「職場の人とうまくコミュニケーションが取れない…」「思うように自分の力を発揮できない」と悩み、生き辛さを感じている自閉症スペクトラムの方は少なくありません。
コミュニケーションがあまり得意ではない自閉症スペクトラムの人は、職場で人間関係の摩擦に疲れ、精神的なストレスで心の健康を失ってしまうこともあります。
しかし、自閉症スペクトラム(ASD、アスペルガー症候群)の特性は、集中力、記憶力、論理的思考力、そして特定分野への深い知識など、多くの企業が求める貴重なスキルでもあります。
自閉症スペクトラムの特性を「強み」に変え、自分らしい働き方を手にするにはどうすれば良いのか、改めて自閉症スペクトラムの特性や強み、仕事における課題などを掘り下げながら、詳しく解説していきます。
自閉症スペクトラム(ASD、アスペルガー症候群)とは?生き辛さを感じる大人の発達障害について
自閉症スペクトラム(ASD、アスペルガー症候群)とは、発達障害の一つで、自分の中のルールに強いこだわりを持つ傾向があります。
反復性のある作業を得意としたり、過集中による圧倒的なパフォーマンスを見せる一方で、対人関係が不得手で、コミュニケーションや社会性に課題を抱えている人が少なくありません。
「雰囲気で察する」、「空気を読む」、「言葉の裏や行間を読む」などの非言語コミュニケーションが苦手なため、特に集団生活においてストレスが生じることが多く、自分の強みを生かし切れず、生き辛さを感じているケースが多々あります。
自閉症スペクトラムの5つの特性
自閉症スペクトラム(ASD)には大きく5つの特性があります。ただし、割合や強弱については個人差があるため、あくまでも参考として考えてください。
社会的能力の偏重:
言葉を字面のまま真に受けてしまったり、疑問に思ったことや興味があることを話し続けたりして、コミュニケーションが一方通行になることが多々あります。
また、相手の気持ちを理解したり、雰囲気から場の空気を読むことが苦手で、円滑なコミュニケーションや人間関係の構築に困難が生じやすい傾向を持っています。
非言語コミュニケーション能力の低さ:
言葉によるコミュニケーションだけでなく、表情や声のトーン、ジェスチャーなどの非言語的なコミュニケーションも苦手で、「察する」ことが求められる場所では、意思疎通に苦労することが多々あります。
興味や関心の偏り:
特定の分野への強いこだわりや興味を示し、それ以外のことに対する関心が薄れる傾向があります。また、急激な状況の変化に適応するのが苦手で、同じ行動やパターンを繰り返すことが多く、予定が急に変わるとパニックを起こすケースもあります。
感覚の過敏・鈍麻:
音、光、匂い、触覚など、特定もしくは全般の感覚が過敏もしくは鈍麻なため、日常生活や仕事において、感覚から来る環境のストレスを強く感じたり、逆に気付かずに行動することで周囲との摩擦を生みやすい特性があります。
過集中:
短時間に非常に強い集中力を発揮し、特定のタスクに没頭することができます。しかし、過集中によって高いパフォーマンスを発揮する一方で、集中している間は周囲が見えず、他の人とのコミュニケーションが欠落したり、睡眠や食事が不足して体調不良の原因になることもあります。
自閉症スペクトラムの人が仕事で発揮できる強み
高い集中力と持続力:
特定の分野や興味のあることに対して、並外れた集中力と持続力を発揮し、長時間、細かい作業や複雑なタスクに没頭できるので、研究や開発のほか、経理などのバックオフィス業務、精密な作業を求められる業務などに強みを活かせます。
優れた記憶力:
