場所へ

「ダイバーシティ・ネットワーキング」のロゴも参加者達のアイデアから

――それではこれからの「ダイバーシティ・ネットワーキング」の展望をお聞かせください。

中村さん:
この取り組みのパナソニック内での認知や参加者層も広がりを見せています。
参加者の中には当事者はもちろん、パートナーやお子さんなど近しい人に障がいのある方がいるといって勉強のために参加してくださる方もいます。
また情報発信をしていても、「会社の成長のためにこれだけ頑張っている人がいる」「人との温かみを感じられる」との気づきになり、「心を揺さぶられた!」と毎回反響が大きいです。
この共感の輪を広げられるよう、これからも力を入れて推進していきたいですね。

清中さん:
参加者からは「普段関わることがない人と交流できてよかった」「社内にこのような思いを抱えている人がいるんだ」と言っていただけています。そんなポジティブな心をもって職場に戻れるような環境を作っていきたいですね。
まだまだ参加者も増やしていきたいですし、社内での知名度も上げていきたいです。そのためにも情報発信も頑張っていきたいと思います!

香山さん:
パナソニックの拠点は国内に限らず世界にもあり、仲間もたくさんいる分、つながりを広げていくことはできますが、薄まってしまう大切なこともあると感じています。
「会社も変わっていく、物事は進んでいくのに、心から共感する・理解することはできているのか?」は問い続けたいですね。

それから、先ほど「孤独」というキーワードが出ましたが、障がいの有無にかかわらず、もしかしたら私だって孤独を感じているのかもしれません。
働き方も変わって、在宅勤務になり、オンラインでのやり取りも増えています。
いわゆる「人のぬくもり」も感じづらくもなりました。
働き方や人との関わり方の方法が変わってきていると考えます。
コミュニテーションそのものについて、全社員がマインドを変えていかねばなりません。

「対面で会わずともいかに心理的安全を作れるか?」という課題に対しては、配属先やそこで働く社員もできるだけ内に秘めずに、外に出していく、分かち合っていくことが打開のヒントになるのではないかと思っています。

また、たとえ職場のオンライン上に一箇所でも「ここだったら自分を出せる」という場所があれば孤独も軽減されるのではないでしょうか。
そんな機会ができないかをここにいる皆さんと一緒に考えて、作っていきたいです。

――孤独に打ち勝つための知恵ですね。つながりのある中で安心して働くことで、イノベーションも生まれてきそうです!

<インクルーシブの力が仕事に活きる!~後編はこちら~>

パナソニックで働くことに興味を持ったら……

この一年で社内の認知度も参加者もぐんぐんと広がりを見せている「ダイバーシティ・ネットワーキング」。
大きな組織やリモートワークだからこそ感じやすい孤独を和らげ、温かいつながりの輪が広がっています。

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この記事をお読みになってパナソニックで働くことに興味を持たれた方はぜひ後編の「パナソニックで働くとは?」もご覧ください。

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