詳細な情報やデータを正確に記憶し、パターンや規則性を素早く見つける能力があり、分析や整理が必要な作業で力を発揮します。
論理的思考力と問題解決能力:
物事を論理的に分析し、客観的な視点から問題を解決する能力があり、システム開発や研究などの分野で活躍できる
自閉症スペクトラムの人が仕事で生じやすい問題
自閉症スペクトラムの人は、主にコミュニケーションや急な変更への対応につまずき、仕事に問題を抱える傾向があります。
コミュニケーションの行き違い:
言葉のニュアンスやジェスチャー、表情を通じた非言語的なサインを汲み取り、理解して対応することが難しいため、相手の意図が伝わらず誤解が生じたり、受け答えの内容で相手を不快にさせてしまうことがあります。
変化やイレギュラーへの対応の難しさ:
急な状況の変化に弱く、慣れたルーティンや手順からの変更に柔軟に対応できずに、パニックになったり、業務に支障をきたすことがあります。
過剰なストレスによる体調不良:
感覚過敏や人間関係のストレスなど、様々な要因から過剰なストレスを抱えやすく、体調を崩したり、精神的に不安定になることがあります。
コミュニケーションの困難さによる孤独感
言語化されていない相手の気持ちを推しはかって理解することや、雰囲気にあわせた円滑なコミュニケーションが苦手なため、職場で人間関係を築くことに苦労し、結果として孤立した状態になって、孤独を感じやすい傾向があります。
まったくできないわけではないが、都度受け答えのたびに意識しなければいけないので、多人数との人間関係の構築は精神的な疲労が激しいという人も多く、疲労感から周りと距離を置いてしまうケースもあります。
社会の「当たり前」とのズレによる生きづらさ
明文化されていない暗黙のルールや慣習を理解することが難しく、社会的な規範に合わせようとするカモフラージュ行動をとることがあります。
これは社会の「当たり前」とのズレを埋めようとする努力の結果と言われていますが、職場で周囲とのズレを感じて、生きづらさを感じやすい現れともいえます。
仕事での対処法
では、ここまで挙げてきたようなトラブルはどうしたら防げるでしょうか。
これまで、たくさんのアスペルガー症候群をお持ちの方の転職・就労サポートをしてきたキャリアアドバイザー(CA)の声とともにご紹介します。
パターン化・ルーティン化
仕事を一つ一つ分解して、「こうなったら、このように行動する」という決まりを作ってパターン化をします
万が一、想定外のことが起こっても「これらの全部のパターンに当てはまらなければ上司に相談する」…ここまで落とし込んでしまえば、「どうしよう」と悩む時間も減るでしょう。
今の仕事がケースバイケースの業務内容で「合わない」と感じていたら、ルーティン業務(決まったタイミングで決まった仕事をする)が多い部署に異動するのも一つの手段ですね。
周りに協力をお願いする
「アスペルガー症候群なんだから理解してよ!」と開き直るのではなかなか理解は得られません。
「こんな考え方の癖があって、もしかしたら傷つけるようなことを言ってしまうかもしれない。もし気になったことがあったら教えてね」などと伝えておくだけでも、周囲とのコミュニケーションがスムーズになります。
また指示を受けた際も「意図がつかめない・わからない」と思ったら、わからない部分を確認する癖をつけましょう。
口頭の指示をもらうより、チャットやメール・マニュアルなど落ち着いて振り返ることができるとベターです。聴覚過敏をお持ちの方は騒がしい環境でなく、静かな場所で指示を受けられるとよいですね。
自閉症スペクトラムの人に適した仕事や職場とは?
自閉症スペクトラムの人に適した仕事の傾向は、大きく以下の4種類に分類できます。
明確なルールや手順がある仕事:
マニュアルや指示が明確で、ルーティンワークが多い仕事では、高い集中力と正確性を活かし、ミスなく効率的に業務を遂行できます。
専門知識やスキルを活かせる仕事:
特定の分野への深い興味と知識を持つ人が多いため、専門性を活かせるITエンジニア、研究職、翻訳・通訳などの仕事で能力を発揮できます。
一人で集中できる仕事:
自閉症スペクトラムの人にはコミュニケーションが苦手な人も多いため、データ入力、事務作業、工場作業など、一人で黙々と作業できる環境で能力を発揮しやすいでしょう。
クリエイティブ職:
自分の世界観に没頭して一人で仕事を進められるので、高いパフォーマンスを発揮しやすいといえます。
ITエンジニア・プログラマー
自閉症スペクトラムの特性を活かせる代表的な職種の一つがITエンジニアやプログラマーです。
自閉症スペクトラムの人は、特性の一つである論理的思考力やパターン認識能力、高い集中力を活かして、論理的なシステム設計や長時間のコーディング、問題解決に没頭できるため、生産性が高くなる傾向があります。
加えて、ITエンジニアやプログラマーの仕事は比較的一人で黙々と作業できる環境が多いため、コミュニケーションの負担も軽減されやすい職種といえます。
データ入力・分析・データサイエンティスト
細かなデータに対する正確性や緻密さ、高い集中力を活かし、大量のデータ処理や分析作業を効率的に行える自閉症スペクトラムの人には、データ入力や分析も適職といえます。
高い分析能力を活かし、データサイエンティストとして活躍している人もいます。
翻訳・通訳
自閉症スペクトラムの人の中には、特定の分野への深い知識や興味、言語能力を活かし、専門性の高い翻訳や通訳業務で活躍する人がいます。
集中的に翻訳作業を行えるため、高パフォーマンスを出せるのも、適職といえる理由の一つです。
研究職
論理的思考力、分析能力、特定分野への深い知識を活かし、研究開発業務で新しい発見や成果を生み出すことができるのも、自閉症スペクトラムの人の可能性です。
過去にも自閉症スペクトラムを持つ著名な研究者が世界的な発見を行っています。
工場作業員・職人
単純作業やルーティンワークを正確かつ効率的にこなすことができ、集中力や持続力を活かせる環境が多いので、安定したパフォーマンスを発揮することができます。
また、中小の工場や工房などで、卓越した技術を持つ熟練の工員・職人として活躍している自閉症スペクトラムの人も少なくありません。
自閉症スペクトラムの人が職場とのミスマッチを避けるには?
自閉症スペクトラムの人が転職をするときに、職場とのミスマッチを防ぐには以下の3つがポイントがあります。
自己分析を徹底する:
自分の特性、強み、弱み、興味関心、希望する働き方などを明確にし、どのような仕事や職場環境が自分に合っているのかを深く理解することが大切です。一般的に言われていないようであっても、「自分にとってはこう」としっかりと分析して自分の状況を把握しましょう。
情報収集を行う:
インターネットや書籍などで自閉症スペクトラムと仕事の情報を収集し、自分に合った仕事や企業の傾向を把握しましょう。また、ハローワークや就労支援機関の相談窓口を利用し、専門家のアドバイスを受けるのもおすすめです。
転職エージェントに相談する:
自閉症スペクトラムに理解の深い転職エージェントに相談し、自己分析の結果や希望条件を伝え、専門知識に基づいたアドバイスや求人の紹介を受けると、よりスムーズに適職を探すことができます。
生き辛さを感じる大人の自閉症スペクトラムが転職を目指すなら、自分の強みをしっかりと分析して活かそう!
自閉症スペクトラムの方にとって、対人関係の摩擦を感じながら働くことは大きな壁に感じられるかもしれません。
しかし、自閉症スペクトラムは決して「弱み」ではありません。
高い集中力と持続力、優れた記憶力と情報処理能力、論理的思考力と問題解決能力など、仕事で活かせる素晴らしい強みをたくさん持っています。
大切なのは、自分の特性を理解し、強みを活かせる仕事を見つけることです。
しかし、一人で転職活動をするのは、情報収集や企業とのやり取りなど、負担は少なくありません。そんなときは、障害者専門の転職エージェントの利用がおすすめです。
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社会福祉士。福祉系大学を卒業し、大手小売店にて障害者雇用のマネジメント業務に携わる。その後経験を活かし(株)D&Iに入社。キャリアアドバイザーを務めたのち、就労移行支援事業所「ワークイズ」にて職業指導・生活支援をおこなう。